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十一話 エリックの末路とセシリアの幸せと

その一報が入った時、エリックは魔術師を酷使して鏡に見入っていた。セシリアではなくユリウスを監視するために… 帝国への進軍はヴェスペルの貴族たちによって反対され、防がれてしまった。


あまつさえエリックは政治的動向に疎いとレッテルを張られてしまうありさまで。今はこうして老いた魔術師を酷使してセシリアとユリウスの動向を監視していることしかできず…


「エリック殿下! ソーリス・オルトス帝国軍が侵攻してきています!」


騎士からこの一報を聞いて、誰より戸惑ったのはエリック本人で。思わず片手につかんでいたワイングラスを取り落とすほどだった。騎士はエリックの動揺に構わず手にしていた文書を読み上げる。


「警告をしたためた文書も届いております。先日より続いている監視行為はユリウス皇太子への挑発行為と解釈した。この行為は許しがたく、停戦交渉に応じない場合はヴェスペル王国王都を攻め落とす覚悟であるとのことです」


「ユリウスが…」


思い出すのはセシリアを連れて街を歩く姿で。あの油断した様子からなにも気づかれていないと勝手に解釈していた。それなのに…


「どうあってもあの男の思い通りというわけか…!!」


ギリギリと骨がきしむほどの強さで拳を握り締めて呟く。何もかも見透かしているようなアメジストの目。あれがなにより気に入らなくてならないのに、この手さえも届かず、監視しているのがやっとだとは…!!


「貴族どもはどうしている!? 女王夫妻はまだ帰らないのか!?」


「停戦交渉のテーブルにつく人材を厳選している所です。開戦する兆しはありません。我が国を焦土へ変えることだけは防ぎたいとのことで…」


エリックは騎士が最後まで言い終わる前に声を荒げて命令した。


「直ちに開戦だ!! 軍をもって迎え撃つんだ!!」


と女官の手から新たなワイングラスを受け取り、一気にワインを呷る。そこへエリックの執務室のドアが開く音が響き、


「あらあら… どうしたことでしょうね。エリック、あなたの怒鳴り声が外にまで響いていましたよ」


と女王が姿を現す。混乱した状況にあっても普段通りに落ち着いている様に畏怖を覚えて、焼け付くようだった思考が瞬く間に冷えていく。…逆らえないと感じた。


「女王陛下… ご帰還なさっていたとは存じ上げておりませんでした」


「えぇ、まだ着いたばかりです。ユリウス皇太子はセシリアと正式に婚儀を執り行う予定。そのお方と戦だなんて… 嫌ですわ。セシリアの為にもね」


「ですが! ユリウスさえ殺せば我が国は帝国さえ手に入れることができるのです! これは千載一遇の好機と言えるのですよ!?」


女王はエリックの言葉に笑みを浮かべた。その柔和な面立ちからは何もうかがい知れない。国を背負う女王のカリスマ性だけがそこにあって…


「物騒なことを考えるようになったものね。私が何より嫌うのは戦場だということは知っているでしょうに」


「陛下… セシリアを奪われたままでいいのですか!? なにより、この俺との婚儀を待ち焦がれておられたのではないのですか!?」


心からの本音を吐き出す。セシリアがあんな傍若無人なだけの男に侍る。それだけが許せなかったのだ。長く傍にいたのに、セシリアを誰より理解しているのはエリックでしかありえなかったのに…!!


妹として慈しみながらも、女として愛せる日を心待ちにしていたのに!!


「あの子の人生はあの子が決めるものです。この私でさえ決められるものではありません。あの子がユリウス皇太子を選んだのなら、それが答えでしょう。嫌ったのなら捨てればいいだけ。あなたが自由に国を動かしたように、あの子にも自由があるんだわ」


「女王陛下…」


「エリックを捕らえなさい。正式にヴェスペル王家から追放を命じます。ただ一人の重犯罪者としてソーリス・オルトス帝国軍に引き渡すように!」


その言葉をきっかけに騎士たちが一斉に深々と礼をし、テキパキと動き出す。


「待ってくれ! 乱心しているのは女王の方だ!! 俺は何も悪くない!!」


そう怒鳴り散らしてみても誰にも届かない。ただ騎士たちによってヴェスペル王家の人間である証のブレスレットを取り上げられ、機械的に縛り上げられていくのみだった。



引き立てられていくエリックを女王は笑みの消えた冷徹な眼差しで見詰めていた。


「女王陛下、これでよかったのですか? セシリア様が帝国へ嫁がれる今、エリック殿下を失っては、王家が途絶えてしまいますが」


騎士達の一人が問いかける。女王は手近なスツールにそっと座ると、


「構いませんよ。いくら不意打ちされたとはいえ、みすみす娘を人質に差し出した私に何をこだわる権利があるものですか。大事なのは王家ではなく民です。民の集う所が村となり、やがては国となるのですから」


ひどくすっきりした様子で答えた。近づいてきた女官にお茶を用意するよう命令すると、


「ユリウス皇太子のもとで幸せになるというなら、これも歴史の決めたこと… 私も帝国の民の一人として生きていく覚悟を決めなくてはね」


集った貴族達を出迎えつつ、騎士達に告げた。


「我らもお供いたします。どこまでも女王陛下と共にあるのみです」


騎士隊長を始めとして、騎士達が折り目正しく一礼した。そんな男達を見上げる女王の顔はひどく晴れやかだった。



その後、エリック王子からただのエリックとなった彼は帝国で取り調べを受けた後、帝国の北側に位置している重犯罪者の収監される牢獄にて、長く服役することになる。


収監された当初は酒を求めて暴れ狂っていたが、徐々に酒の毒から解放された彼は生来の落ち着きを取り戻す。


次第に模範囚として尊敬を集めるようになり、服役を終えた後は孤児院で働き、高い語学力を買われ、教育者への道を歩むようになる。…彼は一滴も酒を口にすることはなかったという。

お待たせいたしました( ^^) _旦~~ エピローグでこのお話の第一部は完了です。お話の都合上、登場させてあげられなかったキャラがいるので、第二部にて登場させたい感じです。最後までお付き合いくだされば幸いです。

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