4
薫は実家までの道を歩いていた。あの頃と全く変わらない。なのにどうしてこんなに足取りが重いんだろうか? やはり、栄作の影響だろう。栄作との縁が切られてしまい、故郷は遠くなってしまった。全部、自分が悪いんだ。自分が罪を犯していなければ、ここに住んでいて、栄作と一緒に、そして、望と一緒に頑張っていたのに。もう二度と償えないんだな。そう思うと、また足取りが重くなった。
薫は田園地帯を歩いていた。もう何度も通った道。だけど、高校を卒業すると全く歩かなくなった。大学を卒業して、また普通に歩きたいと思った。だが、もう普通に歩く事ができない。とても残念だけど、自分の罪が原因だ。一生償っていかなければならない。
歩いていると、1軒の民家が見えてきた。実家だ。その横には、池辺うどんがある。池辺うどんの煙突からは煙が出ている。今日は営業しているようだ。池辺うどんはほぼ毎日営業している。煙が上がっているのを見ると、今日は営業するという証拠だ。
薫は池辺うどんの前にやって来た。行列が続いている。今日も池辺うどんは大盛況のようだ。その中には、望の結婚を知ってやって来た人もいるんだろうか? この中に、望の結婚式に参加した人はいるんだろうか? 自分も参加したかったな。だけど、栄作の姿を見ると、行く気ではなくなる。もし結婚式に出席しても、追い出されただろうな。もし追い出されたら、結婚式が気まずい雰囲気になっただろうな。
1時間後、薫はようやく店内に入れた。うどんの注文口には、安奈がいる。安奈はいつものように仕事をこなしていた。その奥には、栄作と望、直子がいて、うどんを作っている。俊介や谷などは天ぷらを作っている。
「あの人か・・・」
薫は直子の後ろ姿を見た。なかなかかわいい子だな。噂によると、直子は望の出生の秘密を知った上での結婚だったという。望は高校の頃、自分の出生が原因で恋人と別れたと聞く。その時はとてもがっかりしたそうだ。直子は両親から望の出生の秘密を知ったそうだ。初めて聞いた時はさぞかし驚いただろうな。だけど、それを認めての結婚だ。自分は前科があるから、結婚なんて無理だろうな。
「仲良くやっとるな・・・」
薫は店に入ろうとした。と、誰かが薫を引き留めた。薫は振り向いた。そこには栄作がいる。また会ってしまった。この後、追い出されるだろうな。
「おい・・・」
薫は下を向いてしまった。栄作の顔を見るたび、そうなってしまう。30年近くの間に、2人の絆がこうなってしまうとは。誰が予想したんだろうか?
「父さん・・・」
栄作は薫を引っ張り出し、蹴飛ばした。薫は田んぼに落ちた。体や服に土が付いた。栄作は細い目で薫を見ている。今でも会いたくないと思っているようだ。
「帰れ! もう来るな!」
「ごめんなさい・・・」
栄作は店に戻っていった。薫は呆然としていた。また追い出されてしまった。直子の姿を見たかっただけなのに。やっぱりなと思い、薫はため息をつき、下を向いた。
薫はいつのまにか、泣いてしまった。涙が地面に落ち、土に染み込んでいく。薫は悲しくなった。もうここに戻れないのかな? そう思うと、自然に涙が出てくる。
「大丈夫?」
薫は顔を上げた。そこには、望と直子がいる。望も直子も優しい目をしている。
「うん・・・」
と、そこに栄作がやって来た。望が慰めているのを見て、やって来たようだ。栄作は厳しい表情だ。
「望、こんなやつ放っておけ!」
「はい・・・」
3人は厨房に戻っていった。望も直子も残念そうな表情だ。もっとそばにいたいのに、栄作が来たからには、そうはいかない。厨房に戻らなければならない。
薫は泣きながら帰り道を歩いていた。並んでいる客は薫を見ている。みんな、かわいそうだと思っているような目だ。何とかしてやりたいと思っているようだ。だが、何もできない。
その頃、望と直子は踏みの工程をしていた。ここから1時間も踏まなければならない。だが、2人とも苦しいと思っていなかった。こうでなければ、うどんは作れないし、この工程はほぼ毎日やっている。だから、全然問題ない。
「あの人が、薫さん?」
直子は気になった。あの人が薫なのか? なかなかいい人のようだ。本当に前科のある人なんだろうか?
「うん」
やっぱりそうなのか。また追い出されてしまったんだな。残念だな。
「かわいそうだね」
「うん・・・」
望はかわいそうだと思っていた。一緒に働いてほしいのに、栄作がダメだというから働けない。
「一緒に働いてほしいのにな。大将、薫さんの顔を見るだけで追い出すから。もう会いたくないと思ってるから」
「一度途切れた絆って、修復できないのかな?」
直子も残念そうだ。一緒に頑張ってほしいのに。栄作のせいでそれができない。栄作に言いたいのに、栄作は頑固だからそれができない。
「わからない。僕は修復できると思うよ」
だが、望は思っていた。きっと途切れた絆は修復できるさ。でも、それはいつになるんだろう。
「そうかな?」
「きっとできるさ」
2人は願っていた。薫と一緒にここで頑張るのを。




