出会い
日も沈み、月明かりとヘッドライトを頼りに進むこと二時間。
ようやく僕は町へ辿り着いた。
そして僕は今建物の影、大きな樽の裏に隠れている。
なんだろ、ここ。
入る前からわかっていたが、この町は異様だ。
ハリネズミのような屋根をしている建物や蜘蛛の巣まみれの家。脈を打っているかのように振動している建物まである。
おまけに色々な鼻をつく臭いが町には漂っていた。
そして一番変なのはこの町に住む人の容姿だ。
角が生えている。尻尾が生えている。浮遊している。
どうゆうことなんだ?
僕が隠れている一番な要因は、人間が異様な姿をしていること。
だから仮装をしていない自分が町に入っていいのか分からない。
まぁもう入ってはいるんだけど。
シェルと同じように厳しいルールがあるかもしれない。
僕は頭だけを樽から出す。
仮装だということは重々承知しているが、やっぱりクオリティが高すぎる。
あっちなんて腕四本全部動いてるし。
あの、目玉まみれの浮遊物はなんだろう?
あああ、あの腕の生えた芋虫はどうなってんの?
ツッコミ始めたらきりがない。
せっかく来た初めての村だけど出ていくか?
いやでも、食料だけでも調達しないと。もうあと二日分しかない。野垂れ死になんてシャレにならない。
僕はもう一度頭を隠し考えた。
うーん……よし!
僕は勢いよく立ち上がり堂々と道の端を歩くことにした。
すると案外周りは気にも留めないみたいで胸を撫で下ろす。
なぁんだ。仮装をしなきゃいけないわけじゃないのか。
さっきまでビクビクしていた自分が恥ずかしくなりながらも、立ち並ぶ建物を見て進む。
ほんとに建物まで手の込んだすごいお祭りだ。
シェルにもお祭りはあった。でも飾り付けや被り物をするぐらいで、こんな紫の液体が漏れている家や逆立ちで歩いている人はいなかった。
外の世界って、こんなに刺激に溢れているんだ!
不思議と笑みが溢れていた時、食べ物を売っているお店を見つけた。
と言ってもリンゴ以外は見たことない食べ物が並んでいるが……ここは八百屋なんだろうか?
「すいません。今日って何かのお祭りなんですか?」
店の奥に座っていた魔女って感じのお婆さんに話しかける。
やっぱりお年寄りはそんなに仮装に力は入れてないんだなぁ。まだ人っぽさがある。
とんがった帽子を被っていて、長い下に向いた付け鼻をしているだけだ。
「ああ、むめんま?」
ああむめんま?
僕の耳にはそう聞こえた。
「えっと、ああむめんま?」
お婆さんは怪訝そうな顔をする。
「おま、あろなんす」
さっきよりも低い声でお婆さんは、僕の顔を覗くように言ってきた。
ん、なんかやばいかな?
もしかして祭り中は普通の言語禁止とか?
「えと」
「おま、やまろインデあああ!」
目を見開き大きな声を出された僕は後ずさる。
なんだなんだっ!怒らせた?やっぱり何かルールがあるのか?
お婆さんはゆっくりと立ち上がと、じわじわと僕との距離を詰めてくる。
額に汗が一気に滲み出る。
なんか、ヤバいかもっ!
「もしあ、ははじゃん」
そんな時、背後からした声に僕は振り向く。
するとそこには黒のビキニのような服装で胸を強調した、ピンクの髪色をした女性が浮いていた。
女性は側頭部から前方に短い捻れた角が生えている。
僕と目が合うと、その女性は少し驚いた顔をした。
そして舌なめずりをし、お婆さんと話し始めた。
「ははじゃん、そやあはなのろま」
「ろま?ねへバクそそて」
「んま、バクそバクそー」
「もいも、インデあ?」
「あはは、インデなまやまさお」
「……ほほじゃは。バクそいならみゃんさかたふぬよ」
「ばうばう」
一通りの会話が終わったのか、彼女は急に僕の手を引き店の外に連れ出した。
「あ、えと」
「ばうばう」
笑顔でばうばうと言われる。
どうして良いか分からない僕を、浮遊する彼女は手を引いてどこかへ誘う。
さっきは気づかなかったが、背中には前から見えないぐらいのサイズの黒い羽が生えていて、おまけに黒い尻尾も生えていた。
「どこに行くの?」
「ん〜?私の家」
「えっ」
私の家?いやそれより──。
「喋れるの!て言うか喋っていいの?」
「は?どゆこと?」
彼女は目を細めて止まる。
「いや、お祭りの最中は普通の言葉禁止なのかと」
彼女はさらに目を細めた。
しかし直ぐに満面の笑みを浮かべて、鼻歌まじりに誘導を再開した。
いったいどこに連れてかれるんだろう?
このまま着いていっていいんだろうか?
でも助けてくれたし。悪い人さぞゃなさそう?
内心ビクビクしつつも、右も左も分からない初めての町。
僕は藁にもすがる思いで旅路を祈った。




