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第四十二話 異能力者たち

「ああ、行ってしまった」


 ショッピングモールの駐車場、避難した民衆の人混みの中でアンヘラはひとり呟いた。

 手に残った温もりは彼を確かに掴んでいたことを示している。


「どうして放してしまったんだろ」


 従順な秘書というキャラクターを演じるのも忘れ、絶対に放さないと覚悟していたはず。


「紗人は放せって言わなかったのに」


 何でも言うことを聞くと宣言したばかり。

 その実効性も証明済み。

 でも彼は手を放せとは言わなかった。

 少女が手を放すのを待った。


「……そういうところ、なんですよねぇ」


 思わず笑ってしまう。

 彼は、常盤台紗人は、一緒にいたいと初めて願ったあの日から全く変わっていない。

 正直不安は大きいし、帰ってきたら一発くらい殴ってもいい気がする。だけど、


「待ってて、とは言われちゃいましたし。待ちますか」 


 きっとこの心地よさが、誇らしさが、手を放した理由なのだろう。

 

 ——————

 

「いい加減に、しやがれっ‼︎」


 異能力者、留流綺羅子は吠える。

 その腰を一周するようにズラリと並んだ真紅の剣はまるで大輪の花。

 もはや原型を留めていないスカートの代わりに、紅の花弁が風に吹かれて舞いなびく。


 それはさながら恋の占い、花占い。

 花弁をちぎり取る度に皮膚は裂け、血が噴き出し、乙女は苦痛に顔を歪める。


「ダメだよきら星ちゃん、今日こそ、今日こそわたしはあなたの愛を手に入れるっ!」


 好き、嫌い、好き、嫌い。

 飛来する剣の意味を解釈し、白鳥星河はその全てを受け止める。


「ぐふっ、へへ、へへへへへ」


 宙に浮く白鳥は血を吐きながらも笑う。

 何本もの剣で八方から串刺し。

 マジックショーと違う点は本当に剣が刺さっていること。


 通常の人間ではまず生きていられない。

 だが彼女たちは通常の人間ではなかった。

 異能力者。

 常なる理から外れた、異端。


「だからきら星ちゃんも、わたしの愛を受け取って‼︎ わたしを、受け入れてっ!」

「っ!」


 周辺に飛び散った瓦礫、ガラス片、商品だったものの数々。

 それらを数センチの球へ圧縮した超密度弾丸が綺羅子へ向かって発射され続ける。


「わたしと一緒になって! わたしと一緒に死んで! きら星ちゃん‼︎」

「くっそ、キリがねえっ!」


 綺羅子は自らの腹を裂き、噴き出した大量の血液で大盾を形成、その陰に身を隠して叫ぶ。


「テメェ白鳥コラ! なんか要求が重くなってんぞ! 前会った時は血を飲ませろって程度だっただろうが! こうなったらもう血くらい何リットルでも飲ませてやるから止まれ!」

「もういいのきら星ちゃん。分かったの。きら星ちゃんをこの世の害悪から守るにはもうこの方法しかないの。これがわたしの愛。だからきら星ちゃんもわたしに愛をちょうだいっ!」

「キスでもなんでもしてやるから止まれって言ってんだ!」

「違うでしょ⁉︎ きら星ちゃんの愛は……もっと」


 白鳥が両手を真上に構え、漆黒の球体が出現する。

 事象の墓場、ブラックホール。

 その周囲を公転するのは惑星ではなく、無数の超密度弾丸。


「痛い、ものでしょっ!」

「ダメだ認知が歪み切ってやがる‼︎ うおあっ⁉︎」


 綺羅子は盾を放棄して離脱。

 直後、超密度弾丸の群れがその大きさからは考えられないほどの轟音と共に盾を削り呑み込んでいく。


「ねえ早く、きら星ちゃんの愛を……!」

「ああ分かった。そんなにお望みなら、たっぷりくれてやる」


 綺羅子は紅の刃で自らの首元から下腹までを一気に裂いた。

 激痛とともに噴き出した鮮血は次第に長太い砲身を形成していく。

 地形固定式の重機関銃。

 見よう見まねで作り出したそれのハンドルを握り、綺羅子は愛を求める少女を睨みつけた。


「腹一杯食いやがれえっ!」


 ドチャドチャドチャドチャ、と、血液でできた弾丸は有機的な音を立てながら炸裂し、一分間に何十発ものペースで宙に浮かぶ白鳥星河を撃ち抜く。


「ぶっ、ごふぇっ……」


 白鳥は例にもよってその全てを受け止めた。

 だが、今回ばかりは許容量オーバー。

 重力を操っていた少女は一際大きな血塊を吐き、チカラを失って落下した。

 ほぼ同時、血まみれの少女もその場に座り込んだ。


「くっ、はぁ、はぁ……流石に血、使い過ぎた……」


 いつもならギリギリ耐えている気がする。

 けど、ここ数日の食生活を考えればよくった方だ。


「……あーあ」


 せっかく買った服はすでに血まみれのボロ切れだ。

 やっぱり好きな服など着る方が間違いなのか。


「きら星、ちゃん……」

「ああくそっ」


 それでも綺羅子は立ち上がり、仰向けに倒れて手だけを伸ばす白鳥の方へと歩み寄った。


「もう気は済んだか? さ、おとなしく警察にっ⁉︎」


 綺羅子の脇腹に激痛が走る。

 見れば、腹に親指大の風穴を開けられている。


 まだ熱い超密度弾丸の貫通痕。

 白鳥は苦痛に歪んだ綺羅子の顔を見て、にへら、と笑った。


 綺羅子の頭の中で、何かが引きちぎれるような音がした。


「……ああ、そんなに死にたいなら分かったよ」


 綺羅子はだくだくと血を流す胸に手を突っ込み、武器を形成して引っ張り出す。

 それは大きな鎌。

 特に意識したわけではないが、目の前のムカつく女に死を与えるのにピッタリだ。


「お望み通り、ぶっ殺してやるよっ‼︎」

「うん、一緒に死のう! きら星ちゃんっ」


 その声を聞いて、綺羅子はそうか、と気がつく。

 白鳥のもう片方の手が己の心臓に狙いを定めていることに。

 彼女に一瞬さえあれば、超重力で心臓を握りつぶしてしまえることに。

 けど思い留まるにはもう、何もかも遅す

 

 ピリリリリリリリリリリリリ‼︎


「うおっ⁉︎」

「なっ⁉︎」

 

 突如鳴り響いた場違いなほど明るい警戒音が二人の思考を中断した。

 その正体は投げつけられた防犯ブザー。

 分かってしまえばなんてことない。

 戦闘中、巻き込まれた商品や火災警報が鳴らした音と代わりない無意味な音。


 けれど、一瞬あれば十分だ。


「二人とも、そこまでだ」


 呆然とする二人の少女の間に息を切らした少年、常盤台紗人が割り込んで宣言する。


「あんまり酷いと、次は僕が相手になるぞ」

読んでいただきありがとうございます!

遅くても3日ごとに更新予定!

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