ココ
「いや、どかしてもらえれば」
彼女は腕をぶらんぶらんとさせる。
どうやら彼女は殴り疲れたせいで、腕が上がらないぐらいぱんぱんになっているようだった。
自分でどかそうかとも思ったけど中々に重そうだし……何より外の話を聞けるチャンスかとも思い、僕は話をすることにした。
でも警戒はしないとな。
「おっとっと」
僕は少しよろけながらも荷物を下ろし、彼女の前に正座で座る。
「で、何が聞きたいんだ?」
「じゃあ、お名前は?」
「はああ?」
そんな怖い顔しないでよっ!
「いや、名前知らないなって」
「ちっ。ココ」
「ココさんはどうやって飛んでるんですか?」
「みりゃ分かんだろ?羽だよ羽」
さっきまでの彼女とは違った、めんどくさそうな顔と口調。
多分こっちが素なんだろうなー。
「その小さい羽ってどうやって作ったんですか?」
「ああ?」
シェルの中でも飛ぶ機械はあった。
でも機械の何倍も大きい物を飛ばすなんて技術はなかった。
「なんか凄い人とかこの辺に住んでるんですか?」
「なあお前、バカだろ」
「えっ、急に」
「私さっき言ったよな。私たちは魔族だって」
「はい、言いました」
「魔族ってのは人間と違って羽もあるし、尻尾もある奴がたくさんいんだよ。人間とはちげんだよ」
人間と違う?
「……それって」
「お前、この世界に人間しかいないって思ってるんじゃねぇよな?」
!!
「それって、魔族は新種の動物みたいな―」
バンッ!
彼女に蹴り上げられたテーブルが宙を舞い、壁に当たって床に落ちる。
「お前、舐めてんのか?」
僕は首を勢いよく振る。
「私らはあんたら人間より賢くて頭もいい。動物なんかと一緒にすんじゃねえよ」
「ごめん、なさい……じゃあつまり、魔族っていうのは?」
様子を伺うよう上目遣いで僕は聞く。
「魔族は魔族。それ以外の何者でねぇよ。なぁお前、あのデカい壁の中から出てきたんだろ?」
僕は目を見開く。
「シェルを知ってるんですか?」
「そりゃお前、近場にあんなデカいのあったら分かるだろ?」
「でもここからじゃ見えないですよね?」
「見えなくてもちょっと行きゃあんだから分かるだろ。なあ、私からも聞きてぇんだけどさ。あん中ってどうやって入んの?」
彼女は顔を近づけてきて聞いた。
「え、普通に通路があって」
「通路?どこに?」
「どこって言われても。目印ないしなぁ」
「……ふーん。ま、いいや。今ってさ、人間みんな魔族知らないわけ?」
僕は頷く。
「私たちはみんな知ってるよ。最初は持ちつ持たれつでやってたけど、最終的には争うことになって―」
「魔族と人間は戦争していたんですかっ?」
僕は身を乗り出す。
「んな興奮すんなよ、きめぇ。戦争ってほどじゃねぇよ。仲悪くなっちまったぐらいだ」
「そうなんですか」
「ま、私らサキュバスは友好的なまんまだったけどな」
「サキュバス?」
「私みたいな見た目をした魔族のことだ。あとさっきの言葉訂正。友好的なのは雄とだけだったわ。雌には嫌われてた」
満面の笑みで彼女はそう言った。
「なんで男だけ?」
「そりゃお前、この体だろ?で、めちゃくちゃ気持ちいわけだ。ほっとかねーだろ?」
「……」
「ああーほっといてんのが目の前にいたわ」
「……なんかごめんなさい」
「謝んな!虚しくなるだろーがっ」
彼女がため息一つ、情けない顔をする。
「いやいや、めちゃくちゃ可愛くて綺麗ですよ」
「じゃあ勃たせろよ」
「……それって、アレをですよね?」
「アレ以外あんのかよ?」
「ごめんなさい」
「謝んな!」
その後もずっとココさんは話に付き合ってくれた。
案外と話し好きで面倒見がいいんだなと感じた。
おかげで大まかに三つのことがさらに分かった。
一つ。魔族とは?
魔族は基本的には人間を憎んでいる。
だから人間だと安易にバレるようなことをするなとのこと。
さっき町中で歩いていても気づかれなかったのは、奇跡に近かったようだ。
なんでも最後に人間と関わったのは歴史では500年ほど前と言われていて、若い魔族は人間を知らないらしく、だから無視されたんだと彼女は言った。
でももし人間だとバレていたら殺されていたらしい。
二つ。サキュバスとは?
簡単に言えば男性を興奮させ、体を重ね元気をもらう魔族だと言う。
僕を襲ったのもそれが理由だ。
ただ僕は勃たなかった。
勃たなかったら諦めるのかと聞いたら、全サキュバスがそうではないらしい。
彼女が諦めたのはポリシーで、興奮してない相手は襲わないとのこと。
無理に襲うのはなんか違うらしい。
でも飲み物飲ませたじゃないですか?と言ったら、あれはバフみたいなものだからいんだよとのことだった。
あと人の言葉をなぜ話せるのか聞いたところ、サキュバスの必須教養だからだと。普通の魔族は人語は喋れないと言われた。
三つ。町のこと。
この町はスメールと言い魔族しか住んでおらず、すぐに出て行くことを勧められた。
でもどこにと聞くと、少し離れた場所に色んな種族が混ざって暮らす町があることを教えられた。町の名前は不死町。
「色んな種族?」
「色んなは色んなだよ。自分で見ろ」
「世界ってどんぐらい広いんですか?」
「知らねーよ。私だって活動範囲は広くねーんだ。なあもういいか?見ろよ時間」
彼女が指差した掛け時計は、ちょうど0時を回ったところだった。
「あ、ごめんなさい。もうこんな時間なんですね。じゃあそろそろ」
僕は荷物を手に立ちあがろうとする。
「ああ?泊まってかねぇのかよ?」
「えっ」
「今の時間帯から魔族ってのは活発になんだよ。多分秒で殺されるぞ」
「でも」
あんなこともあったし……。
「安心しろよ。食ったりしねーから……なんだよその目。食われる心配は勃たせられるようになってからにしろ」
話した感じ悪い人ではなさそうだし、外に出ても夜。行くあてもないしなー……。
「じゃあ、お世話になります」
グウウウゥゥ。
僕のお腹が座ると同時に鳴いた。
「なんか食うか?」
「いや、食べ物なら持ってるんで」
ゴソゴソと荷物を漁ろうとした僕の手を彼女は掴んだ。
「いいから。美味いもん食わせてやるよ。力も戻ってきたし」
「でも、さっきの飲み物」
「美味かったろ?」
確かに味は美味しかった。でもなぁ……。
僕は内心遠慮したかったが、ニコニコしながら待っている彼女を見ると、不思議とこの言葉が口から出てしまった。
「……はい」




