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薫は岡山駅に降り立った。これで何度目だろうか? また追い返されると思うけれど、また行ってしまう。それほど、香川が恋しいんだろうか? また戻りたいと思っているんだろうか? 栄作がいるうちは、無理だと思うけれど。本当に帰れるんだろうか? わからないけれど、行ってみよう。
薫は瀬戸大橋線のホームにやって来た。ホームには特急南風が停まっている。特急南風は高松に行かずに、土讃線に入り、高知まで走っている。高松を経由して、徳島までを結ぶ特急うずしおが連結されている時があるが、この列車は連結されていない。特急南風には多くの家族連れが記念写真を撮っている。四国各地で走っているアンパンマン列車だ。だが、薫は全く興味がない。次にこのホームにやって来る快速マリンライナーを待っている。
特急南風は岡山駅を後にした。薫はその様子を見ている。この中には、多くの家族連れがいて、とても楽しそうだ。だけど、自分はこんな家族を設ける事ができなかった。罪を犯していなければ、家族を設けていたかもしれないのに。そして、香川に戻って、家を継いでいたかもしれないのに。もうあの頃に戻れない。自分は重い十字架を一生背負っていかなければならないんだな。そして、結婚なんてもう無理だと思っていた。
しばらく待っていると、快速マリンライナーがやって来た。今回は特別料金のいらない一般車に乗る事にした。快速マリンライナーの一般車は、JR西日本の東海道・山陽本線の新快速に似た転換クロスシートの車内だ。中には、そこそこ人が乗っている。瀬戸大橋開業とともに設定された、本四連絡の快速マリンライナーも、これが2代目だ。もう何年走っているんだろうか? 初代快速マリンライナーで活躍していた車両は、JR西日本の岡山地区で走っているらしいが、中間車に運転台を増設したのもあるという。
快速マリンライナーは岡山駅を後にした。薫は流れる車窓を見ていた。もう何度見たかわからない車窓。何度見ても印象に残るな。その後、薫は家族の写真を見た。また、家族が気になるようだ。どんなに栄作に追い出されても、やっぱり故郷への思いは変わらない。忘れる事ができない。今も眠っていると、あの頃の故郷が目に浮かぶ。なのに、故郷は遠くなってしまった。
快速マリンライナーは瀬戸大橋を渡っていた。いよいよここから四国だ。そう思うと、薫は身が引き締まった。果たして、望はどんな人と結婚したんだろうか? ぜひ、望の妻を見たいな。いい関係を築いているのか、気になるな。栄作が怖いけれど、興味本位で行ってしまう。
快速マリンライナーは終点の高松駅に降り立った。ここからは少し歩いて、琴電の高松築港駅を目指す。もう何度も通った道だ。薫は飽きてきた。だけど、やっぱり行きたいな。だって、望の妻を見てみたいから。望が妻といい関係を築いているのか、確認したいから。
高松築港駅に降り立つと、そこには黄色の帯の電車と緑の帯の電車がある。黄色の帯の電車は、元京急の電車で、琴電琴平に向かう。一方、緑の帯の電車は、元名古屋市交通局の電車で、長尾に向かう。薫が乗ったのは、当然琴電琴平行きの電車だ。滝宮に行くには、琴電琴平行きの電車に乗る。電車の中はそこそこ人が乗っている。車内は閑散としていて、みんな座っている。
電車はゆっくりと高松築港駅を後にした。薫はしばらく車窓を見ていたが、次第に眠たくなってきて、瓦町に着く頃にはすっかり寝ていた。新幹線とマリンライナーの乗り継ぎで疲れているようだ。
起きるとそこは、仏生山駅だ。仏生山駅は琴電の車両基地で、様々な車両が留置されている。ここにはかつて、全国各地の古い車両が数多く留置されていて、まるで博物館のようだった。だが、そんな車両は引退し、解体された。今では、その一部が動態保存という形で走っている。
薫は時計を見た。もうすぐ滝宮駅は近い。薫は流れる車窓を見ていた。故郷が近づくたびに、ドキドキしてくる。望の妻を見たいという気持ちと、栄作に会ったらどうしようという気持ちが交錯している。いつになったらドキドキせずに帰れるんだろうか? もう普通に帰る事はできないんだろうか? そう思うと、涙が出そうになる。もうあの頃には戻れないんだと思い、下を向いてしまう。この感情、どうにかならないんだろうか?
電車は滝宮駅にやって来た。薫は深く深呼吸をした。また帰ってきた。あれだけ遠かった故郷が、近く見える。何度も帰っているからと思われる。だけど、本当に帰ってこれて、またここに住む日は来るんだろうか? もう来ないんじゃないかと思えてくる。もうあの頃の罪はいいから、またここに住みたいよ。栄作にお願いしたいけれど、栄作は頑固だ。そんな事、許してくれないだろうな。それに、後継ぎは望だろうから、自分の居場所なんてないだろう。東京でうどんチェーンの店長をしていろと言われるだろうな。夢は、ここに帰って、池辺うどんで働いて、栄作や望と一緒にうどんを作る事なのに、それはもうできそうにない。自分にはもう無理だろう。




