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雷華の騎士 ~やがて支配帝(ハーレム帝)と呼ばれる男~  作者:
第2章 雷華の騎士と地獄迷宮
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8話 迷宮記録更新作戦②

 校長室に移動するフレデリクと4人の教師達だった。

「あの、何で私が?」

 冒険学という冒険者学校上がりの教師であり、成り上がりで教師資格の為に与えられた一代限りの名誉騎士爵保持者。学園ではあまり強い立場ではない元黄玉級冒険者のケール教師は居心地悪そうにしていた。

 元副騎士団長にして元帝国十剣のベルント・フォン・エーベルヴァイン(名誉子爵)と元帝国七大魔導のヒルデガルト・フォン・バイマール(皇族)と並ぶには、教師になる為にヘレントルで騎士爵を受けたマヌエル・フォン・ケールはあまりにも格落ちしていた。


「察しが悪いな。これからフレデリクと話す事で理解するから聞いてくれていればいい」

 校長の言葉にマヌエル教師は頷く。


 全員が座って校長はフレデリクを見る。

「で、何層まで確認できた?」

「35層です」

「「「「!?」」」」

 全員がその言葉に絶句する。

 沈黙が部屋の中に落ちる。

「じゅ、15層が半分にも達してなかったというのか?」

 最初に我に返ったのは校長だった。

「風量の規模からは20層辺りから大きさが通常より大きいだけの迷宮になってました。出来れば20層まで行けばもっと深くまで行けたでしょう」

「もう一度同じ場所に行って、20層辺りを起点に魔法探査させられないのか?」

 校長の言葉にフレデリクは首を横に振る。

「風魔法で調べるという事は自分付近が一番魔力消耗少ない筈です。迷宮で遠隔魔法は魔力が食われますから莫大な魔力を使います。目視できない場所を起点にするには困難と考えてください。特に風魔法は迷宮内だと空を飛んで移動するというのも難しいかと。制御できない風が変な作用を起こしかねません」

 ヒルデガルトは分かりやすく説明し、校長は顔色を悪くする。

 フレデリクは頷く。大規模な風魔法は迷宮内では御法度とという暗黙のルールが魔導師たちの中ではある程だ。


「この魔法は、迷宮内に空気を詰め込むイメージですね。魔導師が魔力を飛ばして索敵する技術を魔法に昇華させたんです。」

 フレデリクの答えに魔法の概要を全員が共有する。

「なるほど」

「20層まで行けば魔力量が十分に足りるだろうという事か」

「広大な13層から20層の間に空気が広がり続けていたので、どうしようもなかったのが事実です。20層以降は割と魔力消耗が少なかったので、20層まで行ければ40層以上あったとしても魔力切れは無いと思います」

「35層で最下層でないと言う時点で衝撃的ではあるが……容易に公開できぬな」

 自分達こそが英雄に、と挑む者が多いのがこの迷宮だ。遥か果てと知ればモチベーションは大きく下がるだろう。紅玉級以上の冒険者は去るかもしれない。ヘレントルにとっては危機的な情報だった。


「校長。せめて最下層を確定したい。あと、魔力回復手段を本格的に開発しないとダメだ。それに獣人冒険者をもっと呼び込みたい。魔法に頼らない彼らの身体能力は迷宮攻略に必要だ。今の帝国の体制ではどうにもならない部分が多すぎる。魔力回復手段の確保には国家プロジェクトレベルの話になる。10年20年という単位でどうにかなるかさえ分からない問題だ。皇帝に打ち上げるにしても何層あるのかわからなければ話にもならないでしょう?」

 フレデリクの説明に、校長がフレデリクに事情聴取する為にこのメンバーを呼んだ理由がはっきりとわかる。

 ケール教師は元黄玉級冒険者。英雄というよりは生活冒険者に近く後輩指導からギルド内で重宝されて学園教師になった人だ。迷宮冒険者の気持ちをよく知る人だった。35層以上に厳しい階層だと知られた場合の一般冒険者の反応を知りたかった面がある。

 魔法の説明を可能なヒルデガルト、そして十層まで行った事がある実力者のエーベルヴァインというそれなりのメンバーが必要だった。


「ヘレントルの運営に関わる話ですね。なるほど、フレデリクが教師を使いたいと言うのは…」

「今、僕にできるのは最下層の特定だけだと思ってます。それだけはなるべく早く、やるべき事でしょう。攻略は今の世代では不可能と判断しました」

「厳しいな。俺達も若い頃は10層で頭打ちだった。魔物の強さから20層辺りに邪眼王がいるのではないかと言われていたんだ。35層でも果てが見えないだなんて冗談とも思えない。」

 エーベルヴァインは首を横に振って唸る。

「スタンピードによって近隣を攻めぬ筈だ。迷宮の目的は攻めるのではなく時間稼ぎと魔力稼ぎだ」

 校長は迷宮の存在意図を明確にする。

 フレデリクは頷き説明を続ける。

「僕が複数人いるなら僕が20階層まで行く道を探して、20階層に行く計画を随時修正し、僕を守りながら僕が連れて行くって事で話は済むんですけどね?」


 フレデリクは斥候のような探査は苦手だが、頭脳と戦闘力と魔法がある。

 だが、自分を無傷で魔法を使う場所まで連れていける能力があっても自分が消耗しては本末転倒になる。


「僕を20階層に連れて行ってくれるパーティを構成したい。学生だけじゃ無理だし、素性の怪しい冒険者は使えません。これは貴族の推進すべき仕事です」

「雷華の騎士として、帝国の大貴族として、ルミヤルヴィの者としての要求か」

 校長は笑う。うんうん悩むような顔をしていたが、フレデリクの提案に楽しくなってきた様子で破顔する。


「かつてない計画になりますよ。選抜をして最高の人材を…」

「エ-ベルヴァイン先生。最高の人材は必要ありません」

「え?」

「20階層に至るまでの道は前回の魔法で凡そ見当がついてます。通れると思った場所が通れなかったり、そういう問題で予想以上に長い探査になってしまう恐れがある事。複数のパーティを構成し、行軍と同じようにチーム分けします。高位冒険者として、皇族の末席として僕が参加し、元副団長の先生なら行軍計画も立てられましょう。この迷宮に長くいる先生方の方がモンスターパレードを起こさないギリギリのさじ加減も分かるのでは?」

 フレデリクは教師達を見て訊ねる。

「良い提案だな」

 校長は笑顔で頷く。

 笑い事じゃないだろうにと思いながらヒルデガルトは校長を一瞥するが、校長はそれに気づき肩を竦める。

「すまぬな。俺のような腕っぷしだけの人間では厳しいと判断し、陛下やザシャ、ヴォルフが現れた時はもしかしてとも思ったが、迷宮が予想以上に巨大で、それを超える壮大な計画を考える生徒が現れる日が来るとはな。砂漠迷宮の件と言い、魔神の眷属と相性が良いのかもな」

「しかし、フレデリク。軍の運用とはどういう事だ?」

 エーベルヴァインはフレデリクに訊ねる。

「僕と言う魔導師を20層に連れて行くには15層から20層までを開拓する必要がある。今回、僕は4年グループにエルッキを加えてほぼ何もせずに10階層まで行きました。それをグループ単位で行うですよ」

「?」

 理解が乏しいエーベルヴァインにフレデリクは更に説明を続ける。

「20層まで僕を運ぶグループを構成し、その前に15層から20層までを開拓するグループが準備を整える。そのグループを無傷で15階層まで連れて来るグループ、探索グループをの物資を最小限に資、15層の拠点に物資を届ける為のグループも作る。彼らを支えるグループも作っていくと」

「行軍と似たような構成になるという訳か!確かに迷宮を知り、軍事行軍経験がある人間は俺位だが……」

「僕が考えても良いけど、生徒の命を支える仕事を僕に丸投げはしないですよね?」

「迷宮で軍事運用とはそういう事か。お前の暗に抜け漏れがないかをチェックは出来るしやるなら俺が責任をもってやるべき事だな」

 エーベルヴァインは校長が楽しそうに笑いだした理由を察する。

 これは学校を上げた一種のイベントだ。フレデリクは奥で魔法を使うからこの冒険の主役にはなれない。むしろイベント運営者側に立つことになる。

「教師を巻き込む、と言うよりは教師が主導して学生全員を巻き込むという事か」

 エーベルヴァインは理解する。


「俺もこの年だから正直、迷宮探査の戦力としては体力不足を気にしていたが、その策ならば不安はなくなる。生徒達の向上にもつながり、それぞれの力に見合った功績にもなる。誰にとっても悪い話ではあるまい」

「学生の提案で教師が動くってどうなんでしょう?」

 困った顔で唸るのはヒルデガルトだった。

「学生の提案ではない。皇族の提案であり、紅玉級冒険者の提案だ」


「僕が表に出るつもりはないので、学園の方針として動かして欲しいです。学園がヘレントル攻略に向けて必要な事をする為の計画ですから。多分、これが終われば学園は魔力回復方法を研究機関としても動く必要が出るでしょう?学園が動いているというのが必要なんだと思います」

「自分の名誉はいらないというの!?」

 ケール講師は驚きの声を上げる。

「僕は平民ではなく貴族になる人間ですから。手柄をあげるように動かしてあげないといけないし、実際に今回の作戦は僕は最後の魔法を使うために魔力を温存し何もしないで皆が攻略で動くのを眺めながら進むわけですから。あと、ヘレントル攻略は僕が死んだあと位になる可能性が高いから、僕よりも学園が主導するべきでしょ?」

 フレデリクの言葉に校長は首を傾げる。

「そんな後になるか?」

「魔力を迷宮内で回復させなければ話にならない程深いのです。魔力回復なしで全力で邪眼王に辿り着いても疲れ切ってしまうでしょうし。魔力回復方法なんてほぼ存在してないでしょ?あったとしても迷宮内にもっていけば魔力を奪われますし。それとも迷宮の外側から穴を掘って最下層に直通路でも作ります?どっちにしても大作業ですよ。僕が生きてる保証はない」

 フレデリクのアイデアに教師達は目を丸くする。


「お前は次から次へと案を出してくるな。その上で無理と断言するか」

「魔力を一切経って生きていられるのは2週間ほど。全力で走ればその分魔力だって減るんだから、僕は人生を賭けて30層が精々だと思った。獣王や師匠と並ぶ程に内在魔力が高い僕でそれだ。技術的ブレイクスルーが無ければヘレントルは攻略出来ない」

 フレデリクの理屈の根幹はそこにあった。

 ただし、考えていても伏せているカードもあった。魔物は魔力を吸われる感じが無かったので、鬼人族やコボルト族、オーク族など魔神の影響下にありながら人類側の種族ならいけるのでは?という事だ。

 だが、それを言い出したらヘレントルは彼らに治めさせるべきと言う話になり、色々と政治的に面倒になるのが明らかだった。獣人を呼び込むべき、と言うアイデアはそこに組み込まれていた。


 フレデリクの言葉に全員が頷く。

「35階層の件はこの場で伏せる。マヌエル君は残って私の相談に乗ってもらいたい。発表に関してはセンシティブな話になる。冒険者側の考えを聞きたい」

「わ、分かりました」

「今週中に迷宮攻略作戦を学園内に流す。学園の計画として出すが、主導者の名前はお前を入れるぞ」

「うぇ!?」

「立案者が名誉だけ他人に押し付けるな。学園の計画じゃ少し弱い。剣聖が主催、雷華の騎士が作戦立案。学園にいる上位冒険者によるプロジェクトだと知らしめねばならん」

「貴族教師が煩そうですけど」

「成果は学園と冒険者ギルドのみで共有する。学園の参加希望者は俺が審査する。賄賂は一切受け付けないと約束しよう」

「?……こういうのに賄賂が出て来るんですか?」

「作戦に参加したという名誉を欲して金で枠を取ろうとするやからはたくさん出るぞ?冒険者が火竜王を狩ったのに、自分達がやったって顔して帝都でパレードする輩の居る国だからな?」

「そう言えばそういう国だった…」

 フレデリクはあきれ果てるのだった。




 その週の末日の朝、学園による20階層攻略計画が学校の掲示板に張り出される。

 決行日は来学期、夏休み明けの8月中頃、ヘレントル全容を調査する魔法をフレデリクが使うため、フレデリクに魔法を使わせず最短で20階層まで連れて行く。

 推進者は“剣聖”フェルディナント・フォン・レーベンベルク伯爵、作戦立案者“雷華の騎士”フレデリク・ズワールトの名前が挙がり、60人態勢の攻略プロジェクトが発表される。調査をする12名、15階層でそれを支える12名、10階層までを支える36名と言う態勢だ。

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