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名も知られぬ大賢者は畑を作って余生を過ごす  作者: まーサンタ
第二部 畑の隣に人が増える

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第十一話 新しい鍬



 朝。


 アルヴェインは畑の端に立っていた。


 土を眺める。


 春に向けて、少しずつ畝を増やしたい。


 しかし――。


「……鍬がもう一本いるな」


 今使っている鍬は、一本だけ。


 一人なら十分だった。


 だが最近は、ミレアやトーマが手伝いに来る。


 畑も少しずつ広がっている。


「道具くらいは増やすか」


 アルヴェインは村へ向かった。


     ◇


 村の鍛冶場。


 中から、


 カンッ!


 カンッ!


 と鉄を打つ音が響いている。


「ノア」


「……誰だ」


 振り返った男が、アルヴェインを見る。


 無精ひげ。


 大きな腕。


 いかにも職人らしい男だった。


「鍬を一本作ってほしい」


「鍬?」


「ああ」


「どんなのだ?」


「普通のでいい」


「普通?」


 ノアは眉をひそめた。


「畑の土は?」


「少し硬い」


「柄は?」


「長すぎない方がいい」


「刃は?」


「薄すぎないものを」


 ノアが腕を組む。


「……おっさん」


「なんだ?」


「農具に詳しいな」


「毎日使っているからな」


「そうか」


 ノアは鍛冶場の奥へ入った。


「分かった。作ってやる」


     ◇


 三日後。


 完成した鍬を持って、アルヴェインが畑へ戻る。


「……悪くない」


 土へ入れる。


 ザクッ。


 刃がきれいに入った。


「いい鍬だ」


 アルヴェインが呟く。


 そこへノアが来た。


「だろ?」


「ああ」


「お前、鍬を使うのが妙に上手いな」


「毎日使っている」


「それにしても――」


 ノアは鍬を見る。


「握り方が普通じゃない」


「そうか?」


「ああ」


 アルヴェインは少し考える。


「昔、剣を使っていたからかもしれんな」


 ノアが目を見開いた。


「剣?」


「ああ。昔の話だ」


「……そうか」


 ノアはそれ以上聞かなかった。


 ただ、職人として一つだけ思った。


 この老人の手は、農夫の手だけではない。


     ◇


 夕方。


 ミレアが畑へやってきた。


「アルじいさん!」


「ああ」


「新しい鍬?」


「そうだ」


「いいですね」


「ノアに作ってもらった」


「じゃあ、私も使っていい?」


「壊すなよ」


「壊しません!」


 ミレアが鍬を握る。


「……重い」


「力任せに振るな」


「どうすれば?」


「土の状態を見る」


「土?」


「ああ」


 アルヴェインは隣に立つ。


「鍬は土と喧嘩する道具じゃない」


「……?」


「入るところへ入れるんだ」


 ミレアは言われた通りに鍬を入れた。


 ザクッ。


「入った!」


「そういうことだ」


 ミレアは嬉しそうに笑った。


「農業って、ちょっと魔法みたいですね」


「全然違う」


「どうして?」


「魔法は失敗しても、やり直せる」


「畑は?」


「季節を待たなきゃならない」


 アルヴェインは土を眺める。


「だから難しい」


 ミレアは、その言葉を覚えておこうと思った。

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