一つの家
俺には自室と言える自室がない。今までもアートの家かリスタの家に居候していた。だからこそ声を大にして言わせてもらおう。誰か俺を家に泊めてくれ。
「やぁイカル君。君、帰る場所が無いのかい?」
「なんだ、ダストか。あと俺の名前はヒカルだ。」
ダストは『なんだ』と言われたことに少し苛立ちを覚えていたが、そんなこと言ってられる時じゃないことは理解している。今、ダストの頭の中は「これでリスタ様と彼の仲を取り持てたらリスタ様の中の私の評価は上昇の一方だろう。」である。つまり策略と煩悩しかない。
「まぁ名前など一旦どうでもいいだろう。外は冷える。一旦私の家に来ないか?」
「普段ならぜっっったいに断ってた所だが今は天使の囁きに聞こえるよ。」
「では私に掴まってくれ。手を離すなよ。」
なぜそんなことをしなければいけないか疑問だったが、その理由はすぐに分かることになった。俺がありったけの力で肩をガシッと掴んだ瞬間、とんでもない風圧を受けた。気づくと、俺はアスカルト家の扉の前にいた。
「どうだ? 景色は楽しめたか?」
「楽しめるわけねぇだろ。なんだあの風圧は。」
「なんだと言われても、私はただ走っただけだ。それ以外に何があると言うんだ君は。」
「ぶっ壊れ30回フラレ男が。」
「その呼び名流行っているのかい?」
なんのことだか分からないが、とりあえず家に入れてもらった。
家に入るなり多分50人くらいいるメイドに「おかえりなさいませ」と迎えられた。おかえりなさいませもこの規模だとほぼ合唱だ。ダストの部屋に入れてもらったが、デカめの平家くらいの大きさだ。名家はやっぱ何もかも違うということを改めて分かった。
「それじゃあ話を聞かせてもらおう。君はなぜリスタ様と喧嘩をしたんだい?」
「……言いたくない。」
「分かった。私だって鬼ではない。」
「理解があって助かるよ。それじゃ」
「いや待て待て待て待て待て。」
ダストがドアを開けて帰ろうとしたヒカルの腕を掴んで、すごい勢いで引っ張った。その勢いのままヒカルは壁に激突した。
「痛ってぇな! なんで手離すんだよ掴んだんなら掴んだままにしとけよ! あとなんなんだよお前のその馬鹿力!」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは。撤回していただきたい。」
「今聞いてんのそこじゃねぇよ。はぁ、もういい話してやるよ。簡単な話だよ。諦めるリスタを許せなかった。それだけの話だ。」
「なるほど……分かった。だが、一つだけ聞かせてくれ、君はなぜリスタ様にそこまで執着するんだ? 君のそれはまるでリスタ様に何か特別な感情を抱いているように見えるのだが。」
ヒカルは口を噤んだ。と同時に、ここまでか。と言った諦めの感情も湧いてきた。
ずっと隠しておきたかったんだけどな。まさか話すのがこいつになるとはな。
「分かった。話してやるよ。だが、長話は覚悟しろよ?」
「承知の上さ。」




