第三部 四話 事後のけだるい中で
※ちょっとだけ性描写あります。ご注意ください。
その日のユリウスはいつもより余裕がなかったように思う。そんなことを快楽を極めた後のけだるい余韻の中でぼんやり考えていると、
「セシリア、大丈夫かい? あなたの体に傷つけるようなことはしていないつもりだけれど…」
どこか切なげな面持ちで問いかけた。私は胸の奥底で感じた疑問を隠しておけなくて、ユリウスの頬にそっと触れながら、
「苦しいのは、あなたの方ではありませんか?」
と問いかけていた。ユリウスは美しい紫色の目を丸くして驚きをあらわにしたかと思うと、そっと私の手を握りしめつつ、
「あなたに言えなかったことがあるんだ。俺とアルトゥールは、実の両親の愛情を全く受けずに育っているんだ」
と穏やかに微笑みながら語ってくれた。
実の両親… 当代皇帝陛下と皇后陛下は子供でしかないユリウスとアルトゥール殿下を全く愛さず、侮蔑さえ示すありさまで、代わりにアロイス様とウィルヘルム様の両親達が実子と分け隔てなく愛情を注いでくれたと。
だが、どうしたって身分が違いすぎる。完璧に実子と同じくというわけにはいかない。その寂しさを抱えたまま育ち、今でもどこかで親であることを求めてしまいたくなると笑ってくれた。
しかも、愛さなかった理由が幼いうちから美貌と才覚を示したからだと。そんなことがありえるなんて思わなくて…
「あなたは両親の愛を受け、民からも愛されている。この帝国でも民の為に人質同然で嫁いできた勇敢な姫君だと支持率も高い… どこでも愛されるあなたが、俺は羨ましくてならなかったんだよ」
そう語りながら優しく笑ってくれるユリウスに涙が滲む。
「そんな… あなたこそ民に寄り添ってくれる皇太子だと民に愛されているのに…!」
どう言っても憐憫にしかならなくて上手く言葉にならない。
ユリウスもアルトゥール殿下も望んで美しく才覚に恵まれて生まれたわけじゃない。両親を選んで産まれてくることなんてできない。だからこそ、無償で愛されて当たり前だったのに…
自由奔放で幼い頃から帝国の為に身を尽くしてきたユリウス。だからこそ、どうして私を奪うなんてことをしたのかが不思議でならなかった。どうして、正式に愛を打ち明けて、婚約の席を設けるという方法を取らなかったのか?
その方が穏便に事を運ぶこともできそうなものなのに、どうして人質として奪うなんてことをしたのか?
「ずっと不思議でした。どうしてあなたは私を奪ったのか? 人質でなくても、10年前に出会っていたのなら他に方法もあったはずなのに… と」
「そうだろうね。だけれど、俺は失敗したくなかった。軍を動かすと決めた時、皇帝は病弱でいつ死の床に伏してもおかしくなかった。…皇帝になった暁には各国から妻をと数多の姫君を押し付けられるかもしれない。あなた以外の女など、俺には考えられなかったんだよ」
「だから、民の安全と交換で人質に奪ったと…?」
私の言葉に小さく頷いて、そっと髪を梳き、毛先に口付けを落とした。慈しむような愛しむような仕草で、どんな意味を込めているのだろうと考えもしなかったけれど、まさか愛し方を知らなかっただなんて…
「愛とは何なのか分からなかった。アロイスとウィルヘルムが向けてくれる信頼も愛の形なんだと知ったのはつい最近だよ。あなたが教えてくれた。アルトゥールの向けてくれる明るさも優しさも、愛情がそうさせるんだって分かった。…俺の欲がどうしてあなたにしか向かないのかもね」
どうしたらいいのか分からなくて、私は起き上がってユリウスを抱き締めた。この孤独な人を抱き締めることで少しでも癒しになればいいと願って。
「愛を知らなかったからこそ、俺はあなたを奪って独り占めしてしまう。それなのに、子を孕むかもしれないと思うと恐ろしいとも思ってしまう」
「あなたなら大丈夫ですから… あなたはいつも私に優しくしてくれた。人質として差し出された日に褥に呼んでもおかしくなかったのに、一度もそうしなかった。そんな繊細な気遣いのできるあなただから、大丈夫ですよ」
ユリウスを抱きしめたままで告げると、なにを思っているんだろう。ユリウスは私を強く抱き締めて、
「俺は、他の誰より俺を信じられないでいるんだよ」
となにかを堪えるような声で言って奥歯をギリッと噛み締めた。私はそんなユリウスとそっと額を重ね合わせると、頬を両手でそっと包み込み、
「確かにあなたは実の両親から愛されなかったけれど、大丈夫です。あなたが一人で何もかも背負うことはありません。私はそのためにあなたの妻となったのですから」
と涙が頬を伝うのも構わずに告げる。ユリウスがどんな表情をしているのかは分からなかったけれど、私は構わずに言葉を続ける。
「あなたは罪に苦しむことを知っている。愛した人の自由を奪ってしまったと悔いている。だから、大丈夫ですよ。それにこの腹に宿るのは私達の分身ではありません。全く新しい子です。あなたと私の血を受け継ぐ愛しい子ですよ」
「セシリア… 俺は完璧な父となれる自信がないんだ」
「それは私とて同じです。だからこそ、頼るのですよ。アロイス様とウィルヘルム様のご両親が助けになってくれます。私にはお母様とお父様がいます。皆さん、きっと喜んで助けになってくれますから。頼るのも愛情と信頼です」
私の言葉はどれだけ響いただろう。ユリウスはもう一度私をソファに押し倒し、奪うように唇を重ねてきた。私はただ抱き返し、言葉にならない思いを受け止めるだけで手いっぱいだった。
お待たせいたしました( ^^) _旦~~ 事後なのでちょっと色っぽい雰囲気になりました。ユリウス(-ω-;)ごめんよ。セシリアちゃんに大事にしてもらってね。次でエピローグになる予定です。最後までお付き合いくだされば幸いです。




