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第三十三話 地獄耳

 耳元で羽虫が飛び回るような音がして、僕は目を覚ました。


「……なんだ?」


 原因を探すと自分のスマホの通知音だった。

 開いてみれば、SNSのダイレクトメッセージにとんでもない量の通知がついていた。

 もちろん全て白鳥星河によるものだ。


 実を言うと、僕は時間を見つけては白鳥に返信してやっていた。

 我ながら律儀なことだが、放っておけば暴走してもっと酷くなる気がしたから。

 とはいえ昨日はビーチに行く前に二回ほど返信しただけで、その後は色々疲れたのもあってスマホはほとんど見てすらいなかった。


 まあ結局これだけ溜まったメッセージも殆どは綺羅子に関する事なので適当に返事をすればいい。

 そう思っていたのだが、今回は少し様子が違っていた。


「あー、昨日の騒動の事がバレたのか……」


 彼女が騒動を知ったのであろう夕方から綺羅子を巻き込んだ事を責め立てる言葉が連続し、次に綺羅子の身を案じる言葉が続く。

 ここまでは概ねいつも通り。

 だが、彼女自身があるニュース記事を貼った深夜ごろからメッセージの質が変わっている。


 ニュースには綺羅子の背中の痣がくっきりと撮影されている写真が載っている。

 顔にモザイクこそかけられているが僕も写っていた。

 そして……僕が綺羅子を侮辱されたことに激怒し、WAISの会長に殴りかかった事を証言するインタビューが載っていた。


 白鳥星河はこれについて単に、

「これ本当?」

 とだけ聞いてきた。

 言ったように返信はしていないのだが、メッセージの質に変化が起きたのはその数分後。

 大量のメッセージで回りくどくされた彼女の主張を整理するとこうだ。


「確かめたい事がある。きら星ちゃんと一緒じゃなくていいから、直接会って話そう」


 ずっと綺羅子のことだけを考えていたはずの彼女が、僕単品で指名したのだ。


「なんで僕がターゲットになっているんだ……?」


 まさに「どうしてこうなった」という感じだ。僕に直接会って何をするつもりなのか。


「会おうとしなくたって、君ならそのうち特定できるでしょ……」


 僕は返信せずにスマホを閉じた。

 まだ午前五時。二度寝するには十分な時間が余っている。

 今日は三人でショッピングモールに買い物へ行く予定があるのだ。

 恐らく歩き回る事になるので、体力は温存しておくに越したことは無いだろうし。


「……」


 こんなインターネットストーカーに構ってやる義理はない。

 大体、彼女にどんな目に遭わされたかもう忘れてしまったのか?

 追いかけ回されて、殺されかけたんだぞ。

 僕がやったことと言えばただ綺羅子と逃げて、少し話して……背中を隠したらどうだと、言ったくらい。


「……くそっ」


 僕は愚か者だ。

 その自覚があるなら、少しくらい責任を果たしたらどうなんだ。常盤台紗人。

 

 ——————


「わー、でっけえ建物……」


 タクシーで送ってもらうこと約一時間。僕たちは目的のショッピングモールへ到着した。

 昨日は出番がなかったが、フェルナンデスはもはや運転手が彼女の家の関係者であることを隠さない。

 今回も僕らの用事が終わるまで駐車場で待っていてくれるらしい。

 絶対執事だろこの人。


「おや、綺羅子ちゃんはこういうショッピングモールは初めてなのですかな?」

「いや流石に初めてって事はねえよ。ただ、こうして遊びに来るのは久々だったからさ」

「なら中はもっと新鮮に思えますぞ。さ、大統領も早く行きましょう」

「あ、うん……」

「何だお前眠そうだな。昨日寝なかったのか?」


 流石に察されたか。結局僕は二度寝できなかったのだ。諸事情により。


「いや、まあ、大丈夫」

「ならいいけど。眠くなったら言えよ」

「お気遣いなく」


 青空の下、眠たい目を擦りつつ見上げたモールはまるで巨大な墓標のようにも見えた。

 縁起でもない感想を心の奥へとしまい込んで、僕は二人の後を追う一歩を踏み出す。


 と、まるで戦場に赴く兵士のようなモノローグをつらつらと述べてしまったわけだが、ショッピングモールの中は当然ながら、特筆すべきところはあまりない。

 正面入り口からすぐのところに吹き抜けの大きな広場があり、そこから伸びた通路にテナントがずらりと並んでいる。

 全国どこでもお馴染みの、普通の形だ。


「おいおいなんかすごい水槽があるぞ!」

「ふふ、はしゃぎすぎですぞ綺羅子ちゃん。でも案内板も近くにありますな。ちょうどいい、まずは熱帯魚でも眺めながら作戦を練りましょうか」


  綺羅子は発見した水槽へ松明に飛び込む蛾のように吸い寄せられていき、すでに水槽周りで群れている人々に混ざった。

 一応観光客も来るからなのか、水槽はそれなりに大きい。看板には県北部にある国立水族館の出張版だと書かれている。


「大統領は水族館に興味はおありですかな?」


 隣に立つフェルナンデスが探るようにこちらを見下ろした。


「ん、まあそれなり以上には興味があるね。自分で魚の学術的な解説を読む機会なんてあんまり無いから、パネルを見ているだけでも楽しいし」

「やはり。ならば行かなければ損でしょう! 綺羅子ちゃん! こちらへ」

「どうした? フードコートの場所が分かったのか?」

 フェルナンデスの声に応えて水槽の側から駆け戻ってきた綺羅子の表情は無邪気すぎて輝いて見えた。

 なんか初日と比べて随分毒気が抜けている気がする。

 だいぶ話しかけたくないタイプのヤンキー然としていたはずが、今ではまるで休日のお出かけに来た小学生だ。


「綺羅子ちゃんは水族館に興味はおありで? まあ聞くまでもなさそうですが」

「もちろん興味大アリだ。あるいは魚を食べる方でもいいぞ。なんかあそこの水槽に泳いでるデカくて青い魚、国際通りで天ぷらが食えるらしくて気になってたんだ」

「あるいはと言いつつだいぶ食い気が勝ってませんか……?」


 フェルナンデスは苦笑しつつ「まあ興味はあるということで、提案です!」と胸を張る。


「今日の買い物のテーマはズバリ“明日水族館に着て行く服装”でどうでしょうか! 各自服を選んで、お披露目は明日! まあ理想は水族館に集合して初披露ですが、私たちは同じ宿なので朝には分かってしまいますな。そこはご愛嬌」

「そういえば確かに何を買うとかは決めてなかったね」

「今日は適当に買い物して飯食うって話だったよな」

「問題はまさにそれですぞ、お二方」


 フェルナンデスは腕を組み指を立てた。

 ワンポイントレクチャー、とでも言いたげだ。


「このショッピングモールはそれなりにバラエティに富んでいるものの、なんだかんだ服飾関係の店が多め。つまり必然的に、買い物をするなら服を検討せざるを得ないのです」

「じゃあ服を適当に選べばいいだろ」

「ノンノン。綺羅子ちゃん、服とはただ漠然と選ぶと事故りがちな危険物なのですぞ」

「そうか?」

「服を買うのに慣れていれば問題はないでしょう。しかし我らは素人。特に私のような体格だとただでさえ少ない選択肢から適切に選ばなければ即・ゲームオーバーとなりかねないのです。ですが、テーマがあれば話は別。細部を調整するセンスが無くとも、全体的な統一感さえあればそれなりにサマにはなるのですからな」

「力説する割には後ろ向きな提案だね」

「オタクなんて大概そんなもんでしょう」


 僕の感想にフェルナンデスは肩をすくめて応答した。

 思い当たるフシはある。


「確かに僕は沖縄に来てから親が選んだ服しか着てないな」

「あたしはオタクじゃ無いと思うけどほぼこの制服しか着てない」

「かく言う私も自分で服を選ぶようになったのは大統領が引っ越してしまってからですぞ」

「僕が引っ越してから? 僕の引っ越しがどうして服装に関係する?」


 さらりと言われたがどういうことなんだろう。


「さて、なぜでしょうなぁ」


 だが当のフェルナンデスには何故か誤魔化された。

 その表情が纏う謎めいた雰囲気に目が離せなくなってしまう。


「オイ」

「はっ」


 視界を手のひらが素早く横切ってようやく我に返った僕に綺羅子はため息を吐いた。


「お前、一応あたしの許婚として沖縄に来たんだよな」


 不機嫌そうなクリムゾンレッドの視線が僕の両目を貫く。


「他ならぬ君が保留したまんまだけどね。それが?」

「だから……いや、別に何でもねえけど……」


 かと思えば、綺羅子は少し口を尖らせて視線を斜め下方向へ逸らした。

 声もだんだんと小さくなっていき、やけに歯切れが悪い。

 聞き取れる範囲で彼女は何と言ったっけ。

 そうだ、許婚がどうとかって。


「あ、一応結婚を検討はした証拠が要るのか。よし、デートをした証拠として水槽をバックに二人で自撮りでも撮る? お揃いの服を買って、腕とか組んでさ」

「なっ⁉︎」「ば、バカそんなワケねえだろアホかよっ!」

「もちろん冗だあでっ」


 僕の頭頂部にすとんと綺羅子チョップが打ち込まれる。


「訳のわかんねえこと言ってねえでとっとと服選ぶぞ! 一階はあたしらが手を出せそうにない店しかねえから二階からだなっ!」


 そして綺羅子はそのままズンズンと広場横のエスカレーターへ歩き去ってしまった。


「ねえ、フェルナンデス。ギャグとしても流石にデリカシーが無かったかな」

「そりゃもう。あまりの衝撃に私の心臓も止まりかけましたぞ大統領プレジデンテ

「やっぱユーモアは狙ってやるもんじゃないな。君も不快にさせてしまったならごめんね」

「いえ、私は別に。単に突飛だったので驚いただけですぞ」

「なら良かった。君にだけは嫌われたくからね」

「……真顔でそういうこと言うから本気にしちゃうんですよ」

「そういうことって?」

「そ、そこは難聴を発揮するところですぞ大統領プレジデンテ⁉︎ だいたい謝るなら先に綺羅子ちゃんにでしょう! ほら、さっさと追いかけて!」

「そ、それもそうだね。ありがとう」


 僕はすごい剣幕のフェルナンデスに背を押されるようにして綺羅子の後を追う。


「全くもう紗人は……このままでは綺羅子ちゃんが自覚するのも時間の問題なのかもな」

「僕になんか言ってる?」

「マジでその地獄耳やめてもらえます⁉︎」


 別に全部聞こえたワケじゃないが、むしろ君の独り言が大きめなのではないだろうか。

 昔から少し思っていた疑問を口にすると事態が悪化しそうだったので、僕は口を閉じた。

読んでいただきありがとうございます!

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