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六話 温室で二人だけのティータイムを ②

温室ではどんな指示が下されていたんだろう。二人分のティーセットが用意されていた。私にはスコーンと季節のジャムが用意されるのが当たり前になりつつあるのに、ユリウス殿下の好みなのだろう。


幾種類かのサンドイッチに色とりどりの果物が用意されていた。


「急いで用意させたから簡素になってしまって申し訳ないけれど…」


「いいえ、私もあまり豪華なのは好みませんから」


そんな他愛のない会話をしつつエスコートされるままティーセットの前に座り、給仕係が紅茶を注いでくれるのを待つ。


「本当はワインを選んだのだけれど、政務に差し支えるかもしれないとアロイスに止められてしまってね」


「左様でしたか。私はお酒はあまり嗜むことがなくて… ユリウス殿下はワインの方がお好きですか?」


「好きというより、俺はあなたの心を解きほぐしてみたいんだよ。その冷えた心を温めてね。そんな時、ワインは格好の薬になってくれるからさ」


思わぬ言葉に目を丸くしてしまう。自然と頬が赤らむ。こんなに思考を超えた反応をされるとは思わなくて。ヴェスペル王国をたった一夜で攻め落とした人とは思えない。


そんな荒事など無縁のように明るく自由に振舞っているのに。


「あっはは! 初手は良い結果を得られたかな」


紅茶を注がれたカップを取り上げながら遠慮なく笑ってみせる。その紫色の目が少し切なげに見えて、返そうとした言葉が出てこない。


「あなたが全く笑わないと聞いているからね。この帝国での暮らしがお辛くはないだろうかと心配していたんだ」


ずっと明るく自由に笑っていれば、そういう奇人じみた人なんだと割り切ることもできたのに… 皇太子の紋章があしらわれたカップを取り上げたままで告げる顔は笑みの消えた真摯な表情で。


胸の奥底が甘酸っぱく暖かな気持ちで満たされていく。…認めざるを得ない。

この気持ちが何なのかを… だけれど、認めてしまったら私は王国を裏切ることになってしまう。


皇太子妃としての役割を果たすだけ、形ばかりの婚姻でなければならないと、ずっと戒めてきたのに……


「ユリウス殿下… 私はヴェスペル王国の次期女王としてのみ生きていくんだと思っていました。あなたは皇太子の役目が重くはないのですか?」


「いずれ解放して差し上げるよ。あなたはもっと自由に生きていいんだ。役割や地位なんかに溺れないでね」


「溺れる…? 意味が分かりません。役割や地位に溺れるなんて」


心からの言葉なのかもしれないけれど、こんなに異質な存在だと思ったことはなくて。目の前でサンドイッチを口にしている人が巨大帝国を背負う皇太子だという事を忘れてしまいそうだ。


だけれど、間違いなくソーリス・オルトス帝国の皇太子に他ならない。私の祖国、ヴェスペル王国を理由なく攻め落とした張本人で…


「分からないかい? 結論は急がなくていいさ。俺達には時間があり、互いの国は幸いなことに平和を謳歌している。ゆっくり知っていけばいい」


そう言いながらフォークを取り上げて果物を突き刺すと、私に食べるよう促す。少し迷ってから私は促されるまま口を開いて受け入れた。


「よしよし。お茶菓子も食事もあまり召し上がってくださらない。このままでは私の方が肥えてしまうと女官が心配していたからね」


まるで管理されているようで恐ろしく感じる。けれど、その心にあるのは純粋に私を心配しているだけに思えてならない。…ユリウス殿下の本音はどこにあるんだろう?


束の間、そう考えてみる。帝国に来てからの私はずっとユリウス殿下のことばかり考えてしまう。それまでは退屈を埋めるだけだったかもしれない。けれど、きっとこれからは違う。


…この甘酸っぱくて暖かな感情がそうさせるから。


「少しずつ互いを知っていけばいい。まずは俺の話を聞いてほしいな」


「お話ですか… 御伽話なら王国の書庫で読んだことはありますが」


「これからお話しするのは俺がこの目で見たことだよ。この10年、冒険者ギルドに偽名で登録して世界各国を巡ってきたからね!」


幾らか芝居がかった様子で語りだしたのは御伽話の中にしか存在しないと思ってきたエルフ族の国のことだった。


当たり前に平均寿命が千年を超える人種だとか、その為に寿命の短い人間が物珍しい存在になっていたとか……


そんな国でもひときわ珍しい、永遠に近い時を生きるハイエルフの血を引く白髪に白い肌、アクアマリンの目をした美貌の青年と親しくなったと。


私にとってはその全てが御伽話そのものでしかなく、珍しくて久しぶりに楽しく思えた。まるで冒険活劇のように思えて。だけれど、ユリウス殿下がこの目で見てきたものだと分かるからこそ、尊敬の念を禁じ得なかった。


「またお話を聞かせてください。私からお話しできることは多くありませんから」


お茶会の終わりごろ、私は自然と寛いだ気持ちで切り出していた。すると、私を抱きよせて頬にそっと触れるだけのキスを落とし、


「時間が許す限りは… と言いたいけれどね。でも、楽しんでくれてありがとう。セシリア姫」


少し複雑そうな様子で微笑んで告げた。その様に胸の奥底がうずくのを抑えられなかった。

お待たせいたしました( ^^) _旦~~ この回、めっちゃ楽しいけどもどかしかったです。

ちょっとずつしか進んでいかない二人が可愛くももどかしくて…( ゜д゜)ウム まあ、いいかな。お付き合いくだされば幸いです。感想くだされば、もっと幸いです。

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