6話 フレデリクの地獄迷宮探査⑧ 七階層・後
辿り着いたのは七階層の高い崖上だった。高さは城の中層より15メートルほどで真下には城のテラスが見える。
「いやここからどうしろってんだよ!?」
マインラートが突っ込む。
フレデリクはそれを聞き流しつつ、崖の上に立つ太い樹をぐいぐい押してみる。
「行けそうだな」
フレデリクは荷物持ちをしてるマルコの持つ大きな荷物入れの中からフックの付いたロープを取り出す。
「ここからロープを使って降りれば城の2階のベランダに辿り着く」
「な、なるほど」
マインラートは少し納得する。
「降りてる途中で魔物が襲ってこない?」
マルコは不安そうだった。
「僕も確認したけど、この場所は恐らく魔物は一定の場所に足を踏み込むと反応する。ここは恐らく範囲外だ。地面に足を踏み込むと反応するから、最初の一人が降りるまでは反応しないと思う、これだけ高ければ魔法は届いても弓矢は届かない。恐らく問題ない筈。帰りはどうかなぁ。魔法攻撃する骸骨兵を倒してからなら多分問題なく逃げれるはず。最初に降りたら魔物が出て来るだろうから先ずはアルバンから行ってみるか。その後続けざまにエリアス。アルバンは現れた魔物を倒してエリアスが場所の確保。それで続けざまにマインラートとマルコが早く降りる。弓持ちや魔法使いの骸骨兵が出る前にさっさと降りるスピードが重要だね。僕とエルは多分魔法を打ってくるくらいじゃ困らないでしょ?」
フレデリクは全員の仕事内容を明確にする。
「まーな。この降りる為のロープの確保の為の後方って事だろ?」
「僕が最後なのは最悪ロープが外されてもジャンプで降りれるし」
「化物ですか?」
マルコがフレデリクを見てぼやく。
「火竜王の頭ってここより高いのね?それを倒すのに飛んだり駆けたりしているのに、この場所が高いなんて言ってられないでしょ。ウチの父は空飛んでる火竜王をジャンプで跳んで、剣でブッ叩いて地面に叩き落としてたよ。紅玉級になる連中なんて皆その位の身体能力してるから」
「紅玉級って人類の枠を超えてたんだぁ」
現実逃避気味のマルコだった。
「実際に見た感じからして、僕一人だったら楽勝だって言ったでしょ。より楽な方法を、皆が使える方法を見つけたいんだってば」
フレデリクはそう説明をする。
「さあ、行ってみよう」
エリアスは肩を竦めて先を促す。
「OK」
アルバンはロープを掴むとスルスルーッと降りて行く。
城の二回のベランダに着地すると直に剣を抜く。ガシャーンと派手な音を立てて骸骨兵が現れる。
直にエリアスが降りてアルバンの助成に入る。マルコが降りて、マインラートが降り、エリッキが降りて、最後にフレデリクが降りる。骸骨兵の動きが遅いので、予想以上に厳しい状況にはならなかった。
最後にフレデリクはロープをグイッと緩めて引きフックを外して回収する。
「アルバン、エリアス、道を切り開いて。アルバンは道を覚えてるか怪しいからエリアス誘導お願い」
「分かった!」
エリアスが即答する。
「酷いよ!って言いたいけど、ごめん、屋敷の見取りまで覚えてない」
「素直だな。俺も覚えてねーけど」
ゲラゲラ笑うマインラートだった。
「じゃあ、僕が先頭で、アルバンは他の骸骨兵を頼む。」
「了解!」
エリアスが切り込み、次々と倒しながら前へと進む。エリアスは前の敵に集中しながら戦い、正しい道を進む。
エルッキはマルコとマインラートの護衛に徹し、アルバンが破格の活躍で一撃でほぼすべての骸骨兵を屠っていく。対人戦闘に近い相手となると圧倒的だった。6階層まで割と情けない姿だったのに、骸骨兵となると自分以上に働くアルバンの姿に、フレデリクが認めるだけはあるとエルッキも納得してみていた。
アルバンのサポートが素早くエリアスも正面の敵に集中でき、どんどん敵を倒して前へと進む城の中が若干骸骨屋敷になっていたが関係ないと言わんばかりに推し通る。
2階から階段を降りて地下への階段を進み、骸骨兵が出てこなくなりさっさと前へと進む。
「あっという間だったな」
「帰りは大丈夫かな?」
「無理そうなら正面突破だけど、まあ、どうにかなるよ。まだマインラートの魔法温存してるし、ぶっちゃけ広場のど真ん中に<爆発>でがらりと空くからさっさと走れば良い。マインラートはここまで魔法使ってないから帰りにそこで魔力切れしても問題ないでしょ」
「うわ、どぎたねぇ奥の手があった」
「そういう最悪の最悪の奥の手を常に残しておけば迷宮攻略は怖く無いんだって。だからその奥の手を切る前に帰るよって言ってるの」
フレデリクの何気ない余裕ある言葉が彼らにとっては恐怖を安心へ、不安を自信へと変える。エリアスは飄々と進む女の子にも見まがう先輩冒険者に敬意以上のものを感じていた。
一同は7階層のモンスターハウス状態の城の中を潜り抜けて7階層のフロアボスのいる城の地下の巨大空洞へと入る。
そこには巨大な骨のドラゴンの形状をした魔物がいた。
「フロアボスはボーンドラゴンか」
「ドラゴンスレイヤー様がいるからどうにかなるよね?」
エリアスはチラリとフレデリクを見る。
「いや、僕ドラゴンはスレイしてないよ。魔法で撃ち殺したけども。あと、ボーンドラゴンのサイズって成竜サイズだからそこまで強くない筈。過去資料から、火を吐くボーンドラゴンで、誰かが囮をやりながら横から叩けば問題ない。囮役は誰がやる?僕は後衛の護衛で今回もマインラートは温存ね。マルコは僕が治療に走ってね」
「OK」
「つか、俺、見せ場がねーんだけど」
「魔法使いなんてそんなもんだよ。特に迷宮はね」
「じゃ、ここまでくるのに後輩たちが頑張ってたから、俺が囮役やるよ。現5年メンバーで来た時にあのドラゴン相手に囮やったし」
「お願いします。横から叩きますんで」
「横から叩く際、剣を魔力で包んで叩き壊すように一つずつだよ。一遍にやれると思わないで」
「「了解」」
フロアボスの魔に踏み込むと、ドラゴンの亡骸がカタカタと震えて動き出す。
「シギャアアアアアアアアアアアアアアッ」
咆哮を上げる魔物に全員が戦闘準備に入る。フレデリクはマインラートとマルコの近くで立って防御側になる。
エルッキがボーンドラゴンの鼻面に立ち攻撃をするとドラゴンはエルッキへのヘイトを高め攻撃を仕掛けて来る。エルッキは攻撃を避けながらドラゴンの気を引くよう攻撃を仕掛ける。同時に左右からアルバンとエリアスがドラゴンに攻撃をぶつけて少しずつだが体を壊していく。
ボーンドラゴンはエルッキに向かって腕を振り回し頭を使って角で攻撃をしたりブレス攻撃をしてくるが、エルッキはその攻撃を統べてかわす。
「尻尾が上がってる。振り回してくるよ!エリアス、回避準備!」
「え、あ。了解!っと」
ボーンドラゴンの尻尾攻撃をジャンプで切り抜けアルバンと同じ方向から攻撃を仕掛ける。
「エリアスは順応性高いね」
「兄貴の無茶振りに順応してるからねぇ」
フレデリクのボヤキにマルコが苦笑気味に頷く。
「エルが思ったより囮役が上手いな。ヒーヒー嘆くかと思ったのに」
「フレデリク、先輩を舐め過ぎじゃね?」
「仮にも昨年の剣術でトップ3に入り、同学年に被ったから代表落ちしたけど学校トップスリーなのは変わりないからね」
マインラートとマルコがエルッキが自分達よりはるかに上なのに舐め過ぎだと突っ込むが、
「アルバン入って確実に落ちてるけどね。4年は更に僕とベルも加わってるからね」
剣術でレベルが高いと言われてる5年生世代だが、同格が4年にちゃんといる事実に気付かされる。
「先生が黄金世代再びっていう訳だ。去年以上の層の厚さ…」
マルコが呆気にとられた様子でぼやく。
「こっちに火の吐息が来る。マインラート、マルコ、避ける準備」
「え、うわっうおおおっ」
マルコは咄嗟に動いて飛んで来る火球をかわすが、マインラートはバタバタ走ってよけようとするが全く避けれていなかった。
フレデリクは剣で飛んで来る火球を剣で掻き消す。
「マインラートは鈍いなぁ」
だが数分と戦っている中で、最前線ではドラゴンの攻撃が猛威を奮い、ついにはエリアスが避けきれず右足を痛める。
それを見て、エルッキが声をかけて指示をしながら陣形を保たせつつエリアスを後方に追いやるよう攻撃しながらアルバンに指示を出す。
意外とエルッキが出来るなぁとフレデリクはちょっと驚いていた。
「俺はお前らと違って普通の人だからな。簡単に避けられるか!」
マインラートは嘆くようにフレデリクに訴える。
「マインラート、火魔法以外ってどのくらい使える?」
「氷水土は全部レベル4、風だけ5だ」
「ほお、凄い。とすると防御系魔法もあるじゃん。あの程度の火吐息なら、シールド系魔法でどうにでもなるだろ。おすすめは<旋風>で目の前の火を消し飛ばすかな?魔力消費が一番低い」
「魔法使って良いのか?」
「そこでMP切れは勘弁して欲しいけど、吐息食らって怪我されるよりマシだし。魔法使えれば防御できたけど魔法禁止だから直撃したとか言われたら困るし」
フレデリクの至極当然な言葉にマインラートもそりゃそうだと頷く。
「魔力管理さえできるなら臨機応変に。マルコ、僕こっちでマインラート守ってるからドラゴンの攻撃を食らってちょっと足引きずり気味なエリアスの回復に行ってくれない?」
「分かった」
マルコが走ってエリアスの方へと向かう。
本来なら逆なのだが、マインラートのお守りの為フレデリクが残る事になる。フレデリクは神聖魔法の魔力を肩代わりできる聖剣だからMP消費が無い方がよかったが、こっちにドラゴンの炎が飛んで来たらマインラートを守れる保証が無かった。
エルッキは戦いながらエリアスを一度離脱させるよう、声掛けそしてアルバン側にドラゴンを引き付けさせる。
「あいつ、一々上手いな。ルミヤルヴィで習ったのかな?翡翠や黄玉でパーティがやるような事を普通にこなしてやがる」
「そういうお前は上から目線だな」
マインラートは苦笑しながら突っ込む。
「でもこっちに吐息が飛んで来るから気を付けろよ。一緒のパーティだったメンバーは飛ばさないし来る場合は声をかけてくれるんだけど、その辺までは手が回ってないね」
「そう言えばお前一流どころと組んでたっけ」
「そうだね。あのレベルになると皆視野が広いから……ときたよ。<旋風>」
話をしている最中、ドラゴンの火の吐息がマインラートの方へと飛んで来る。
フレデリクは魔法を使う。風魔法LV2<旋風>火吐息を巻き取る。
「お返しですよって。そっち旋風魔法行くよ、退避」
さらにフレデリクは火が乗っている風をそのままドラゴンへと返す。
炎を巻き上げた風のつむじ風がそのままボーンドラゴンを襲い、ボーンドラゴンはカタカタカタと音を立てて骨が外れたり砕けて行く。魔力で骨をくみ上げている為、火魔法を食らう事で構成していた魔力が消し飛ばされ骨全体が弱くなる。
「一気に攻めろ!」
エルッキはそう叫びつつも攻撃を自分に引き付けて動き回りボーンドラゴンの動きをコントロールする。
「チャンスだ!」
「つあああああああああっ」
それに連動してエリアスとアルバンは攻撃のペースを上げ、ボーンドラゴンの体が崩れて行く。
だがボーンドラゴンは最後に道連れを作ろうとしたのか全体に向ける炎のブレスを放とうとする。
「やべ、全員退け!ヤバいの来そう!」
「マインラート、魔法で全員を守れ!」
「あっ、えーと、ウィール…いや、<突風>!」
マインラートは風魔法を使って全体に拡散する炎の吐息を吐くボーンドラゴンの前に突風を放ち、炎を反転させる。
「貰った!」
アルバンが溜めた一撃を頭に放ちボーンドラゴンの形が崩れ落ちて行くのだった。
「やった!」
崩れるボーンドラゴンを確認してエリアスやアルバンがホッと息を吐く。
「鬼門って言われてる7階層を突破しちゃったね」
マルコはおずおずと自分達が1年ながらも快挙に貢献したと喜ぶ。
「じゃ、ちょっと先行った場所で休むか」
エルッキはここまで来たことがあるので道を示しながら声をかける。
「そうだね。今日はここで休憩かな。休む場所ってあるの?」
「7階層と8階層の間にちょっとした大きい踊り場があるんだ。死霊系魔物はこっちにはおりてこないから基本的に完全に敵の出ない休める場所だな」
エルッキの言葉に全員がそこで休もうと決めて歩いて先へと進む。
***
フレデリク達が階段を降りて休めそうな踊り場に辿り着くと、そこにはすでに先客が一人いた。
灰色のマントにくるまって休みを取っているソロの冒険者だった。
「ここ失礼しますね」
「勝手にしろ」
エルッキが声をかけ、ソロ冒険者の男は横になったまま手をヒラヒラとさせて休んでいる態勢を変える様子はなかった。
フレデリク達は食事の準備をする。
そんな中、エリアスがちらちらと冒険者の男を気にした様子で見ていた。
「どした?」
「いや、あの冒険者の人ってもしかして有名人じゃないかなって」
エリアスの不審な動きにフレデリクが小さい声で訊ねると、割とミーハーな返しが戻ってくる。
「そうなの?」
「可能性は高いんじゃないか?ソロで7階層を突破してるって事は有名な冒険者の可能性が高い」
エルッキは言い切る。
一人でボーンドラゴンを倒せる腕利きと言うなら確かにそうだろう。当たり前の事だった。
「声かけて見て良い?」
「うるさくするなよ。休みたいって感じで振舞ってんだから」
マルコの問いにフレデリクは常識的な返しをする。
マルコはエリアスと共に冒険者の男の方へと向かう。
「すいません。人違いなら申し訳ないのですが、もしかして紅玉級冒険者のヴァン・アッシュ様でしょうか?」
マルコの問いに男はけだるげにガリガリと後頭部を掻きながら上体を持ち上げる。
「あ?それがなんだ?」
「お休みの所すいません。以前、ヴァン様に助けて頂いたのでもしかしてと思って。リヒテンベルク家の者です」
「ん………ああ。象に馬車を追われてたガキか」
男は顔をあげて傷をついた右目を閉じたまま左目を開けて輝く黄金の瞳がマルコを見る。
「まさかこんな場所でお会いになれるとは思わず、ついお声を掛けさせていただきました。以前、何も恩を返せず去られてしまったので、今は迷宮内なので無理ですが、迷宮を出る5日後くらいにでも食事をおごらせては貰えませんか?」
「後輩に奢らせる趣味はねーよ」
男は溜息を吐いてシッシッと手を振る。
「後輩?」
「お前達、ヘレントル高等学園だろう?」
「ヴァン様は我が校のOBだったのですか?」
「貴族をぶん殴って逃亡して名前を変えているけどな。当時は首席だったんだけどなぁ」
クハハハハッと笑うヴァンの言葉に、全員が顔を見合わせる。
「あ、でも先輩は奢ってくれても良いんだぜ」
「嫌だよ」
ヴァンが逆に話を振り、溜息と一緒に拒絶を返したのはフレデリクだった。
「お前、ミロン様とは別れたのか?」
「火竜王討伐するまでの契約だったからね」
「帝都じゃ火竜王を討伐したリューネブルクのボンボンが倒したって聞いたけど、やっぱりお前だったか。二人でか?」
「僕にそんな力がある訳ないでしょ。金剛級二人を組み込んで4人でだね。剛腕と双刃の勇者」
「やっぱり雷華の騎士はお前だったのか、暗殺者殺し」
「何だ、知ってのか、隻眼」
フレデリクとヴァンはどこか古い馴染のようなやり取りをしていた。
「ミロン様といる見知らぬ異名の冒険者だったからな。雷華の異名持ちという事は修行を終えたのか。まさか先に魔法LV10を越されるとは…」
どこか悔し気に口にするヴァンは右目でフレデリクを睨む。
ヴァン・アッシュ、灰燼のヴァンと呼ばれる紅玉級冒険者だ。とは言っても、フレデリクが出会った頃の灰燼は黄玉級だった。字も灰燼ではなく隻眼だった。別れた直後辺りで故郷の迷宮を攻略して紅玉になったと言う噂が流れていた。迷宮を灰燼に帰したという話から、隻眼のヴァンは灰燼のヴァンに通り名が変わっていたのだ。
「まだなの」
「うるせーよ。お前みたいに内在魔力が高くねーんだよ」
溜息を吐くヴァンにマルコとエリアスはフレデリクを見る。
「知り合い……ですか?」
マルコがヴァンに訊ねると、ヴァンはちょろっと説明をする。
「ミロン様に弟子入りして2月ほど魔法を習っていたんだ。こっちが兄弟子になるが当時は俺の方が遥かに上だったけどな」
「そりゃ、僕は魔法下手な頃だったし。LV8の火魔法使いに勝てる筈ないでしょ。当時は神聖魔法LV7以外、LV4に行ってたのが雷と風で、それ以外はLV3以下だったし」
「11歳でそれはそれで凄すぎるけど」
エリアスは引き攣って呻く。ヒーラーとしてなら破格の才能だ。しかも当時既に剣術スキルがレベル7あったと聞く。だがその天才は自分の才能に自惚れず火竜王を殺すために更なる上を求めた。それがフレデリクなのだと気付く。
「僕がヴァンに会ったのは冒険者の下から二番目の『黒曜』になりたての頃で、暗殺者殺しと呼ばれ出した頃かな。この人は隻眼って呼ばれてた頃だ」
「3年前くらいなのにお互いに色々と変わったもんだ」
カカカカと笑うヴァンだった。ヴァンは賢者を目指し、火魔法LV9に到達した事でミロンと別れた。LV10になるには魔力操作と知識が必要で、知識は与えられたが魔力操作が足りないらしい。
「帝国でも今じゃ魔法使い系冒険者のツートップ、灰燼と雷華の騎士がまさか同じ師匠の弟子だったとは」
エリアスは感嘆するように口にする。
「そう言えば、僕はクラスメイトを連れて迷宮調査に来たんだけど、ヴァンは何しに来たの?」
「たまたま帝国西部に用事があってな。8階層にある特殊な薬草が欲しいっていう依頼があったからちょろっと取りに行ってただけだ」
「割が良いの?」
「5日で行って帰って来るだけで、金貨10枚になるからな」
「平民が半年くらい暮らせそうな額ももらえんのか。確かに割が良いな」
フレデリクとヴァンが話をしていると
「いやいやいやいや。8階層にソロで行くって普通の人は不可能だから」
マルコが慌てて突っ込む。
「つか、そもそも魔法使いだけでどうやって行くんすか!?普通にMP切れますよね!?」
マインラートが追い討つように尋ねる。
「は?ちょろいだろ。魔法使いって言っても5階層のゴーレムと7階層のボーンドラゴン以外は大体杖で殴るだけで倒せるし」
そう言って手元にある棒を持ってブンッと振る。
背丈より長く、腕より太い鉄の棒を片手で軽々と振る。中央に赤い魔石が入っており杖なのが分かる。
「え、鈍器!?鈍器なのか!?冗談じゃなく魔法使いって鈍器を持たないといけないのか!?」
頭を抱えるマインラートだった。
「坊主も魔導師か?」
「えと、そうっすけど」
ヴァンに問われてマインラートは頷く。
「入ってパーティ戦やっていて気付くだろうが、迷宮において魔法は温存なんだよ。ただ守られて進むだけになる。魔法以外にやる事を探している内にこういう方向にならざる得なくなる。紅玉になるには両方高いレベルの戦闘能力が必要になるしな。ソロの魔導師が紅玉になるには武装必須だぜ」
「マジかよ。時代は鈍器だったのか…」
マインラートは愕然とした様子でぼやく。周りの皆が苦笑するのだった。
「ソロ魔導師が紅玉取るにはそもそも腕力無いと取れねーから」
「そう言えば、ヴァン。何かさ、火竜王倒した後に聞いたんだけどさ。何か僕、妙な生まれだったらしくて」
「妙な生まれ?」
「父が帝都の英雄、母が皇妹殿下、地元のお姫様の婚約者だったらしいんだけど」
「何でそんな事になってんだよ」
「知らないよ。父さん達が隠しておこうって、そういう教育方針だったらしい。その所為で成人する歳になって自分が皇族だったと知ったんだけど如何すれば良いんだ?」
「まー、気付かない方もどうかと思うが?」
「あ、言っちゃった」
ヴァンの突込みにエルッキがポツリとぼやく。
「じゃあ、ヴァンは気付いたのか?」
「そんな立派なロイヤルシルバーの髪を持ってて、父親が平民上がりの名誉騎士?母親が大病院だかの経営者だったか?帝都の英雄と皇妹殿下が親じゃないよな?と怪しむくらいには思うぞ。親が死んでるって聞いたから遠慮して聞かなかったけど」
ヴァンの言葉に、フレデリクは血を吐くように呻き、打ちひしがれる。
「まさか、最初に帯同したパーティメンバーがハナっから僕の素性を薄々気付かれていたなんて…。僕さえ思いもしなかったのに」
嘆くフレデリクをゲラゲラとヴァンは大笑いするのだった。
7階層と8階層の間でちょっとした息抜き、フレデリクにとっては3年前に出会った年上の弟弟子との再会であった。同時に学友たちにとっては、先輩であり数少ない高位冒険者から話す切っ掛けに彼らは少し嬉しそうにしていた。
フレデリクは弄られる前にさっさと横になる事をした。当時の投げやりになっていた復讐以外何も興味の無かった自分を知る相手との再会は若干きついものがあったからだ。




