一つのケンカ
大火の主を討伐した後、俺らはダッシュでダストの所へ向かった。死骸を確認してみようとも思ったが、無理だった。塵すら残ってない。いやー、圧倒的だな。最初はダストに対して本当に強いのかとか不信感持ってたけど、それはもうケーキの蝋燭の火くらい簡単に消え去った。
……結局、今回も俺何もできなかったな。
そう考えてると、アートが後ろから拍手しながら歩いてきた。
「いやぁ、なかなかやりますね。私もびっくりですよ。ここまでやれるとは。」
「なんだ、黒幕みたいだな。アート……と言ったかな? お嬢さん。」
「はいそうです。私の名前はアートですよ〜。あなたも、ダスト……でしたっけ?」
「こらこら、嫌味はやめようぜ。アート。ところでダスト、お前強いんだな。」
「……誰だい? アート。君の仲間かな?」
「前言撤回、ぶっとばしてやる。」
「すまない、気分を悪くさせようとしたわけではないんだ。ただ、男の名前を覚えるのは苦手でね。」
「あぁなるほどね分かったよ。じゃあもう一回言ってやる。2度と忘れんなよ。俺の名前はヒカル。属性は拳。よろしくな。」
「あぁ、分かったよヒカリ。」
本当にこいつ一発ぶん殴ってやろうかな。そう考えてると、リスタが耳元で囁いてきた。
「おい、ヒカル。ちょっと来てくれ。」
俺は無言で頷いた。
二人に聞かれないところまで歩いて行く時、正直緊張が抑えられなかった。どんな内容を話されるか気が気じゃなかった。
「なぁ、ヒカル。ダストのこと、どう思う?」
「なんだ、ダストのことか。」
「『なんだ』とはなんだ。なんだとは。……まぁ、そうだ。ダストのことだ。アタシは正直、あいつのことはあんま好きじゃない。だけど、あいつって名家の出のボンボンだろ? 正直、アタシがあいつとの婚約飲んだ方が、母さんや父さんが楽に暮らせるんじゃないかって。」
「……まぁ、そうだろうな。それを踏まえた上でお前に一個聞きたい。それはお前の"望み"か?」
「違うに決まってんだろ。アタシは英雄になりたいんだ。」
「じゃあ、やめておけ。俺が言えるとしたらこれしかない。」
「…それ、真剣に考えてるか? アタシは父さんと母さんのことを真剣に考えてるんだ!」
「あぁもちろん真剣に考えてるさ! お前のことをな! あのな、ちょっと考えてみろ。子供が望まぬ結婚をして親が喜ぶと思うか? 少なくとも俺は思わない。」
その時の俺はちょっと怒ってたのかもしれない。どうしてリスタはそこまでお人好しになれるのか、なぜリスタは英雄になりたいという願いを持っておきながら、父や母に幸せになって欲しいという矛盾した願いを抱え込めるのか。
その願いは小さな少女に収まっていい願いでは到底無い。リスタもそれは分かっていた。だが、願うことをやめられない。なぜならこの願いを捨ててしまったら自分はどう生きていけばいいのか。どんな自分を目指していけばいいのか分からないのだ。
「……そうは思わないよ。アタシだって父さんと母さんがアタシの幸せを考えてくれてるってことくらい分かってるさ。でも……それでもアタシは二人には幸せになって欲しいんだ!」
「俺の知ってるリスタはそんなことでは諦めないぞ。」
「……ヒカルが知ってるアタシってなんだよ。アタシ達そんな長い仲か? なぁ、まだアタシ達知り合って1週間ぽっちだよな? たったそれだけでアタシの何が分かるってんだよ!」
なんだこいつ。……なぁリスタ、俺は本気でお前のことを思ってるんだ。そんな言い方はないだろ。
そんな言葉を口に出そうとしたが、やめた。もうリスタには何を言おうが無駄な気がした。
実際、ヒカルが思ってるようにリスタの顔は赤面していた。悔し涙を溜めていた。
ヒカルなら信用できるから、しっかりと相談に乗って、アタシを導いてくれるはず。
リスタはそう思っていたのだろう。だが、ヒカルはこの世界に入って1週間。まだ慣れていないことの方が多い。それなのに一人の大切な仲間の人生を決めなければならなくなるなんて、到底、一高校生に抱え込める責務ではなかった。ヒカルはそこまで決めれるほど立派な大人ではない。自分がそれを痛いほど理解していたのだ。
「……さっきから言わせてみればごちゃごちゃと……。俺だってそこまで立派じゃないんだよ! それをお前は……お前は! お前は俺を聖人君子だとでも思ってんのか!」
リスタは面食らったような顔をしていた。おそらくヒカルが喧嘩腰で言い返してくるとは思わなかったのだろう。
「……分かったよ! もう分かった! ヒカルに相談なんかしたアタシがバカだったよ!」
「あぁ!? なんだその態度! もうお前のことなんか知らん。勝手にやってろ。」
本当になんなんだあのガキは。人がせっかく相談に乗ってやったってのに。ったく。もういいわ。
「あの、ダストさん。あの二人、なんだかケンカしてそうじゃないですか?」
「奇遇ですね、アート。私もそう思ってました。」
「どうします?」
「まぁ、仲間がこのような状況の時は仲を取り持つというのが条理だろう。よし、私はリスタ様のところへ向かうから君はピカルのところへ向かってくれ。」
アートは走り去ろうとするダストの襟をガシッと掴んだ。
「アート何をするんだ! 私がリスタ様のところへ向かうのは当然のことだろう! 婚約者だぞ!」
「"まだ"婚約者じゃありません。今の所30回フラレ男です。それに、一ついいことを教えてあげましょう。」
アートはダストの耳元で囁いた。
「"押してダメなら引いてみろ"ですよ。」
ダストは大きく頷いた。その目には感謝の意さえ見れた。
こうして二人の仲を取り持つ作戦は始まった。




