親子
中に入って僕はすぐにドアを閉め、覗き穴から外を確認する。
「はぁ、はぁ、はぁ」
二匹魔物は起き上がったようで、辺りをキョロキョロしている。
そして片方が指示を出し、二手に分かれて走っていってしまった。
僕は大きなため息を吐き、ドアを背にへたり込んだ。
助かったー。
「ゴホッゴホッ」
咳き込む声に僕はビクッとする。
「ゴホッゴホッ」
咳は廊下の奥から聞こえてきているようだった。
勝手に入って大丈夫かなと思いつつも、この格好で外に出るわけにもいかないため、僕はひとまず咳の聞こえた方に向かうことにした。
階段の横を通り正面のドアを開ける。
するとそこはリビングのようだった。
にしてもココさんの家ほどではないが、色んなものの色が統一され小物や壁、家具は紫が目立った。
ここは彼女に似た価値観の友達の家なんだろうか?
「ゴホッゴホッゴホッ」
今度はすぐ左側の部屋から咳が聞こえた。
僕は恐る恐るだがドアを開けふことにした。
「あのー、ココさーん?」
ドアを開けた僕の目に飛び込んできたのは、部屋いっぱいの大きな紫のベッド。
そしてその上で上体を起こしていている細身で紫の長い髪を垂らした女性だった。
「あ、あの」
「……あら、あなたは?」
女性は笑顔で質問してくる。
その笑顔を見て、なぜか一瞬母さんを思い出した。
「えと、ココさんは?」
そう質問した時、ドタドタドタドタと階段を降りてくる音が聞こえた。
そして勢いよく走ってココさんはやってきた。
「おいっ、何勝手に入ってんだよ」
僕は軽く頭をこずかれた。
「ごめんなさいっ」
「ココ。その子は?」
「ん?関係ないだろ。ただの―」
「人間よね。その子。私たちもわざわざ人の言葉で話してるし」
したたかな女性は首を傾げてニッコリする。
逆にココさんはバツが悪そうな顔をした。
「もう食べたの?」
いきなりすごい質問だ。
「食ってねーよっ」
「あらぁ。なんで?」
「なんでって、いいだろーがよぉ別に。あ、あとで食うんだよ!」
僕あとで食べられるの?
「とにかく寝てろ病人がっ!」
ココさんはそう言い放つと勢いよくドアを閉めた。
「お前何勝手に入ってんだよ?」
彼女は指をポキポキ鳴らす。
「ごめんなさい。でもココさんを待ってたらトカゲみたいな人たちに襲われて」
「トカゲぇ?あぁ、あいつらか。なんで襲ってきたんだ?機嫌でも悪かったのかな?」
彼らと知り合いなんだろうか?
腕を組んで、とても不思議そうに考えている。
「ちゃんとベズゾーって言ったんですけど……」
僕の言葉に彼女はポカンと口を開けた。
「おま、言ったの?」
「はい。何回も」
「何回も!はっはははははははははは!」
「ココさん?」
彼女はお腹を抱えて空中で蹲るまる。
「お前、そりゃ、ああーおもしろっ。ダメだろ言っちゃ」
「え?でもココさんが」
「まぁそうなんだけどな」
彼女はこめかみをポリポリ掻きながら視線を逸らす。
「えっとな。ベズゾーってのは人の言葉で言うと、殺すぞってニュアンスなんだよ」
「……ココさん」
「な、なんだよ」
「ベズゾー」
「悪かった、悪かったよ。だからそんな怖い顔すんなって。お詫びと言っちゃなんだが、コレをお前に渡してやろうと思ってな」
そう言うと彼女は瓢箪のようなものを見せてきた。
「瓢箪?」
「お、そう瓢箪。でも中身が重要なんだ」
彼女は瓢箪を傾け、飴玉のようなものを一つ掌の上に出した。
「食ってみ」
「ええー」
「なんだよ?」
「また体動かなくなりませんか?」
「昨日寝る前に作った料理になんもしなかったろ?信用しろって」
僕は恐る恐るソレを受け取り口に入れる。
「噛んでとっとと飲み込め」
噛むんだ。
言われた通りに噛むと、沢庵みたいな味がした。
甘い感じの味をイメージしていたからか、一瞬不味いと脳が錯覚した。
「不味かったか?」
彼女が首を傾げる。
「いや、想像してた味と違ったから。僕は好きな味です。ご飯似合いそう」
「ご飯?ま、いいか。じゃ、試しに行こうぜ」
「試す?」
「おう。そいつの効果をよ」




