一人の求婚者
今日はこっちの世界に来てからの素晴らしい日だ。まぁ簡単にいうと1週間記念ってやつだ。いやぁ、長かった気もするが短かったような気もする。唯一の難点と言えば、この喜びを誰にも共有できないことだ。アートには言って大丈夫か?
「ヒっカっル! どうしたんだよ。なんか上機嫌じゃんか。」
「ん? あぁ、そうだな。上機嫌だな。はっはっは。」
「……だいぶキメェって。やめてくれ。」
「それはすまねぇな。悪かった。」
今日は上機嫌だからリスタから何言われても多分動じないと思う。俺が動じるとしたら、リスタが街中で急に告られたり死んだりする時だけだな。まぁ言っちゃあれだがリスタに女っ気はあんまり無いし、死ぬ未来もこんな街中じゃなかったしな。きっと大丈夫だ。
「あの……夫婦喧嘩は終わりましたか?」
「「夫婦じゃねぇし!」」
「アートも言うようになったな! 最初のおどおどしてた感じが懐かしいよ。」
「言うて"1週間"経ってないくらいだけどな。」
「やけに1週間強調するな。」
「気にすんな。」
やっぱこいつらと話すの楽しいな。手のかかる娘と姉と話してる気分だ。ずっとこんな毎日が続けばいいのにな。
実際、ヒカルは暗示や思い込みなどではなく楽しんでいた。現実世界も楽しくなかったわけではなかったが、やはり人として生きるなら一回はスリリングな人生を送りたいものだろう。当然、怖い思いもしたがそんなのはどうでもいいと思えるほど楽しかった。
草葉の陰から、男がにじり寄ってくる。対象は、男1、女2で街を歩いているグループだ。手を後ろにして何かを隠し持っている。何をしでかすか分からないものは怖い。それはこの世の条理だろう。
男が飛び出してきた。リスタは呆れ顔だ。顔見知りだろうか。一応、アートと俺は身構えた。手に持っているのは赤い薔薇の花束のようだった。
「リスタさん! 私はあなたを愛しています! お付き合いさせていただけないでしょうか!?」
「「はぁ!?」」
「私の名前はアスカルト・ダスト! アスカルト家の元首にして最高戦力! この度は昔から麗しきリスタ様に30回目の告白に参りました!」
「あー! もう! 多いって! アタシは英雄になるんだ! アスカルト家になんか興味はないの!」
リスタとダストとやらがワーワー言い合っている。正直、ちゃんとしたことが言える気がしない。俺は今動揺している。
「なぁ、アート。アスカルト家ってなんだ?」
「そんなのも知らないんですか、呆れますよ。……まぁとりあえずこの世界の有名な家だと思えば大丈夫です。」
なるほど……こりゃちょっとめんどいな。この好意を利用できたらいいんだが……。どこでリスタと知り合ったんだか知らんが、利用できるならいいんだが。
「あの…少しいいですか?」
あーとが口を開ける。ワーワー言い合ってた二人が一斉にこっちに顔を向けた。
「いいぞ。だが、手短に頼む。私はリスタ様に愛を伝えるので忙しいのでな。」
「ダストさんはきっとリスタさんの力になりたいんですよね?」
「あぁそうだ。それがどうかしたのか?」
「なら、一時期だけでも私たちのパーティに入ってくれませんか? まぁリスタさんが良ければですけど。」
リスタはうーんうーんとあたまを悩ませていた。きっと、めんどくさいやつがパーティに入ることのデメリットとシンプルにパーティのランクが上がることのメリットを天秤にかけているのだろう。
数分後、リスタが覚悟を決めた。
「よし! そうしよう。ダスト、アタシの仲間になってくれるか?」
「あぁ、愛しのリスタ様! もちろんでございます。では、誓いのために手の甲に口づけをさせてください。」
「キメェわ!!」
こうして、名家の元首、ダストが仲間になった。
今回のは前の森の一部を守る者よりだいぶランクを上げて、大火の主と戦うことになった。正直、無力感は感じる。俺が活躍した戦いって正直ロックフロッグくらいだからな。まぁミツは俺一人で勝ったけどな!
大火の主は正直足がすくむくらい見た目が強い。全長10mくらいで常に全身から炎が立ち上っている。正直怖いが、もうあの頃の俺はもういない。ダストの前にボコボコにしてやる。
「ではリスタ様、劇をご覧あれ。開演の時間にございます!」
ダストは飛んでくる炎を恐れずに低い姿勢で走って向かう。右手には剣が握られている。飛んでくる炎を剣で斬り払いながら詠唱を始めた。
「祖よ、私が立つ大地はあなたにより成り立っています。どうか、私に加護を!」
唱えた瞬間、速度が上がった。炎も斬り払うではなく、弾くまでになっていて、明らかに強くなっている。
大火の主まであと100m、ダストはさらに姿勢を低くした。そして、俺らの方に飛んでくる炎も全て弾いている。
大火の主まであと50m、射程圏内まであと40mといったところか、まだまだ速度が上がる。
大火の主まであと30m、格の違いとはこのことなのだろう。付け入る隙が一つもない。大火の主は炎ではなく、溶岩のような物を波のように出してきたが、ダストがマントを翻すだけで全て蒸発してしまった。
そのまま大火の主はダストの射程圏内に入ってしまった。そして、目にも止まらぬ連撃で切り刻まれた。事前情報だと再生すると聞いたのだが、再生すら許されなかったようだ。
「リスタ様、終わらせてまいりました。いかがでしたでしょうか。私の舞踊は。」




