第四十話 ありのままの世界
「いつぞやのヤンキーじゃないか。僕ひとりに随分大袈裟な人数でお礼参りかい?」
「お前に? ハッ、ンなわけねーだろ。俺らはそこの女、白鳥星河に用があんだよ」
「……」
白鳥は黙ったままゴリラヤンキーを睨みつけている。
どうやら僕らがそうであったように、白鳥もこいつらに絡まれていたようだ。
話に出ていた、返り討ちにしたって連中だろう。
「おっと、そう睨むなよ。今日俺たちは暴力を振るいに来たんじゃない。なあセンセ?」
「ええ。昨日は随分酷い目に遭わされましたから。罰を与えに来たんですよ」
ゴリラヤンキーに促されて前に出てきたのはWAISの会長。つまり……。
「ナチュの母さんじゃないか。いいのか、こんなティーンの男女に徒党を組んで迫ったりして。化学物質なんかよりよっぽどナチュの教育に悪いと思うけど」
「黙りなさいっ!」
WAISの会長に胸ぐらを掴まれ、僕は宙に浮いた。
向こうがハイヒールとはいえ、女性に身長で負けているのはやっぱ情けない感じがしてしょうがない。
「あなたたちに影響されて、あの子はすっかりおかしくなってしまった! 今までずっと私の言うことは聞いていたのに、反抗的な態度ばっかり……! だからあの子には罰を与えています。私が帰る頃にはきっと良い子に戻っているはず」
「お前……! ナチュを一体どうしたんだ⁉︎」
「黙れ黙れ黙れ黙れっ! これ以上私の家庭を乱されてたまるものですか!」
「うわっ」
どん、と突き飛ばされた僕はそのままWAISの構成員に羽交い締めにいされてしまった。
WAISの会長はそのまま白鳥と対峙する。
その傍には何やらバケツのようなものを持ったヤンキーの取り巻きが控えていた。
「私の仲間とそこの少年たちから通報がありましてね。白鳥星河、私はあなたの数々の暴力行為の証拠を押さえています。そしてタグの情報から、あなたが珊瑚島で然るべき手続きを行うことなくこの島に来ていることも分かっています。あとはあなたを警察に突き出すだけ」
「じゃあ、そうすればいいんじゃない? とっとと通報して、警察に来てもらいなよ」
「ですが、あなたは私の仲間にも手を上げた。警察のやり方だけでは足りません。あなたのような地球の害虫には、私たちから直々に罰を与えなくてはならないんですよ」
「……それで、そのペンキでどうするの? わたしにぶっかけるのかな。別にどうぞ?」
とても法治国家とは思えない話が進行している。
WAIS会長の目はもう完全にイッちゃっているし、このままだと何が起きるかわからない。
だが僕のスマホはまだ白鳥の元にあるし、そもそも拘束されているので警察に通報もできない。
となれば……僕は白鳥が注意を引いている間に綺羅子がどこにいるのかを探した。
元いた場所からはとっくに居なくなっている。
そして広場に降りるエスカレーターの方を見ると、その入り口で立ち往生しているのが見えた。
吹き抜けの一階も二階もすでにただならぬ空気を察知した野次馬とWAISの構成員でいっぱい。
ショッピングモールの警備員も対応を始めているようだが多勢に無勢だ。
綺羅子のことだから飛び降りてでも来てしまうかとも思ったが、これだけ人が居ると無関係の人間を踏んで怪我をさせかねない。だから彼女はどうにか人混みをかき分けようとしているのだろう。
「あなたの背中のその忌々しい烙印を、これで浄化してあげます。背中を見せなさい」
「そんなんで満足するなら、楽勝……」
一方こちらではすでに事が進行している。
白鳥は背を見せ、ヤンキーの一人がそこにペンキを塗りたくろうとしている。
不気味なほど真っ白な、気味の悪いペンキを。
「この塗料の成分は強盗に投げつけるカラーボールと一緒。あなたが人々を不快にしているその穢らわしい紋様を完全に隠し切ってくれるはず。だからコレはあなたへの罰でもあり、化け物が人間に溶け込めるようにしてあげる配慮でもあるんですよ。少しは喜んだらどうです?」
「ごたくはいいからとっととやれば? イカれおばさん。満足したら消えてよね。今度こそ殺しちゃうかもしれないよ」
「その時はあなたには重い懲役が課されることになるでしょう。ありのままの世界を実現するための障害がひとつ消えるのですから、良いことです」
「へへっ、にしてもキモい目玉だなぁ」
ハケを持ったヤンキーが嘲り笑う。周囲からは無数のスマホが向けられる。
「白鳥よぉ、残念だったな。お前はどのみちブタ箱行きになるはずだってセンセは言ってる。てめーのタグから出た情報を調べてたら調べてたら分かったけど、あのスケバンみてーな赤色の異能力者とも友達なんだろ? 残念だったなーもう会えなくなるなんて」
「お前! きら星ちゃんに何かしたら殺すぞ!」
「大丈夫大丈夫、まだしてねえよ。でも……」
まずい。
直感がそう言っている。
白鳥の前で、ヘタに綺羅子に言及してはいけない。
「お前のこのキモい目ん玉をキッチリと潰したらよ、あいつのも潰してやるからさ。センセに写真を見せてもらったぜ。お前に負けないくらいキモかったわ」
ましてやそれが侮辱的な言葉だったら。
「あんなの晒してるとか、もはやテロだろ。死ねばいいの」
ヤンキーの言葉は途中で途切れた。
いや、正確には違う。僕の位置からはよく見えた。
彼はただ、吹き抜けの三階手すりまで吹き飛ばされただけだ。
「いひっ、ひひひひひひひ」
静寂に響く少女の笑い声。
直後、彼女の傍でドスン、と音がした。
それは、彼女がさっきまで座っていた休憩スペースの全てが丸ごと圧縮された超密度弾丸。
ヤンキーを攻撃した武器が、重力に引かれて落下した音だった。
「ああ、無能力者に一瞬でも心を許しそうになっちゃった。けどもう決めた。決めちゃった」
泣きながら笑う少女は突然の出来事に硬直するWAIS会長に右手をかざす。
「きら星ちゃんの敵は、みんな消す!」
「させるか馬鹿野郎っ‼︎」
ひゅご、と空気が流れる音がして、ドライアイスのような煙を吐く球が女性の傍に転がった。
中年女性一人を超密度肉塊にする小型ブラックホールが生成される直前、白鳥の右腕に突き刺さった紅の剣がその軌道を逸らし、標的の隣の空気しかない空間が圧縮されたのだ。
「きら星、ちゃん?」
白鳥が視線を向けた先に立つ少女は、綺羅子は、胸元から血を流しながらも大きく息を吸い込み、叫ぶ。
「異能力者のケンカだ! 命が惜しけりゃ全員逃げろ!」
効果抜群。
群衆は一瞬でパニックになり、それぞれが一番近い出口へと我先に殺到する。
ああ、始まってしまったのだ。
もう二度とごめんだと願った、強すぎる者同士の異能力バトルが。
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