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薫が目を開けると、そこは新大阪駅だ。新大阪駅からは東海道新幹線に入り、本数も乗客も多くなる。新大阪駅に着いたと知って、薫はため息をついた。また故郷は遠くなってしまった。これから先、もっと遠くなるだろう。とても残念だな。どんなに帰りたいと願っても、栄作とは縁を切られているから無理な事だ。とても残念だな。だけど、受け止めていかないと。そして、東京で頑張っていかないと。
薫は再び栄作との写真を見た。もうあの頃の優しい栄作は戻ってこない。残念だけど、自分の犯した罪が原因で、どんなに謝っても無駄だろう。栄作は頑固だからだ。栄作は自分より、望を後継者だと思っている。本当の息子は自分なのに、後継者になれなかった。とてもつらいけれど、自分は東京で頑張っていかないと。もし、帰るような事があっても、優しくて腕が高い望が後継者にふさわしいんだろうな。自分もそれなりの腕を持っているんだけど、いまいち自分の能力を発揮できない。踏みが足りないからだ。
のぞみは新大阪駅を後にした。薫は車窓を見ている。この車窓を、何度見ただろう。観ても見ても見飽きないな。いつの間にか、薫は泣いてしまった。また追い出されたからだ。自分には、望のような幸せはもう来ないんだな。あの時、罪を犯していなければ、自分は平和な日々を送っていて、結婚して子供を設けていたかもしれないのに。そして、自分は池辺うどんの後継者になっていたかもしれないのに。
薫は再び寝入ってしまった。のぞみはその後も京都駅、名古屋駅と停まっていき、新横浜までの長い区間を猛スピードで走っていた。だが、薫は寝ていて全く気付かない。その間にも、故郷は遠く離れていく。あまりにも残念だが、それが現実だ。でも、なかなか受け入れられないよ。故郷に帰りたいよ。どんなに願っても、その願いはかなわないだろう。
薫は目を覚ました時には、新横浜駅を出ていて、のぞみはスピードを落として走っていた。車窓がゆっくりと流れる。それを見て、薫は関東に戻って来たんだと実感した。また故郷は遠く離れてしまった。そしてまた高松製麺で頑張らなければならない。本当は池辺うどんで働きたいのに。薫はがっくりしていた。
薫は思った。今日は明日香と飲みたいな。そして、栄作に追い出されたつらさを忘れたいな。薫はスマホで居酒屋を予約した。居酒屋に行っても、予約できなかったら話にならないからだ。予約したら、次は明日香に電話だ。薫は明日香に電話をして、緊急だが、今日の夜に居酒屋で飲もうと話した。結果、一緒に飲んでくれることになった。それに、保志も一緒だ。保志の意見も聞きたいな。
夜、薫は東京駅に戻ってきた。朝、ここにやって来たのに、また戻ってきてしまった。そう感じると、薫はため息をついた。またいつもの生活だ。故郷は遠くなってしまった。
東京の丸の内口に降り立つと、そこには明日香と保志がいる。急だが、今日はここで鉢合わせだ。そして、3人で居酒屋に行く予定だ。薫は急な予定で本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
居酒屋にやってきた薫は、焼酎のロックを一気に飲んだ。度数の高い焼酎でつらさを忘れようとしているようだ。だが、なかなか忘れる事ができない。それほどつらいようだ。
「そっか。また追い出されたんだ。ひどいね」
明日香は薫を心配している。薫は涙を流している。涙は飲みかけの焼酎の入ったグラスに入り、涙割りになる。保志はその様子を見て、かわいそうだと思っている。何とかしたいと思っても、どうにもできない。それほど、栄作と縁が切られたのがつらいんだろうな。薫はどんな事をやってしまったのかは知っている。それで縁を切られたのも知っている。保志も、明日香と同じように、また故郷に帰って、栄作や望と一緒に店で働いてほしいと思っていた。だが、この栄作の様子では、どう考えても無理だろうな。
「つらいよね。わかるわかる」
保志は薫の頭を撫でた。薫は保志の優しさを感じた。罪を犯したにもかかわらず、親と縁を切られたにもかかわらず、優しく接してくれるからだ。薫はまた焼酎を飲んだ。それでもつらさを忘れる事ができない。
「保志さんもわかるんですか?」
「ああ」
保志もその気持ちがわかるようだ。明日香は保志がまた1つ好きになった。
「今日はたっぷり飲みな」
「うん・・・」
薫はつまみのから揚げを食べた。そういえば、上京する前に母が作ってくれた最後の晩ごはんは、から揚げだったな。あの時のから揚げは、とてもおいしかったな。あの頃は、自分が逮捕されるだなんて、全く思っていなかっただろう。あの時は栄作も笑顔だった。みんな、薫の未来に期待していた。なのに、今ではこうなってしまった。仲直りしたいのに、なかなか仲直りできない。いつになったら仲直りできるんだろう。全くわからないな。
「また故郷に帰りたいよ・・・」
薫はいまだに故郷の事が忘れられないようだ。また帰りたいようだ。明日香も保志も、薫の気持ちがよくわかった。




