8話 迷宮記録更新作戦①
フレデリクパーティが13階層進出と新マップ更新の情報は学内のみならず冒険者ギルド内でも駆け巡った。
4年生で3階層を抜ける事さえ困難なのに、9階層のフロアボスの壁も越えている辺りが話題になっていた。
冒険者証没収の話が掻き消える程のインパクトだった。
しかも攻略法の公開が大々的に報じられて多くの冒険者が興味を持って確認し、中には早速3階層で試す者も現れた。
行けそうだという声が上がる。実際にやってみてどうしてそういう作戦なのかを身をもって知る。理屈は何となく理解できるが本当にそうなのかは分からないが、実証して問題ないと判断するには一週間もあれば十分だった。
フレデリクが10階層までの攻略法をギルドに公開してから2週間が経った。
執務室で仕事をしているギルドマスターに受付嬢が報告書を持ってやってくる。
「ギルドマスター」
「何があった」
「例の雷華の騎士様が公開した10層までの攻略法の件ですが…」
2週間前に張り出された10枚に掛かれた地図とその攻略法が公開されたのは記憶に新しい。
「それがどうした?」
「黄玉級1名、翡翠級2名と瑠璃級3人のパーティが必要なアイテムをそろえて試しに潜ったそうです。何と、10階層に到達し帰還したと報告が。しかも9階層のフロアボス樹巨人を記載にある攻略法によって怪我せずに倒せたとも」
「何だと!?」
「上位冒険者をそろえないと不可能とさえ言われてきた10階層進出を黄玉級冒険者一人だけの6人パーティでですよ。凄いですよ、これ」
報告書を出しながら受付嬢は説明を加える。
「何と………。」
「どうするんですか、ギルマス。その冒険者証の事」
「無論、返すに決まっているだろう。その為にギルドの法を明確にしているんだ。………帝都の英雄の息子と聞いたが凄まじいな」
「何せ雷華の騎士様と言えば近年最高の冒険者じゃないですか。あんな可愛らしい男の子だとは思いませんでしたが」
「そうだな。……だが、俺は運が良い」
「?」
「本来であれば無礼を咎められ首になる所を大仕事を任せられる事になったんだ。相手を15になったばかりの子供だとは思えぬ程の大物だ。期待に応えねばならん!」
賄賂を貰っていた典型的なお役人ギルドマスターが野心に燃えていた。ギルド職員は若干引いていた。
「まあ、そうですよね。帝都の英雄の息子って、帝位継承権保持者って事ですし。殿下に喧嘩売ってよく無事でしたよね」
ギルド職員の呟きにギルドマスターは大量の冷や汗を流すのだった。図星だったからだ。
***
2年A組ではエルッキの周りに多くのクラスメイトが集まっていた。
仲間が5階層に行ったという話を聞いて盛り上がっている中、ケビンが攻略法の紙を読みながらやって来る。女子から黄色い声が上がったのでエルッキも気付く。
「おはよう。今朝迷宮から戻ってギルドに寄って来たんだけどさ」
「ケビン、お前朝から修行か?」
「あははは。まあ、それは置いておいて。凄いね、雷華の騎士。彼の攻略法通りにやった冒険者パーティが10階層に到達したって話題になってたぜ。この攻略法なら10階層到達は難しく無いって冒険者達の中で凄い話題になってた。凄いね、何者なんだい?」
黒髪の美男子は友人に声をかける。
「帝都の英雄の息子で、まあ、昔から知恵の回る奴だったよ。要領が良いっていうか口先と頭がよく回るっていうか。腕力が強かったけどそれ以上に頭が回るって印象かな。ヴィルヘルム様は『フレデリクは兵士よりも軍師、騎士よりも王に向いている。偉くなればなる程、才能が発揮されるだろう』と評した程だからな」
「雷華の騎士と言えばギレネ王国で、複数同時スタンピードを前に、実力と頭脳でもって迷宮の謎を解いた上で、ギレネ王国軍を指揮して自ら流砂王と戦って生還した、頭脳とカリスマ性を持っていると聞いていたが……」
「カリスマ性は知らんが、ガキの頃から白狼騎士団に出入りして何故か指揮官側に回っていた奴だからな」
「何故に?」
「最初は『僕はこういう感じだから皆はもっとこういう風に立ち回って欲しい』と言う感じでお願いをして、徐々に要求が指示に変わり、効率よく敵を倒せるようになるから周りも話を聞くようになって、いつの間にか副騎士団長たちと並び的確に指示を出すようになってたって話だ。10歳にして迷宮内部調査の帯同経験がある頭の可笑しいガキだからな。確かに個人の能力が高いんだが、それ以上に指揮官としての資質が高いって聞いてた」
「へえ。通りすがりの他国の騎士団を指揮できる程に?」
「そうなんだろうな。元白狼の人達は力ある人じゃないと認めねえ。フレデリクはガキの頃から魔物が騎士団や領軍の囲みを食い破って外に出てきた際、封じる策を提案して時に自分さえも囮にして民に被害が出ないように動いていたからな。その実績があるから、何気にガキの頃から、誤った指示を出すなら陛下にさえ噛みつくと言われた白狼騎士団の人達がフレデリクの話はよく聞いてた位だ」
するとそこにシルッカも加わる。
「リッ君は腕っぷしよりもその可愛さでしょう。分かってないなぁエル君は」
「いやちょっと待て。俺から言わせると男が可愛くても何も嬉しくねえからな!?」
シルッカの暴論にエルッキは否定する。
「確かにかわえー子やったわ。抱き枕に一人ほしーわ」
そこに乗って来たのはシルッカの友人であり留学生のリュディアーヌだった。
「分かるでしょ。あれ、リュディってばリッ君と会ってるの?」
「会っとるで。冒険者時代にティファの親父さんが雇った冒険者だったって言うてたで。ウチらの国の勲章持ってたからな。クラウディア先輩も嬉しいけどこんな大々的に発表されたら私が10階層に到達しても大したことないって言われるでしょうって頭抱えてたで」
リュディアーヌが苦笑気味に語る。
「あー、そう言えばそうね」
「シルはあの男と知り合いなん?」
リュディアーヌと一緒にいたティファニーがシルッカに訊ねる。
「アレクサンドラ様の幼馴染だから私も幼馴染よ?私の昔の服とか着せて遊んだなぁ。嫌がるけどその嫌がる姿もまた可愛いの」
だからフレデリクはシルッカが苦手で逃げるんだが………とはエルッキは言わなかった。
「それはどないなん?」
ティファニーが呆れた様子でシルッカを見ていた。
「無理やり女子の服を着せようとして嫌がるリッ君の姿が、着崩れした美少女にしか見えないのがまた…」
「今度5年の教室に来たらそれやりたいな」
ギラリと目を輝かすリュディアーヌ達女性陣にエルッキは遠くを眺める。
ただ、遠くを眺める中にハアハアする女子の中に男子が混ざっていたりして、女にしか見えない親友の悲しい状況を憐れむしかできなかった。
フレデリクは自覚は無いが割と女子に人気がある。だが、羨ましいと思ったことが無いのはそういう部分かもしれない、とエルッキは他人のように眺めていた。
「エル」
女子が混じってフレデリク女装化作戦の話に移る中、エルッキに声をかけて来たのは話題の中央から外れたケビンだった。
「何だよ」
「4年の連中はどうだったの?フレデリク君以外の男達は」
「まあ、粒ぞろいかな。アルバンって奴は剣技だけならお前より上かも。ただ魔物と戦い慣れてないから下手なんだわ。骸骨兵相手には俺より戦果を挙げてたのに、普通の魔物相手には上手く勝てねえ。ま、苦戦しても余裕があるからツエーのは確かだな」
「へえ。ヘルムート様と同じタイプかな?」
「それよりは泥臭いかな。元傭兵だったらしい。あと、マインラートって奴は魔法がヤバいな。ウチのお姫様には及ばないけど、火魔法LV8で間違いなく学園トップクラスだ。帝国の直臣貴族なら七大魔道に推薦されてもおかしくねぇ。リューネブルクの庶子の奴もバランスが良いし何でもできるっていう点じゃ、5~6年に入ってもトップクラスのオールラウンダーになれる。レオナ先輩とかカスパル先輩の経験詰む前って感じかね。マルコって奴は優秀なヒーラーだな。動けるし、攻撃も足を引っ張らない程度にできるし、4年にしてはかなり良い線いってる。」
「とすると優秀でも即戦力にはなりそうにないか」
「そこは仕方ねえだろ。4年生に何を求めてんだ?」
「俺と、エルと、魔法使いと治癒術師にフレデリク君がいれば、15階層の先に行けるんじゃないかって思わない?」
「………無理とは言わないし、俺だって15階層越えは卒業前に成したいとは思ってるぜ。親父越えは俺にとっても……」
エルッキは口にして気付く。
フレデリクはへらへらしているしこの位ならできる出来ないと見極めていた。父親越えを目標にしてるのは自分だけではない。戦闘能力の高いパーティで挑めば行けるのではないかと感じるのだった。そしてそれはフレデリクも同じ思いだろう。
だが、フレデリクは15階層に単独で行けるだろうと言っていたほどだ。恐らく自信もあるのだろう。
「でもなぁ。オールスターで挑むって言うならヘルムートを誘うっての?アレは無理だろ」
「はあ?アレはお座敷剣法だろ?アレに頼むなら、エルから見ても俺ら以上の技術があるって言う1年のアルバン君とやらの方が上だろ。何度か組めばあっという間に戦力になるんじゃないか?フレデリク君って子もその辺は考えて戦ってたんじゃないか?」
ケビンの言葉はもっともだった。フレデリクは明らかに4年生のレベルアップの為に仕事を割り振っていた。
仕事を押し付けているようにも見えたが、彼らを育てようとしているようにも見えた。
「手を伸ばせばもっとできるだろうし、仲間のレベルが上がればもっと強いだろうとは思った。実際、アークデーモンを一人で6体瞬殺だ。アイツ自信の力量が半端じゃねぇ」
「ほう。6体を?1対1なら勝てないとは思わないけど……」
「言っちまえば、アイツにとって既に過去の情報が手に入っている10階層進出は、軽いレクリエーション程度の感覚だったんだろ。この3年、アイツとのあった実力差を埋めたつもりだったが、剣術のみの話で総合的にはもっと話された気分だったぜ」
「まさか目標に掲げていた冒険者が後輩として入学するとは思いもしなかったけどね。一流の実力を肌で感じるチャンスと思ったんだけどな」
ケビンは肩を竦め、エルッキは苦笑する。
エルッキは思い出す。同じ編入生で共に実技試験を受けて、二人で校長に挑んだライバルであり最初の友人でもあった。そして紅玉級を目標と掲げたケビンと父親越えを目標に掲げたエルッキは校長に大いに笑われた。
どっちも帝国で10人といない頂点の技量を必要とする立場だからだ。
エルッキは自身の父が校長に一目を置かれるような優秀な剣士だったと初めて知った。帝都の英雄のオマケとは考えられてなかったのが誇らしかった。
***
フレデリクは、職員室で周りが思っているよりもとんでもない内容を提案していた。
「西部迷宮の事前練習として15階層の先に行きたい!?」
提案を復唱してしまったのは4年B組の担任グラーツ教諭だった。
「はい。あと、この迷宮が何層まであるのか確認したいですね」
「そういった事は学生でやり給え」
ルーベンス教頭が眉をひそめてフレデリクを見る。
「はあ?学生じゃ難しいから教師に頼みに来たんですけど」
ジロジロと教師達からフレデリクは見られていた。問題児の子供は問題児だったかと言わんばかりに視線にさらされていた。
「そもそも迷宮の階層は自身の足で潜らねば分らぬだろう」
「ちょっと偶々上手く行ったからと調子に乗りおって」
「ガキはこれだから」
偉そうな教師達はフレデリクの方を見ながらぼそぼそと口にする。
「……ん、まさか風魔法か?」
不精髭を生やした中年教師が手を叩いて何かを思い出すように口にする。冒険科のマヌエル教師だった。
「風魔法?」
エーベルヴァインが同僚に視線を向ける。
「昔、風魔法による反響を使って階層がどこまであるか判別する魔法があると、論文で読んだ事があります」
マヌエル教師はエーベルヴァインに説明する。
そんな言葉に反応したのは保健室から戻って来た養護教諭のヒルデガルトが事実であると認める。
「ヴィルヘルムの書いた論文にありましたね。難しくて風魔法の苦手な私ではできませんでしたが」
「うむ西部迷宮の階層が明らかになったのはそれだったな」
校長もよく勉強しているものだと感心する。
「僕が13層の入り口で使ってみたのですが最下層に届きませんでした」
フレデリクは首を横に振る。
「さすが剣と魔法を使いこなす紅玉級冒険者か。知ってたんだな」
「僕に最初に魔法を教えてくれたのはヴィルヘルム様ですから。西部迷宮最終層を知っていたのもそれが事実で敵の場所を把握したうえであと一歩まで行っていたんです。それに僕は好奇心が強いので魔力の扱いが下手でも魔法の原理を教わっていたので、この3年で魔力の扱いを習得したから出来るようになったことです」
「そんなものはどうでも良い。学園は生徒の学びの場であって教師の戦いの場ではない。校長、こんな話を聞く必要はありません」
ルーベンス教頭はフレデリクを睨む。
「迷宮はガキの遊び場じゃない。経験させるだけであって、本格的な攻略は学生以外がやるべきでは?僕は攻略の話をしています」
「だが、本校の学生が記録を作ったのは知っているだろう。無能な冒険者共よりも多くの貴族が通う本校が優れているという事だ」
教頭は自分の手柄を誇るかのように語る。
「僕にそれを言うのは愚問ですね。家族自慢でもすれば良いんですか?」
フレデリクの突込みに周りの教師は失笑する。
その記録を作ったのがフレデリクの両親と伯父夫妻と友人の父というパーティ構成である。
「逆に……何故情報を秘匿してた?学生間で情報を受け継いでいたけど、冒険者ギルドで情報公開されてなかった。僕が攻略法を公開しただけで上級冒険者が10階層攻略が可能になったと聞いている。何故、学園は優秀な学生の出した結果だけを公開して迷宮情報を秘匿した?」
「迷宮で得られたものは金になる。情報もそうだ。まあ、当時陛下が生存の為に金が掛かるからと儲ける為にあらゆる宝や情報を売って稼いでいたんだ。それはお前の母親も同じ事だぞ」
校長の言葉にフレデリクは、皇族なので命の危険があった事は察していた。いつでも逃亡資金や医療費など、大きい金を出せるように手回ししていたという話だった。有能で生き延びる為に手を尽くすあたり、帝都内乱で生き残り皇帝に成ったのは伊達では無いのだろう。
「成程。………目先の生存が天秤に掛かってちゃ無理な話か。それでも今の今まで隠す必要はなかったでしょうに」
フレデリクは校長を見る。
「リッ……フレデリク君。無茶を言わないの」
フレデリクが少し教師に噛みつき始めた辺りで間に入って来たのはヒルデガルトだった。
昔の癖でうっかりリッ君呼びしそうになっていたが体裁は整えていた。
「無茶ですか?少なくとも公共機関である学園が生徒の権利を守りながらも広めるべきでは?」
「それは………」
「ヘレントルが中堅冒険者を過ぎると出て行くのも7層を抜けるのが難しいからでしょ?僕のやった事は役割を決めて適切なメンバーで作戦を練る事で抜けただけですが、この内容って陛下のやった内容のアップデートに過ぎないんですよ。もっと早く公開すれば多くの冒険者達が中堅以降が多く抜け出して10層まで冒険者が進むはずです。あのエリア、僕ら一流冒険者なら一人で抜け出してボスを倒せますが、そうでないと困難、みたいな感じで諦めが見られる印象でした。こういうやり方があるんだと分かれば多くの人間が進出するでしょ。学園の冒険論文にも同じ内容はありました。学園だけが知ってる状況は好ましくありません」
フレデリクの言葉に教師達も反応が二分する。学生如きが何をと嘲笑う側と、もっともな話だと頷く側で割れていた。
考え込んでいた校長はフレデリクを見て訊ねる。
「お前は12層に行って風魔法で何階層あるのか確認したな?」
「ええ。とはいえ1年とエルッキの混成チームで、帰りに予定のなかったアークデーモン戦があったし、5層には復活予定のゴーレムもいたのでMPを少し残しての魔法ですので、大して奥へは飛ばせませんでした。この規模の迷宮ですからね」
「何層まであった?」
「それはこの場では言えません」
フレデリクが首を横に振ると、ルーベンス教頭が鬼の首でも取ったように
「貴様も情報開示しないではないか!よくも情報開示を提案しておきながら隠すものだな!」
「全くだ」
多くの教師たちが口々にフレデリクをあざ笑う。
だが、校長は顔色を変える。フレデリクは公にできない情報を持ち帰ってしまったと気付くのだった。
「つまり、情報を開示して無責任にヘレントルを混乱する可能性があるという事だな?俺と一度全部腹を割って話そう」
「それがよろしいかと」
フレデリクは校長が正しく言葉の意味を受け取ってくれたことに安堵する。
学生だからと馬鹿にしていた教師には全く期待してなかったが、知るべき人間が正しく認識していた事に安堵する。校長、ただの脳筋じゃなかったんだ、と思ったのは内緒であるが。
「ベルント君、ヒルデガルト君、あと………マヌエル君。同席したまえ」
校長は学園の主要な教師に声をかける。
「エーベルヴァイン先生やバイマール先生はともかく、何故ケール先生が呼ばれるのですか?」
教頭が立ち上がって校長に訴える。
「あのさぁ、教頭。話の流れで気づかない?学園運営ではなくヘレントル運営の話だって事でしょう?貴族様ならその位悟れないのですか?」
校長はヘレントルの目標階層が恐らく攻略不可能なほど深い事を察していた。公にすれば誰もが諦めるレベルだと気付けば口外できなくなる。だから、元冒険者で誰よりも冒険者としてこのヘレントルで活躍していた元黄玉級冒険者でもあるケール教師を呼んだのだ。一般冒険者の目線を持っている人間はこの学園の教師には彼以外に居ないからだ。。
だが、フレデリクの言葉に教頭は怒りと羞恥で顔を赤くして文句を言おうとするが口をパクパクさせて文句を言えないでいる。
貴族なのに何で理解できないの?子供に指摘されてしまえば文句も言えなかった。校長がフレデリクの言葉に理解を示しているのが分かってしまい、自分が本当に分かっていないと悟ってしまったからだ。
「何か、父さんがこの学園で貴族に暴力で対処していた理由が分かるな。父さん口下手でも、偉そうな事を言ってる貴族が簡単な事を全く理解できてないのに、何故か上から目線で自分が正しいと思い込んで他人を虐げるから手が出るんでしょ。馬鹿に愚弄されると殴りたくなりますよね」
「そういう事を言わないの。立場を、……いえ、職分を弁えなさい。そういう事は校長が判断する事です」
「申し訳ありませんでした」
ヒルデガルトはフレデリクを一喝し、フレデリクは即座に頭を下げる。
立場を弁えろ、ではなく身の程を弁えろと言う辺りが、ヒルデガルトの言葉に込められた意味をフレデリクは理解する。
何故立場を弁えろと言わなかったのか。
帝位継承権第5位以内の者は皇帝の子供に限らず殿下と言う敬称で呼ばねばならず、殿下としての発言力を有してしまう。そしてフレデリクは帝位継承権第3位、ヒルデガルトでさえ帝位継承権第5位にある。
立場を弁えてしまったら、何を言っても良い事になるからだ。だから職分と言い換え、フレデリクは姉貴分である同じ殿下と言う立場にある人間に従ったのである。




