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雷華の騎士 ~やがて支配帝(ハーレム帝)と呼ばれる男~  作者:
第2章 雷華の騎士と地獄迷宮
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6話 フレデリクの地獄迷宮探査⑦ 七階層・前

 フレデリク達は6階層の数多ある連絡通路の攻略最短ルートを抜けて7階層に降り立つ。

 7階層、そこは町並みが広がっていた。

 巨大な城壁、中には巨大な人のいない町並みが広がっている。戦場となった街のようになっているのは魔物と冒険者達が戦ったであろう

 迷宮内と言うよりは巨大な大空洞の中に一つの城がスポッと中に入ったような感じだった。

 城壁は石で積み上げられ壊そうと思っても壊せなさそうなほど堅固で、

迷宮内とは思えない、レンガによって作り上げられた巨大な街並みは迷宮内とは思えないものだった。暗い街並みの中にそびえる城のような建物。

 フレデリクは町並みを見渡しながら、街並みを収める程の巨大な大空洞には、あちこちにここへつながる洞窟が見られる。恐らく6層にあるいくつかの穴は恐らく7階層のいくつかの穴につながっていると思われた。


「成程ね。真っ直ぐ行って城の正面の門に一番近いここが最短距離としてルートにあるのか」

「っていうかまるで城塞内の街並みそのままって感じだけど」

 フレデリクのボヤキにエリアスが横で地図を見ながら頷く。

「魔物数が物凄いって聞いてるけど、どの程度の物量があるのかな」

「あの入り口に近づくと分かるらしいけど走って戻れば7階層までしか追って来れないってあったね」

 アルバンの問いにフレデリクは先輩たちの資料を思い出しながら答える。

「ちょっと見て来て良いか?」

「ちゃんと戻って来いよー」

 マインラートの問いにフレデリクは地図を見ながら生返事を返す。

 フレデリクは地図の確認で考え事をして足を止めており、首を捻って6階層の地図と合わせ込んでいた。

 6階層の穴からこっちの穴がどれになるかを照合しつつ、ペンで書きなおしている。

「やっぱりだ。平面だから気付かなかったけど、立体で考えるとここより遥かに楽な道があるな。全ての道がアンデッド広場を通る中でここからが一番アンデッド広場を避けて、最短で行けるからここが……」

 フレデリクは7階層の攻略プランを練り直し、エリアスも隣で地図を見て考え込んでいる。

 エルッキは自分の背嚢から水袋を取り出して口に含んでいた。

 アルバン、マルコ、マインラートの3人は歩いて城塞の方へと向かう。大き城塞の門は大きく開かれていて中が丸見えで、街並みも見えるし奥にある広場には水の出ていない噴水らしきものも存在している。人のいない滅んだ城下町と言った感じだった。


 城下町に足を踏み込む3人は何も出ないじゃん、魔物どこだよとか軽い笑い話をしながらちょっと中に足を踏み込むと、荒廃した地面からボコりと人骨の手が出て来る。

「出てくる前に倒す?」

 アルバンは剣を握って前に出ようと踏み出すとさらに自分達を取り囲むように地面からぼこぼこと人骨の手が出て来る。その手の数は20を超え、さらに城壁の右側に見える草むらの奥から中身が空洞の鎧騎士がガシャガシャと音を立ててやって来て、街の家の中から次々と骸骨の魔物が現れる。

 たった数秒で魔物の数が100を超えていた。


 慌てて逃げるマインラートに、マルコも慌てて逃げる。アルバンは殿を務めつつ二人の後を追って逃げる。

「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!」

「うわあああっ!酷いよ、マインラート!僕を置いて逃げるな!」

「だって物凄い数の魔物が!ホラーだろ、あれ!」

 声を聞いてフレデリクは視線を上げると慌てて戻ってくるマインラートとマルコがいた。


 フレデリクは一切彼らを見てなかったので、多分城塞内に足を踏み込んだのだろうと理解する。

 逃げて来る彼らの背後には今までいなかった骸骨の群れが現れるのだった。さっきまで何もいなかったのに、数秒考えこんで視線を地図に落としている間に百を軽く越えるモンスターの群れ、というか既にモンスターパレード状態でちょっとした驚きだった。

 雲霞の如く街を埋め尽くすように地面から屍が現れて、骸骨兵が追い立てる。


 フレデリクは地図を畳んで<異空間収納(アイテムボックス)>に放り込む。

「6階層に戻ろうか」

「戦わないの?」

 エリアスの問いにフレデリクは剣を抜いてマインラートらを6階層に続く連絡通路を通してから背後から迫る骸骨兵の群れの殿になる。

「戦略を練り直す。6階層から5階層に行く道を逆走する。6階層に出たらいつもの陣形で。僕が殿でエリアスは僕のいた場所に交代ね」

「分かった」

 全員で連絡通路へと走って戻り、追って来る骸骨兵とフレデリクは戦いながら戻る。現れた魔物の群れはある程度まで追って来るが、途中で止まる。止まるが弓を持つ骸骨兵が遠距離攻撃を仕掛けて来る。フレデリクはその攻撃を剣で弾くが、骸骨兵の中から魔導師のような恰好をした骸骨が杖を掲げて魔法を放ってくる。

 火魔法は彼らにとっても弱点な筈だが、普通にファイアボールを放つので、フレデリクは剣で魔法を打ち払って戦力分析を終えるとそのまま引き返して逃げているアルバン達に合流する。


「ねえ、さっきの階層、僕が先頭で道を切り開いたらどうかな?」

 アルバンの言葉にフレデリクは

「それでもいいんだけど。というか半分その積りだったけどもね」

「大丈夫か?強い割に経験値低いぞ?」

 エルッキはアルバンに不信を感じフレデリクに言う。

「骸骨兵は人間と同じだから、アルバン向きの相手だとは思うけどね。骸骨兵は核を潰さないと死なないからね」

「そうなの?」

「知らねーのかよ」

「心臓部に核があるからそれを壊せば良いだけ。まあ、剣術スキル5以上が4人もいるから、3人で片っ端からブッ倒してエリアスに二人を守ってもらいながら進めばちょろいかなとは思ったんだけど。エルもいるし、この階層難しいとは思わなかったよ。怪我もするしマルコに魔法を使ってもらわないといけない状態になるかもしれないけど」

「それじゃダメなのか?元々二人いれば事足りるって考えていただろ」


 エルッキはフレデリクがこの階層を攻略する手段を考えていたと理解する。15階層に行った父親たちのパーティはフレデリクとエルッキの父親、そこに天魔の魔女と帝都の聖女と言う魔法使いと治癒師と言うコンビがいて、オーウラウンダーの陛下がいた。

 今のフレデリクの構成メンバーによく似ているのだ。

 ただし、フレデリクの能力は魔法も治癒魔法も剣もオールラウンドの域をはるかに超えていた。


「僕はこの迷宮に残したいのは攻略法だよ。この迷宮の攻略は非常に難しい。深すぎて父さん達が自分達では攻略出来ないと言わせたほどだ。だからできるだけ今の攻略法を簡略化させたいんだよ」

「成程な。確かに………」

「あと面倒だし。あと2~3回は潜ると思うけど、出来るだけ楽な方法を見つけたい」

「面倒臭がりだもんな、お前。面倒な修行は喜んでするくせに」

「馬鹿だなぁ。その修行で得られる能力をがあって、もっと面倒な事をしないと得られそうにないから喜んで面倒な修行をするんだろ。もっと楽に得られるなら自分で楽な修行を編み出すわ!」

「フレデリクって凄く楽な方法を考えるよね。その割には権力とか腕力とか使わないけど。B組の生徒なんてそういうのを使って楽してるのに」

 エリアスはからからと笑う。

「それに伴うリスクを考えたくないなぁ。腕力や権力を使うって事は信頼を損ねるし、それ何の得もないじゃん」

「信頼?」

「エリアス。君は自分の家族で信頼できる人間はいるかい?下働きの人間は?」

「えーと……いないかな?」

「何で?」

「………それは…」

 エリアスはそこで気付くのだ。父や義母の持つ権力が怖かったからだ。嫌な事を嫌と言えば、公爵家の人間のみならず使用人にさえも暴力で脅しつけられていた。理不尽な自分の状況は全て権力と暴力によって貶められていた。

「帝都の英雄は暴力で帝都を律したし、善行であったが、戦争に何の後ろ盾もない人間が介入して貴族へ攻撃するのは問題だ。それを陛下が勝利して、権力によって正当化した。だから多くの貴族は信用せず、帝都を追い出された。それを説明し、理解を得たうえでの暴力ならば、後で権力を使って黙らせる事なくそれは正しく信用されたはずだ。それがヴィルヘルム様の言っていた帝都の英雄の結末だった」

 フレデリクは自身の父の事を冷笑し、エリアスはその言葉にぞっとする。

 こと政治の話をすると、父さえも未熟者のような口ぶりをするのだ。

「ま、父さんは貴族に興味もないし、英雄願望の無く、母さんが好きで、母さんの好きな帝都を落ち着かせるために戦っただけだろうからね。目的を成し遂げて煩わしい帝都から離れられる。最高の結末だったんじゃない?」

「なるほど」

「僕はあらゆる全てからルミヤルヴィを守る必要があるからね。信頼も信用も権力も暴力も全て武器になる。使える者は何でも使えがヴィルヘルム様の教えだからねぇ。無駄に権力を使って信頼を損ねたくない」

「僕に使えるモノなんてあるのかなぁ」

 エリアスは溜息交じりにぼやく。

「優秀な頭脳、クラスメイトからの信頼、騎士団に入れる一流と呼べる剣術、そつなくこなせる魔法、大して知らない僕から見てもそれなりに持ってる人が何言ってんだか」

「クラスの女子人気をゲットして平民になって冒険者活動しても結婚相手に困らない男が?」

「下の世代の貴族の嫡女からも狙われてるけどね」

「下どころか上からも狙ってる女子いるから。嫡男の俺より何故モテる!?」

 フレデリクの突込みにマインラートが羨まし気に口にして、マルコが意外な場所からの突込みが入り、エリッキが悔しげにぼやく。

「エル、そんなにモテないの?」

「おい、憐れそうに俺を見るな!」

 フレデリクが同情の声をあげてエルッキが文句の声を上げる。それに皆が笑う。

「そろそろ6階層に出るよ。ガンガン途中まで戻るからね。気を付けて行こう」

「折角来たのに戻るのかよ」

「ゾンビと延々に戦いたいならやっぱり、7階層に引き返す?」

「フレデリクの案が本当に上手く行くならね」

「コイツ、偶にボケるからな。信用しちゃダメだ」

「6階層に辿り着いた今になって言わないでください」

 エルッキの突込みに頭痛を堪えるように後輩たちが反論する。




***




 6階層から7階層の中間地点、丁度1時間ほどで着く場所にある穴に入る。そこも7階層の連絡通路で延々と続く下り坂を降り続ける。

「何か、蟻とかスライムとかミミズとかいやらしい魔物が多すぎる」

「地面ばかり見てたからね」

「この連絡通路はスライムが出るらしいから上も見てよね。上に潜んでガバッと来るから、スライムって奴は」

 フレデリクの説明に皆で顔を引きつらせる。

「フレデリクは覚えるのが得意だよな」

「皇族らしいからね。噂のヴァイスフェルトの血筋を良い感じに作用したのかもね。頭がよく、覚えたものを忘れないらしいからね」

「ジルフィアさんとフレデリクの恐ろしい才能に戦慄するばかりだよ」

「まあ、結局やる事って平民も貴族も同じだけどね。食って行くために周りの環境を整えるだけだから。平民が紅玉級や金剛級になれば、大きい仕事一つで莫大な財産になって楽に過ごせるね。エリアスやマインラートが羨ましいよ」

「既に婚約者を二人もって大貴族確定のお前に言われたくねー」

「何言ってんの。責任とリスクが物凄い多い立場より、自分の身の振りだけで生きていける冒険者の方が気楽じゃん。師匠はエルフだからともかく、他の二人の冒険者なんて金持ち出し、あちこちに女がいて好き勝手に生きてんだから。貴族は、『こんなクズまで俺に保護させんなよ』って奴まで一把一絡げに守ってやらないといけないんだよ?めんどくさ」

「フレデリクほど才能のある人間を放っておくほど、周りの人間は無能じゃないから。煤けて見えてたんだろうね」

 エリアスは苦笑しながら歩く。

「僕は小さい頃から小心者でね。真実を知るのを怖がって耳を塞ぐ癖がある」

「小心者が紅玉になるかよ………」

「火竜王への復讐に一生懸命だったのはルミヤルヴィがどうなったのか耳を塞ぐ口実だった。最初はずっと憎いあの龍を殺す為だったけどギレネに行って気付いていた。アレクサンドラ様の伯母である女王様ならルミヤルヴィの事を知っているけど、その話題を明らかに避けていた自覚があったからね。別れ際に仲間にも言われたよ。火竜王に立ち向かう度胸はあるのに故郷と立ち向かう度胸が無いのかってさ。恥ずかしい話、小さい頃、悪い事をして親に怒られるのを恐れて一人で部屋に逃げていた時アレクサンドラ様が手を取って連れ出してくれたけど、あの頃と何も変わってないって思い知らされたんだ」

「お前でも弱かった頃があったんだな」

「むしろ小さい子供には度し難い強い力があった所為で起きた悲劇かな。で、僕がヴィルヘルム様から受けた教えは『逃げを許さない』教えだからね。何せ恥をかきたくないなら最初にそうならないよう努力してできるようになればいい、負けたくないなら頑張って負けないようにすれば良い。民を守れないかもしれないなら守れるようにすればいい。あんな何でもできる神様でもなければ無茶な教えを、アレクサンドラ様は幼い頃から授けられていたんだ。僕は心から尊敬してた。そして僕には強い才能があった。僕が手を貸せばその重さから少しでも助けになると思っていた。そしてそれを出来る人はトビアス様以外に僕は知らない」

「僕らの6歳上の年代の首席、化物か?」

「いやいや、こいつが11歳の頃だから。今のコイツじゃなくて、3年前のコイツだから。3年前は魔法なんてレベル5行くか行かないか位だし、剣術だってLV7だったし、世間知らずの馬鹿だったから」

「その時点で現状敵わない僕達」

 エリアスがぼやき、マルコが苦笑する。

「確かにやることなす事スケールがヤバいけど、ミスばっかりしてたからな。トビアス様はその点フレデリクの使い方が凄く上手かった。あの人が完璧な貴公子だった事は否定しないけど、今のこの馬鹿の武力や魔法には多分勝てねえよ」

「まあ、その辺は否定しないけど。トビアス様、剣術レベル8で今の僕と同じだったし、魔法も水と風魔法LV8が最上位だったから僕の雷魔法LV10と神聖魔法LV9と比べれば今は僕の方が上だけど、ミスが無いんだよな。失敗とか見た事無いし、ミスがあっても途中で修正して終わる前には直すっていうか。エリアスやカスパル先輩みたいなクラスの優等生みたいな感じの人で、僕みたいに協調性皆無な訳じゃなかったし」

「お前が協調性ない自覚があった事にビックリだよ」

 ジトリと見るエルッキだがフレデリクは偽悪的な顔をして鋭く返す。

「低いレベルに合わせてたら目標に届かないでしょ。エルのレベルになんて合わせられないよ」

「ぶっ殺すぞテメエ!」

 エルッキが拳を振りフレデリクはそれを避けつつ、エルッキは即座に剣を抜いて空へと切り上げる。

 誰もが何事かと思った時、丁度スライムが空から落ちて攻撃を仕掛けていた。

 エルッキは上から落ちて来るスライムのコアを斬り飛ばす。同時にフレデリクはナイフを懐から出して空に向けて他の狙って来ていたスライムを撃ち落とす。

「ちっ、避けやがって」

「まさかエルがスライムに気付いていたとは驚きだ」

「ホントにぶっ飛ばすぞ」

 半眼でエルッキはフレデリクを睨む。

「っていうか、二人で喧嘩してたのに、上に気付いてたんですか?すいません、話に気を取られていて警戒を忘れてました」

「しゃーねーよ。これは経験だからな。俺も学校入って、迷宮経験詰んで、西部迷宮探査に連れて行って貰ったけどさ。元白狼騎士団の人らなんて、くだらね―話ししながら、突然飛んできた魔物を狩れるからな。それで警戒忘れるなよとか俺に文句言うの。あんたら警戒してなかったじゃねーかって言えば、雑談しながらでも戦えるっての、アホかって笑い飛ばされたんだ。その領域を目指して仲間と来たりしたけどまだまだあのレベルじゃねーし。剣術はむしろ俺の方が上に来たけど、比較すれば場数不足だ。あの人ら、何度もスタンピードで魔物を殺しまくってるから経験値が半端ねえ。綺麗な剣術の術理より魔物をぶっ飛ばす術を身に着けてる。あの人らからすれば、俺もアルバン君も大差ねー位に言い兼ねねーからな」

「ま、実際、名もなき英雄達だからね。『俺は●●じゃ英雄だったんだぜ。なのにその手柄を奪われて文句言ったら左遷されたんだ。許せねー、帝都の貴族死ね!』とか酔っぱらって言ってたんだよ」

「あったあった。皆似たり寄ったりなネタ持ってたな」

「その耳にした地方に火竜王討伐の為に行った事があるんだよ。酒場で聞いたら、スタンピードを一人で村を守る為に戦てくれた英雄がいたんだ。俺は息子はその人の名前を貰ったんだなんて話を聞くんだよ。実際に、広場に銅像があるの。嘘だろアンタ、ウチの父さんのただの部下じゃん、みたいな?そういう場所がいくつか見たよ。嘘じゃなかったんだぁって」

「マジ?」

「マジだよ。4か所あった。ディルク先生なんてかなり古い人なのにその地方の人が皆ディルクさんでびっくりしたから」

「ま、ディルク先生は昔凄かったらしいじゃん。剣術レベル9で白狼の師範役だし、騎士として迷宮を一つ潰したのに上司の手柄になって、帝都内乱でもヴォルフさんに手を貸して一緒に左遷された名もなき英雄の代表格じゃん。あの煩い連中がディルク先生だけは先生先生って格下になるし。」

「もしかしてディルクって、あの英雄プライセル?」

 アルバンはふと思い立ったように尋ねて来る。

「うん、それ」

「マジ?今ルミヤルヴィにいるんだ」

「そうだけど、知ってるの?」

「ウチのクラスのハッセルバッハいるだろ。剣士で騎士志望の」

 とエリアスが進言する。

「ん?がたいの良い奴だよね。そう言えば名前はディルクだったね」

「両親が旅行で山賊に襲われた際に命令無視して一人で山賊質と戦って撃退したのに上官に説教されて手柄を奪われた人らしい。正しい事をする騎士になれって父親にディルクって名付けられたらしい」

 マルコがクラスメイトの一人を例に出す。

「先生らしい逸話だなぁ」

「温厚で、いざとなると騎士の鑑みたいな人だしな」

「まあ、帝国貴族からは煙たがれて、実力に反して全く評価されて無かったらしい」

「アルバンが聞いてたのはその事?」

「え、あ、別にうらみがあるとかそういう話じゃないだけどね。僕、傭兵団生まれでさ。父親が左腕が無くて隻腕のグランって字を持ってた人なんだけど。僕が小さい頃に死んで兄貴が継いでるからぶっちゃけ覚えがないだけどね」

「隻腕のグラン……?」

 フレデリクはどこかで聞いた気もするが覚えがない。酒場の与太話だと酒の匂いで記憶が怪しくなるせいだ。フレデリクは酒にあまり強く無かったので、飲んでこなかったし、出来るだけ近づかなかった。

「死んだ親父が隻腕の理由が、ディルク・フォン・プライセルに切られた所為だって。帝国と戦う時、プライセルがいたら撤退しろ、そういう話を聞いた事がある。白狼騎士団に左遷されてたんだね」

「まあ、暴れん坊集団でも一目置かれる師範役だよ?その位の逸話があっても不思議には思わないよ。敵国の傭兵になってた経験があるなら尚更ね」

「味方よりも敵の方がその名前って響くからなぁ」

 フレデリクもエルッキも頷き合う。自分達の剣の先生が凄いという点については同感だった。

「レフトラ先輩ってもしかしてプライセル卿に手ほどきされて育ったんですか?」

 エリアスがエルッキに訊ねる。

「まあ、親父が死んでからはディルク先生かな。まあ、ガキの頃は親父を中心に色んな人に習ってたけど教えるのが一番上手いのはディルク先生だった。剣閃も飛ばせなかった俺が3年でレベル8までかなりハードに叩きこまれたし」

「エルも立派になったもんだ」

「うるせえよ!並ばれてるくせに上から目線で語るな!」

 ぶんぶんと殴ろうと拳を振るがフレデリクはひょいひょいとかわす。

 ぜえはあと疲れるエルッキは肩で息をし

「少しは殴らせやがれ」

「剣術はレベルが全然上がらなかったけど、他の技術は軒並み上がってるからね。剣を持つ騎士が殴り合いで僕に勝てる人間はいないんじゃないかな?足も拳も槍も弓も投擲も大体剣術と同等近くまで持って行ったし。3年で気付いたけど、僕の戦闘スタイルってどちらかと言うと短剣なんだよね。投げれて手数が増えて殴れるし蹴れるし動きに邪魔にならない。軽いから、体重の軽い僕向きだし。本職じゃない剣術で並ばれても痛くもかゆくもないっていうか」

「そう言えばお前は昔から戦闘中に足も手も出すし、武器も特に剣じゃなきゃダメって奴じゃなかったか」

 ぐぬぬぬぬと唸るエルッキに苦笑する。

 フレデリクはそう言って、父も従兄妹と聞いているベルメイレンも同じタイプだったなと思い出す。同じ部族と言う話は間違いないだろう。何せ父の戦闘スタイルが彼女のそれとそっくりだからだ。

「僕も剣術だけじゃダメかなぁ」

 アルバンは少し考える。

「そうは言わないけど。実際、校長と試験で手も足も出ず、奇襲で勝利したし。つまり極めてしまえば剣だけで僕如きは完封できるって証拠だ。剣だけじゃダメではなく、その剣じゃまだまだって話だよ。それ以上剣を極めるのか更に他の技術を組み合わせて上を目指すのか。僕から見ればアルバン位の能力があるなら剣聖を目指して貰いたいね。僕は半ば諦めてるし、剣聖相手でも戦える術があるから気にしてないけど、そこまで極めちゃえば立派な武器だよ」

「剣聖……かぁ」

「俺もいつかは」

「え、エルってどっちかって言うとまだ戦闘スタイル自体が確立できてないっていうか……センスが微妙っていうか……剣聖になりたかったの?」

「お前、ぶっ殺すぞ!」

 フレデリクの突込みにエルッキは殴り掛かるが、やはりフレデリクは全てをかわすのだった。皆はゲラゲラと笑うだけだった。

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