6話 フレデリクの地獄迷宮探査⑪ 十三階層からの帰還
フレデリク達は12階層と13階層の間で休んでから、13階層の中に踏み込む。
情報通りの溶岩区画だった。
非常に暑く、下に降りると徐々に熱くなっていくのが分かっていた。実際に13階層に行けばまるで別世界であった。
岩壁で出来ているが溶岩の川が流れている。火山の噴火口のような場所がありその周りには火を吐くフレイムスライムやレッサーサラマンダーと呼ばれる火を纏う大蜥蜴、それにフレイムバードと言った炎系の厄介な魔物がいる。
フレデリク達はレッサーサラマンダーを狩り、素材を持って帰るっ為に解体して皮をはぐ。一体でも鎧5つ位は作れそうな大量の鱗を手に入れて、捨てた荷物の代わりに素材を袋に包んで詰め込むのだった。
後は帰るだけだと言わんばかりに引き返してフレデリクは風魔法の準備に取り掛かる。
「寝る前にやっておいたほうが良かったんじゃないか?」
マインラートは首を傾げるが
「迷宮内じゃ魔力回復しないからいつやっても同じだよ。僕が魔法を使う事でモンスターパレードが起こったらまずいから、疲れを取ってからの方が良いって思っただけ」
「え、モンスターパレードが起こる可能性ってあるのか?」
「さあ、スタンピードが起こった事は無いね。砂漠迷宮は同時多発スタンピード中に使ったから分からないし。魔神の眷属が自分の居場所を見つけられるって話だから向こうが何を考えるかなんて分からないでしょ。小賢しい人間の知恵と無視するか、バレたくないから殺そうと思うかは彼ら次第だって話だね」
「なるほど」
「だったらやめておいた方がよくないかな?危なくない?」
マルコが挙手して魔法の差し止めを提案する。
「いや、その、僕はやっておきたい」
エリアスが逆の提案をする」
「意外だね」
「確かに」
アルバンはてっきりエリアスなら安全策を提案すると思っていたし、マインラートはそれに頷く。
「何か理由があるのか?」
「いや、特に理由はないよ」
エリアスは首を横に振る。
「何かあるのか?」
「いや、僕もこの学校に入るまでは実の所、自身がリューエブルク公爵家に関係ない人間だと思っていたし、帝国貴族の端くれだったとしても、さっさと家を出て自由になりたいくらいにしか考えてなかったんだ。アントン様やローレンツ様に睨まれないようにしたい、位でね」
「リューネブルクだもんな」
リューネブルク家の優秀な妾の子でリューネブルク家の人間からは奴隷のように扱われていると言う噂はエルッキも耳にするほどだった。
「でもさ、学園に来て、同じ大貴族でも帝国民の代表だと誇りを持つクラスメイトや、魔物に襲われる民を見捨てない貴族の誇りを持ったクラスメイトがいて、僕も端くれなら端くれでも少しくらい国に貢献してから席を抜きたいって思ったんだよ。確かにモンスターパレードが起こるかもしれない。でもそれを理由に迷宮の解明を蔑ろにして、自分だけ安全な場所で逃げるのは違うんじゃないかな、と思ったんだ」
エリアスはクラスメイトを見て、仮にも貴族として生まれた事に考えるモノがあったらしい。
「そういう言葉を後継に関係ないエリアスよりも、むしろお前の兄貴たちの誰かから聞きたい」
フレデリクが感想を述べてマルコやエルッキが大爆笑するのだった。
「ま、ウチのクラスの大貴族のお姫様達は、学校のどの大貴族の皇子達より男前だからね。男子より女子にモテるし」
マルコが苦笑気味に口にしてエリアスは笑う。
「ま、確かにウチのお姫さんは覚悟決まっちゃってるからなぁ」
エルッキもルミヤルヴィの姫を思い出して苦笑する。
「そんなに真面目なんですか?」
アルバンはエルッキを見る。
「子供会でさ、ピクニックに行った時にスタンピードの余波で大人までも混乱してる中で『私が足止めするから年長組は子供達を街に避難させて』って言うんだぜ。焦るって。逃げたいけど、主君の姫を置いて逃げられなくなるから。でも当時俺だって子供だったからな?」
エルッキは顔を引きつらせて過去の事を思い出す。
「その尻拭いで僕が一人で足止めしてアレクサンドラ様には全員の避難誘導を頼んだんだよ。代表者が纏めて避難させる方が臨機応変に移動できるって説得して。仕える側は命がけだから。ま、民を無視して逃げる騎士や領主何かと違って仕え甲斐はあるけどね。」
フレデリクは肩を竦める。
「そりゃな。俺ら軍部は命懸けだ。命懸けるなら、命を懸けるに相応しい上司の命令で死にたいぜ。同学年のB組にいるクズの為に死ぬなんてまっぴらごめん、って思うし」
「先輩、僕は今の発言聞かなかったので」
エルッキの言葉を聞いて、マルコは耳を塞ぐようにして口にする。
5年B組には次期皇帝と目されている第二皇子がいる。第一皇子は病弱で父の実家のリヒトホーフェンという帝都から最も離れている温かい土地に療養している為だ。
「その次がザシャ皇妹殿下だったけど、3年前の火竜王の乱で死亡して、第三帝位継承者がフレデリクかぁ」
「母が帝位継承権持ちだと知らなかったから、つい最近知った話だけどね」
「いっそフレデリクが皇帝に成ったら?」
「嫌だよ、めんどくさい。言っちゃなんだけど、僕ほど責任感皆無の人間いないからね」
全員が苦笑し合う。
だが、気に入らない人間を側近に切らせようとするような皇子よりは百倍マシだという思いがあった。そもそも責任感以前に皇帝の在り方さえ分かっていない男である。
フレデリクは雑談を切り止めて、作業へと入る。目の前で魔力を操作して魔法陣を形成する。
「魔法を唱えると魔方陣が勝手に出るけど、自分で作れるのか?」
「逆なんだよ。僕らの使う魔法は本来自分で作るべきもので、魔神の脅威に晒された際に女神様が恩恵を与えたのが魔法なんだ。師匠曰く、先史古代文明で最高効率の魔法を言葉一つで組まれる仕組みになっているらしい。それが出来ればあとは魔力を操作して正しく実行する。魔方陣はあくまでも現象を起こす切っ掛けで、現象が起きてそれを正しく運用するには魔力操作技術が必要になる」
フレデリクは魔法の仕組みを説明する。
「女神パワーすげー」
とマインラートは改めてぼやくのだった。
「神聖魔法って相手の体に当てて流すだけのものが多いから魔力操作が低くても知識と複雑な魔法陣を構成できる能力があればできるんだ。だから魔力を感じ取れて記憶力の良い僕はあっさり身に着けたんだろうね。魔力操作技能低いのに」
ちなみに当たり前のように使っていた魔法が実は女神の恩恵だったなんて、多くの学生には知られていない事実であった。
「魔法ってそういうものって思ってたけど、女神様の恩恵だったんだ」
「マジかよ」
「マジだよ。と言うか、だからかな?記憶力が良いから魔法の苦手だった僕にありったけ教えてたのかね?この魔法も雷華も。領主様の編み出した数々の魔法を覚えさせられたのは僕やトビアス様だったんだよ」
フレデリクは魔方陣を構成し魔法を発動する。全体の気圧が少し下がったように感じ風が13階層の方へと流れて行く。
一瞬風が止まり何かが通過したように流れる。
更に風が流れて、止まって、再び流れ出す。それが5度ほど続く。
「13階層……14,…………15,……16,………………17」
フレデリクは風が止まる度に数える。
「もしかして止まるタイミングって階層の中を空気が充填してる時間って事か?」
マインラートは気付いて尋ねると、フレデリクは首を縦に振る。
「逆に言えば、ここみたいに10~12階層がつながっていると一つに見なされるから、魔力感知を駆使して、ここと同じかどうかを判別はしてるけどね。それにしても広いな……。18………。これ、何だ?19層バカ広いな。いや、20階層に向かう穴が多いのかな?まずいな、予想の10倍くらい広くて魔力がやばい」
フレデリクは魔法を使いながらぼやく。
「通常の迷宮と比べてどうなんだ?」
「通常の迷宮は1階層1つより狭いよ。砂漠迷宮は3階層くらいの迷宮を縦に伸ばして15階層くらいにした感じだね。そもそも地獄迷宮は横にも縦にも馬鹿みたいに広いんだよ」
フレデリクは涼しい顔をしなくなってくる。汗が落ちる。
空気がバタンバタンとゆっくり揺れ出す。10回ほど揺れると
「あ、超えたけど、もう無理だ」
フレデリクは魔法を切り止める。
「どうだった?」
エリアスはフレデリクに訊ねる。フレデリクは額の汗をぬぐっていた。
「最後、何か空気がかなり震えてたよね?」
マルコは首を傾げるとフレデリクは頷く。
「本来の迷宮はああなるんだ。ここ広いから全然充填されなくて震えが断続的になったけど。本来はバタバタバタッて10回くらい動いたら終わりってケースが多い。実は中に人がいるかどうかを判断する為に使ってたんだよね」
「あ、そういうものなの?」
マインラートは手を打つ。
「20階層まで広々としていて、とにかく下に行くのが大変だった。そこから普通の迷宮より少し広い規模の迷宮がガーッとあって、………35階層で魔力がヤバいから辞めた」
フレデリクの言葉に全員が顔を見合わせる。
「35階層!?以上!?」
「そうなるね。これ、攻略不可能だわ。行くだけで魔力切れだよ。何か画期的な方法や道具や設備を考えないと邪眼王には辿り着かない。難攻不落の大迷宮は嘘じゃなかった」
フレデリクの魔法結果から全員が唖然とする。
「じゃ、帰るか。これ、誰にも言わないでおいて。レーベンベルク伯、というか校長に相談する案件になると思う。まあ、この問題、伯爵程度の地位の人間に丸投げする問題でさえないんだよ。帝国が知ってどう動くかなぁ。正直、今の帝国に任せていい案件とさえ思えないだけど」
フレデリクは溜息交じりにぼやく。
実際、魔神の眷属をたかが伯爵に丸投げ状態なのがこの国の実情で、今の伯爵が剣聖フェルディナントだから問題ないが、次代は如何するって話になってしまう。
「35階層ってのは確かなの?」
「帰ったら地図にざっくり落とすよ。35階層までの地形を。それだって全容が分らなかったんだから。一度20層まで降りて何層まであるかしっかり調べておきたいな」
「20層まで降りた人間いねーし」
マインラートが呆れるように言う。
「だって、19階層と20階層かなり広かったよ?2~3グループに分けて、荷物を持って移動するパーティとか作ったり、二軍が調査して一軍がボス部屋攻略するとか、そういう事をしながら最適解を導き出しつつ、大規模攻略部隊を編成してどうにかなると思う。ほら、ここに来るまで僕ほとんどマインラートと一緒に魔法温存してたでしょ」
「あ」
フレデリクの言葉にマインラートが気付く。
「それをもっと大規模にパーティとして行うんだ。魔力温存するパーティ、最前線で探索するパーティ、キャンプ地を作って戻ってきた仲間を癒すパーティ、行きの護衛パーティと帰りの護衛パーティとか、食料や物資をキャンプ地に運ぶパーティとか、いくつも分けてね。大軍で行くとモンスターパレードを起こすから、人数制限のあるけど軍の運用をそのまま迷宮で行う訳ね」
「とんでもない事を考えるね」
「でも確かに最短で奥に行こうとするとその位の調査メンバーが必要か」
エルッキは腕を組んで唸る。
「そうだよ。例えば、12階層から10階層まで戻ろうとした時、僕は登れるけど皆は登れないでしょ?もう一つパーティを用意して魔物から守りつつ長いロープを持って引き上げる人がいればどう?」
「一つのパーティじゃ攻略も難しいとなれば、それがベストか。流石は学年2位の秀才」
感心するアルバンだった。
「つか、それ言いだしたら、いくらでも方法ってあるだろ。3階層だって大量の荷物を持ってるメンバーを10階層まで連れて行けるわけだし」
「七階層がネックだけど、手段を考えれば無い訳じゃないとは思うんだよ。上り下りをもっと簡略化する為にいっそ昇降用の鉄の梯子を設置しても良い。大変だけどやれない訳じゃないでしょ?下に降りなければ魔物は出なかったしさ」
「迷宮にはしご設置とか考えた事もねーよ」
ゲラゲラと笑うマインラートだった。
「迷宮の全容を調べようと思ったらその位の戦略を使って行かないとダメだ。きっとギルドのある『冒険者は個人であって、クラン制を認めない』というギルド条項を直さないとダメだ。国や制度や変えないとこの迷宮は攻略出来ないよ」
フレデリクはマインラートやアルバンにそんな事を話していた。
「やっぱりフレデリクってさ、考える規模が帝位継承者に相応しい事を考えるよね」
エリアスがぼそりとフレデリクに聞こえないようマルコに訊ねる。
「そういう人材に育ててたんだろ、あれの教育の全権を握ってたのは皇妹殿下と雷華の賢者様だぞ」
エルッキがエリアスの呟きに反応する。そんな二人の言葉にエリアスは苦笑する。本人にその気が無いのが勿体ないほどに。
「じゃ、後半戦行こうか。フレデリク君の迷宮探査講習上級者編、一人でアークデーモンを倒す方法をレクチャーしながらちゃっちゃと行こうか」
「っていうか迷宮探査講習だったんだ」
「ほら、実質10階層で落ちて全滅したわけだし、もう良いかなって」
フレデリク笑って歩いて帰途に着く。
それに全員が苦笑する。エルッキは『別にお前に助けらえなくてもちゃんと着地出来たし』と強がっていたりするが。
***
全員が玄室に入り、先頭のフレデリクが3分の1ほどの場所を超えた瞬間、中央の台座に火がともり迷宮の出入り口が落ちて逃げ場が亡くなる。
体長3~4メートルほどの巨大な人影、だが四肢はあっても人間のそれとは異なる。角があり、耳が長く、蝙蝠の様な翼に灰色の肉体を持った異形が顕現する。
「<火球>!」
フレデリクは複数の火魔法を放ち、更に剣を抜き放ち斬撃を放つ。
「<爆発>」
現れたアークデーモンが、いきなりとんでもない大魔法を仕掛けてきたが先手を打ったフレデリクの魔法とぶつかり、同時に大爆発が起き爆風が玄室に吹き荒れる。全員が風に飛ばされないように腰を低くして堪えていた。
「レッスン1、アークデーモンは時に開幕一発目に全滅必至の魔法を仕掛けて来るので、先手を打つ。9割の冒険者はこれで死ぬから注意しよう」
フレデリクはそう言いながら既に一体のアークデーモンを真っ二つに切り殺して、敵地のど真ん中で説明を続けていた。
「レッスン2,人間に限らず、魔法を放ったアークデーモンも一瞬だけど無防備になるので殺しておこう。この時重要なのはアークデーモンが魔力生命体で肉体を滅ぼすには魔法や魔力の籠った攻撃しか効かない。しかし、核となる魔石は物理攻撃しか効かないという事。つまり、剣に十分な魔力を纏わせれば魔法が無くても殺す事が可能だ。剣術LV5以上は必須なので、アークデーモンを倒す際には剣術や槍術などLV5を習得するのが手っ取り早いやり方だ」
アークデーモン達がフレデリクに一斉に魔法を放ってくる。
「レッスン3、アークデーモンは同士討ちをしない。そして魔法を放つ際に僅かに無防備になる事から複数のアークデーモンと戦う時はお互いの射線上に立つように心がければ、一度に狙って来る魔法の数が減るので便利。また、威力の高い魔法程、自分にも被害が出るので、できるだけ敵の懐に飛び込めば危険な魔法がなくなるのでお勧めだ」
一斉に狙って来る火魔法や氷魔法、風魔法の乱舞をフレデリクは小刻みにかわしつつ
「<聖光防御>」
神聖魔法を自分にかける。
「レッスン4、不意打ちされても敵は魔法攻撃が主なので、後でもプロテクションの魔法をヒーラーに掛けて貰えると、前に出て戦いやすい。このように火魔法を目の前で撃たれてもプロテクションが守ってくれる。懐に飛び込むと相手の威力も下がるので戦士役にプロテクションは必須。出るのが分かっているなら、玄室に入る前に掛けておくと良い」
フレデリクはさらに踏み込み2体目のアークデーモンを切り伏せる。
「レッスン5、このように倒したと思ってもしっかりと核を切ったか確認しよう。倒れても死んだりしないからね。しっかり止めを刺して、消失を確認する。核の破壊はしっかり確認しよう」
倒れてるアークデーモンの胸元に剣を落として砕くと、アークデーモンの体が霧散する。
「今のは良い消失の仕方なので、覚えておこう。アークデーモンの消え方はあんな感じでノイズ走る様に体が霧散するからね」
フレデリクは説明しながら残りのアークデーモン4体に近づく。
「魔法使いの場合どうすんだよ」
マインラートはフレデリクに大きい声で訊ねるとフレデリクは頷く。
「これから魔法使いや治癒師、他斥候職などの討伐法に移ろう。<風刃>!レッスン6、魔法力で押し勝つのは人間の魔導師ではどんなに高い魔力を持った人間でも困難。特に迷宮のアークデーモンと魔力勝負をするという事は迷宮に全部魔力を食われるので使うだけ無駄だ。殺傷能力が高く魔力の低い魔法を選定しよう。おすすめはウインドカッター。他にもファイアソード、ウォータレーザー、アイスジャベリン、サンダーストライクなど高位魔法が必須なので、戦う前に覚えておこう」
ウインドカッターで切られて核が露出したアークデーモンにフレデリクはマインラートに渡していた棍棒と同じものを取り出して、懐に飛び込んで思い切り核の魔石をたたき割る。
叩かれたアークデーモンは体にノイズが入り体が霧散していく。
「レッスン7、ちなみに投擲!或いは弓矢!もレベル5は必須」
フレデリクは一体だけ少し距離が離れたので、魔力を込めたナイフを投げるかわされるが魔力が衝撃波のように横に走ってアークデーモンにダメージを与える。
更に弓矢を打ち込みふらついたアークデーモンを捕えて吹き飛ばす。
「ちなみに武器が無くても…」
フレデリクは遠距離から拳を振ってラッシュをかけると遠当ての拳が大量に叩きこまれてアークデーモンは壁に叩きつけられて直に起き上がらなくなる。そこにフレデリクは歩いて行き、倒れてるアークデーモンの胸を踏み抜き、魔石を砕く。
「このように格闘家でも攻撃は出来るけど、拳や足で魔石を壊せないといけないので、格闘LV5や拳闘LV5に加えて、極撃といったスキルを習得しておかないとダメ。出来るかどうか、家にもしもあれば、魔石で砕けるか確かめるのがおすすめだ」
フレデリクは4体を片付けると、警戒した2体のアークデーモンはフレデリクから距離を取ろうとする。
「<風壁>。さて大詰め、レッスン8。魔法を使うために距離を取るアークデーモンがいる場合、魔法を使って牽制しながら距離を詰める!」
フレデリクはアークデーモンの前に風の壁を作って魔法をぶつけさせて威力を低減させ直接飛んでこないようにすると、一気に距離を詰める。
「レッスン9。治癒師は魔法で倒せないというのは誤解です。<聖光防御壁>。この神聖魔法LV5を纏う事で殴る事が可能です」
フレデリクはアークデーモンが攻撃しようとするが懐に潜り込み、暴れるアークデーモンの攻撃をウィービングで頭を振って、右から左から振り子のようにフックの連打を浴びせる。
アークデーモンの頭が下がると拳を少しよじりコークスクリューブローで胸を貫き魔石を破壊する。
「<火球>!」
フレデリクは火球を放り投げると最後に残ったアークデーモンはほぼ同タイミングで<爆発>魔法を放ってくるが、フレデリクの放ったファイアボールとぶつかってフレデリクに直撃せずアークデーモンが自爆したような爆発をする。
「レッスン10。アークデーモンは複数で出た場合、1体になった瞬間距離を取って全滅必至の魔法を放ってくることがある。なので、最初と同じように事前に魔法を撃って相殺させておこう。一体だと周りに味方がいないので形振り構いからね。エクスプロージョンのような魔法の後は近づけば暫くは使ってこないので手早く近づこう。レッスン11。基本的に魔法は魔力体で構成されるので魔力で剣に流せば剣で魔法は斬れる。落ち着き慌てず、敵の魔法を薙ぎ払おう。ポイントは薙ぎ払う際に味方の方に飛ばないよう付ける事」
フレデリクは全ての飛んで来る魔法を剣で薙ぎ払い、おきには左手で受け流し魔法さえも無効化する。
「レッスン12!とりあえずトドメだ!」
フレデリクはアークデーモンを真っ二つに切り裂いて倒す。体にノイズを走らせて地面に倒れる。
「全員屈め!」
「「「「「え?」」」」」
フレデリクの叫びに皆は慌てて屈む。
「<風壁>!」
最後のアークデーモンは自爆をして木っ端みじんに吹き飛ぶのだった。だが、風の壁でどうにか爆発の威力を上に逃して樹難を逃れるフレデリク達だった。
「と、このように最後に自爆する個体がいたりするから、確実に倒し、ちょっとでも危ないと思ったら出来るだけ距離を取ろう。風魔法で爆風から割けつつ吹き飛ばされないよう屈むのが推奨だ。どうだった、簡単だったでしょ、アークデーモン討伐講習」
フレデリクはパンパンと手を払いながら呆気にとられる面々に説明を終える。
すべてのアークデーモンが倒れると、ゴゴゴゴゴと出入口が開かれるのだった。
フレデリクはアークデーモンの砕いた魔石の欠片を拾いながらで打ちの方を指差す。
「じゃ、いこっか」
全員は何も言わず歩いて部屋を出る。
「ね、簡単だったでしょ?」
「あたかも簡単に言うな!」
「要求するスキルレベルが高すぎる」
「あの化物を雑魚扱いする方がおかしいよ!」
クラスメイト達が一斉にフレデリクに文句を言い出すのだった。
フレデリクは手を変え品を変え、ありとあらゆる方法で倒す例を見せたが、それを一つ覚えるだけでも至難の業であることは明確だった。
「いや、そう言われても、僕も『誰でも倒せるアークデーモン討伐』とは言って無いから。一定の技能があれば対処法があるんだよってのを覚えて貰えばいい位の攻略法だし、今のアークデーモンは最弱だからね」
「最弱なの?あれで?いきなり開幕でエクスプロージョンして来るのに?」
「そうだよ。……僕が最初に出会ったアークデーモンは150年前に師匠が取り逃した、魔神に生み出された最強格のアークデーモンだからね。僕はほぼ足手纏い状態。師匠があらゆる魔法を駆使して抑え込んで倒したけど、僕は長い間あれがアークデーモンだと思ってた。アークデーモンってピンキリで、ここに出て来るアークデーモンは弱いんだ。学習して賢くなるから100年以上生きていればかなり厄介」
「会うことが無い事を祈ろう」
「紅玉級になりたいならアークデーモン討伐は必須だからね。迷宮主のケースが最も多い魔物だから。基本、強さはピンキリあっても、倒し方は全てあれで行ける筈。複数出る事は少ないから懐に飛び込んで殺す。魔法勝負は厳しい。ヴァンが実際に魔法以外に鉄の棒を使った戦闘技能が高いのは、ソロでやってたからだと思うよ」
「何か、俺すげー、天才じゃね?とか思ってたのに、成り上がるには全然足りねーって言われてきついんだけど」
「鈍器プレゼントするから毎日素振りしようね」
「いやだーっ!」
マインラートが頭を抱えて嘆き、皆でゲラゲラと笑うのだった。
***
フレデリク達はこの後、迷路で12階層から10階層まで一気に登り10階層と9階層の間で休む。
予定通りトレントの森を抜けた爬虫類エリアで9階層では魔物素材回収をする。
8階層では、折角だからと魔法を使わずに帰れるかとエリアスは木を登って上に登って帰り道を明確にしながら帰る。少し時間はかかったが、魔法で上に昇らずに高い木に登る方法でも問題なさそうだと確認し、7階層と8階層の間の安全区画で休むことにする。
そこから7階層からフック付きロープを投げて上の降りて来た木に引っ掛けて登ろうと試みるが、アルバンとマルコが頑張っても引っかからずフレデリクとエルッキはいい加減にしろよと文句を言いながら後ろから襲って来る骸骨兵を延々と倒していく。
マインラートが投げて上手くひっかけアルバン達にマウントを取り、皆でまぐれだと言いながら上に登る。エリアスが上りロープを気に括り付けると順番に登っていく。折角投げて良い所を見せたのに、マインラートが腕力の問題で登れないと言い出し、エルッキが最後まで残って骸骨兵を倒しつつ、マインラートは腰にロープを括り付けて皆で上まで持ち上げて、最後にエルッキが自力で登ってクリアする。
6階層から5階層まであっという間に移動して5階層ではゴーレムとの戦いになるが、魔力に余裕があったのでマインラートの魔法で一撃必殺して先に進み、4階層と5階層の間で休む。
そして4階層から1階層まで、一気に進み長い迷宮探査を終わらせるのだった。




