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第三十七話 決戦の時

「はぁ⁉︎ 白鳥と会うだって⁉︎」

「はい? 白鳥星河、ですか?」


 一拍置いて、二人はほぼ同時に叫ぶように言った。


「まず確認だけど、フェルナンデスは白鳥を知らないよね」

「いえ、名前だけは覚えがありますよ。ネットで見かけました。有名な人ですか?」

「有名も何も珊瑚島で一番悪名高い異能力者だ! あたしのストーカーで、つい三日前にもに追いかけ回されて一歩間違えば殺されてた! ニュースになってんのはまさにその事件だ!」

「は? 事件って……そう言えば大統領、私に会う前日に“色々あって”沖縄本島に泊まりたいとかって言ってましたが、死にそうな目に遭っていたのを私に言わなかったんですか……?」

「じゅ、順を追って説明させてくれ」


 僕は怒りが暖まり切った二人を起爆しないよう慎重に言葉を選びながら、ここまでの顛末を説明した。


 珊瑚島で追いかけ回されたこと、彼女から綺羅子と自分を守るために沖縄本島へ逃げてきたこと、白鳥が沖縄本島まで不正な手段で追いかけてきていること、彼女にSNSのアカウントを特定されていること、ダイレクトメッセージでやり取りをしたこと。

 そしてまさに今朝、直接会う約束を取り付けたこと。


「はぁ〜〜〜大統領プレジデンテ、あなたって人は本当に……おせっかいというか……」


 説明を終えた僕の耳に真っ先に飛び込んできたのは、フェルナンデスの大きなため息だった。


「ネットで知り合った人間と会ってはいけないとあれほど言われているでしょうに」

「いや僕らは一回は直接会ってるんだって」

「なら仕方がないですか」

「そういう問題じゃねえよなこれ⁉︎」


 綺羅子は怒りに拳を震わせながら言った。


「だいたいさっきの説明じゃお前が白鳥に会おうとしている“理由”が分かんねえ! あいつに妙なことを吹き込まれたんじゃないだろうな?」

「白鳥の方から会おうと言ってきたのはそうだけど、僕は彼女に何かを言われたから会おうとしているんじゃないよ……ただ、一言謝らないといけないと思って」

「あ、謝る? あいつがあたしらにではなく、お前があいつに?」

「あの時、綺羅子には聞こえなかったかもしれない。けど僕は君に襲い掛かろうとする彼女を引き止めようとして色々考えて、背中を隠した方がいい、って言ったんだ」

「背中をって……ああ、そういうことかよ」


 ぱし、と自身の額に手を当て、綺羅子はため息をついた。


「それであんなにキレてたのか、あいつは」

「僕は彼女が背中の“瞳の痣”を見せている理由は知らない。けど昨日のビーチの一件で分かった。“瞳の痣”が見える状態で出歩く事のリスクは彼女自身がよく知っているはず。それでも彼女はああしていることを決めた。僕は、その覚悟を侮辱したんだ」

「覚悟とは言うがな、あいつの場合は完全にアホなだけだぞ。人がもうやめろって言ってんのに、小さい頃のくだらねえ話をずっと引きずってるだけだ」

「小さい頃?」

「あっ、いや……うっ」


 綺羅子は気まずそうに頬を掻き、目を逸らした。だが逸らした先にもフェルナンデスが待ち構えている。

 二人分の湿った視線を向けられ、綺羅子は「分かった、話す」と切り出した。


「……あたしと白鳥は、幼馴染なんだ」

「なんかそんな気はしてたよ」

「何のキッカケもなく乙女心が発火して追いかけ回したりしないですよ」

「う、うるせえチャチャ入れんな! あいつの痣は昔っからデカくて、しかも本人は気弱だった。それでそこらじゅう“札付き”ばっかりの珊瑚島ですらいじめられてたんだよ。だからデカ痣仲間としてあたしが庇ってやって、その痣はすごく綺麗だと思うから消そうとしなくていい、むしろ見せてやるくらいの気持ちで行け、ってアドバイスしたんだけど」

「口説いてるじゃん」

「口説いてるじゃないですか」

「……まあ、それが小学校の一年だか二年だかって頃の話だ。その直後くらいにあいつはどこぞの研究所で集中的に検査するって転校して、で、去年再会したらもうあの有様だった」

「それはだいぶ拗らせてそうだね」

「ちゃんと手紙とかでやり取りしてたら違ったかもしれないですがなぁ……」

「なあこれあたしが悪いのか?」


 綺羅子は困惑しつつも「ま、まあともかくだ!」と話をたたみにかかる。


「あいつが背中を丸出しにして不気味がられてんのはあいつの自業自得だ。それを見た紗人が何を言ったとしても罪悪感を感じる必要なんかねえ。わざわざ逃げた先まで追って来るような危険人物に会ってやる義理もねえんだぞ」

「でも綺羅子ちゃん、本島に上陸した白鳥さんが同じ格好で過ごしているとしたら、昨日の人たちのような過激派にひどいことをされている可能性がありますぞ。異能力の行使による反撃をある程度容認する法律は珊瑚島内でしか適用されないのでしょう?」

「そりゃ、そういう奴に会ってたらそうかもしれないけど自業自得で……」

「逆に言えば、そういう目に遭うリスクを負ってまで大統領プレジデンテに会おうとしている。あなたではなく、大統領に。単純に恨みなら予告などせずに襲えばいいのです。なのにそうしないのは、彼女にも何か事情があるとは考えられませんか」

「なんであいつに肩入れするんだフェルナンデス! お前、白鳥に会ったことないんだろ⁉︎」

「綺羅子ちゃん、いいですか?」


 フェルナンデスはその長い腕で綺羅子の肩をがっちり掴んだ。


「幼い頃に言われたことは精神に深く刻まれるものです。言った本人にあまり自覚はなくても、ですぞ。それに白鳥さんの話を聞いていると、彼女はあなたとの思い出に縋っているようにも聞こえる。彼女は助けを求めているのかもしれないのですぞ」

「わ、分かったよ。分かったからその目で見るのやめてくれマジすぎるから」


 綺羅子は白鳥の腕を元のポジションまで戻しつつ、僕の顔を伺うように見た。


「……マジで会いにいくの?」

「元々を辿っていけば、僕が綺羅子の許婚だと彼女に宣言して、君をこっちに連れ出したのが始まりだ。それにこのまま逃げ続けても事態が悪化していく気がするし、君はいずれ珊瑚島に戻る。そうなればまた血で血を洗う異能力バトルに逆戻り。むしろ彼女の態度が軟化している今が白鳥と君と、そして僕の間にある問題を解決する絶好の機会なんだ。それにね、綺羅子」

「なんだよ」

「万が一何かあったら、君が僕のことを守ってくれるだろ? そういう契約だし」

「〜〜〜っ‼︎ あー分かったよ! あたしの負けだよ。だけど今から言うことは約束しろ」


 ずい、と僕の目前に人差し指が突きつけられる。


「ひとつ、白鳥とは一人で会え。あたしが同席した瞬間にあいつは我を失いかねない。ああ見えてあいつは人見知りだからフェルナンデスもダメだ。あたしたちは近くで見張っておく。ふたつ、話が済んだらさっさと離れるんだ。あんまり長いこと一緒にいると十中八九トラブルに巻き込まれる。みっつ、ヤバくなったら右手を挙げろ。あたしが何とかする。約束できるか」

「約束するよ。元々あまり長話をする気はないし」

「軽々しく言いやがって……フェルナンデス、本当にコイツ止めねえのか」

「まあ危険だとは思いますが、大統領プレジデンテって昔から変なところで頑固なんです。こっそり行動されて大惨事になるくらいなら管理下に置いておいた方が安全とでも言いましょうか……」

「ハァ……で、会うってどこで? ここから遠いのか」

「確かに、見張るにしてもまずは隠れる場所を探さなくちゃいけません。それに移動中に白鳥さんに我々が見つかってしまったら隠れる意味も……」

「ああ、それ、なんだけど……」

「何だよ歯切れわりーな」

「そうですよ。早く作戦を立てないといけないのに」

「実は待ち合わせ場所、このショッピングモールの一階広場なんだよね」

「「お前バカじゃねーのか⁉︎」」


 だって、寝起きの頭で決めたんだもん。

 稚拙な反論を喉の奥へと引っ込めつつ、僕は席を立った。

 いざ決戦の時、だ。

読んでいただきありがとうございます!

遅くても3日ごとに更新予定!

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