6話 フレデリクの地獄迷宮探査⑥ 五~六階層
フレデリク達は4階層のボス部屋にある階段を下り、辿り着いたのは5階層の山岳エリアだった。
「普通に岩山だね」
「外に出たのかと思った」
迷宮内とは思えないほど山岳風景がそこにあった。岩壁の天井は苔か魔石か青白い光を差していた。迷宮5階層は確実に地下1キロは下っているような場所なのに、まるで高山のような場所に降り立っていた。
「ちなみに、ここの階層は死にやすいから気を付けろって書いてる。死にやすいから気を付けてね」
「どうやって気を付けんだよ!」
フレデリクはどうでもいいような事を口にしてマインラートが唸る。
「足元に気を付けるのと岩と岩の隙間とかだな。スライムが潜んでいるからいきなり飛びつかれて腕とか足とか食われる」
「こわっ!?」
エルッキは危険な場所を指差しながら説明する。
マインラートは砂利や土で固まってるような場所にするすると歩いて来ると
「ちなみに、そのスライムが出ない安全区画が最もワームの狙い場所でね。足元からガブッて来るんだよ」
「ひぃ!ど、どうすりゃ良いんですか!?」
「注意してれば気付くよ。足元のワームは何かが動いている感じとか、踏んだ後にいつもと違う感覚とかあるから。それに大丈夫」
「大丈夫って?」
「多少食われても僕が治すから」
「それ大丈夫じゃねーよ!」
ニッコリ笑顔で笑うフレデリクにマインラートは頭を抱えて嘆くのだった。
マインラートはオドオドしながらパーティで進む。
(この迷宮、ゲームだと大体走って進むから5階層ってほとんど魔物に襲われないんだよ!いっそ、フレデリクが走って進むって言ってくれないかな?)
マインラートはそんな事を考えながら歩いていると、アルバンはふと気づいたように手を打つ。
「スライムやワームなら走り抜けた方が早いんじゃないかな?」
それだっ!と言わんばかりにマインラートがアルバンを見る。
「高低差が数百メートルはあるから、ここで駆け抜けたら高山病みたいになるよ?それに最短距離にして10キロ位だから僕はともかく体力もたないよ。荷物持ちのマルコだってさすがに厳しいでしょ?足音バタバタ走って、疲れて足を止めたら魔物が一気に襲い掛かって来るよ?2~3時間かけてゆっくり静かに行く方が安全だと思うけどな」
ゲームにはスタミナもなくただただ走っていけばよかっただけだった。気圧差による高山病?脚力やスタミナ?そんなの知らねーよ!
ゲームに無い要素に頭を抱えるマインラートだった。
それから2時間半かけて山を上り下りをしながら、迷宮の中央から西の方角へ歩き進み、巨大な洞窟のような場所に行きあたる。その洞窟のドアもない巨大な部屋が5階層のボス部屋だった。
ボス部屋にはゴーレムがいる筈だが3日前に倒されているらしいのでそこには存在しなかった。2日後には出て来るので戦う事になるだろう。
全員が一休みと言わんばかりに適当な岩の上に座って水を口にする。
「ふう、緊張したぜ。3匹も狙って来るとはな」
「ここの階層、僕だけなら多分魔物とエンカウントしなかったね」
「そう?」
「足音立てずに走れるからスライムは気付いても反応できず、ワームは気付けない。パーティによっては攻略難度最低レベルの階層だな」
「マインラートは狙われてたね」
アルバンがマインラートの方を見る。
「歩き方がねぇ。仕方ないね、これは。体力無いからなおさらガサガサ音立てて歩くから魔物も気付きやすいんだよ」
「俺が狙われたのって足音が煩いからか?」
「まあ、分かりやすかったからこっちとしては楽だったけど。良い囮がいて」
「俺を囮に使うな!」
フレデリクがあっさりと囮に使っていたと言うので、マインラートは反論するが周りは苦笑するのだった。
「でも指摘した所で足音静かに歩けるか?山道を。アルバンなんて静かなもんだよ。平坦な道を歩いているようにね」
フレデリクは山道さえも足音を立てずに歩いていたが、アルバンの足運びを褒める。
フレデリクの感覚ではアルバンは能力が傭兵全振りで、対人は圧倒的に強いけど対魔物は弱い。足腰はしっかりしていて荷物もモテるし装備を重くしても動ける。ただ、それ以外の能力がからっきしなのだ。
こんな極端なタイプが教え子だったなら教師は面白いと思うだろう。校長が面白がったと言う噂が嘘でないだろうと思う程だった。
「まあ、歩きなれてるから。軍人や傭兵はとにかく歩く、走る、が仕事みたいなものだし」
アルバンは苦笑する。
「マルコやエリアスも普通に歩いていたけど」
「そりゃ、ウチの学校はいると移動が徒歩とかザラだし。遠征でB組は馬車で行く中で、ぼくらだけ徒歩とかよくあるからね。女子も含めて1日中歩き通しとかあるから、何やかやで皆慣れてるよ」
アルバンの問いにエリアスは学校の授業上の説明をする。エルッキは先輩だから当然と言う顔で後輩たちを眺めていた。
「フレデリクは?」
「僕は火竜王追い駆けて3年間、どんな場所も走り続けていたから。しかも師匠の修行をこなしながら」
「俺だけ!?俺だけなのか?」
マインラートは平民で馬車に乗らずよく歩いていると思っていたが、周りと比べると歩くレベルが低い事に気付くのだった。
「まあ、冒険者は体が資本って言うし、走るのが苦手は仕方ないにしても、歩けないはダメでしょ。これは冒険者学校一年生への洗礼じゃないかな?」
「ぐぐぐぐ。そう言えばマルコとエリアスは初等部からこの学校。フレデリクとアルバンは元職業持ちだった。よく考えたら俺だけ冒険初心者か!?」
「傭兵って職業っていうのかな?」
「冒険者って職業ない人間の別称じゃないの?」
アルバンとフレデリクは首を傾げる。
「既に働いてるって意味だ」
「生まれが傭兵団だから働いていたっていう感覚が無いんだよね」
「火竜王を追いかける為に食っていくための資金調達で仕事してただけで、それで食っていくつもりは一切なかったんだよなぁ」
「一生それで食っていける肩書持っておいて不満なのか、お前は!」
マインラートは頭を抱えて訴える。
「次期辺境伯だからな」
「しかも第三帝位継承権持ち」
「紅玉級冒険者の肩書より大きい物を持ってる人間だからねぇ」
エルッキ、マルコ、エリアスはフレデリクを見て呆れるようにつぶやく。
「世の中は不公平だ!」
マインラートは頭を抱えて叫ぶのだった。
「別に譲っても良いけど。西部迷宮攻略の最前線に立てないと話にならないよ。スタンピードを自力で捻じ伏せないと………。ルミヤルヴィの騎士なんて、自分より弱い奴はちょっと、とかいう困ったちゃんみたいな帝国最精鋭の連中だし」
「あの連中。帝国貴族に逆らって追い出されてきた連中だし。親の七光りとか認めねーから。フレデリクはガキの頃からあの中で力を示してきたから上の連中は帰ってきた直に臣下の礼を取ってたけど、そうじゃなきゃ話になんねーよ。むしろ俺やフレデリクは親が偉く強かったからハードル高いし。俺がやっと戦力として認めて貰えるようになった位だぜ」
「どういうレベルなんですか、元白狼騎士団」
顔を引きつらせるマルコの問いにエルッキは苦笑する。
「この学校で断トツトップの首席だったトビアス先輩が戦闘力では中の上、頭脳があるから指揮官級って所かな。昔のフレデリクもそんな感じ。今は腕力の方も認められてるっぽいけど」
「エルは頭脳が無いから並以下な」
「うるせえよ!お前、調子に乗るなよ!」
エルッキは拳を振るがフレデリクはそれをヒョイヒョイとかわす。
「調子に乗るのは樹竜王を倒してからかなぁ。魔神の眷属の迷宮は西部迷宮と砂漠迷宮しか知らないからさ。ここでの経験を手に入れたいんだ」
「お前はとことん、そういう所は真面目だよな。次期辺境伯様だってのに」
呆れた様子でエルッキはフレデリクを見る。
「そもそも僕はアレクサンドラ様と結婚するつもりはないよ」
「「「え?」」」
全員がぎょっとした顔でフレデリクを見る。
「さてと、一休みも終わったし、6階層に行こうか。今日は7階層の先で休憩取りたいなぁ」
フレデリクは伸びをしながら前を歩き始める。
「ちょちょちょちょ、ちょっと待て」
エルッキはフレデリクの首根っこを掴む。
「何さ、エル」
「アレクサンドラ様と結婚する気ないって本気か?」
「よく考えてよ。エルはバカだなぁ」
「何がだ?」
「アレクサンドラ様が強い婚約者を必要としたのも、強い結婚相手を必要としたのも、優秀な辺境伯を求めてるのも、全てはルミヤルヴィの為なんだよ。そしてルミヤルヴィが強くあらねばならないのは西部迷宮から民を守る為だ。だから僕は西部迷宮を攻略して、アレクサンドラ様が自由に相手を選べる状況にリセットしたい。卒業までに僕が僕に課した課題だ」
「でもルミヤルヴィは如何すんだよ」
「別に僕が辺境伯にならなくてもやり様なんていくらでもある。そもそも僕はアレクサンドラ様と結婚する予定なんて無かったけど、トビアス様の補佐をして支えていくつもりだった。政略結婚なんて必要ないんだよ」
「いや、それは……」
「しーらね。俺、今の聞いてないんで。さあ、先に行こうか」
エルッキは切り替えて前へと歩き出す。
マインラートやアルバンは首を傾げているが、エリアスとマルコは顔を引きつらせて苦笑していた。
エリアス達はアレクサンドラがフレデリクの来る前後で随分笑うようになっているのを知っているからだ。
5階層のボス部屋から大空洞を歩き続けると同じような景色が再び広がる。
迷宮と言うよりは巨大な空洞が続き、外を延々と歩いている気分になる程だった。
ただし、魔物が変わり、蟻系魔物が追加され、普通のスライムではなくポイズンスライムへと変わっていた。
蟻系魔物と戦い足音を立てると足元からワームが狙って来て、更に足を止めるとスライムが横から飛んで来ると言ういやらしい階層となっている。
「岩場の近くに寄らず、中央の足元が土になっている所で戦うんだ。足元に注意しながら蟻を一匹ずつ確実に倒していこう」
「蟻とワームを避けてスライムと勝負の方がよくないか?」
「スライムはポイズンスライムだから、ダメージを負った際に引き返さないといけなくなる可能性がある。魔法による対処が必要な可能性が高い方が先に進むという点ではこっちの方がリスクが低い」
「あ、あー、なるほど。っていうか、俺、これまで魔法使って無いんだけど!?」
「じゃあ、鈍器宜しくね」
「マジかよ」
フレデリクに再び棍棒を渡されてうんざりした顔になるマインラートだった。
「え、何でなる程なの?ダメージを負う確率の方が高いし魔力減少しやすいんじゃないの?ポイズンスライムの方が難易度低くない?」
アルバンは首を傾げる。
「確率は低くても、毒を受けた時は確実にMP使うだろ。蟻系やワーム系なら逆に攻撃されても掠り傷で魔法で回復する必要ない可能性があるし。MP減少量の期待値が蟻系と戦った方がマシって事じゃねーの?」
マインラートの説明にフレデリクは頷く。
「そういう事。良かった。魔導師がちゃんとMP管理の基礎を把握してくれてて」
マインラートが消費MP管理の基礎的な考えを理解してくれていてホッと息を吐く。
「キタイチ?」
頭にクエッションマークを浮かべて首を傾げるアルバンに、エリアスが背後から来た蟻を切り伏せながらアルバンにフォローを入れる。
「ごめん、アルバン。それを説明する余裕無いから、ここを抜けたらな」
「そう言えばアルバンは経験値だけでなく勉学も低い子だった」
マインラートはぼそりとぼやき、マルコが突っ込む。
「ダメな子みたいな言い方しない。大体、冒険者パーティなんてデコボコしてるものなんだよ」
「「できる子代表フレデリクに言われてもなぁ」」
マルコとエリアスが苦笑しながらぼやく。
「できる子代表どころか、つい最近まで、冒険者パーティで僕が一番弱かったんだけどなぁ」
フレデリクはバタバタする事でワームが狙って来る頻度が増え、ワーム討伐をエリアスに任せつつ蟻討伐に集中する。
「その魔王でも倒しに行くようなパーティにいた奴はこれだから」
魔王ではなく、帝国でさえ自然災害指定して討伐を諦めた、火竜王を倒しに行くパーティだった。
「師匠が言ってたなぁ。真の勇者がいて、エルフの英雄がいて、故郷に迷宮を持つルミヤルヴィとレーヴェンベルクの家に関わる子供がいて、魔神の眷属を倒すためのようなパーティだって。倒したのは火竜王だけど」
「ある意味、魔神の眷属並の敵だけどな、そいつ」
「アルバン、足止めないでどんどん進んじゃって。それについていくから」
フレデリクは足を止めてしまっているアルバンに声をかける。
「でも、それだと後ろに…」
「エリアスはワームに気を付けて、アルバンはとにかく前に進んで倒せなかったら後ろに任せて。僕とエルとマインラートとマルコで叩くから」
「分かった。3層の時と同じだね?」
「3層の時ほど走る必要は無いから。進むことを考えて。倒しきれなくても後ろに任せれば確実に仕留めるから。道を切り開いてくれ」
フレデリク達は魔物を倒しながら前へと進む。
6階層を進み、多くある7階層への連絡通路で、最短距離にされている場所へとたどり着き、魔物が出てこなくなりホッと息を吐く一同だった。




