第三十二話半 白鳥星河の日常
「この化け物! 沖縄から出ていけっ!」
「ちょっと、放しなさい……よっ!」
夜の砂浜。
観光客の姿などどこにも無くなった静寂の海辺に叫び声が響く。
「痛いいいいいいいいい⁉︎ 異能力者が暴力を振いましたよおおおおおお!」
白鳥星河は髪を掴んできた女を突き飛ばした。どさ、と砂浜に転んだ女は大袈裟に痛がる。
「暴力って、あなたが先にわたしの髪を掴んできたんでしょう?」
「いいえ! お前がキモい背中を剥き出しで歩いていることが暴力! 私たちは被害者だ!」
「そうだそうだ! そんなもん見せられたら飯が不味くなるんだよ! 消えろ害虫が‼︎」
女の仲間と思しき周囲の男性が腕まくりをして白鳥に迫り、その肩を殴る。
だが白鳥星河は痛がりもしない。ただため息を吐くだけだ。
「あなたもこの“瞳”をバカにするの? きら星ちゃんとわたしの絆の星を……!」
「な、やる気か⁉︎ 異能力者特別法は珊瑚島内でしか……」
「そうかもね」
白鳥が地面に手をかざすと、周囲の砂が一気に彼女の手のひらへ向けて集約・圧縮され、行き場を失ったエネルギーによって赤熱した超密度のガラス物質へと変貌する。
「じゃあ死んでからあの世で訴えてみたら?」
「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいい‼︎」
「た、タグは読んだ! 撤退よぉ!」
慌てて逃げ出していく男たちと、それを追って転がるように駆けていく女。
その背中に当てないように超密度弾丸を放ち続け、完全に見えなくなったところで白鳥は再びため息をついた。
「ほんと、めんどくさい。あいつがきら星ちゃん達と海に行ったっていうから見に来たのに、何の手がかりもなくなっているだなんて」
白鳥星河が見つめる先には規制線が張られていた。ビーチの奥の方へは入れない状態だ。
「……お腹減ったな」
白鳥は砂浜を離れ、アテもなく彷徨い歩く。
途中ファミレスを見つけ、誘惑に負けて入店を試みるも、彼女の格好と耳のタグを見た店は入店を拒否した。
「ファミレスじゃなくたって、コンビニも贅沢だもの。別にいいわ」
結局たどり着いたコンビニの駐車場で白鳥は塩むすびを頬張った。
「しょっぱくて、美味しい……きら星ちゃんはちゃんと食べれてるのかな」
脳裏に憧れの笑顔が浮かぶ。質素な食事でも、彼女のことを考えれば幾分か美味しくなった。
「服は……結構ボロくなっちゃったな」
それは白鳥にとって重大な問題だった。
勢いのまま珊瑚島から飛び出し、密航同然の方法で沖縄本島に上陸したせいで着替えがないのだ。
一応コインランドリーなどは使えるが、さっき揉み合いになったせいで破けてしまった部分はどうしようもない。
「こんな格好じゃきら星ちゃんに会えないよ……」
「ねえちょっと君」
「っ!」
「ああちょっと⁉︎」
塞ぎ込む白鳥星河に声をかけたのは紺色の制服を着た公務員。
きら星ちゃんと、自称その婚約者の男に会えていない今、補導されるわけにはいかない。
白鳥星河は電灯に重力を“引っ掛けて”飛び上がり、その追跡を逃れた。
「……まだ返事はないし。絶対見つけてやるんだから」
婚約者野郎からは今日一日返事がなかった。充電もかなりギリギリだ。
白鳥星河はスマホの電源を落とし、公園のベンチで眠りにつく。
明日こそ決着をつけてやる。
決意してみれば、意外と心穏やかに眠れる気がした。
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