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九話 一線を超える夜

※一部、におわせる程度の性描写あります。

俺からすれば特別でもなんでもないことだけれど、街へ連れ出した彼女は年相応の女性らしく見えた。


「お嬢さん、安くしとくよ! その長い髪に似合う金の櫛だ! 買っていかないかい? 全部アウローラ王国から直輸入の一級品だぜ」


商店の店主が呆然としていたセシリア姫に声をかける。驚いて言葉を失っているセシリア姫に代わって、


「アウローラ王国といえばエルフや獣人族しかいないっていう神秘の国じゃないか! よく取り寄せたな! 親父さんもやるじゃないか」


と下級貴族らしく振舞ってみせる。おそらく半分は嘘かもしれないが冷やかし半分で話を聞くのも気分転換になる。


「兄さん、お貴族様のくせに話が分かるじゃないか! アウローラ王国では錬金術の研究が進んでるらしいぜ。この櫛もそうやって作られたんだとさ」


「へ~ぇ、じゃあ記念に買ってやるから良い品を選んでくれよ。近々、親戚を集めて結婚パーティーやるんだ。俺の花嫁が誰よりも目立つようにさ」


「お? いいぜ。たか~く買ってってくれよな! 俺の店の自慢を出すからさ」


冗談交じりに言う店主と笑いあって、店主が店の奥へ引っ込んだ隙にセシリア姫へ向き直り、


「大丈夫かい? あなたは俺に合わせてくれればいいから。金は俺が持っているから。ね? 今日はこのメイン通りの空気だけでも触れてほしかったんだ」


と驚きすぎて言葉も出てこないセシリア姫の頬を包み込むように撫でる。すると、俺の手にそっと手を重ねて、


「私に声をかけるのはあなたと女官しかおりませんでしたので… 少し驚いてしまいました」


安堵したように返した。それから、俺をまっすぐに見上げて、


「金を使うってどういうことですか? 私はそんなことをした覚えがありませんので分からないんです。金は身を飾るものではないのですか?」


流石に予想外だったことを恥じらいつつ問いかける。一瞬だけ驚いてから、すぐに王宮を出たことがなかったことを思い出し、


「今から見せてあげるよ。こうやって金は交渉の道具にもなるんだ」


目元にキスを落として言うと、戻ってきた店主が抱えてきた箱の中身を確かめる。黒いビロードの箱に入っていたのはどんな偶然なのか、幾つものサファイアでバラの花が形作られた立派なネックレスとイヤリングだった。


「どうだい!? これも錬金術で作られちゃいるが一級品だぜ! 金貨100枚だ!」


「あっははは! それは大きく出たもんだな。いいぜ。こっちは結婚パーティーを控えてるんだ。祝いのおすそ分けをしてやるよ」


「毎度あり! お兄さんもいい買い物したぜ。お嬢さんにはこのサファイアが似合うと思ったんだ」


店主はそう言うと、豪快に笑った。狙ったわけではないんだろうが、錬金術でもここまで見事なものはできないだろうと思われる逸品だった。俺は手ずからビロードの箱を受けとる。


身分の高いものほど自分で何か荷物を持つということはないので、その仕草だけでセシリア姫は意外そうだった。その後も行く先々で、浮世離れしたセシリア姫の雰囲気は目立つんだろう。店という店から声を掛けられるありさまで。





「楽しかったかい? 人生初の街は」


待ち合わせに指定した貴族向けの宿屋で宮殿からの遣いを待ちながら問いかけると、セシリア姫はソファに座って大道芸人から捧げられた小さなバラの花を眺めつつ、


「この帝国にも数多の民が暮らしている。当たり前のことなのですが、それをよく知ることができました。ありがとう。ユリウス殿下」


微笑みを浮かべて告げた。その様は王女らしくもあり、年相応の女性らしくもあって胸が甘く暴力的な衝動で疼いた。


衝動のままセシリア姫を抱き締める。彼女は逃げなかった。普段の延長線上にあると考えているのかもしれない。けれど、けれど…


「俺を愛せないのなら逃げて。或いは…」


ずっと腰に佩いていた短剣を抜いて、そっとセシリア姫の手に握らせる。


「ユリウス殿下…!? 何をお考えなのですか!?」


「俺は確かにあなたの国を奪った。それは事実だ。そこに政治的な目的なんかなかったんだよ。俺は俺のためだけに、あなたを奪う。そこにためらいなどなかった。あなたに優しくしている俺の内面は、こんなに暴力的で浅ましいんだ」


戸惑う彼女の手をそっと引き寄せて、心臓の位置を教える。


「ここを貫かれれば、どんな人間でも死んでしまう。俺を愛せないなら、ヴェスペル王国の王女として、この俺を殺したらいい。あなたは自治国家から独立国家へとヴェスペル王国を救うことになるだけだ」


「そんなこと、できるわけがありません…! それをするにはもう… 何かも遅すぎるのです! あなたはどれだけ狡猾なのですか…!?」


短剣を投げ捨てて、セシリア姫が泣きながら告げる。


「俺が狡猾…?」


「あなたの狙いが私だったなんて… 私の心を得るための策だと分かっていても、もう私は…!!」


なにを言いたいのか分からないほど愚鈍ではなくて。俺はもう一度セシリア姫を抱き締めて、そっと上向かせる。その涙を唇で吸い取り、


「俺の心はあなたのものだよ。セシリア… ずっとそう呼べたらと思っていた。立場の違いなど越えてね。だけれど、俺は奪ってしまう。そういう愛し方しかできないんだ」


その唇に指先で触れつつ語る俺を見上げて、


「私はあなたに奪い尽くされても構わないと… そう思っています。だけれど、誰よりもあなたの傍に寄り添っていたいと、そうも思うのです」


どこまで意味が分かっているんだろう。慈しみをたたえた笑みを浮かべて答えた。…もう堪えなくていいんだと理解した途端、あれだけ俺を責め苛んでいた衝動が一気に穏やかになる。


「あなたを愛しているよ。10年間、ずっとこの日を待ち焦がれていたんだ。今日のための10年だったと、そう思うよ。セシリア」


そっと抱きあげてベッドへ連れて行きながら告げる。ようやく意味を理解したセシリアは頬を赤らめながらも、


「では、私の全てをあなたにお捧げします。ユリウス」


と答えた。ベッドにそっと下ろして、初めて唇を重ねる。触れる瞬間、びくりと唇が震えるのが分かったけれど、なだめるように抱き締めて、ベッドへそっと押し倒す。


互いに魔術道具を外しているので、本来の姿が露になっていた。長く美しい髪をそっと梳いて口付けを落とす。互いに素肌を露にしたら、あとはもう無我夢中だった……

お待たせいたしました( ^^) _旦~~ ようやくこの二人が敬称なしに互いの名を呼びあう関係となりました。それにしても… キスから一直線で( ゜д゜)ウム まあ、いいでしょう。よかったね! ユリウス様。そろそろ終わりの見えてきたこのシリーズですが、最後までお付き合いくだされば幸いです。

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