一つの無礼講
私は今、リスタさんの家の前にいる。なんでこんなことになったんだか。本来、私は光さんの動向を監視するだけで良かったのに。なんで私はあの時パーティに入りたいなんて思ってしまったんでしょうか。
落胆のため息をこぼしながら、ドアをノックする。
「はーい。ってなんだ、アートか。まぁ上がれよ。茶でも飲むか?」
「はい、ありがとうございます。それで、話があるのですが大丈夫ですかね?」
「お、おう。まぁ一旦上がってくれ。母さーん! お茶くれー!」
部屋の奥から「はいはい」と声が聞こえてくる。やはりいい親御さんだ。リスタさんも純粋って感じなので、本当にこの親にしてこの子あり。と言った感じですね。
どうしよう。アートが相談にやってきた。流石にパーティ抜ける……みたいなことないよな! アタシだいぶ怖いぞ! なんせヒカルとあんなにいがみあっちゃったからなぁ。アートのことだし、『怖くなっちゃったから抜けます』みたいなことありそうだよなぁー。
「そういえばリスタさんの部屋に行くのは初めてですね。お邪魔します……って、リスタさん。どうして隅っこで縮まってるんですか? ここあなたの部屋ですよね。」
「だって……こんな時にアートが家に来るなんて……話す内容一択じゃんか。」
リスタは人差し指をツンツンして、唇を突き出していじけていた。
「リスタさんが何を思ってるのか分からないですが、とりあえず言わせてもらいますね。光さんのことですが……」
「あー! 言わないでくれ! これ以上先は言わないでくれ! 頼む! それはアタシの心に踏ん切りがついてから言ってくれ!」
アートは絶句していた。これならダストがこっちに向かった方がマシだったんじゃないか、と思えるほどに。
「リスタさん。私がこのパーティを抜けると思いますか? 私、これでもだいぶこの雰囲気が気に入ってるんですよ。」
「お、おう。そうか……。まぁ、そう言われて嬉しくならないやつなんていねぇしな! アタシもその一人だ!」
とりあえず落ち着いてくれて何よりです。さて、ここからどう話を切り込んでいきましょうか……。ちょっとでも悪い方向に行くと、今のリスタさんなら何をしでかすか分かりません。突然押しかけた以上、親御さんには迷惑をかけるわけにはいかないですし。
「とりあえず、光さんのことについて話させていただきますね。あの後、光さんと話してみたんです。どうやら光さんも悪いとは思ってるらしいんです。ここは一つ"仲直り"してみてくれませんかね?」
「……アタシだって分かってるよ。ヒカルと仲直りした方がいいってことくらい。でも……でも!」
「あーはいはい。分かりました。言いたくないんならいいんです。言わなくて。」
リスタがきょとん顔をする。当然だ。リスタだってバカじゃない。アートに根掘り葉掘り聞かれる覚悟はしてた。だが、"言わなくていい"? リスタのバカではないが、天才ではない頭脳ではショートするのは当然のことであった。
「えっと〜……つまりそれはどういうことだ?」
「簡潔に伝えますね。私はリスタさんの事情も光さんの事情も正直よく分かってません。ただ、意見の対立があったんだろうな、ってことしか知らないんです。それなのに根掘り葉掘り聞いても何になるって言うんですか! それなら、今日はリスタさんにリラックスしてもらおうと思いまして。」
アートは持ってきた鞄をガサガサ探る。そして、その中身をリスタの前にぶちまけた。その間も急展開に脳が追いついてないリスタはきょとん顔で黙っている。
「これって……茶菓子か?」
「えぇそうです。今日はいわゆる無礼講ってやつです。一緒に不満とかぶちまけちゃいましょう。」
一通り言いたいことは言えましたね……。人間の体ってのはやっぱり疲れますね。軽く捲し立てるだけで体が休みを欲します。まぁ、その休みは今目の前にあるのですが。
「アート…お前、本当に変わったな! 最初に会った時はこんなやつだとは思わなかったよ。」
「えぇ、そうですね。私自身も、私がこんな感じに人に強く言えるようになるとは思ってませんでした。」
実際、私が作られた時そこまでの感情は作られてなかったはずです。それなのに、私はいつしか感情的になることが増えました。突然な変化に不安や、疑問もありますが、今はそれよりこの場所にいられることが心地いいんでしょうね。
「そういえば、アートってなんであんなにヒカルと仲良いんだ?」
「それは……私にもよく分かりません。なんであんな偏屈な人と仲良いんでしょうか。」
「え!? 仲良いに理由とか無いのか!?」
「無いですね。というか、私からしたら不満だらけですよ。あの人、前に私の家に泊まってた時に私が楽しみにしてたクッキー食べたんですよ? まぁ私は優しいので何も言わなかったですけど。」
つい勢いで嘘言っちゃいました。むしろ光さんはクッキー買ってきてくれる側だったのに。罪悪感で潰れそうです。あとで埋め合わせと口裏合わせをしておかなければ。
「うわぁマジか。そりゃ最低だな。アタシもいいか? アタシはダストのことなんだが、ダストってアタシの結婚相手になるにはキチンとしすぎてるんだよな。アタシの結婚相手はもっとプロポーズに花火ドッカン! みたいな人が良いんだよ。」
アートはクスクス笑いながら答える。その様子は本気でこの空間を楽しんでいるようだ。
「確かに、リスタさんにはそれが似合いますね。」
「だろ!」
リスタはニカっと笑った。そこには先ほどまでのいじけてるリスタはもういない。そこには明日、パーティで何をしようかワクワクしているリスタがいた。
「いや〜楽しかったですね。」
「アタシも楽しかったぞ! アート、今日はこういう場所を作ってくれてありがとな。」
「いえいえ、気にしないでください。」
いやぁ満足です。これであとはダストさんの方が上手くいってれば最高なんですが。
「それじゃあ、私そろそろ帰りますね。今日は本当に楽しかったです。」
「おう! それじゃまたな!」
リスタがそう言った瞬間に、ドォォォォォンと爆発音が走った。
爆発の方向は南東、アスカルト家である。
今回から豆知識コーナーやろうと思います。
最初の豆知識はアートのことで、なんとなく勘付いてる人の方が多いと思いますが、アートがヒカルのことを光さんと呼んでいるのはアートだけはヒカルが自分とは違う世界から来たと知っているからです。




