17.咲きて呼ぶ
喪われたはずの浅草十二階の屋上。
積もらぬ雪の舞う冬の宵。
十二階の乙女は、約束を守っていた。
金木犀は、咲いた。
土曜更新ですが、連休仕様でお届けします。
あやか。
娘は答へた。
あやか。
姓を云はずに名のみを。
さうして私は憶い出す。
或の大震災を。
或の大火を。
鳴動した大地、潰れた家。燃え尽きた街、死んだ男の顏。折れ傾いた十二階と其れを打ち崩した土煙。咲かなかつた花と來なかつた娘。
金蜜色の火花は雪風に消え、袴の裾を足に絡める。凍えた指は花火の燃えさしを取り落としていた。
それでも。
――それでも。
娘の誠意に、私は応へねばならぬ。
假令何があらうとも。
私は答へる。
さい。
娘は顏を綻ばせ、腕の中のものを差し出した。
鹿子?
金蜜色の、其れは花。鋸齒の大きな濃緑の葉に、鹿子のやうに咲いてゐた。
さい?
娘が微笑んだ。
私は金木犀の枝を受け取る。強く甘い香は、幻では在り得ない。
あゝ、さうだ。
金木犀は、咲いたのだ。
咲いて、私を呼んだのだ。
何時から何時までが夢なのか。
何處から何處までが幻なのか。
――もう良い。
私は右手を、懐紙に包んだ線香花火を娘に差し出す。
此れは君のものだ。少しだけ遊ばないか。さうして花火が終わつたら。
往こう。共に。
娘は、恥ぢらうやうに私の手を取つた。ひやりと細い指、滑らかな掌が私の手を包み、輕く振つてから手を離した。
離したのだ、あやかが。
さうして背を向ける。
長い黒髮を雪風に流して、一人で歩き始めた。
私も附いて行かうとした。何時かの時の樣に、娘を追ひ越さうとしたのだ。娘より先に往かうとしたのだ。
越せなかつた。
一瞬摑んだと思つた袂が、髪が。ほんの僅かも触れもせず、伸べた腕を、絡めた指を擦り抜けてしまう。
風のやうに、雪のやうに、或は花火の火花のやうに。この掌から零れてしまう。
待つて、待つて呉れ。
待つたのだ、私は君を待つていたのだ。
雪風が白く濃く行く手を遮り視界を覆ふ。
其の白さに目が眩む。
其の白を追い遣るやうに、或は私を抱くやうに。
只私の眼に映ずる金蜜色。
花。
花火。
—―花。
割とあるシチュエーションですかね。
ホラー系なら、付いて行くと死にます。
拒否ると恐怖の底に叩き落された上に呪い殺されます。
あれ? 二択ですらないんだ?
にしても、土曜朝掲載して、その日のうちに地震報道テロップを見る頻度が高い気が…
それとも、他の日も同じほど揺れてるのか?




