第二十九話 まるでフラミンゴのように
「じゃあナチュ、次は何で勝負する? 力じゃなかったら、足の速さでもいいぜ」
「それだとお前の方が背が高いからおれだと不利じゃん。だからさっき別の勝負を考えた」
「おっ、日焼け止めローションまみれになってる間にか?」
「う、うるさいな。おれが考えたのはバランス勝負だよ」
ナチュは必死に強がりつつ、波打ち際を指差した。
「あの波が来るところで、片足で立つ。先に倒れた方が負け」
「なるほど、時々波が来て足元の砂が流れるんだな。あたしの方が重いから不利そうだ」
「いいだろ別に。綺羅子は大人なんだし」
「綺羅子姉ちゃん、な。まあでもいいぜ。その方が丁度いいいハンデになる」
「おれにハンデを与えたこと、後悔させてやるからな。綺羅子……姉ちゃん」
「うし、じゃあ早速始めようぜ」
綺羅子はナチュの啖呵に満足げに頷き、ナチュを連れて波打ち際へと歩き出した。
「大統領、せっかくなので私たちも参加しますぞ」
そしてパラソル下のブルーシートへ引っ込もうとした僕の手をフェルナンデスが掴んだ。
「え、僕らもやるの? あの二人の勝負でしょ?」
「パラソルで休憩ばかりしていては勿体無いではありませんか。それに……」
「それに?」
「私や大統領が先に負けてあげれば、ナチュ君の面目も保たれると言うものです」
「なるほどね。まあ、せっかく綺羅子と遊んでくれてるし、一肌脱いでやりますか……」
「それでこそ我が大統領! 八百長に見えない綺麗な負けっぷりを期待していますぞ」
僕が渋々頷くと、フェルナンデスは満面の笑みを浮かべた。
負ける事が望まれているのが少々気に障らなくもないが、まあ、僕も大人だ。
「ある程度粘ったら、ナチュ君のために盛大にずっこけてやりますか」
などと意気込んだ約五分後、僕は誰よりも先に砂浜に倒れ伏し、未だ立っている三人の横で膝を抱えて見学モードへと移行していた。
「なんかこのパターン多くないか?」
「だっせ! フェルナンデス姉ちゃんの方が不利なのに頑張ってるよ!」
「ナチュくん、そのように買い被られると私は……おおわっ⁉︎」
僕が脱落してからおよそ一分、波に足元を掬われたフェルナンデスが大きな水飛沫をあげて転倒し、まるで予定調和のように綺羅子とナチュの一騎打ちとなった。
「たはは、我々は策を弄するまでもありませんでしたな大統領」
「全くだよもう」
「お前ら根性ねーなぁ! あたしはあと三時間でも立っていられるぜ?」
「おれだって、そのくらい……!」
やってみれば分かるが、片足で立ち続けるのは波打ち際でなくとも結構きつい。
そう言う意味で足場の不安定な砂浜で十分弱も立っている二人は体重などを考慮してもかなりすごいのだが、中でも綺羅子は見ていて異常なほどだった。
「お、でかい波が来るぜ! ナチュは耐えられるかなぁ?」
「余裕だよっ……くっ、わわっ⁉︎」
綺羅子の声から間もなく、足首よりかなり上の方まで浸かるほどの高さの波が寄せた。
座っている僕らですら少し動かされるほどの強い波が二人の足元から砂を一気に持っていく。
ナチュはぐらついたが、なんとか途中で姿勢を立て直した。
一方の綺羅子はというと……全く、本当に少しも姿勢がぐらつかないのだ。
「お、耐えたな。やるじゃん」
綺羅子は余裕の態度だ。
まるでフラミンゴのように、涼しい顔で腕を組んで立っている。
「綺羅子、君ってとんでもないバランス感覚してるね……」
「今更か。お前は一回あたしのバランス感覚は見てるだろ? ほら、バイクの時にさ」
「バイクの時……?」
バイクと言うと、二日目の白鳥とのチェイスの時か。
綺羅子のバランス感覚ってどこで見たんだっけ……と、記憶を辿ると案外すぐに出てきた。
「あーっ! 確かに君は走るバイクのハンドルの上に立ってたよね⁉︎」
あまりに自然な流れだったのですっかり流してしまっていたが、そうだ。
あのチェイス中で最も異常だった出来事のひとつがそれだ。
あの時は結構蛇行運転をしていた気がするけど、その状態で綺羅子は後ろを向いてしかも剣やら銃やらを使っていた。
「そうそう! あれ結構すごいだろ」
「結構っていうかもう曲芸の域すら超越しているよあれは」
「え、綺羅子ちゃんってそんなヤバいこともできるんですか?」
「だからこの片足立ちも負ける気はしねえし、その気になれば綱渡りとかもできるぞ」
「ちょ、聞いてないよそんなの⁉︎ 後でおれにも見せ……うわっ!」
「おっと!」
綺羅子の話を聞いて動揺したナチュがとうとうバランスを崩し転倒する。
だが彼は海水に落下する前に片足立ちのままの綺羅子に素早く抱きかかえられた。
僕らの勝負の見物にいつの間にか集まっていたらしい周囲のギャラリーからも、おお〜とどよめきが聞こえた。
「へへん、あたしの勝ちでいいな!」
「くそ……」
話を聞いた後となっては当然だが、腕相撲に続き片足立ち勝負も綺羅子の勝利となった。
異能力者の身体能力をまざまざと見せつけられた結果だ。
「大人げないぞ綺羅子」
「まあ正直あたしもやり過ぎたと思ってるよ。後で綱渡り見せてやるから許してくれな?」
「……うん!」
「よしよし、ナイスガッツだ。かっこいいぞ」
「えぁっ……」
涙を堪えて立ち上がったナチュは綺羅子に撫でられて硬直してしまった。
きっと幼い心に色んな感情が押し寄せているのだろう。
彼のためにも、ちょっと休憩したほうが良さそうだ。
「よし、休憩がてら何か食べる物を買ってくるから、みんなは遊んでて」
「待て紗人。お前が行くならあたしも行く。護衛だし」
僕が提案すると、綺羅子は食い気味の積極性を見せてきた。
「いや一人でいいよ。綺羅子は責任を取ってナチュと遊んでないと」
「責任? よくわかんねえけど、お前一人で行かせたらほら、またあの不良どもみたいなのに絡まれるかもしれないじゃん。ラウンドワンの時みたいに」
「アレはどちらかというと君らが……そうか」
僕は言ってる途中で、やけに食い下がる綺羅子の意図に気がついた。
「タコライスならぬタコ焼きそば、だったね」
「やっぱ忘れてたんじゃねえか。この辺に売ってんだろ、早く買いに行こうぜ!」
「というわけだフェルナンデス。僕と綺羅子でなんか買ってくるけど希望とかある?」
「私は別に。タコ焼きそば、楽しみにしていますぞ」
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