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第三十五話 シャツワンピース

「あれですな」


 綺羅子はフードコートを離れて五分もしないうちに見つかった。

 フェルナンデスが指差す先、服屋のマネキンの前に腕を組んで仁王立ち。

 ここからだと表情は見えないが、きっと眉間にシワを寄せてしかめ面をしていることだろう。


「なんか悩んでるみたいだね。よっぽど値段が高いのか?」

「このフロアは基本的に私たちでも手を出せる価格のはずですが……」


 フェルナンデスは首を傾げた。

 彼女の金銭感覚は(意外にも)まともなので見立ては大きく外していないはず。

 僕たちは綺羅子のそばまで歩いて接近していく。

 まあ理由がどうあれ、聞けばわかることだ。


「うーん……でもなぁ……」


 とうとう独り言を聞き取れるほど近くまで接近したが、綺羅子は全く気づく様子がない。


「何を悩んでるんだい」「どわぁああああっ!」「うわぁああああっ⁉︎」


 声をかけた瞬間彼女の悲鳴が僕の鼓膜をぶっ叩き、それにつられて悲鳴をあげてしまった。


「なななななんだよいきなり⁉︎」

「そ、それは僕のセリフだ。確かに背後から話しかけた僕が悪かった、それは認めよう。けどそんなに驚くことないだろ。まるで借り物を壊したのがバレた小学生みたいだったよ」

「しょっ……!」


 まずい、そう直感した。

 綺羅子は顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。

 小学生煽りが効いたようで、もう感情が爆発する寸前といった様相だ。


「ええっと、綺羅子ちゃんはこの服が欲しかったんですか? 値段で悩んでるとか?」


 見かねたフェルナンデスがすかさずフォローに入った。

 目配せが「貸しひとつですよ」と言外に語っている。

 昼食は僕の奢りになっちゃうかもしれないなこれ。


「えっ⁉︎ いやその、まあ、値段とかじゃない。どっちかえといえば買いたい感じ……?」


 一方で応答した綺羅子はなぜかしどろもどろだった。

 自分の感情に疑問符がついてるのは一体どういうことなんだよ。


「何はともあれ試着してみたらいかがですかな。デザインだけでなく素材、丈、サイズ感など、試着した方が手っ取り早く分かることも多いですぞ。まあご存知でしょうが」

「……試着ね。でもどうせあたしには似合わないよ」

「似合わないって、この服がですか?」


 綺羅子がため息混じりに言い、フェルナンデスと僕は再び顔を見合わせた。

 そしてそのまま視線をマネキンへとスライドさせる。

 マネキンに着せられていたのはロングスカートのワンピースだった。

 正確にはシャツワンピースと言う襟付きのワンピースだ。

 ノースリーブではなく、短いながら袖もある。

 マネキンの側に掲げられた売り文句が言うにはライトグレーの布地を黒のベルトで少しオトナっぽくまとめつつ、控えめなフリルがチャームポイント、らしい。

 総じて言えることはひとつ。


「ごく普通のワンピースだね……似合わないってことはないと思うけど」

「ごく普通のワンピースですね……値段も六千円、安くはないですが十分選択肢かと」

「ほ、本当に……?」


 綺羅子は恐る恐るといった様子で僕らに問うが、僕らとしては当然頷くほかない。


「どれだけネガティブに見ても試着もせずに似合わないと断じるほどじゃないよ。マネキンのスタイルが良すぎて実際着てみたら思ってたのと違うってことはあるかもしれないけど」

「やっぱりあたしをバカにしてるのか?」

「違いますよ綺羅子ちゃん。私を見てくださいよ。試着するまでもないって言うのはこういうデカすぎる場合のことを言うのであって、綺羅子ちゃんなら少なくとも袖を通せますよ」

「反応しづらい自虐はよしてくれないか?」


 僕らの応答にそれぞれツッコミつつ、綺羅子は頭を掻いて唸った。


「だって、あたしはコレだぜ?」


 ばーん、と手を広げた綺羅子の格好はいつも通りのスケバン丈セーラー服だ。


「……まあ確かにいつものイメージよりはだいぶ清楚寄りになるかもね?」

「そうだろ? でもどういう意味かは後で詳しく聞かせてもらうぞ。答えによっては殺す」

「こ、殺されたくはないけども。でも要は同じロングスカートだろ。いつもの制服とちょっとデザインが違うだけだと思えば気楽なんじゃない?」

大統領プレジデンテ、流石にそれは暴論なのでは……」

「それだ!」


 ズビシ! と僕の顔に綺羅子の人差し指が突きつけられた。


「あたしはただいつもと同じくらい長いスカートの服を着るだけ! 何もおかしくねえ!」

「そうだね。別にスカートが長くなくてもおかしくはないと思うけどもね」

「よ、よし。そうと分かれば試着してくるぞ」


 綺羅子はマネキンの横に平積みされていた服を引っ掴み、のしのしと歩いていった。

 いや、少し歩いて、こちらを伺うように振り返った。


「……お前らは、来ない?」


 その時きっと、僕とフェルナンデスは同じことを思っていた。

 この恥じらいスケバン、庇護欲を掻き立てる凄まじいポテンシャルを秘めているな、と。

読んでいただきありがとうございます!

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