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八話 アロイスの報告とユリウスの胸の内

「宮殿の結界が破られた形跡があるぞ! それも、お前の領域を狙って破っている」


とアロイスから聞かされても、俺は別に驚かなかった。いつかは来るだろうと思っていた。それがいつなのか?ということだけが分からなかっただけで。


「そう。このタイミングで面倒が起きたというわけだね。せっかくセシリア姫が笑ってくれるようになったのになあ」


セシリア姫をデートに誘うための衣装をチェックしながら、アロイスに向かって返す。偽りなき本音だが、アロイスの求めた反応ではないだろう。


「予測済みというわけか。ユリウス」


「そうだねえ。いつ来るだろうと思ってはいたよ。主犯も予想できている。けれど、今すぐに動くわけにはいかないんだ。セシリア姫が信頼しているし」


苦い顔をしているアロイスにようやく振り返って答える。含みのある言葉だけれど、長い付き合いであるアロイスにはそれだけで何から何まで伝わってしまうだろう。


「女王夫妻は国の片隅で隠居生活を送る準備のため、王都からは長く空けておられる。…こんなことをしでかすお方には見えなかったんだがな」


「人は誰だって裏表があるものさ。お前も俺も状況に応じて使い分けているだろう。ないのはセシリア姫くらいのものさ」


「その点は心から尊敬に値するが… どう動く? 騎士たちが軍を動かす準備を始めているぞ。元より血気盛んな奴らだ。俺の方でお前の指示があるまでは動くなと命令しておいたが、そういつまでも止められたものじゃない」


アロイスの言葉で部屋の隅に控えている騎士隊長へ目をやると、何もかもを察したのだろう。中年の騎士隊長は居住まいを正して、


「ご命令さえ頂ければ、いつでも最前線へ攻め込む覚悟です!」


と満面の笑顔で答えて見せた。そんな彼に苦笑して、


「一日だけ待ってくれるかな。軍をいつでも動かせるように準備だけは進めておいて。アロイス、俺に何かあった時はお前に全権を委ねるよ」


とアロイスの肩に手を置いて命令した。俺の執務室に集まっていた騎士隊長達が戸惑い、アロイスは眉間にしわを寄せた。それはそうだろう。俺に何かあった時、それは命が危うくなる時だからだ。


「…分かった。では、予言しておこう。お前は明日、皇太子の証である白銀の鎧を着て軍を動かしているだろう」


騎士隊長達を安心させる為でもあるんだろう。わざと自信たっぷりに一息で告げる。現にこの言葉で安心したのか、騎士隊長達が安堵の笑みを交わしている。俺特有の冗談だったとでも思ったのかもしれない。


「お前は俺を買いかぶりすぎだよ。まあ、今日でこんな児戯は終わりにしなければいけないからね。いい加減に裁きを受けてくるよ」


「そこまで覚悟しているならいい。お前が自由奔放で傍若無人だったのは昔からだ。今更、驚きもしないぞ。…行って額に土つけるくらいのことはしてこい。セシリア様はどこまでも慈悲深い方だからな。それでお許しくださるさ」


「あっはは! 額に土つけて許されるなら最初からこんなことはしなかったよ。…でも来るべき時が来ただけかもしれないね」


アロイスとの冗談半分本音半分の会話を最後に、俺は二人分の衣装ケースを護衛騎士に持たせてセシリアの待つ温室へ向かう。お茶会の代わりに街へデートに誘うために。



衣装ケースに収まっていたのは下級貴族へ変装するための魔術道具と衣装で、それを見せた時、セシリアは目を丸くして言葉を失った。黒髪に珍しいサファイアのような目は美しいけれど、そうしていると年相応に見える。


「驚いたかい? この温室でのんびりお茶会もいいけれど、たまにはもっと自由に振舞ってもいいと思ったんだ」


「街… ですか。私はヴェスペル王国でも街へ出たことはありませんでした」


「そうだろうね。良いきっかけだと思ったんだよ。これも何かの縁だ。ちょっとした散歩のつもりで行ってみようよ」


わざと気取った仕草で普段よりシンプルなドレスを取り出して見せると、セシリア姫は戸惑いながらも女官に促されるまま王女である証の金のチョーカーを外した。それに合わせて俺も皇太子である証の金のブレスレットを外し、護衛騎士に預ける。


「じゃあ、支度を頼むよ。俺はここで構わないから部屋へ案内して」


「畏まりました。では、後ほどここへお連れ致しますので」


「ユリウス殿下は自由な方でいらっしゃるんですね。変装してまで街へ出るなんて… 私には想像もできませんでした」


女官に連れ出されながら語るセシリア姫の後姿を見送ってから、手早く着替える。用意したのは紺青の衣装だ。これに魔術道具で変装すれば、それで俺の支度は完了する。長い金髪は目立ちすぎてしまうから変えてしまう必要がある。


「ユリウス殿下、お茶をどうぞ。それと念のために剣をお忘れなきように」


「あぁ、ありがとう。剣はいらないよ。この短剣さえあれば十分さ。普段のようにスラム街へ出入りするわけでもないことだし」


本音を隠して護衛騎士からお茶だけを受けとる。騎士はまだ何か言いたそうだったが、身分の違いを気にしているんだろう。黙っていてくれた。アロイスなら遠慮なくお前は何を考えているんだ?と問いかけるところだけれど。


セシリア姫の為に用意したのは俺の紺青と対照的な淡い桜色のドレスだ。


見事な黒髪も魔術道具で隠す必要があった。ヴェスペル王国は単一民族の国で大半の人間は黒髪をしていたが、その中でもセシリア姫の髪は美しいと民の間でも評判だったか…


そんなことを考えている隙に温室のドアが開く音が響き、騎士が咄嗟に腰に佩いた剣へ手を置く。俺はそれを制して座っていた椅子から立ち上がり、


「剣術だけが軍での訓練じゃないよ。この気配と足音ならセシリア姫だ。まちがいなくね」


と騎士を制して迎えに出ながら言った。


「はっ! 申し訳ございません。軍事教練不足でありました!」


居住まいを正して詫びる騎士の肩に手を置くと、出迎えに向かう。セシリアは見事な黒髪とサファイアのような目を帝国では珍しくないブラウンの髪と目に変えていて、美貌と白磁の肌だけが王女であった証を残していた。


「似合っているよ。セシリア姫。さあ、出かけよう。俺の国を見せたかったんだ」


「はい。よろしくお願いいたします」


ようやく笑うことを取り戻したセシリア姫が俺を見上げて微笑む。見たことも触ったこともない衣装を与えられて、ようやく非日常の世界へ行くんだと理解したのかもしれない。…この上なく愛しく、奪いたかった。なにもかもを…


どうして憧れたり、愛しく思うだけでいられなかったのだろうと考える。だが、そんな俺の懺悔さえ飲み込んで衝動が高まっていく。自分でも止められないほどに。…危険なほどに。

お待たせいたしました( ^^) _旦~~ このシーンは最初のプロットにはなかった部分です。

アロイスがめっちゃしゃべってますね。この方もよく育ってくれて助かります。次回、ちょっぴり性描写ありです。におわせる程度になると思いますが(-ω-;) R17.9は続編があれば、その辺りでになるのかな。

最後までお付き合いくだされば幸いです。

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