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薫は滝宮駅までの道のりを歩いていた。また追い出されてしまった。わかっていたけど、やっぱりだ。どうすれば仲直りできるんだろう。その答えが見つからない。自分は栄作が死ぬまでここに帰れないんだな。みんな、帰ってきてほしいのに、栄作がいるからその夢はかなわない。つらいけれど、それが現実だ。それを受け止めなければならない。
薫は帰る途中、子供たちを見つけた。子供たちはとても楽しそうだ。それを見ていると、薫は少年時代を思い出した。あの頃はとても幸せだったな。あの頃に戻りたいと思っても、それはかなわない。もし戻れたら、ここに住んでいて、栄作と一緒に働いていたかもしれないのに。本当に残念だな。だけど、それが自分の受けている罰なんだと思うと、下を向いてしまう。
薫は滝宮駅に戻ってきた。ちょうどその時、高松築港行きの電車がやって来た。薫は持っていたIC乗車券を使って、改札口を通った。電車は2両編成で、元京急の電車だ。薫は電車に乗った。電車には何人かの観光客が乗っている。彼らは金毘羅山参りの帰りだろうか? 彼らはとても楽しそうだ。なのに、自分はそんな表情じゃない。また栄作に追い出されたからだ。
薫は揺れる車内の中で、いつの間にか眠ってしまった。眠っている間、考えているのは、故郷での日々だ。あの頃が懐かしい。あの頃は平和だったな。栄作にも母にも愛されて。誰もが店の後継者になるだろうと期待されていた。なのに、後継者になるだろうと思われているのは、望だ。残念だけど、自分の過去を考えると、当然だろうな。
薫が目を覚ますと、片原町駅を発車した所だ。次は終点の高松築港駅だ。薫は慌てていた。ほどなく終点に着くからだ。こんなにも寝てしまったのか。また栄作に追い出されたのが、よほどつらかったんだろう。そう思うと、やはり自分は東京にいるべきだろうと思える。
電車は高松築港駅に到着した。すると、人々は降りていった。中には、高松駅を目指す人もいる。薫は高松駅に向かっていた。ここから快速マリンライナーと東海道・山陽新幹線で帰る。いつものルートだ。もう何度、この線路を通った事だろう。こんなに来る事はあんまりなかったのに。望と出会ってから、来る事が多くなってしまった。
薫は高松駅から快速マリンライナーに乗った。薫が乗ったのは、2階のグリーン車だ。とても疲れている。少し寝よう。薫は席に座ると、すぐに寝てしまった。
薫が目を覚ますと、そこは瀬戸大橋だ。快速マリンライナーは、大きな音を立てて瀬戸大橋を渡っていく。何度、瀬戸大橋から瀬戸内海を見たんだろうか? もう見飽きてきた。だけど、見てしまう。どうしてだろうか? 本州に戻ってきた、四国に戻ってきたと思うからだろうか?
薫は家族の写真を見た。この頃の栄作はとても優しかったな。なのに、今の栄作は頑固に、怖くなってしまった。全て、自分のせいだと思っている。仲直りしたいのに、仲直りできそうにない。本当につらいよ。また一緒に働きたいよ。薫はいつのまにか、涙を流してしまった。
薫は岡山駅に戻ってきた。ここから東海道・山陽新幹線に乗って、東京に帰る。『東京』の文字を見ると、下を向いてしまう。このレールは自分のいるべき東京に通じているんだ。故郷は一気に遠くなるんだ。そう思い、薫はがっくりした。栄作にはもう会えないんだろうか? 残念だけど、全ては自分が悪いんだ。許してくれ。
薫は東海道・山陽新幹線に乗った。車内には多くの家族連れがいる。思えば、自分は今でも独身だ。前科があるのも原因だけど、家族がいないと言うだけでつらいよ。誰か、僕と結婚してくれよ。前科はあるけど、うどんチェーンの店長なんだよ。僕の作るうどんって、とてもおいしいよ。本場、香川県出身だからね。どんなに自分をアピールしても、前科のせいで全く相手ができない。
のぞみは岡山駅を後にした。薫は流れる車窓を見ていた。もう故郷は見えない。故郷は遠くなっていく。そう思うと、薫は残念そうな表情になった。また東京に戻らなければならないんだ。そして、セルフうどんチェーンの店長として働かなければならないんだ。
薫はまた寝てしまった。東京までは遠い。しっかりと休息をとろう。今日はいろいろと疲れた。望の妻を見たけれど、また栄作に追い出されてしまった。実際に会って、話をしたかったのに。また栄作だ。つらいけれど、これが現実なんだな。
薫は車内で、少年時代の事を思い浮かべていた。小学校では多くの友達がいたな。そして、みんなから慕われた。何しろ、自分は栄作の息子だからだ。この辺りだけではなく、全国的に有名な栄作の息子という事で、とても注目されていた。そしてみんな、薫が後継ぎになるだろうと思っていた。なのに、それは自分のたった1つの罪のせいで後継ぎになれなかった。後継ぎになる予定なのは、望だ。後継ぎになるのが自分の夢だったのに。なれなくて残念だ。だけど、その願いをしまい込んで、また東京で頑張らないと。




