第二十二話 肌の露出度が全て
「それで、明日はどうします?」
「どうするって、あたしは紗人が行くとこについて行くだけだけど?」
「せっかく招いたのです。“らしい”場所に遊びに行くのはどうかと思いましてな」
入浴後、僕らは寝巻き代わりのTシャツ姿でちゃぶ台を囲み、コンビニで揃えたジャンキーな夕食を摂っていた。
三人均等に間隔をあけて席についているが、気のせいか綺羅子とフェルナンデスの距離が近かった。
あるいは、僕とフェルナンデスの距離が遠かった。
「らしい場所ねぇ。沖縄県と言えば、海か」
「海! さすが大統領、一手目で最良の答えを導き出しましたな。私といたしましてもこの際水着を晒すことにはもはや何の抵抗もございません。常夏のビーチで観光客に紛れ、日焼けと塩味の南国を存分に体感しようではありませんか!」
「僕が言い出しておいて何だけど異常に乗り気だね……?」
「ええ! この数年で私がいったいどれほどのものを得たのか、とくとご覧に入れますぞ!」
「海、海なぁ〜……」
そして半ばヤケクソのようなテンションのフェルナンデスと違い、綺羅子はおにぎりをもぐもぐと頬張りながら浮かない顔をした。
「なあ、海に行ったらやっぱり泳ぐんだよな?」
「そりゃ最低限海水には浸かるんじゃないかな。あ、待てよ。僕らには水着がないのか」
「そういう逃げ道……ごほん、懸念事項はすでに解決済み、大統領用の水着はこちらで用意してあります。あとで試着いたしましょう、きっとピッタリですぞ」
「東京を出る時にやたら背丈を聞いてきたのはそれだったのか……」
何と用意周到な。フェルナンデスの気配りにはいつも舌を巻いてしまう。
「もちろん綺羅子ちゃんの分も考えてあります。私がかつて着用していた物をお貸ししましょう。あるいは柄は無難なものになってしまうでしょうが、明日までに用意させることも……」
「いや、水着はありがたいんだけど、うーん……」
綺羅子はまだ何かを渋っている。海にあまり興味がないのだろうか。
いや、本来の予定であれば僕が沖縄に来た翌日に海を見に行っているはず。興味が全くないというわけではないか。
その差分は海を見に行くだけか、実際に入るか。
(泳ぎが苦手なのか? だとすると他に興味を引く物……あ、そうだ)
せっかくフェルナンデスも乗り気なので、懸念が解消できるならこのまま決めてしまいたい。
僕はスマホを操作して、先ほどテレビで見た単語を検索してちゃぶ台に置いた。
「そういえばさっきこういうのをテレビで見たんだ。タコライスならぬタコ焼きそば」
「何だよ別にあたしは……タコライスならぬタコ焼きそば⁉︎」
話の始まり方からは考えられないほど一瞬で食いついたな。
というかいま彼女が手に持っているのがまさにタコライスおにぎりという未知の食べ物なのだが、それが焼きそばに変わるだけなのにそこまで興味を惹かれるのか?
「ここのビーチで販売しているらしいんだ。フェルナンデス、ここは遠かったりする?」
「いえ、那覇市内なのでむしろ近いですね。綺羅子ちゃんがよければここにしましょうか?」
「ぐぬぬ、だけど、しかし」
「いったい何に悩んでいるんだ君は」
綺羅子は歯を食いしばって思い悩んでいる。
おそらく行きたくないというより、行きたいが行けない事情があるタイプの葛藤。
「……なあ女の水着ってさ、普通上下に分かれてるやつだよな?」
その末に、彼女は絞り出すように問いを発した。
「普通の感覚はよく知らないけど……まあ、女性の水着と聞いて思い浮かべるのはビキニとかああいう分かれてるやつなんじゃないの?」
「スクール水着は?」
「それが真っ先に出てくるやつは変態だから近寄らないほうがいい」
「だよなぁ……」
綺羅子はより深いため息を吐き、よりどんよりとしたオーラを纏った。
なるほど、僕は何と愚かなのだろう。
綺羅子は今まで散々肌の露出度が全てという態度をとり続けていたじゃないか。
要するに彼女は露出面積の大きい水着姿になるのが恥ずかしいのだ。
「綺羅子ちゃん、その件に関しては心配はご無用、対策は考えていますぞ。スクール水着を着ずとも、Tシャツのまま海に入ればいいのです」
同じことを察知したらしいフェルナンデスが助け舟を出す。
「正確には下には普通に水着を着用した状態で、Tシャツだけ上から着る、という形ですが」
「僕が無知なら申し訳ないんだけど、それってアリなのか? 目的は果たせるにしても結構浮いちゃわないかい。ああいや、水に、ではなく周囲の雰囲気的に」
「心配は無用ですぞ大統領。ここ沖縄県では強い日差しの下、大はしゃぎで肌を晒して海水浴に興じている方のは観光客。地元民は日焼け対策も兼ねて服のまま海に入るのです。いわば沖縄県の伝統的形式、由緒正しき南国紫外線サバイバル術!」
「早くても戦後に生まれた伝統に由緒正しいとかないでしょ」
「ちなみに最終的にはビーチに設置された屋根付きのバーベキュースペースから一歩も動かずに少年少女がはしゃぐのを遠巻きに眺める保護者式海水浴へと進化しますぞ」
「それ海水浴の定義が怪しくなってないか?」
「綺羅子ちゃん的にはいかがですかな」
フェルナンデスの問いかけに綺羅子は少し唸って、
「正直長年沖縄に暮らしててその伝統的なやり方ってのは初耳なんだけど……」
(これさてはツウぶりすぎて普通に異常行動になってるやつだろ)
僕は喉まで出かかったツッコミを呑み込んだ。
「でも確かにそれなら、大丈夫だと思う。というかあたしも海、行きたいし」
「……それはよかった。では用意しておきましょう」
二人の応答にやや意味深な間があった気がしたが、とりあえずこれで明日の行動は決まりだ。
「ごめんねフェルナンデス。宿も水着もお世話になっちゃって」
「大統領の喜びは私の喜び。むしろ喜んでやらせていただいているのです、お気になさらず。綺羅子ちゃんも、明日は全力で楽しみましょうぞ」
「……おう!」
笑い合う二人。最初はどうなることかと思ったが、今日一日で二人は本当に仲良くなった。
「さ、食事も済みましたし明日に備えて寝る準備をしましょうか。お二人とも、布団の敷き方を指南いたしますぞ。川の字で就寝して更なる絆を深めるのです」
「おっけー。ゴミはどうする? あたしが貰った袋にまとめとけばいいか?」
「もちろんです。では大統領、先にあなたの布団から敷き始めてしまいましょうか」
「了解」
スムーズな役割分担と進行、フェルナンデスはやはり細かいところに気が回る。
というか、彼女もここに泊まる流れになっているが帰らなくてもいいのだろうか。
そういえば当初から彼女は“僕の宿を用意した”と言っていて、そこに誰が宿泊する想定なのかは言及していない。
綺羅子を泊めても大丈夫かを聞いた時に(やや悩んでいた気もするが)すんなり了承したのも、そもそも複数組の宿泊道具が手配されていたためであろう。
(待てよ、じゃあもし僕が綺羅子を連れてきていなかったら、この宿は僕とフェルナンデスで二人きりだったのか……?)
なんかそれはちょっと、妙なことを勘ぐりたくなるが。
「……考えすぎ。考えても仕方ないし」
「大統領、どうかしましたか?」
「いやえっと、君は気が利くなと思ってさ」
「そうでしょうとも!」
フェルナンデスは幼い頃と変わらない柔らかな表情でにへ、と笑った。
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