7話 ギルドからのペナルティ②
土曜日に出発して翌土曜の夜に帰った為、日曜は休みとなり全員が学園に登校する事になった。
学校復帰初日にフレデリクはマリアの方へと向かう。
「帰って来たんですね。予定通りいきましたか?」
予定表をマリアに問われてフレデリクは首を横に振る。
「まあ、そうですよね。それが迷宮というものです。私達の代で10階層まで行ったパーティはトビアス君のパーティだけでしたから」
「いえ、思ったより10階層に疲労なく行けたのですが、失敗して12回に落ちてしまって。ついでに13層まで足を延ばして予定通りとはいきませんでした。まあ、皆に任せすぎて、僕がいなければ全滅の危機だったので完全に失敗ですね」
「そ、それは失敗というより大成功なのでは?学生で13階層進出なんて帝都の英ゆ………フレデリク君のお父様のパーティ以来の快挙ですよ!」
「そんな何年振りみたいなのかぁ」
「そうですよ」
「あ、で、ちょっと問題が出たんで報告に」
フレデリクは申し訳なさそうにマリアに言う。
「も、問題ですか?」
マリアは拙い事が起きたのかと緊張をする。
「僕がパーティの代表として冒険者証を没収されました。まあ、僕がやらかした事なのでそれは良いんですけど」
「な、何をやったんですか?」
マリアは驚き疲れた様子でフレデリクを見る。
「迷宮内で勝手にルールを作っている連中がいて、無視して先に進もうとしたら、何か絡まれまして。叩き潰してやったんですが、ギルドは僕がルール無視をしたと、問題視したそうです」
「それは……迷宮にルールなんてありましたか?」
「2階層の入った人数分シャドウソルジャーが出るボス部屋があるじゃないですか。あそこで勝手に入場制限かけてた連中がいただけですよ」
「あー、偶にあるんですよね」
マリアはフレデリクの言葉を理解して頷く。
2階層の順番待ちの事だ。
「さあ。勝手に作ったのか、少なくともギルドは関わっているとは聞いてませんね。連帯責任だとか言い出したんで自分一人が責任を取る様にして話を収めました」
「で、でもそれではフレデリク君の単位に問題が………」
「出ませんよ。冒険者の単位は黒曜に上がる活動をして学費を払う事。学費は払えますし、既に紅玉級ですから入学時点にそこら辺の問題はありません。辺境伯家の後ろ盾が無くても僕の個人資産で学費は払えますから。卒業直前にB組に落ちて僕の学費を払えば良いだけでしょ?」
「あ、そ、そうでしたね」
マリアはフレデリクが普通の学生じゃない事を思い出す。
人類における現役最年少の紅玉級冒険者。
貴族や皇族、或いは英雄の息子と言う立場が無くても自力で生きて行けるだけの能力を持っているのだ。だからこそ何物にも縛られない。
しかも初めての挑戦で13階層という大記録を残している。恐らくこれはヘレントル史上初だろう。自身の規格外を証明するかのような活躍だ。
あの全てにおいて完璧だったトビアスが、自分より優れている弟分だと認めるだけはある少年だった。
「何というか、輝かしい活躍とギルドからのペナルティという罰則。見た目はともかく、フレデリク君は帝都の英雄の息子らしい振る舞いですね」
マリアは苦笑せざるを得なかった。
フレデリクとしては狙った訳では無い。だが、それはそれでちょっと嬉しかった。父の息子らしい子とは中々呼ばれないからだ。
「むしろ、問題はギルドが慌てて僕に冒険者証を返すんじゃないかという事です。僕の紅玉級の最低は神聖女神教国、サンブランク公国、ギレネ王国という大国の推挙によるものですから。たかがギルドマスターに僕から冒険者証を剥奪する権限があるとも思えない。それ所か他国のギルドを跨いでいるから国際問題に発展しかねません。各国から勲章も授与されてますし」
「た、確かに」
マリアも気付く。
紅玉級以上の冒険者はギルドマスターよりも高い権限を持っているケースが多い。多くが複数の国家に認められた英雄だからだ。
「必死に返しに来ても僕は受け取らないので、先生が校長に押し付けられても断ってください」
「む、難しい事を言いますね」
「難しくはないですよ。理不尽に冒険者証を没収された。そんなルールは聞いていない。相手の言い分だけを聞いて裁定するのがギルドなのか?相手が紅玉とわかったら無かったことにするのはおかしいだろ?そういう事を言いたいんです」
「そ、それは……ギルドに改革を求めてますか?」
「筋が通らないでしょ。相手によってルールを変えるなんて。どうせ親が金を出して収めるだろうって魂胆じゃないですか?普通の学生が卒業できなくなって、裏社会に回ったらどうするつもりですか?この学校を犯罪者予備校にしたいなら良いですけどね。」
「さ、流石にそこまでは…」
「そうですか?今回の没収を連帯責任にしたらどうなるでしょう?エリアスとマインラートはどうにもなりませんよ。アルバンはどうなるかな?養子のみで問題を起こして後継者不適当と言われたら?あの三人が……まあ、悪党に回るとは思いませんが、偶々そう言う人間が僕の道連れで冒険者証を没収されかねなかった。同じ力があって悪どい人間がいて、ふざけんなって学校辞めて裏社会に回ったら冒険者ギルドは力のある人間を放逐した事になる。学校も問題視されるでしょうね。火系魔法LV7の魔導師は戦略級の扱いです。責任を取れますか?怒りをこの町にぶつけられたら、校長が犯人を切れば終わるが、殺された人間達はどう思います?」
「……」
マリアは陽気なマインラートが悪に染まるとは思えないが、もしも彼じゃない高い能力を持った人間が冒険者証を奪われた腹いせにこの町に火魔法LV7を叩きこんだらどうなるか?大量の人間が死ぬ事になる。
実際、自分を含めて火魔法LV7以上という術者は戦略級扱いで、言ってしまえば教師になる為に名誉爵位を取ったが、教師にならなくても下級宮廷魔導師として強制出仕される事は容易に想像つく。
選べるのは兵器として宮廷魔導士になるか、民間から騎士爵位を賜れる仕事に就くか、冒険者として国を出るかのいすれかだ。
マリアにとって教師と言う立場は、高い能力を持ってしまったが為に無理やり進まされる立場の中から自分が選び取った立場でもあった。
だから、マリアは自分と似た境遇のマインラートの将来は他の誰よりも危惧している。学園に推薦を出していた神父から帝国に良いように使われないようにして欲しいと校長経由でマリアは話を聞いていた。
マリア自身もそういった善意の人に導かれてこの学校に来ていた事を進路面談で校長から聞かされたからだ。今の帝国は有能な人間を使い潰しかねないと校長も危惧を抱いている。貴族ならば良いのだ。平民が騎士爵を与えて兵器のように使うのが当然になっている。
「僕の懸念はおかしいですか?」
「え、いえ、おかしくはありませんね」
マリアは違う方向に想像を広げている事から引き戻され、現実起こっている事実は、とんでもない事であるる点について同意する。
立場が不安定ながらも有能な子供を、更に不安定にさせかねなかったギルドのやり方は教師にとっては許せない事でもある。
「ギルドはギルド全体と国の統括、各支部で管理されてます。国が違えば考え方も違うから明確な法が無いのは致し方ない。でも国のギルドは帝国として必要な法はあるべきだし、どこの国でも通用する法を作るべきでしょう。丁度良い機会なので利用させてもらいます」
「丁度良いって……前から思っていたのですか?」
「僕は最高位階である金剛級の師匠の下で最低位階の石膏級から始めて、帝国のみならず多くの国や地域に行きました。疑念疑問は多くあります。というか………、ヴィルヘルム様は僕と似た経歴だった筈。疑念や疑問を持たなかったのだろうか……」
フレデリクは一通り説明しながら、異なる疑問にぶつかるのだった。
ただ、マリアにとってこの世代の優秀なメンバーにフレデリクがいた事実は福音でもあった。子供たちの未来を守る為に、生徒でありながら教師より高い目線で、優秀な子供達に自らもまた職場を作れる存在になりえるからだ。
***
その日の夕方頃マリアが講義室から職員室へ移動をしていると男性教員に声を掛けられる。
「マリア先生、困った事になりましたなぁ」
「何のことですか?」
「貴殿のクラスの生徒が冒険者証をギルドから没収されたとか。Aクラスだからとて調子に乗り過ぎたようですねぇ」
ニヤニヤと笑ってマリアに声をかけるのは1年B組の担任バルナバス・フォン・グラーツ教諭だ。
親はフェルトブルク皇領の男爵で教師としての一代限りの騎士爵位を得た次男坊である。貴族に媚びを売って立場を高めている教師だ。
平民から教師の爵位を得てるマリアは厄介な人に声を掛けられたと困惑していた。
「没収された生徒に確認しましたが問題ないと言っていましたよ」
「問題ない?冒険者学校で冒険者証を没収された?学業に支障が出るのでは?下のクラスに落ちるかもしれませんなぁ。退学かもしれない。困った事です」
嘲笑うようにグラーツ教師は口にするが、
「本人から聞いてますからご安心を。卒業前にBクラスに落ちて学費だけ払えば良いだけだからと言ってたので」
マリアはフレデリクに言われていた事をただ返すだけだった。
「なっ………」
「校長先生に呼ばれてるので、そのことだと思います。なので失礼しますね」
馬鹿にする予定だった教師は口をあんぐりと開けて文句を言えずに固まるのだった。
遠回しに、『グラーツ教師が担任をするBクラス』に学費を払うためだけに『落ちる』という言葉に、彼は屈辱を感じたのだろう。
***
校長室でフェルディナントはマリアの前に赤い冒険者証のプレートを置く。
「ああ、すまんな。マリア君。これをフレデリクに返しておいてくれないか?先日没収したギルド証だそうだ」
「ええと、フレデリク君は多分校長経由で返されるだろうから断って欲しいと言われました。卒業単位は取れているから問題ないと」
「まあ、確かにな。金もあれば武勲もある。何だったら各国の勲章さえある」
フェルディナントはフレデリクより上の金剛級冒険者だ。ギレネ、メルシュタイン、鬼人領大都市ダエモニウムと言った北方の国や都市国家から最高レベルの勲章を貰っている大物だ。
フレデリクが自分に並ぶ大物だというのはよく知っている。
一人のギルドマスターにギルド証を奪える権限など皆無なのはよく知っていた。
「だからと言ってもなぁ。ギルドマスターから泣きつかれているんだ。ギルドに問題が出る。紅玉級だったなんて知らなかった。知ってたらこんな事しなかったと」
フェルディナントは苦笑していた。
「紅玉は複数の国の推挙が必要ですし、帝国の推挙なく取っている訳ですからそうなりますよね。改めてフレデリク君が帝都の英雄の息子であると同時に他国の英雄だと理解しました」
マリアも、美しい少女のような顔立ちの少年であるが、狡猾な貴族のような遣り口も使うし、帝都の英雄の息子にたがわぬ問題児だったと今回の事で初めて理解した。
だが、彼は筋を通したいと言う話をしていた。
帝都の英雄が学校の貴族に噛みついていたのは筋が通ってなかったからだと言う話を聞いて、フレデリクはスマートに父親譲りの振る舞いをしているのだと改めて気付かされる。
もしかしたら帝都の英雄もフレデリクのように上手く振舞いたかったのかもしれない。
マリアにはそう思えて仕方なかった。
「フレデリクは何を求めてる。嫌がらせか?ギルドマスターの首で腹立ちが済む奴とも思えんが」
「法を求めてました」
「法?」
「ギルドマスターの恣意でルールが勝手に作られるのはおかしい。今回連帯責任を求めて来たのを上手く自分だけにするように言ったそうですが、冒険者になれない平民が行き着く先は犯罪者であると。確かにそれを避ける為に教育を施すのが学園ですし、その力を利用して邪眼王討伐に利用するのがこのヘレントルの存在意義ですから」
マリアはフレデリクの言っている言葉を解釈して校長に伝える。
「なるほどな。だが、物凄い面倒な落としどころを作りやがって。やらかした内容はヴォルフの息子らしいが、求めているものはヴォルフの息子とは思えんな」
「そう言えば最後にフレデリク君は首を傾げてました。ヴィルヘルム様はこんなギルドに疑念を持たなかったのかと」
マリアの言葉に顔を歪めるフェルディナントだった。
「持っていたのですか?」
「ぐちぐち言っていたわ。その内ギルドマスターになって帝国のみならず大陸の冒険者ギルドで大改革を行なってやると。奴ならできただろうよ。その前に辺境伯家に呼び戻されてその野望は潰えたそうだが。国の貴族になってしまっては恣意による差配は出来んとな。確かにフレデリクと剣を交えた時に思った。アイツはヴォルフよりヴィルヘルム寄りの男だと。経歴も異名もそっくりだ。ヴォルフとザシャ様の血を持ち、そしてヴィルヘルムの後継となった。自分の手を下さず他人の力で法を作らせようと言うか」
「ギルドはどうなりましょうか?」
「ま、ギルドマスターに失態の分だけ働いてもらうかな。少なくともフレデリクの望み通り、ヘレントルや帝国のギルドの法を作らせなければなるまい」
「私では正直手に負えないんですけど、A組の担任のままで良いんでしょうか?」
「ヴィルヘルムは権力者にこそ、その権力に見合う差配を求める。フレデリクも一緒だ。普通の教師が正しく中立的立場に立っているなら文句なんて言わんよ」
「そうですか?」
「俺が教師だったらしっかりやれと怒られよう。ヴィルヘルムは権力に屈するような男でもなかった。あの子は間違いなくヴォルフの子でルミヤルヴィの教えを受けた子だと感じるわ。むしろ弱い立場の教師の方が遠慮するだろうな。教師としての専横を振るわない君であれば安心できる。B組のコネで入った教師などがフレデリクの担任になったら堂々と叩き潰すと思うぞ。学園から追い出されるだろうよ。ま、ヴォルフを知る年代の連中がヴォルフの子倅の前で迂闊な事はすまいがな見た目はザシャ。中身はヴォルフとは言ったモノよ」
「中身がと言う部分に関しては最近気付きました。伝説のように噂される問題児の根っこの部分が凄くそっくりなんですね」
この学園に残るヴォルフの問題行動の多くは悪い貴族をヴォルフが殴ったという話に集約される。話を聞けば、殴られた貴族が悪いのに罰を受けるのは殴ったヴォルフ側になると言う話なのだ。
ヴォルフの悪名の原因とは、筋を通すために一線を越えてしまうのが原因だった。
フレデリクは言葉で殴る子なのだ。
「見た目がザシャそっくりだからなぁ」
マリアの言葉にゲラゲラと笑うフェルディナントだった。
ピヨッ!
我が名はピヨちゃん。神界随一のあとがき担当にして、火の吐息を操りし者。
頭のおかしい紅鳥の雛とはヒヨコの事だ!
おい、誰が頭のおかしいのか話を聞こうじゃないか?
………おっと、話が逸れそうだな。さて、今回のお話だがこの世界には曜日と言うものがある。
この世界において250年前には無かったものだ。そう月火水木金土日、全て異世界転移した勇者・駿介がローゼンブルク帝国創生時に作ったものだ。
ちなみにこの世界、1年で362.3年位で地球に似ているのだ。なので1月から12月まであり1月30日として扱われ、閏日として年末に2~3日を消化している。そして閏日だけは曜日もなく全日休日と言う感じだ。
ちなみに天文学者曰く、自転周期や公転周期は変化していて、温暖化傾向にあるので、天文学者が10
年後の閏日は3日とか2日と決めている。
まあ、この世界の月は竜王のブレスで大きい穴で抉れてるわ、大陸一つが海に沈められて空に粉塵が舞ってミニ氷河期が到来したり、粉塵や空に舞った流れ星のように年々空に舞った石が大地に戻って年々重くなっていたり、その所為で重心の位置が僅かに変わっているらしいから仕方ないな。衛星軌道中に世界が吹き飛んだ際にたくさんの岩石とかが未だに飛んでるしな。
よく世界も人類も生物も滅ばなかったものだと感心しているぞ?
ちなみに、天文学者は鬼人領にいるゴブリンの誰かなのだとか。透明ガラスは鬼人領で発展したから顕微鏡や望遠鏡は鬼人領ダエモニウムが最も進んでいるのだ。
だが、この世界の中心はフェルトブルクで、イギリスのグリニッジ天文台みたいな場所は実はフェルトブルクにあったりする。何故か?透明ガラスの量産を成功したのは鬼神だが、最初に作ったのは駿介だからだ。奴は異世界で現代チートをやっておきながら、異世界チートなんて出来ないとか言うんだ。何て狡い奴だ。これがほんとのチート野郎だな。
それではお待ちかねの次回予告だぞ。
次回、『この素晴らしいヒヨコに祝福を!』でお送りするぞ。おお、今回は最初の口上と次回予告がばっちりあって、色々とパーペキだな。
※でも、次回予告はヒヨコの出鱈目です。本作品とは一切関係ありません。




