第二十一話 インターネット狂戦士
通知は全てダイレクトメッセージ。
中身を確認する前に、僕はまず自分の名前をトレンド検索欄に打ち込んだ。
常盤台紗人、ヒット数はゼロ件。
「ひ、ひとまず僕は特定されていないのかな……?」
このアカウントは実名じゃない。
実名でやらなきゃいけない方とか写真を投稿しなくちゃいけない方とかのSNSはやっていないので、ここが無事なら多分大丈夫だ。まずは一安心。
「一応、検索しとくか……」
留流綺羅子で検索すると数件ヒットした。
でも中身はまだ憶測の域を出ておらず、しかも被害者側として擁護する意見の方が多い。
ひとまず僕と綺羅子に関しては炎上していなさそう。
そして検索するまでもなく分かったことだが、炎上しているのは主に白鳥星河の方だった。
「ひでえな……」
能力が特徴的だからか、追っている方が白鳥星河であるとは既に特定されていた。
彼女を強く非難する言葉もそうだが、誹謗中傷どころか殺害予告のようなものも結構ある。
仮に実際に本人と相対した場合に殺されるのはどちらかといえば誹謗中傷をした方なんじゃないかとは思うが、それにしたって酷すぎる。見るに耐えないとはこのことだ。
「インターネットは今日も最悪ですってね。全く笑えないけど」
僕は被害者側で、擁護されている立場だ。
だというのに、加害者の白鳥星河に対するネットの連中の態度が気に食わないのはなぜなんだろう。
胸がスッとしてもいい気もするんだけど。
「で、じゃあこのダイメは一体……」
気持ちの整理はついていないが、とりあえず安心した僕は流れで後回しにしていたダイレクトメッセージを開いた。
「うわきもっ」
そして抱いた感情を、思わず声に出してしまった。
相手のアカウント名、白鳥星河。
「え、これ本人か? 僕のアカウントを特定したってこと?」
先ほど確認したように、僕はちょっと検索したくらいで特定されるような投稿はしていない。
かといって、いわゆる“本物”のネットストーカーを回避できるほど徹底した個人情報管理をしているわけではないので、こいつが本当に白鳥なら彼女がその“本物”ということになる。
で、十件のメッセージの内容を意訳すると、
「ようやく見つけた。珊瑚島から逃げ出したようだけどわたしは絶対に引き下がらないからね。わたしはまだきら星ちゃんのこと諦めてないから。許婚だかなんだか知らないけど、あなたみたいな無能力者に綺羅子ちゃんの何が分かるの? 悔しかったら返信してみろ」
という感じだ。
間違いなく本人だ。頭痛がしてきた。
「いや実名でネットに繰り出してたらそりゃ特定もされるって……」
呆れつつも、僕は白鳥のこれまでの言動を見てみた。
一言で言えばインターネット狂戦士。
実名アカウントなうえ、特定されることを全く恐れずに様々なアカウントと矛を交えている。
さっきの一連の検索に引っ掛からなかったのは、発言がアレすぎてサーチバンされているからっぽい。本人によるその旨の投稿がある。
「自分のは垂れ流すが相手の個人情報特定は得意。一番相手にしたくないやつじゃん」
とはいえ放っておくわけにもいかない。
白鳥は今のところ僕や綺羅子の名前を含む投稿はしていない。
彼女なりの分別のつもりなのだろうが、あくまで今のところ、だ。
つまり、白鳥星河を放っておいたら僕の気を引くために僕らの名前を出すかもしれない。
彼女が返答を求めている以上は、素直に返答しておいた方がいいだろう。
「結論から言えば、僕は綺羅子のことをよく知らない。まだ出会って三日だからね。けど、僕は異能力者の家庭で育った。その辺の人間よりは異能力者に対する理解があるつもりだよ、多分ね。まあ、綺羅子と行動していると驚かされることも多いけど」
送信ボタンをタップ。
ひとまずしばらくはこれでいいか、と思っていた矢先にペポッと通知音が鳴った。
返信早すぎだろ、十秒も経ってないぞ今。
「とんだ思い上がりね。異能力者の家族がいたところで、あなたが理解しているのはその家族のことだけ。他の異能力者ときら星ちゃんの区別もついていないあなたがきら星ちゃんを理解できるはずがないわ。まあちゃんと返信してきたその勇気だけは褒めてあげてもいいけど」
そしてメッセージを打ち込むのも早い、お手本のようなSNS廃人だ。
彼女の文面が放つ威圧感に負けないよう、僕もなるべく素早い返信を試みる。
「君はまだ綺羅子に執着しているのか。君からの愛情表現? が暴力的だったことを差し置いても、バイクで撥ねられた怒りとかはないのかよ」
「きら星ちゃんはわたしに血でできた大きな愛をぶつけてくれたのよ。あれは今まで受け取った愛のどれよりも重たかったわ。わたしたちの関係が順調に進展している証なの。あなたのように雨上がりの水たまりより思慮の浅い人間には理解できないでしょうけど!」
「だいぶ重症だね。君が撥ねられた時に哀れに思った僕がバカみたいじゃないか」
「どういう意味」
ん、いきなり短い返信だ。ここまで長文しか飛んできていなかったから意表を突かれた。
「そのままだよ。トゲトゲのタイヤで撥ね飛ばされた君に同情しちゃったんだ、滑稽にも」
「うるさい。覚悟しとけ、そっちにきら星ちゃんを取り戻しに行くから」
「え?」
最後の返信は送信と同時にリアルで声が出た。
白鳥からの既読はない。
これ以上向こうから何も言ってこないとなると、文字通りに受け取るしかない。
「じゃあ僕らは白鳥に追跡されているってことか……?」
そもそも白鳥が警察に拘束されていないことも驚きだが、外出許可まで出たというのだろうか。
なんにせよ遭遇すればトラブルは避けられない。
かといって気にしてもどうしようもない。
いたずらにインターネットを見た結果、不安の種を植え付けられただけだ。
「……一旦忘れよう」
テレビに目をやれば、ニュース番組はとっくに別のトピックへと移っていた。
地元のビーチに新たにできた海の家の特集で、タコライスならぬタコ焼きそばが大人気だとか。
「こういうニュースだけ見ていたいよな、本当に」
「紗人〜? 風呂空いたぞ」
「ちょっ、ちょっと綺羅子ちゃん! せめて服くらいは着てもらわないと困りますぞっ」
僕が声のした方を向くのと、襖がスタァン! と勢いよく開かれるのは同時だった。
ああ、分かっている。二度目だって言いたいんだろう?
でも今回が前回と違うのは、相変わらずバスタオル一枚あれば裸体を隠すのに事足りると考えている綺羅子に加えて、彼女を引き止めようとして全身から水を滴らせながら追ってきた勇敢なる小橋川・F・アンヘラが居る点だ。
綺羅子と同じくバスタオルで身体を隠そうとしているが、綺羅子と違って高身長で色々大きい彼女の場合は布面積が全く足りていない。
フェルナンデスのFは……つい一時間ほど前に彼女が披露したエロギャグが、視覚情報を処理している真っ最中の脳へ重要情報として思い出された。
「よ、よしっ。じゃあ急いで入ってくるよ君らは早くドライヤーを済ませておくんだねっ」
「待って下さいとりあえず見えたのか見えてないのかを、大統領っ!」
僕はフェルナンデスが伸ばした手の下をすり抜けて風呂の方へと向かった。
正確な場所は知らないが、彼女たちが垂らしてきた水跡を見ればわかるだろう。
そして僕は人生で初めて、小柄な自分を誇らしく思った。
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