寄り道
僕が目を覚ますと、ココさんと近距離で目があった。
「お、起きた」
「……何してるんですか?」
「何も?」
床で寝袋に入り寝ている僕に、跨る形で彼女は言った。
「何かしてないですよね?」
「してねーよ。とっとと起きろ。もう11時だぞ」
僕の上から浮遊して彼女はどいた。
「え、もうそんな時間!」
「今のうちに町でないと面倒だぞ」
「うん、待って。すぐに準備しますから」
「あとお前あれなのな。朝はちゃんと勃つんだな」
「は?……ココさん?」
「いや何もしてねーよ。ただ寝袋の上から触っただけだ」
「……」
「触ったっつってもタッチだぞ。握ってねぇ。私はそう言うのではやらない主義だって昨日言ったろ?何だよその顔?信用しろっつーの。早く行くぞ。今家の前には誰もいねーみてぇだし」
昨日まで入り口を塞いでいた棚はどかされ、彼女は覗き穴から家の前を見ている。
僕は下半身を確認、したところで分からないのでせず彼女を信用することにした。
いや、たった今信用を裏切られていた気がするけど……。
「準備出来ました」
「よし、これ被れ」
そう言って彼女はボロボロの長い布切れを投げ渡してきた。
「これは」
「いいから被れ。そんで目の位置教えろ。穴開けてやる」
「もしかして、仮装するんですか?」
そこそこ暑い気温の中、僕は裾を引きずるように布切れを被り町中を行く。
『ベズゾー』
彼女からはいざって時この言葉だけ喋れと言われた。
「どうだよ?バレねーだろ?」
僕の隣を浮遊している彼女はニコニコしている。
「そうですね。でも暑いです」
「バカ、喋んなよ」
今質問したよね?
「小声ならいいじゃないですか。それよりどこに向かってるんですか?来た道と違うような?」
「んー?ちょっと良いもの、旅のお供に渡してやろうと思ってなぉー」
「じゃあ、町の入り口に向かってるんじゃないんですか?」
なんか不穏だ。
「どうせ通り道だからよ。二本道ずれるけど」
通り道だからよのあとが小声で聞き取れなかった。
「それにお前のとこの町と違って、この町はどこからでも出れるしな。ごちゃごちゃ気にすんなっ」
パンパンと笑いながら肩を叩かれる。
「ココさん。結構痛い」
「あ、わりぃ」
「ここですか」
「おう、ちょっと待っててくれ。すぐ取ってくるから」
そう言うと彼女は二階建ての紫の家の中に入っていった。
玄関は彼女の家と同じでハート型だ。
「ぐにゃむにゃおう」
「むぐなっ!らしるど」
少しの間待っていると、二匹のトカゲっぽい二足歩行の魔物がこちらに向かって歩いてきた。
僕は無意識に目を逸らし体を背けた。
しかしそれが良くなかった。
「おう、だゆいなまらゆ」
一匹の魔物に話しかけられてしまう。
うぅ、ヤバい。
「ベ、ベズゾー」
僕の言葉に二匹の魔物が目を見開く。
「ベズゾーベズゾーベズゾーベズゾー」
とにかく僕は焦りを誤魔化すために言葉を連呼した。
「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ」
「ひっひっひっひっひっひっひ」
なんかすごいウケてる。よかったー。
「ベ、ベズゾーベズゾー」
確かにこれだけ言っとけば大──。
シュッ!!
耳元に風圧を感じた。
次の瞬間に顔の横、布が綺麗に裂かれていた。
「えっ」
二匹を見ると、いつの間にか短いナイフのようなものを手に持っていた。
え、なんで?あんなに笑ってたのに?!
一匹の魔物が接近してくる。
「うわあ!」
僕はバックステップで魔物の攻撃をかわした。
なんとかかわせた。でも、この動きづらい格好じゃ……。
僕はココさんの消えた家を背に、敵との間合いを計る。
「ぶわあ!」
「ベズウウ!」
今度は二匹同時に攻撃を仕掛けてきた。
ここだっ!
僕は背負っていた荷物を振り回すように布ごと放り、二匹の魔物を吹っ飛ばした。
そこそこ重い荷物を投げられた魔物は倒れ、布が被さり視界が塞がっている状態になった。
僕はすぐさまハートの扉を開けて中に逃げ込んだ。




