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第二十七話 子供の扱い

 そいつは突然現れた。

 だが心配しないでほしい。白鳥星河のことじゃない。


 あの後砂の山から解放された僕は一度海に入って身体中の砂を落とし、軽くビーチボールのトス回しで女子二人と遊んだ後、喉の乾きを感じた。そこで二人の分まで飲み物を取ってくると約束してパラソルまで戻り、用意していたクーラーボックスから三人分のスポドリを取り出したところで……遭遇したのだ。


「おまえ、女子に負けただろ。だっせーな」


 小学生くらいの、めちゃくちゃ無礼な知らない男の子に。


 髪を短く刈った黒髪、そしてヤンチャっぷりを体現した浅黒い日焼け肌。

 本当に普通の、沖縄県でよく見かけるタイプだ。


「いきなりなんだい少年。初対面の人間に喧嘩腰とは感心しないな」

「おまえこそ少年って言うな。チンコに旗立てられてたくせに。あとムキムキだった」

「あれはかなり恥ずかしかったな。まあ全部僕が悪いんだけど……少年は女子のことをちゃんとリスペクトして、いきなり身体とか触っちゃダメだぞ。死刑になるからね」

「し、死刑になるの……? 嘘つくなよ。おまえ死んでないじゃん」


 少年は僕を睨みつけたが、その顔には動揺が滲んでいる。

 ちょっと押せば色々信じそうだ。無礼の礼にからかってやろうかな。


「本当だよ。僕は運良くあのお姉ちゃんたちに許してもらったけど、本当は警察が来て銃で撃ち殺されるところだったんだ。埋められるだけで済んで良かったよ」

「そうなんだ……本当に……」

「君も撃ち殺されたくなかったらいきなり女子に触ったらダメだぞ。許可なく頭を撫でるとか髪とか胸を触るとか、そういうことするとすぐ警察が来るからな」

「おいコラ紗人、お前人んちのガキに何吹き込んでんだ」

「あいてっ」


 べし、と背中に軽くグーが飛んできた。

 振り向くと拳を突き出して呆れ顔の綺羅子と、不思議な生物を見るかのように子供をじろじろ見ているフェルナンデスが立っていた。


「なんかおせーからまた面倒な連中に絡まれてんのかと思ったら……」

「ごめんごめん。はいこれ、綺羅子のスポドリ」

「ん、さんきゅ」

「フェルナンデスの分も」

「ありがとうございます大統領プレジデンテ……えーっと」


 綺羅子がスポドリを飲む横で、フェルナンデスは少年の前にしゃがみ込んだ。

 “小さい子と話す時は目線を合わせる”という基本に忠実、だが元々が二メートルもあるせいで少年は「うおっ」とおののいていた。

 その反応にフェルナンデスは苦笑していたが、まあ仕方なかろうよ。


「ねえボク、お名前は? お父さんかお母さんか、誰と一緒に来ているのかな?」

「ボクって言うな、なちゅらるって名前がある」

「ナチュラル……なんて字を書くの?」


 聞き返すフェルナンデスにこくり、と頷くと、少年は指で砂の上に“志然”と文字を書いた。


「これ。おれの名前」


 マジかよ。現代っ子の名前は結構常識を超えてくるとは聞いていたがここまでとは。

 いやでも、まだ読みから推察できるだけマシではあるのか……?


「へえ〜、素敵な名前だねぇ」


 一方、フェルナンデスは自身が名前で苦労してきた当事者だからか表情を一切崩さない。

 些細な動揺でも本人には伝わってしまうのを知っているのだ。わかっていても真似できない。


「それで、ナチュラルくんの保護者さんはどこかな? きっと心配しているよ?」

「母さんは他の人とずっと話してる。おれのことはどうでもいいんだよ」

「そんなことないと思うけど……」


 ちら、とフェルナンデスがこちらを見た。確かにこれは扱いに困るパターンだ。

 誰が保護者か分からない以上元の場所へ連れてもいけないし、迷子として案内するのも大変そうだ。


「……綺羅子、この子どうしたらいいと思う?」

「どうするって、親が構ってくれなくてヒマなんだろ、じゃあ遊んでやりゃいいじゃねえか」

「いや他人の子供の面倒を見るってなると安全とか……」

「そういうのは気をつけてりゃいいんだよ。だいたい、元々の親が放っておいてるならあたしらが安全がどうのこうのと言われる筋合いはないっての」

「た、確かにそうかもしれないけど」

「ナチュラル……ナチュでいいか、長いし。おいナチュ! ヒマならあたしらと遊ぶか?」


 僕が適切な反論を思いつく前に、綺羅子はフェルナンデスと肩を並べてしゃがみ込んだ。

 こう見ると小さい子が不良に絡まれているような危ない絵面だ。


「女子と遊んだらバカにされるからいやだ。あとおまえ、ピアスつけてたらいけないんだぞ。不良になるって母さんが言ってた」


 少年……もといナチュが喧嘩腰なのは相変わらずだ。

 しかも彼がピアスと指差しているのは異能力者に着用が義務付けられているタグで、仮に綺羅子が外したいと思っても外せない。無理に外してしまえば最悪逮捕されるらしい。

 しかし彼女はむしろニヤリと笑って、


「おうおう言ってくれるじゃねえか。あたしのコレはいいんだよ、大人だから」

「大人とか関係ないし。母さんはピアスとか整形とか、身体に傷をつけるものは全部ダメだって言ってたし。野菜も“ゆうき”の野菜を選んで買わないとダメだって言ってるよ」

「めっちゃ厳しいじゃんお前の母さん……」

「うん。ちょっとヘンなんだよ」


 それを子供に言われたらおしまいだろ、と心中突っ込まずにはいられない。

 どうやらナチュの母親は今どきかなり厳しい教育方針のようだ。

 ナチュの名前といい、思想が強いというか。

 母親のことを思い出したからか、ナチュは少しだけしょょんぼりしたオーラを漂わせ始めた。


「じゃあナチュ、そんなに気に食わないならあたしと勝負しようぜ。もしお前が勝ったらこれ外してやるよ。まあ負けるわけねーけど」

「わかった。いいよ、勝負しよう」


 それに気づいているのかいないのか、綺羅子は構わずにナチュを挑発した。

 ナチュも一瞬で乗っかってしまう。何だかんだ、綺羅子は子供の扱いが上手いらしい。

読んでいただきありがとうございます!

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