不死町
次の日の朝。
一番最初に目に入ったのはココさんの顔だった。
「……毎回僕の寝顔見て楽しいですか?」
「いや。よくサキュバスの前で寝るなーって」
「寝ろって言ったのはそっちじゃないですか」
「絞り取られちまうぞ?」
「ココさんはしないでしょ」
「……まーな。それよりももう日が出てる」
彼女はそう言いながら僕の上からどく。
「獣も活動が控えめになってる。準備しろ」
「はい。ココさんは?」
「寝る」
「やっぱり。えっと、言いにくいんですけど。先に飛んで向かったほうが……」
「まだ飛んでいっても2時間ぐらいかかる。そっから渓谷抜けて不死町まで4時間ぐらい。死ねって言ってんのか?」
「そんなことは言ってないです」
「じゃあ連れてけ」
「はあ」
僕は荷物を漁り、減らせないものはないか考える。
「何してんだ?」
「ココさんを運ぶ分、荷物を減らそうかと」
「ん?そんなことしなくても大丈夫だぞ」
「へ?」
僕は眠るココさんを引っ張りつつ、崖のような場所を歩いていた。
ココさんは尻尾を僕の左腕に巻きつけ、浮遊した状態で胡座をかいて寝ている。
不思議と重さを感じない。
どういう仕組みなんだろうか?
そもそもあの背中の小さい羽で本当に飛べるんだろうか?
もしかして魔族独自のなにかなのかな?
うーん。
こないだそこら辺も聞いとけばよかった。
起きたら聞いてみようかな。
……それにしても。
「スー。スー」
「よくこの状況で寝れるな」
僕は彼女の寝顔を見ながらあらためて思う。
優しいよな、この人は。
いや、人じゃないのか?
まぁでもほぼ人みたいな見た目だし人でいっか。
夜のうちに自分だけでこの渓谷を抜けることができたはずなのに。
わざわざ僕の面倒を見に来てくれて。
昨日も夜中ずっと見張っててくれたんだろうか?
「ありがとうございます」
目の前には高い崖に挟まれた細い道が広がっていた。
「うわー」
思わず感嘆の声が漏れる。
凄い!凄いぞ!
人から見たら普通の景色だとしても、僕にはどこか別の世界に来たような、もしくはこの先に別世界が広がっているんじゃないか、そんな探究心を掻き立てられる光景だった。
そんな風にワクワクしながら道を歩き出した時だった。
ゴツっ。
「ぶふっ」
ココさんを崖にぶつけてしまった。
「ああ、ごめんなさいっ」
僕はワタワタする。
「いてーなぁ。気をつけろよっ、てもうここか。ここ抜けたら渓谷はほぼ終わりだな。あとは真っ直ぐいきゃ……スピー」
「寝るんですか!」
「ん、あに?」
「いや、多分またぶつかっちゃいますよ。先に飛んで抜けてもらっていいですか?」
「……」
「ココさん?」
彼女は僕のリュックにしがみつくように姿勢をとり、頬をリュックの上に預けて目を閉じた。
「スピー。スピー」
確かにこれで幅は完全に一人分になった。
それでも僕はさっきより気を使い道を抜けることにした。
渓谷を無事抜け2時間ぐらいだろうか。
後方には小さくなった山が見えている。
僕はリュックとココさんを下ろし地べたに座る。
そしてリュックのサイドポケットに入れてある水筒を取り出し水を飲む。
今まで彼女のことを気にして取り出さなかったが、どうやら気にしすぎだったようだ。
「スー。スー」
全然起きないな。
ふと、彼女の頬をツンツンしてしまう。
すごくハリがあって柔らかかった。
……は、何してんだ!
僕は水筒を戻し荷物と彼女を背負いまた歩き出した。
「ココさん。ココさん。起きてください」
「ん、んあ?どした?」
「あそこですよね?不死町」
僕は指を差す。
その先には建造物がいくつか確認できる。
「ああ?うん、そだよ……スピー」
「寝ないでくださいっ」
「なんだようるせぇな着いてから起こせよまだ20分ぐらいかかんだろーが」
彼女は不機嫌そうに言葉をまくし立てた。
「いや、町の入り方とか分かんないんで」
「はあ?歩いて近づいて歩いて入る。やったー入れたー。ガキでもできるぞ。おやすみ」
「あの、襲われたりとかは?」
「ねー。あの町の住人は他人に興味なんかねーよ……スピー」
これ以上何か言ったら殴られそうだなと思ったので、僕は彼女の言葉を信じて町へ向かった。




