7話 ギルドからのペナルティ③
冒険者ギルドにやって来たフェルディナントをギルドマスターは迎えるのだった。
「冒険者証を受け取らない?どうしてですか?」
恰幅の良いヘレントルのギルドマスターは驚いた様子で呻く。
「必要ないからだそうだ。随分と腹立てていたようだぞ」
「や、やはり、私を降格、あるいは解雇せよという事でしょうか?せ、責任を取れと?」
「そうではない」
フェルディナントは溜息を吐く。
ギルドマスターは顔色を青ざめさせて怯えるようにフェルディナントを見る。フェルディナントはギルドマスターがフレデリクをそこらの子供とは違う事を理解していないと感じる。
「本人も呼んだ。面倒がっていたがな。その内来るだろ」
「そ、そうですか」
沈黙の時間がまるで死刑囚の死刑時間を待つかのような時間のようにも感じさせ、ギルドマスターを苦しませる。
数分ほどしてギルド職員がノックをしてフレデリクが来たことを伝え、中に通す。
「何ですか?話す事なんて何もないんですけど」
「俺もお前に何も聞いてないからな。遅く来るとは随分と怠慢だな」
「時間ぴったりですよ。それに僕はこの国で失うものなんて無いですから。紅玉級も辺境伯の地位も学生である事もそれが都合が良いだけであって、いつでも捨てられる」
「力がある者とはそうだな。俺も随分若い頃は面倒だと思ったわ。ラオウルのような野心でもなければ煩わしいだけよ」
カカと笑うフェルディナントにフレデリクは肩を竦める。
「求められなかったヴォルフを羨ましくも思ったがな」
「アレは帝国の大失態でしょうに。僕が帝国貴族ならあんな間違いは絶対にさせなかった」
「将来の事より、自分の身の方が危険だと思ったのだろうよ。今のギルドマスターは同じ心境だろうな」
フェルディナントはチラリとギルドマスターに視線を送る。
「その…ら、雷華の騎士様とは知らず申し訳ありませんでした。私の非礼をお詫びします。冒険者証をお受け取りください」
「事前に聞いていたと思うけど、受け取らないよ」
「や、やはり私が責任を取って首になれと……」
びくびくおどおどしているギルドマスターにフレデリクは目を細めて、横に座るフェルディナントを半眼で睨む。
「……校長。話しました?」
「していないが?詳しい話は俺も聞いてない。だから俺も出向いたんだがな。お前の言い分を聞きたいからな」
シレッと話すフェルディナントにフレデリクは盛大に溜息を吐く。
「今回の事、非常に腹立っているのはそこじゃない。ギルドマスターを責めて終わる話でもない。どうせ貴族のガキが悪さをした、冒険者を没収して親が金を持ってきて和解して終わり。ギルドは儲かるだろうな。その程度の事だと思っていたのだろう?」
ビクッとギルドマスターは体を震わせて顔色を青ざめさせる。
フェルディナントは目を細めてギルドマスターを睨む。
「校長、殺気が漏れてますよ」
「俺の膝元でそのような舐めた事をするものがいようとは思わなかったのでな」
「この帝国が腐っていて貴族共は金銀財宝で人を殴る事くらい、僕より校長の方が知ってるでしょ。抗えないし、それで儲かるのだから下々がそれに屈するのは当然だ。利用するのも当然だ。それを払しょくしたいなら皇帝を叩きのめしてくださいよ」
フレデリクは校長を諫める。その言葉に校長も苦々しい顔をしていた。
ギルドマスターはフレデリクがフェルディナントに対しても自分の意見をぶつけられる人間だと驚いていた。
「ウチの学園にいた頃の陛下ならば問題はなかった。今の陛下は完全にやる気を失っている。妻を失いただでさえやる気を失ったのに、可愛い妹と自分を支えた親友まで失った。この3年で貴族達はさらにひどくなった。ザルム家など天下の執政だと口にしている程よ。うんざりだ」
剣聖さえも帝国の迷走を諦めている事にフレデリクは思う事もあった。が、今はこちらの話だと思いなおし、ギルドマスターを見る。
「問題は僕が紅玉だったから返すというのは筋が通らない。相手の立場によって行動を変えるのは公平なのか?裁定者は公平であるべきだろ。片一方の言い分を鵜吞みにして全てを裁定したな。思い込みのみで話を進めた証拠だ。頭を取り換えた所で同じことが起こるだろう。僕は何度も同じことをするだろう。何度もギルドマスターを差し替えれば良いのか?これはアンタの首を挿げ替えれば良い問題じゃないとは思わないか?」
フレデリクの言葉にギルドマスターは言葉を継げなくなる。正論だからだ。
「ではどうすれば……」
「公平な法を作るべきではないか?どの立場、どの身分、どの種族でも公平なギルドの法を作るべきだ。冒険者という立場は自由であるが最下層の地位にある。庇護者の居ない人間だ。庇護しているのはギルドそのものなのだから。ギルド証の没収など犯罪者を作り出す行為に等しい。それにもかかわらず冒険者ギルドは大陸東部に無数にあってそしてどこにも法が無い。その時々でギルドマスターの恣意によって法が変わる。いや法でもないな。自分がルールだとでもいうのか?本来であれば明確なものがあるべきだ。冒険者学校があるのに、教える事は生きる方法であり、やってはいけない事、やるべきことなど何も教えられない。何故か?ギルドはふわっとした在り方があるだけで、しっかりした法を持ってないからだ」
フレデリクはおかしい事をギルドマスターに伝える。
「!………。雷華の騎士殿の言い分は分かりましたが、流石に私の力でそのようなものを大陸中に広げるなど…」
「はははは。優れた法を作り、ヘレントルの法こそが公平であると誰もが認めるものとすれば他も倣うだろ?地域によって、民族にとって都合の良し悪しはあれどヘレントルの法をもとに獣人の多い地方なら獣人が優遇される法を作られるだろ。ルミヤルヴィ王国は帝国法を真似て法律を作ったという。勇者様の作った法は優れていたのは事実だ。優れている者は真似されるものだと。ウチはこういうのを作ったけどおたくのギルドはどうなってるのって聞いてみても良いだろう。もしかしたらそこから大陸のギルドで大きい話し合いになるかもしれない。」
「なっ……」
「一つ出来れば、時代が変わっても、時代に合わせて少しずつ変えて行けば良いだけだ。国の法と同じだ。まあ、ギルドは難しい事を冒険者達が出来ないから難しい部分を職員たちにやってもらうしかないんだけどね。僕が納得いく法を発布した上で、ギルド証をやはり没収すると言うならそれで良いし、法に従い自分が誤っていたというなら受け取る。通すべき筋さえないギルドが筋を通すにはこのくらいしなければならないだろ?」
フレデリクの言葉はあまりに壮大な事でギルドマスターも絶句する。
「良いねぇ、ギルドマスターはその名が歴史に刻まれるな。冒険者ギルドの法の見本を作った偉大なマスターとして。しかもだ。それが出来る環境がここにある。何せ、この大陸東部で最も多くの冒険者を抱えてるヘレントルで、剣聖フェルディナントが後ろ盾にいるのだから」
フレデリクの言う通りそう言う話が広がれば、自分は紅玉級冒険者を勝手に首にして周りに袋叩きされる身から一転、歴史に名を遺す偉業を残す事になる。
しかもこのヘレントルで。いや、ヘレントルだからこそだ。
「お前、この問題からそんな壮大なことまで考えてたのか?」
「というよりも早いモノがちなのに何で誰もやらないのかって思ってた。まあ、意見としては黄玉級や翡翠級とか真面目に生活冒険者に話を聞いた方が良いだろうね。僕や校長はちょっと経歴がおかしいでしょ?」
「まあ、そうだが……。お前はなんというかヴィルヘルムが自分の後継者にするべく育てられたのだろうなと思わされるな。発想がどこから来てるんだ?」
「問題を解決しようと考えただけですよ。ヴィルヘルム様も政務で色々とどういう対処が正しいかとか質問してくるから。アレクサンドラ様の相談相手として鍛えようとしてるんだな、と思って答えていたら何故か僕が後継者になってたらしいし。どゆ事よ?」
「それは俺も知らんわ」
フレデリクの質問にフェルディナントは大笑いして返答するのだった。
「ま、そういう事なので、ヘレントルとして正しい機能する冒険者ギルドの法案を作ってよ。その結果を持ってギルド証の話を進めよ?」
「分かりました」
ギルドマスターは頭を下げて承るのだった。
結局、フレデリクがギルド証没収された事件は、ギルドマスターが冒険者をギルド法を制定しなければならないという結末になるのだった。
未来において雷華の騎士が大陸冒険者ギルド法の制定に雷華の騎士が関わっていたという話があるのはこれが原因だった。




