ピンクの家
「はい、とうちゃーく」
そう言って彼女が止まったのは、ピンクの外装の派手な家の前だった。
家は小さい高床式の一軒家で、ドアはハートの形をしている。
「さ、はいろー」
「え、ちょ、ちょっと」
手を引く彼女の力は非常に強く、僕はされるがまま階段を上がり家に連れ込まれた。
バタンッ。
彼女は勢いよく入り口のドアを閉め、なんか近くの棚をドアの前に移動し始めた。
「あのぉ」
「あー大丈夫大丈夫。そこに座ってて」
彼女が顎をクイッとやった先には、小さいピンクの丸テーブルがあった。
というか、ピンクだなぁ。
この部屋は至る物がピンクで統一されていた。
壁、家具、ベッド、小物。
8畳ほどの部屋はピンクの展覧会だった。
「ほぉらん、座んなよー」
彼女にまた手を引かれ、僕は丸テーブルを前に荷物を下ろし座った。
「エヘヘ。なんか飲む?」
「え、じゃあお願いします」
なんなんだろうこの状況?
「あの、この町って今お祭りなんですよね?」
「祭りー?違うよー」
「え、じゃあ皆さんいつもあんな格好で歩いてるんですか?」
彼女は不思議そうな顔を向けたが、また飲み物の準備のため背中を向ける。
「初めてなんだ。魔族見るの」
「まぞく?まぞくってこの町の人たちのですか?」
「そだよー」
授業で聞いたことがある。
シェル内でも昔部族の衝突があったことがあると。多分まぞくも部族の一種で、独自の装飾を身に纏う文化があるんだろう。
ちょっと色々話を聞きたいな。
「はい、どうぞー」
「あ、ありが──」
差し出された飲み物は紫色で、ぷくぷく泡立っていた。
なんかヤバそう。
「……これは?」
「ん?美味しいよ」
「なんて飲み物ですか?」
「うーん。レモンティー」
「嘘つかないでくださいっ」
つい思いっきりツッコんでしまった。
しかし彼女は気にすることなく、ニコニコしながらテーブルに頬杖をついていた。
「早く飲んでよー」
「えっと。喉乾いてるので冷たい物が飲みたいです」
「えっ、それ冷たいよ?」
「えっ」
冷たいのにぷくぷく泡立ってるけど……でも確かに湯気は出てないな。
「助けてあげたのに飲んでくれないのー?」
「うっ」
頼んだ上にそんなことを言われたら無下にできるわけもなく、僕はピンクのコップを手に紫の液体を一口飲んだ。
ん?
「美味しい」
「ふふーん。でしょー。ほら、いっきいっき」
僕は彼女のコールを聴きながら、喉を鳴らしながら飲み切った。
そしてコップをテーブルに置くと同時に体の力が抜け、床に横たわってしまう。
「あれ?」
「大丈夫よー」
力の入らない僕の脇に腕を通し、抱えるようにして彼女は僕をベッドに運んだ。
意識はハッキリしているが、本当に体に力が入らない。
「ほらぁ、リラックスして」
そう言うと彼女は僕の上にまたがって、体を預けて擦り付けてきた。
「んふふ〜……ん?」
「ええっと……どいてもらえますか?」
彼女は急に笑顔からしかめっ面になった。
「あんた、なんで勃ってないの?」
「ええっ?」
急な彼女の発言に脳の処理が追いつかない。
「あんたアレ飲んだよね?」
「ええ、はい」
「私おっぱい押し付けて甘い匂いしてるよね?」
「……はい」
「じゃあ何で勃たねんだあああああー!!」
彼女は勢いよく浮上すると壁と格闘を始めた。
少しの間目の前の情景が理解できずにいたが、とりあえず彼女をなだめることにした。
「ええっと。落ち着いて」
「うるさい!お前はもっと興奮しろよっ。おりゃおりゃおりゃー!」
壁を壊す気なんだろうか?
彼女の拳は速さを増していく。
「せっかく人間見つけたのに、な、ん、で、じゃあああああー!!」
体の動かない僕は、ただ彼女が壁を殴るのを見ているしかなかった。
一時間ほど経ち、気だるさは感じるが体を動かせるようになった。
僕はベッドの縁に座り、背中を向けてテーブルに頬杖をついている彼女に声をかけた。
「大丈夫?」
「お前は30分壁と格闘してた女が大丈夫に見えるのか?」
「……見えません?」
「じゃあ分かりきったこと聞くな」
「じゃあ、手は大丈夫?」
「あそこの壁は殴っても痛くないように設計してあんだよ」
彼女はこちらに振り返る。
「心配してくれてどうも。もうお前に用はないから出てっていいよ」
なんかさっきまでと雰囲気が違うなぁ。
「えっと、出て行く前にこの町のこととか聞きたいんですけど」
「はあっ?」
「ごめんなさいっ」
めちゃくちゃ怖い顔で睨まれた。
「あの、お邪魔しましたっ」
僕は少しふらつきながらも荷物を手に、そそくさと入り口に向かった。
しかしそこで気づいた。
「あの」
「あんだよ?」
「入り口が棚で塞がってます」
「……はあ……いいよ。わぁったよ」
「え?何がですか?」
「話聞くっつってんだよっ!」




