第三十二話 知らないなら
「やー、ひどい目にあったな。ナチュ、親に怒られてないといいけどな」
「……」
「あいつら法律詳しそうだったな。ヤンキーどもは脅しで追い払えたのに、めんどくせえ」
「……」
「なあおい紗人、お前が黙ってるとあたしまで気まずいじゃんかよ。なんか言えよ」
「……ごめん」
ばし、と綺羅子に肩を叩かれ、僕の口からは謝罪の言葉とため息が漏れた。
僕ら三人はビーチを離脱した後、徒歩で宿へ向かっている。
綺羅子は貰った上着を着ているのでこれ以上のトラブルはなさそうだが、シャワーを浴びていないので砂まみれだし、サンダルも置いてきた。
自転車はレンタルだったのでそれだけが救いだが、惨めな事この上なかった。
「僕は、自分が異能力者に慣れていると思っていたんだ。けど違った。慣れているというよりは思い上がりだった。僕は異能力者が日頃どういう思いで過ごしているのか無神経だったんだ。きっと僕の家族も僕の知らないところでいろんな苦労をしてたんだ。ごめんね綺羅子。君を海に連れ出すべきじゃなかった。もっと真剣にあでっ⁉︎」
ばしっ、と、今度は先ほどよりも強めに肩を叩かれ、僕は言葉を中断せざるを得なかった。
「ったく、めんどくせえことを言うなよ紗人。そうじゃねえ。最終的に海に行くって決めたのはあたしなんだから、お前が気にする事じゃないんだ」
「でも痣の事とか、あんなに大きいなんて知らなかったし……」
「見せてねえし教えてねえから知るわけねえだろ。一応、事前にフェルナンデスには見せてたから相談はしたんだぜ。なあ?」
綺羅子に話を振られ、フェルナンデスは「そうですね……」と頷いた。
「私は共に入浴した際に見ましたからな。思えばラウンドワンで着替えた時は隠していたのですよね。色々気が利かずすみませんでした」
「それも別にいいよ。最初はビビっちまったが、誰かと一緒に入る風呂は楽しかったしな」
「そうなんだ……」
励まされても対して足取りは軽くならない。
僕のせいではないのだとしても、結果的に綺羅子は暴力を振るわれるハメになった。
痣の大きさも、白鳥のことを考えれば推測できたはず。
僕にも何か事前にできることがあったんじゃないかと、悔悟の念が脳内を無限ループする。
「綺羅子、顔の傷は大丈夫なの……?」
「あれくらいじゃ何ともないぜ。ほら、もう治った」
綺羅子が指差す頬にはさっきまであったはずの腫れも内出血もなく、かすり傷さえなかった。
まるでさっきまでの暴力が何もなかったかのようだ。
「……本当に治癒が早いんだね」
「当たり前だ。じゃなきゃ白鳥とケンカする度に死んでるっての」
「でも顔が青ざめてるように見えるけど」
「あ、気づいちまったか」
綺羅子は誤魔化すように少し笑った。
「実はあたしさ、こんなに色んなもん食って過ごしているのは久しぶりなんだ」
「えっ……?」
「お前は見ただろ? あたしの部屋にあったゼリー。あれ全部珊瑚島の技術で作られてる食べ物で、造血作用が高いやつなんだ。ほぼ薬だな」
「造血作用って、君の能力が出血を伴うからか」
「ご名答。まあそもそもあたしが他の異能力者に比べて血を作るのも傷の治りも早いらしいんだけど、それ以上にチカラで消費するスピードが早えからケンカばっかしているとすぐに貧血になっちまう。だから珊瑚島にいる間はあのゼリー以外はほとんど食えねえ。あれ以外を食ってたらケンカした時に死んじまうからな」
「……」
知らなかった。
異能力者と一括りにしている時点で間違いだったのだ。
僕は綺羅子のことを、何も知らない。
「だから楽しいんだ。ここに来てから、あまりチカラを使う必要のない日々が。あのゼリーを食わずに済む飯の時間が。今日はちょっと仕方がなかったけど、いつも食えないコンビニの飯とか色々食べれてさ。ファミチキ食べたのなんか十年ぶりだったんだぜ? 記憶より小さくなってた。あたしがデカくなったからだけじゃねえ、あれは確実にサイズダウンしてるよな」
綺羅子はケラケラと笑った。心の底から愉快そうに。
「タコ焼きそばは残念だったなぁ。でもあのビーチにはしばらく近づけねえし……」
「……それなら、綺羅子ちゃん。晩御飯にタコ焼きそば、作っちゃいませんか?」
黙っている僕の代わりに、フェルナンデスが提案した。
「調べた感じ、本当にただタコライスのライス部分が焼きそばに置き換えられただけみたいですぞ。多少の工夫は必要かも知れませんが、スーパーで買えるものでおそらく再現可能かと」
「おっ、それいいな! 憧れてたんだそういう家でパーティみたいにするやつ!」
「では一旦宿に戻ったらすぐに買いに出ましょう! もちろんタクシーで」
フェルナンデスはふふ、と笑い、僕の顔を覗き込んで言う。
「大統領、今日のことは残念でしたが、人間とは反省して前に進む生き物です。私も猛省中ですが、今日を後悔し続けるより、明日を三人でもっと楽しく過ごせるようにしましょうぞ」
「……そうだね。停滞していてもしょうがないか」
吹っ切れた、とまではいかない。吹っ切れるわけがない。
けれど綺羅子やフェルナンデスの言う通りだ。
知らないなら、今から知るしかない。
「明日どこに行くかも考えなくちゃね」
「ええ! それでこそ我が大統領です!」
「明日なあ。なんかそう言えばどこぞのフードコートにうまいもんがあるってさっき……」
そんなことを話しながら、僕らは裸足で帰路を行く。
曇り空がじわじわと暖めたぬるい風も、僕らの背中を押しているかのようだった。
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