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霧島ファームの怪物たち 〜お調子者オーナーが起こす競馬界の革命〜  作者: ペンは休み休みもて(ペンもて)


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3/3

ライバルとの邂逅




翌朝、悠馬は氷川が運転する軽自動車の助手席で、窓の外を流れる日高の風景をぼんやりと眺めていた。


「しかし氷川さん、朝の七時出発は早すぎでしょ……」

「種牡馬見学のアポイントは九時からです。移動に一時間、余裕を見て三十分前到着。妥当なスケジュールです」

「相変わらずキッチリしてるっすね……」


今日の目的地は、日高でも有数の種牡馬牧場「ノーザンストームスタッド」。ダンジグ系の種牡馬を複数繋養しており、悠馬が狙っている血統の馬がいる。先日、氷川が手際よくアポイントを取ってくれたのだ。


「しかしオーナー、なぜあの牧場を選んだんです?」

「んー、カケラの能力を伸ばすには、ダンジグ系でスピードと瞬発力を強化したい。あの牧場には、ちょうどいい種牡馬が何頭かいるはず」

「また『勘』ですか」

「そうっす!w」


氷川はため息をついたが、それ以上は何も言わなかった。


---

ノーザンストームスタッドに到着すると、広大な敷地と立派な馬房に、悠馬は素直に感嘆の声を上げた。


「うわあ、スケールが違う……うちの五倍はあるでしょ、これ」

「五十倍の間違いでは」


二人がエントランスで待っていると、奥からスーツ姿の若い男が現れた。長身でモデルのような容姿。高級そうなスーツをさらりと着こなし、自信に満ちた笑みを浮かべている。


「やあ、君が霧島ファームの新しいオーナーか」


男は悠馬を見下ろすように言った。


「噂は聞いているよ」

「どんな噂っすか?w」

「破産寸前の牧場を継いだ、馬鹿な若造——とな」


悠馬は一瞬きょとんとしたが、すぐにいつもの調子で笑い返した。


「そりゃまた、手厳しいことでw で、あんたは?」

「失礼。私は天城颯馬。天城ファームの者だ。今日はここのオーナーに頼まれて、君たちの案内を任されている」


天城颯馬——。悠馬は内心で身構えた。天城ファームといえば日高最大手の牧場だ。そして、田所がかつて所属していた牧場でもある。


「天城ファームの若旦那が、なんでうちみたいな弱小牧場の案内を?」

「興味があったんだよ。田所の爺さんが選んだ新しいオーナーとやらにね」


颯馬の声には、明確な敵意が込められていた。


---

三人は並んで種牡馬の馬房を見て回った。ノーザンストームスタッドには、十頭以上の種牡馬が繋養されている。G1を勝った馬から、重賞どまりの馬まで、その顔ぶれは多彩だった。


「この馬は『ストームブリンガー』。スプリンターズSを三連覇した名馬だ。種付け料は八百万」

「たっか!w うちの年間予算が吹き飛ぶっすよ」

「こちらは『ゲイルダンサー』。芝のマイルで活躍した。種付け料は三百万」

「お、それならギリギリ……」


悠馬は馬房の前に立つと、そっと手を伸ばした。


「おい、勝手に触るな——」


颯馬が制止する間もなく、悠馬の手はゲイルダンサーの鼻先に触れていた。


その瞬間——。


**スピード:青(中程度の光)**

**スタミナ:緑(弱い光)**

**瞬発力:赤(強い光)**

**気性:黄(安定)**

**健康:白(やや弱い)**


さらに、馬の「感情」が流れ込んでくる。プライドが高い。自分を安売りしたくない。もっと走りたかった。引退は早すぎた——


「……なるほど」


悠馬は手を引いた。ゲイルダンサーは、なぜか名残惜しそうに鼻を鳴らした。


「あんた、プライド高いんだな。でも、悪くない」


颯馬が眉をひそめる。


「何を言っている?」

「こいつ、まだ走りたがってる。引退が早すぎたって思ってる。だから種付けでも、手を抜かない。ちゃんと走れる仔を残したいって——」

「気性が難しい馬だって、データにも出ているはずだが」

「データだけじゃわからないことって、あるんすよ」


颯馬はしばらく黙って悠馬を見つめていたが、やがて口元を歪めた。


「面白いな、君は」

「よく言われますw」


---

見学を終え、三人は牧場の応接室に移動した。氷川が持参した資料を広げ、具体的な種付けの交渉に入る。


「ゲイルダンサーに申し込むとして、種付け料三百万。支払いは一括か?」

「分割でお願いしたいっす。うち、まだ余裕ないんで」

「ふん、だろうな」


颯馬はソファに深く腰掛け、悠馬を見据えた。


「だが、ゲイルダンサーの今年の申し込みはすでに一杯だ。来年に回してもらうしかない」

「えっ、そうなんすか!?」

「ああ。だから——」


颯馬は立ち上がり、悠馬に近づいた。


「君に提案がある。うちの牧場で繋養している種牡馬を使わないか? ダンジグ系なら『ストームチェイサー』がいる。種付け料は二百万だ」

「なんでまた、ライバルにそんな親切を?」

「親切じゃない。興味だ」


颯馬は笑った。それは、どこか獲物を見るような目だった。


「君の言う『データだけじゃわからないこと』とやらが、本当に結果を出せるのか——見てみたい」

「なるほど、実験台っすかw」

「そういうことだ。どうする?」


悠馬は少し考えた。天城ファームの種牡馬を使うということは、ライバルの手のひらで踊るようなものだ。だが、選択肢は多くない。


「そのストームチェイサーって馬、見せてもらえます?」

「ああ、構わない」


---

天城ファームは、ノーザンストームスタッドよりもさらに広大な敷地を誇っていた。馬房は百を超え、放牧地は見渡す限り続いている。


「すげえ……これが大手か……」

「感心している場合か。こっちだ」


颯馬に案内され、悠馬たちはストームチェイサーの馬房へ向かった。芦毛の巨漢で、筋肉の塊のような馬体をしている。


「この馬は現役時代、ダートの中距離で無双した。G1は三勝。気性は荒いが、走りは本物だ」


悠馬は馬房の前に立った。ストームチェイサーは耳を伏せ、警戒した目で悠馬を睨んでいる。


「気をつけろ、噛みつくぞ」

「大丈夫っすよ」


悠馬はゆっくりと手を差し伸べた。ストームチェイサーは鼻を鳴らし、牙を剥きかけた——が。


悠馬の手が触れた瞬間、馬の動きが止まった。


**スピード:青(強い光)**

**スタミナ:緑(強い光)**

**瞬発力:赤(中程度)**

**気性:黄(激しく揺らぐ=荒いが、根は臆病)**

**健康:白(強い光)**


感情が流れ込んでくる。怖い。人間が怖い。期待されるのが怖い。走るのは好きだ。でも、負けたらどうしよう。いつも怖い——


「……そうか、お前、怖がってただけなんだな」


悠馬は静かな声で囁いた。


「大丈夫だ。お前の仔は、俺がちゃんと走らせる。怖がらなくていい」


ストームチェイサーの耳が、ゆっくりと前に向いた。そして、巨体をかがめて、悠馬の手に鼻先を押し付けた。


颯馬が、信じられないものを見た顔で立ち尽くしている。


「……あのストームチェイサーが、初対面の人間に懐くとは」

「まあ、俺、馬には好かれるみたいっすよw」

「……何者なんだ、君は」


颯馬の声には、先ほどまでの余裕が消えていた。


---

帰りの車中。悠馬は助手席で、スマホを眺めていた。


「ストームチェイサー、いい馬だったっすね」

「そうですね。種付け料も二百万と、予算内です」


氷川はハンドルを握りながら、ちらりと悠馬を見た。


「しかし、天城ファームの種牡馬を使うのは、リスクではありませんか? あの男、何か企んでいるのでは」

「かもね。でも、馬に罪はないっすから」


悠馬は窓の外を見つめながら、ぽつりと言った。


「ストームチェイサーは、怖がってただけだ。人間に期待されるのが怖くて、だから牙を剥いてた。でも、本当は走りたいんだ。自分の仔が走るのを見たいんだ」

「……オーナーには、それがわかるんですか」

「まあ、なんとなくっすよw」


悠馬は笑ったが、氷川はそれ以上追及しなかった。


---

その夜。悠馬のスマホが震えた。


≪新ミッション:ホシノナミダの配合相手を決定せよ≫

≪現在の候補:ストームチェイサー(天城ファーム)≫

≪決定しますか? YES / NO≫


悠馬は迷わず、YESをタップした。


≪決定しました。種付け料二百万円を予算から支出します≫

≪報酬:厩舎の増築費用 800万円を入金しました≫

≪新ミッション:天城ファームの秘密を探れ≫

≪期限:制限なし≫

≪報酬:???≫


「天城ファームの秘密……?」


悠馬はスマホを見つめながら、今日の颯馬の言葉を思い出していた。


——君の言う『データだけじゃわからないこと』とやらが、本当に結果を出せるのか、見てみたい。


「あいつも、何かを探してるのかもな」


悠馬はそう呟いて、布団に潛り込んだ。明日からは、いよいよキセキノカケラの育成が本格化する。そして、新しい仔馬の誕生に向けての準備も。


「やることいっぱいっすね……おやすみなさい」


こうして、霧島ファームの新たな一歩が、静かに踏み出されたのだった。

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