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第三部 一話 ユリウスの孤独な過去

その知らせを聞いた時、胸の奥底が複雑な感情でざわつくのを抑えきれなかった。


「ユリウス、セシリア殿下につけた女官から報告だ。ヴェスペル侯爵夫妻と謁見しているとのことだ。…よかったのか?」


俺の肩にそっと手を置いて気遣ってくれるのが嬉しかった。当たり前だけれど、ヴェスペル侯爵夫妻と俺の両親との違いを知ってしまうのが怖くて、いまだに彼女の両親とは会えていない。


セシリアは愛されて育った。けれど、俺は……


「別に… セシリアは今日の仕事を無事に終わらせているし、両親と会うことまでどうこう言わないよ。あの方々も帝国に反旗を翻したりしないさ」


本音を飲み込んで書類に目を落としたままで答えた。兄弟のように育ったアロイスが相手でも言えない本音があるのが悲しい。


「まあ、そうだな。では茶会の時間を遅らせるか」


アロイスの言葉に小さく頷いて、俺は書類にサインをする。仕事に集中しなければいけないのに、無駄に作りの良い脳は勝手に思い出したくないことを引きずり出していく……


『我はお前を子に持ったことを、悔いはしても喜ぶなどしない。お前達はただ我の後継ぎとして儲けただけだ』


病弱でひどくやせ細った体を幾重にも着込んだ豪奢な服で隠し、片腕に王冠を抱え… 俺とまだ幼さの残っているアルトゥールを見下した眼差しはひどく冷たかった。


傍に控えていた母親などは退屈そうに欠伸をする始末で、俺達へ目をくれることもなくて。


この二人から愛情など欠片も望めないと気づかされた瞬間だった。

 

『皇帝陛下、皇后陛下! その言い草はあんまりではありませんか!? 例え共に暮らしたこともないとはいえ、血のつながった親子なのですよ!』


俺の後ろに控えていたアロイスの父親が口を挟んでくれるのが嬉しかった。…たとえ惨めにさせてしまうとしても、その優しさが。


『親子だなんて… 虫唾が走るというものだわ。馬車の時間が迫っておりますので私はこれで失礼します。帝国の南側へバカンスに行こうと思いましてね』


『皇后陛下!! あなたのお子様なのですよ!? そのなさりようはあんまりというものです! 御身を痛めてまでお産みなさったお子様が愛しくないのですか!?』


『私は母になった覚えはありません。ただ奪われただけ… 子を産んだら好きにしていいというから好きにしているだけなんだもの』


家族が揃ったのはそれが最初で最後だった。…俺の成人の儀の為にと、アロイスの両親が無理にでも謁見を願ってくれたことで叶った初めての家族の時間だった。


成人の儀でサークレットを授けられたのが最後で。正直、俺の婚姻さえどうでもよくて、出席もしないと思っていた。彼らなりに皇族としての建前を守っただけだろうと分かっていたけれど、喜んでしまいそうになる。


もしかしたら…? もしかしたら、ほんの一滴でも愛情があったのではないか?と。


けれど、現実はそう簡単に変わらない。宴の席には現れなかったし、婚儀を見届け、俺に皇帝の座を譲ると宣言したらさっさと出て行ってしまった。これが事実であり、答えだ。


彼らは何一つとして変わっていない。…立場や予定があるだけで、アロイスやウィルヘルムの両親が注いでくれたような哀れみ混じりの愛情などないのだ。


哀れみが混じっていても兄弟姉妹と同じく愛してくれるのは心からの安堵と喜びをくれて、皮肉なことにアロイスやウィルヘルムの地位を盤石にすることにもなっていて… それでも、俺とアルトゥールは……


「…ユリウス… ユリウス! しっかりしないか!」


アロイスの心配そうな声で我に返ると、書類にサインをする手が止まっていたことに気づく。アロイスは俺の執務机に積まれていた書類を取り上げると、


「セシリア殿下に欠けた点があるとしたら、愛されぬ悲しみを知らないことだ。それではお前の孤独を分かち合うこともできない」


深い悲しみを隠し切れない様子で告げた。俺はそんなアロイスを見上げて、


「両親だけじゃなく民からもセシリアは愛されている。それは素晴らしいことであって、悪いことじゃないよ」


とありったけのプライドと強がりで笑ってみせた。俺の言葉に何を思ったのだろう。アロイスは俺をまっすぐに見下ろして短く溜息をついたかと思うと、


「俺の両親は不敬だと言いつつ、お前とアルトゥールのことを気にしている。たまには呼び出してやってくれ」


女官に命じてドアを開けさせ、茶会へ向かうように促しつつ言った。…その不器用な優しさは主と忠臣を超えたもので、心からの喜びをくれるものだった。


「あぁ、近いうちにそうさせてもらうよ。あの素朴なパイやクッキーが恋しくなってきた所だからね」


そう返しながら椅子から立ち上がり、セシリアとの茶会へ向かった。彼女の両親と鉢合わせしてしまうのを覚悟した上で。いつかは会わなければならないのだからと、自分に言い聞かせて。


ユリウスくんを応援してあげてください(`・ω・´)ゞ ハピエンまで何とか頑張るので!

最後までお付き合いくだされば幸いです。

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