衝突
僕らはまたリリさんの家に来ていた。
「また来たの?」
やれやれと言う表情で、リリさんは料理を作る手を止める。
「母さんに会ってもらうぞ、姉貴」
「はぁ。ウィザーク君さぁ、ちゃんと理由話したんだからココ連れて帰ってよ」
「ごめんなさい。ちゃんと理由を話されたのでほっとけなくなりました」
やれやれと言った感じのジェスチャーを彼女はする。
「……いい人だけど、お節介なんだね」
「そうだぞ姉貴、こいつはどっか頭のネジが飛んでる生意気な奴だ。オドオドしてるかと思ったら調子に乗ってズカズカくるしな」
ココさんに肩をバンバン叩かれる。
「デリカシーがないのね。女性の心を覗いておいて、いい人気取りで助けようなんて……気持ち悪い」
「二人とも、僕をいじめる時だけ意気投合しないでよ……」
「してないわ。思ったことを言っているだけ。気持ち悪いって」
「ああ気持ちわりぃ。でもいつまでも片意地はってる姉貴の方がキモイぞ」
リリさんの眉がピクッと動き、空気がピリつく。
「母さんのこと嫌うのは別に自由だ。でも命を助けてもらったのに悪口ばっか言うのは許せねぇ。さっきもバカにして……母さんがあの後どんだけ悲しんだか」
「悲しんだ?……そう。でもそれって私のせいかしら。お母さんが私にしてきたことの結果が今のこの状況なんじゃない?」
「だとしても助けてもらったろ」
「余計なお世話だと思ってるわ」
ココさんの目がギロっと彼女を睨む。
「姉貴……さすがに限界だぜ」
「私は死にたかったの。あんたの面倒も嫌だったし」
僕は二人の間に入る。
「ちょっと落ち着いてくださいっ。二人ともちょっとした行き違いがあるだけで」
どうしてこの二人はこんなに売り言葉に買い言葉なんだ!
「け、喧嘩じゃなくて冷静に話し合いましょうっ」
「ウィザーク、どけ」
「いやダメですって」
「ココ。場所を変えましょう」
「いやリリさんもっ、さっきは冷静に―」
そう言った次の瞬間には、僕は飛ばされて壁に激突していた。
「ぐはっ」
「テメェ!」
「どかしただけよ」
僕は床に倒れながら何が起こったのか理解できず二人を見上げる。
「町の外に行くわよ。来なさい」
リリさんが家を出ていく。
「待っ―」
「わりぃ。話し合いじゃ無理みたいだ」
僕の制止も虚しくココさんも家を出ていってしまう。
「……くそっ」
僕は何をしてるんだっ。仲直りさせに来たんじゃないのか?なのに助け舟一つ出せなかった。
「ああもう!」
うだうだ考えるな!
僕は荷物を煩わしく放ると、急いで家から飛び出す。
しかし二人はもういない。
速すぎだろっ!町の外って言ってたな?
多分入ってきた入口の方だと僕は考え、全力で走り始めた。
僕が二人をまた合わせたんだっ。ちゃんとしなきゃ!
なんだこれ?
町から出た先で黒い玉を飛ばし合いながら、彼女たちは空中戦をしていた。
僕が思っていた喧嘩と全然違う。
少しの間呆気に取られていたが、僕は慎重に二人に近づくことにした。
とにかく喧嘩をやめさせないと!
「姉貴いいい!」
ココさんの玉が外れ地面に穴をあける。
一発二発三発と全くリリさんに当たらない。
「ココ、そんなものなの?あんたがそんなんだから私が苦労したのよ!」
今度はリリさんの玉をココさんが避ける。
しかしそれは気を逸らすためのものだったようで、直後に急接近したリリさんにココさんはお腹を蹴られ、体をくの字に曲げた。
「ココさん!!」
僕の心配をよそにココさんは彼女の足を捕まえていた。
「私は尊敬してたんだぜ姉貴のこと」
「知ってる。でもその尊敬されてた私は優秀な自分を演じてた私。そんなの好かれても嬉しくない」
ココさんは足を引き寄せて、彼女の顔面へ拳を入れようとする。
しかしそれを彼女は片手で受け止めた。
「私はココが思っているほど優れてはいない。尊敬に値しないわ。それが本当の私」
そう言うリリさんの顔はどこか愁いを帯びている。
「バカにすんなよ。そんな上っ面な面しか私が見れないと思ってんのか?」
ココさんの蹴りが空を切り、二人にまた距離ができる。
「別に優れてるから尊敬してたわけじゃねぇよ。頑張っててすげぇなって思ったから尊敬してたんだよ」
その言葉にリリさんが目を見張る。
「私の手本になるために頑張ってくれてんだなって。ほんとは勉強が嫌いなのも、色仕掛けが苦手なのも薄々は気づいてたよっ」
「……ココさん」
ココさんは泣いていた。
「無理してたのも知ってたよ。それでも私の前では弱さは見せなかった。なのになんでっ……なんで母さんが弱ってから悪口ばっか吐くようになったんだよ!」
ココさんは黒い玉を三発発射する。
しかし全て避けられてしまう。が、その玉はリリさんの後を追う。
一瞬気づくのが遅れた彼女は、体を手で覆うようにガードして玉を食らった。
彼女の視界が黒い煙で奪われる。
「こんなもので―」
彼女は煙を風圧で吹き飛ばす。
そして辺りをキョロキョロ窺う。
彼女はココさんを見失った。
けど僕は気づいていた。彼女の真上から勢いよく迫るココさんの姿に。
「リリさあああん!」
僕は咄嗟に指を差し叫んだ。
するとココさんに気づいた彼女は迎え撃とうとする。
「そんなに母さんに言いたいことがあったんなら―」
しかしココさんは構わずに更に加速した。
「もっと早くに言えよバカやろおおおおおお!!」
リリさんは玉を打つがその全ては貫ぬかれ、ココさんは隕石のようにリリさんに衝突した。




