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第三部 プロローグ  セシリアのもどかしさ

仮初といえどヴェスペル自治領の領主となった私の日常は想像していたよりもゆったりしていて…


「セシリア殿下、本日の報告書は以上になります」


新たに傍仕えが決まるまで仮の傍仕えをしてくれている女官が書類の束を差し出す。私はグランドハープを弾く手を止めて、書類に目を通していく。


内容はヴェスペル王族ではなくても領主でいてほしかったという父上や母上への要望書だったり、新たに派遣されたソーリス・オルトス帝国貴族の不満だったりと様々だ。


「母上がまた女王のような立場に戻りたいと思うかは、母上しだいですね」


「はい。いまだにヴェスペル王国の復活を望む声も多くあり、帝国側もその反乱分子をどうするべきかと苦慮している状況です」


「そうですか… 母上なら戦は嫌いだとおっしゃるでしょうね」


そんなことを話しながら書類に目を通し、サインしていく。これで今日の私の仕事は終わりだ。庶民からの苦情には傍仕えの役目をしてくれている女官が引き受けてくれるから。


「ユリウスは大丈夫でしょうか…」


「皇太子殿下には宮殿でもっとも優秀だと名高いアロイス様がついておられます。ご安心ください。普段通りにティータイムを過ごすことができますわ」


その言葉に頷きつつ、政務に係わるようになって初めてユリウスの才覚がどれほどであったのかを思い知る。優秀だから、できるからといって程度をわきまえずに押し付けていいはずもないのに。


「皇太子殿下が心配ですか? セシリア殿下」


「えぇ、できるというのも酷なことですね。どれほどでもできてしまう。だからこそ、周囲の方々は程度もわきまえず押し付けてしまう… ユリウスにこそ休養が必要でしょうに」


今、私がこうしてゆったりとわずかな仕事をこなしている間に、実質の皇帝として幼い頃から外交や政務に係わってきたユリウスはどれくらいの仕事をこなしているんだろう。


私にはほんの少しだけの仕事を任せておきながら、自分は膨大な量をこなしているんだろうと思うと複雑な気持ちになるけれど、焦っても仕方ないのだろう。私には実績がないのだから。


「セシリア殿下、ヴェスペル侯爵夫妻が謁見したいとのことですが…」


「あらあら、お父様とお母様が… 分かりました。では、お茶の支度をしてください」


思わず座っていた椅子から立ち上がりつつ言うと、女官が一礼して去っていく。


もう親に甘えるような年齢ではないけれど、それでも両親と会えるのは純粋に嬉しい。王族から貴族の身分になって、どう暮らしているのかと心配でもあった。…ユリウスの配慮で自由の身ではあるんだろうと思っているけれど。


「お邪魔しますよ。セシリア」


「やあ、久しぶりだなぁ。穏やかにやっているようで安心したよ」


女官に案内されて王族だった頃より寛いだ様子の母上と父上が現れた。母上の頭上に王冠はないけれど、着ているドレスは皇后に対する礼装だったけれど、それでも久しぶりに家族そろってのお茶会には違いない。


「大事にされているようでよかったわ」


「あぁ、だから大丈夫だと言っただろう? セシリアの選んだ方なのだから」


「そうね。女王でなくなってから退屈でいけないわ。暇つぶしの為にこんな所へまで来てしまうんだもの」


そんなことを話しながら女官の用意してくれたテーブルの前に座り、ヴェスペル産のハーブティーで満たしたカップを取り上げる。


「エリックの所へ行ってきたよ。囚人たちの生活改善に努力したり、彼らが刑期を終えてからも立派に更生できるようにと教師の真似事までして、忙しいが楽しそうだった。直接会うわけにいかないのが残念だったよ」


「エリック兄様が… ワインの毒から解放されたのですね…!」


「えぇ、あれならもう心配はいらないでしょう。刑期を終えても立派にやっていける。エリックのご両親の墓前にいい報告ができて安心だわ」


エリック兄様のご両親は王国で流行った感染症に侵され、幼いうちに亡くなられている。


そのお墓参りもろくにできない身の上になってしまったのが少しもどかしいと思っていたけれど、私の現状を気遣ってくれるお父様とお母様の心遣いが嬉しい。


「エリック兄様の様子は私も気になっていました。王族の血筋が毒になってしまうのだから、自由にして差し上げるのも優しさだと思ってはいましたが… 幸せになってくれるでしょうか」


「安心しなさい。エリックとてヴェスペル王家の者として高い教養を身に着けているのです。それは決して無駄にならないわ」


「そう。今は無理をしないことだ。お前はいずれ皇后となるのだから。今のうちにのんびり過ごしておくといい。皇后の地位は軽くはないぞ」


お父様とお母様の前では皇太子妃ではなくただ一人の娘になってしまう。そこでふと気づくことがあった。


ユリウスの口からお父様とお母様の話がほとんど出てこないということに。


婚儀の時に一度だけ出てきた気がするけれど、ひどく冷めていたような気がした。あの時は婚儀のことで手いっぱいで気にならなかったけれど、何かおかしい気がするのは考えすぎだろうか…?


気付いてしまうと、なかったことにはできなくて。私はお父様とお母様の言葉に頷きつつ、ユリウスに尋ねてみなければならないと決めていた。あまりいい答えは出てこないのだろうと分かっていたけれど……



第三部(-ω-;)悩みましたが始めました。主にユリウスの家族関係を描いていくつもりです。

お付き合いくだされば幸いです(`・ω・´)ゞ

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