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結婚式からしばらく経った。薫はいつも通り働いていた。望が結婚した、結婚式を挙げたなんて、全く知らなかった。明日香は知っていて、参加したが、薫には伝えるな、来させるなと栄作に言われていた。栄作の命令には絶対に従わなければならない。なぜならば、薫は栄作と縁を切られているのだから。もしやってきたら、追い出されるだろう。そして、東京に帰れと言われるだろう。
薫は仕事を終え、自宅に帰ってきた。もう何年もここで過ごしている。自分は店長して、多くの収入を得ている。貯金がたくさんある。だが、何もかも恵まれていない。恋にも、そして縁にも恵まれていない。あの時の過ちがいつまで経っても自分を引きずっているようだ。そう考えると、どんなにお金があっても満足できない。幸せな家庭を築いていれば、そうならないのに。お金は十分あるのに。自分は家族を失ってしまった。もう取り戻すことはできないだろう。
薫はインターネットをして、時間をつぶしていた。薫は帰る前に居酒屋で飲んできて、少し酔っている。明日は休みだ。しっかりと休養を取ろう。
突然、電話が鳴った。誰からだろう。薫は受話器を取った。
「はい・・・」
「明日香です」
明日香だ。こんな時間に、どうしたんだろうか? 家族の身に、何かあったんだろうか?
「どうしたの?」
「望さん、結婚したんだって」
それを聞いて、薫は驚いた。まさか、望が結婚したとは。結婚式はもう挙げたんだろうか? 自分も出席したいな。追い出されてもいい。望の晴れ姿を見たいな。
「本当?」
「結婚式、挙げたらしいよ」
薫は呆然となった。もう結婚式も終わったとは。だが、どうして言わなかったんだと薫は言わなかった。薫は思っていた。おそらく、栄作が薫に言わないように言ったんだろう。薫には出席してほしくないから、言わなかったんだろう。もう縁を切られたからな。
「そうなんか・・・」
「どうしたの?」
明日香は薫の声が気になった。何か、悩んでいるような雰囲気だ。
「知らなかったな。どうして伝えなかったんだろうと思って」
「誘いがなかったんだもん」
「そっか・・・」
やはりそうだったか。もう栄作とは縁を切られているから、結婚式に誘われなかったんだな。つらいけれど、自分はもうそんな身だからな。
明日香は思った。薫は結婚式に行きたかったんだろうか? 栄作とは縁を切られているけれど、望の結婚式には行きたかったんだろうか?
「行きたかったの?」
「うん・・・」
やはり行きたかったようだ。血はつながっていないけれど、栄作の養子だからな。そりゃあ、行きたかったよな。明日香は、薫の気持ちがわかった。栄作と復縁したいんだろうな。できるかどうかわからないけれど、復縁したいと何度も思っている薫は一生懸命だな。
「行けなくて、つらかったよね」
「うん・・・」
薫は泣きそうだ。行きたかったのに。望の晴れ姿を見たかったな。こうして、栄作への思いが強くなったのも、故郷への想いが強くなったのも、望と出会ってからだ。
「じゃあね」
「じゃあね」
電話は切れた。栄作は空を見上げた。その先には香川県がある。だけど全く見えない。今頃、望は新婚生活を送っているんだろうな。孤独な自分とは正反対だ。幸せそうだな。罪を犯していなければ、自分も結婚できていたかもしれない。そして、店を継げたかもしれない。なのに自分は、東京で一人暮らしだ。とても寂しいな。
「結婚したのか・・・」
薫は思った。また行ってみようか。そして、新婚生活を見てみようかな? どんな生活を送っているのか、とても気になるから。
「ちょっと行ってみるか・・・」
明日から2日続けて休みだ。新幹線と在来線で行ってみようかな? 追い出されてでもいい。行ってみたいな。
薫は家族写真を見た。そこには、栄作と死んだ母の写真がある。栄作と仲良くしていた頃の写真だ。あの頃はよかったのに、自分は犯罪で全てを失ってしまった。栄作には申し訳ない気持ちだ。だが、どんなに謝っても、元の栄作は戻ってこない。残念だけど、それが自分に課せられた罰だ。自分は前科という十字架を一生背負って生きていかなければならないだろう。仕事では順調にしているのに、池辺うどんの後を継げないからだ。望が次の後継者だろう。残念だけど、自分にはそんな資格なんてないだろう。
薫は明日の支度を整えていた。整えると言っても、明日の着替えぐらいだ。その他に持っていくものはあんまりない。日帰りだし、池辺うどんの周辺を歩くだけだが、すぐに東京に戻るだろう。
薫はパソコンの電源を消して、部屋の明かりを消した。今日はもう寝よう。そして、明日の出発に備えよう。薫はベッドに横になり、そのまま寝入った。明日、望に会えますように。そして、栄作に鉢合わせになりませんよう。もし、鉢合わせになったら、絶対に追い出されると思うから。




