好きだけど嫌い
僕が何も言えず黙っているとリリさんは笑顔で言ってきた。
「引き留めて悪かったわね。こんな話をして」
「いえ、聞いたのは僕なので」
「こんなに重くなるなんて思わなかったんじゃない?」
「まあ……」
「ふふ。素直ね。まぁ、私も誰かに聞いて欲しかったのね、なんて」
彼女は席を立つ。
「じゃあココをよろしくね。あの子は不器用だから」
「はい」
僕は立ち上がり家を出ようとして振り返る。
「リリさんはココさんのこと好きですか?」
「……ヒミツよ」
彼女は人差し指を顔の前にやりウインクしてみせた。
「分かりました。失礼します」
僕は家を後にする。
道に出てもココさんの姿は見当たらないので、とりあえず町の中を駆け足で探すことにした。
リリさんは不器用とココさんのことを言っていたけれど、僕からすれば2人とも不器用に思えた。
だから僕は決めた。
この家族を良い方向に一歩でも進ませることを。
「ここにいたんですね」
ココさんは町の入り口で胡座をかきながら浮いていた。
「めちゃくちゃ探しましたよ」
「……わりぃ。あそこに置いてっちまって」
ココさんの性格上、僕をあの家に置いて町に帰れなかったのだろう。
「まぁいいですよ。ちゃんと待っていてくれたので」
僕は彼女の横に荷物を下ろし、その上に腰掛ける。
「待ってなんていねぇけど、ただあんな感じで別れたらお前は私を探すだろうと思ったから」
「じゃあ待ってたんじゃないですか」
「ッ。うるせえ」
彼女の言葉にはいつものような覇気がなかった。
「なんで落ち込んでるんですか?」
自分でも意地悪な質問だと思いつつ聞く。
「別に。町がくせぇからだよ」
そういえば町のことを聞き忘れたなと思った。
「……この町ってなんで臭いんですか?」
「この町は悲しい町なんだよ」
「悲しい、ですか?」
「この村に住んでるのは半分が死んだ奴なんだ」
僕は眉間に皺を寄せ彼女を見る。
「私も詳しくは知らねぇけど、この土地の影響なのか、この場所では死んだ生き物はまた動き出すんだ」
「それって生き返るってことですか?」
「いや、顔だけが動くんだ。正確には表情だけか」
僕の眉間にはますます皺がよる。
「でも喋れないし動けねぇ。それで顔以外がゆっくり腐り落ちていって、結局最後には水気を失った果物みたいに顔もしなしなになって腐って朽ちる」
「じゃあこの臭いっていうのは……」
「そう。腐った死体の臭いだよ」
「ゔっ」
思わず口に手を当てる。
「おいおい、今更吐くなよ」
「ゔえ。吐いてないです。えずいただけ」
僕は口に手を当てたまま話す。
「ここにいる人たちはこれが普通なんですか?」
「ああ。つってもここにはそういう奴が集まってくんだよ。死んだ恋人や家族とまた暮らせるって」
「暮らせるって……話もできないじゃないですか」
「でも言葉に反応して笑ってくれるらしいぜ」
「そ、それで幸せなんですか?」
「知らねーよ。けどそれを幸せに感じちまうぐらい死を受け入れられない奴が世の中にはいるってこったろ。もっと詳しく知りてぇなら姉貴に聞けよ」
「……いえ」
僕にも親友がいたし両親もいる。
だけどその感情を理解することは無理だと思った。
「確かに悲しい町ですね」
「だろ」
「……」
「……」
「リリさんから余計なこと聞いちゃいました」
「……聞くなっつったろ」
頭を軽く小突かれた。
「ごめんなさい。でも、置いてかれたので」
「うるせぇ」
「仲直りしませんか?」
「……私はどうしても許せねーことがある」
「なんですか?」
彼女は目を細めたが、僕が目を逸らさず見つめていると話しを始めた。
「いきなり出てったこと」
「理由があるから出ていったんですよ」
「んなこたー分かってるよっ。だけど命を削って助けた母さんに、感謝どころか侮辱するようなこと言ったんだぜ!」
彼女は膝の上に強く握った拳を振り下ろす。
「私はそれがどーしても許せねぇ」
「……じゃあ、それ以外はいいってことですか?」
めちゃくちゃ怖い顔で睨まれたが、僕は怯まず続ける。
「僕の考えだと、ココさんのその怒り方って、好きだからって感じがするんですよ」
「どうゆうことだよ」
「好きな人がそんな風にしたことが許せないって」
「……お前に何がわかんだよ」
「分かりますよ。最近僕も親友に怒られたので。だからそれって相手に裏切られた感じがして、そっからくる怒りだと思うんですよ。その、相手を想っているからこその怒りっていうか」
見ると彼女の眉間にすごく皺がよっていた。
「分かりますか?」
「お前、そんなうざい奴だっけ?」
「まあ、その、確かに……うざかったですか……」
僕は肩を落とす。
確かにデリケートなことに、ズカズカ入りすぎた気もする。
「ごめ―」
「まぁでも、お前の言う通りだよ。私は姉貴を尊敬してる。いつも母さんに言われてきたからな。おねーちゃんを見習いなさいって」
「比べられて嫌じゃなかったんですか?」
「全然。むしろいい手本がいて助かったぐらいだぜ」
「ふふ。じゃあそう伝えたほうがいいですよ」
「ふっ。無理だろ。今さら」
そう言った彼女に僕は笑顔を向けて言った。
「今さらって思うぐらいの方が、蟠りは解けると思いますよ」




