6話 フレデリクの地獄迷宮探査③ 二階層
フレデリク達は第一階層を早々に進み第二階層へと向かっていた。
二階層の最短ルートを進む。正規ルートは人が多く移動するので魔物は少ないし、いればすぐに他の冒険者に狩られてしまう。巨大な通路の中央を歩いている為、端の方にしか魔物がいないと言うのもある。
朝に入ってから時間的には昼前頃になり、第二層のボス部屋と書かれている場所に辿り着く。
そこには30人程の行列が出来ていた。
「何だこれ?」
マインラートがフレデリクの方を見るが、フレデリクは首を傾げる。
「トイレ待ち?」
「んな訳あるか」
「この先は大きい玄室がある。さっさと進もう」
フレデリクは並んでいるのを無視して前へと向かうと玄室の前で5人の男達が立っていた。
「ちょっと待った。嬢ちゃんよ、ここは順番待ちだ。勝手に入られると困るんだがな」
「じょ……嬢ちゃんでは無いんだけど……順番待ち?そんなのギルドで聞いていないんだけど」
フレデリクは男達を見上げながら訊ねる。
「そりゃそうさ。ここは俺ら冒険者にとっての暗黙のルールって奴さ。この玄室は人数に伴って同数のシャドウソルジャーが現れる仕掛けになっていてな。勝手に入られると困るから人数制限を掛けて倒したら先に進むって決まりごとが出来てるんだ」
「くだらん。先に進むからどいてくれない?」
フレデリクは溜息を吐いて先に進もうと歩き出そうとするが、男達は前に立ちふさがって進ませまいとする。
「おいおい、分かってねえのか?」
「お前ら、見た所、学生だろう?」
「良いのかよ。冒険者未満のお前らが、俺ら冒険者のルールに従えねえっての?」
威圧してくる目の前の男達に対し、フレデリクは半眼で彼らを睨みつける。
「ちょっと待った、ちょっと待った」
行列の中にいた一人の男が飛び出して仲介に入って来る。
「エル?」
フレデリクは目の前で仲介に入って来た男を見て驚いたように名を呟く。数少ない男友達であるルミヤルヴィの友人、学園の5年生であるエルッキ・レフトラだった。
「すいません。こいつ、そういうルール気にしない奴で。フレデリク、お前何しようとしてんだよ」
「何も意味のない人数制限なんて無視するに決まってんでしょ」
エルッキはフレデリクの肩を掴んで引き返すように下がらせる。
「あのなぁ。分かってんのか!?俺らが勝手にやると学生って理由だけで、他の学生まで目を付けられるんだぞ!」
エルッキの言葉に前を塞いでいた冒険者達も頷きながらフレデリクらを見ていた。
「冒険者は強者こそがルールだ。学生だろうが弱者であれば食い物にされるのは当然だ。俺らが弱者を守ってやったところで、卒業したら守ってもらえないんだぜ」
「そう言ってんじゃねえ。俺ら強い学生が冒険者全体を敵に回したら、弱い学生たちが狙われるって言ってんだ。冒険者の横のつながりを俺ら強い学生がルールを破って、迷惑をこうむるのは弱い学生なんだよ!」
エルッキの言葉に、冒険者の男たちはニヤニヤと笑っていた。
周りの順番待ちしている冒険者の男達もそうだと頷いている。
「そういう事だ。分かってるならルールには従えよ」
「そもそも何でそのルールが出来てんだ?はっきり言って意味ないだろ。僕らが入ったら5体のシャドウソルジャーを狩れば良いって事でしょ?そこに何で順番待ちをする必要が出る?」
「ガタガタ言うんじゃねえ。冒険者にはルールってのがあるんだ!それを乱すんじゃねえ!」
男達はイライラした様子でフレデリクら学生を睨む。
「そのルールをギルドから聞いてないんだよ。であれば聞く必要はないな。凡そ何でそんなルールが出来てかは見当は付くが、10階層を目指してる僕らがこの階層で弱者に足並みをそろえて順番待ちする理由はないだろ。弱者は強者に従う、冒険者の不文律だろ。それとも弱い現役冒険者様達を守る為に強い学生が守ってやらないといけないルールがあるっての?」
フレデリクはヘラリと笑って冒険者達を見る。
「テメェ!喧嘩売ってんのか!」
「売ってないけど、アンタらがそう解釈する事を言ったんだろ?僕が納得できるルールを持ち出すべきだったね。僕が納得できるなら聞いてやるさ」
「てめえ!調子に乗るんじゃねえ!」
「可愛いからって許してもらえると思うなよ」
「おい、やっちまえ!」
「ああっ!」
武器を抜く冒険者達にフレデリクは前へと進む。
迫りくる冒険者達であるが、フレデリクは戦士風の男が剣を振りかぶる内に懐に入り込んで顎に掌底一撃で膝を地につかせる。
フレデリクは左右から迫る剣を持つ戦士と短剣を持つ斥候の攻撃を避け、体を翻しながら右足で左側から襲う剣士の頭を蹴り飛ばし、左足で右側から襲ってきた斥候の頭を蹴り飛ばす。
「この、ファイアボール!」
魔法使いがフレデリクへ魔法を放つが、フレデリクは拳を振り抜く。魔力によって強化された打撃を遠当てで火魔法を吹き飛ばし魔法使いの腹に叩きこんで悶絶させる。
「じゃ、先に行くよ。良いよね?」
フレデリクは地面でうずくまる4人の冒険者を一瞥して、先へと進む。残りの治癒職らしき冒険者は腰を引けたまま塞いでいた道からどく。
「おいおい、大丈夫なのかよ」
「フレデリク、あれは拙いって」
マインラートとエリアスが顔を引きつらせて止めに入るが既に手遅れである。
「あのさ、これ、先輩たちの攻略資料に書いてないから出来たのはつい最近だろ。予測は付くけど、この勝手なルールに僕は納得いってない。であれば無視して一石を投じる。学校と冒険者の間に溝ができる前に教師が収めに入るだろ。収められない無能なら僕が帰って来て黙らせればいいだけなんだから大した問題じゃないよ。紅玉級冒険者の肩書はこういう問題を黙らせられる位の力はあるよ」
「お前、拙いだろ。ほとんど暴力で脅してるぞ。納得すると思ってんのか?」
エルッキはフレデリクに並び説得するように口にする。
「あのさぁ。納得いかないルールを唯々諾々と従うのは愚か者のする事だよ。納得するまで口論すれば良いし、それは相手が領主であろうと同じ事だ。ルミヤルヴィだって、帝国が無体を押し付けるなら僕は帝国とだって戦う積りだけど?」
「…」
エルッキはあんぐりと口を開けて言葉も出なかった。
「くっくくくくく……。いや、プププッ。イザーク様が失脚するはずだと思ってね。今の帝国貴族は上位者が絶対って無理を押し通す風潮がある。そこに胡坐をかいてる人間が勝てる存在じゃないよね」
「えー、エリアスまでフレデリクに従うの?」
アルバンは不安そうにぼやく。
「まあ、僕らはリーダーに従うまででしょ?」
「ヤバいリーダーを持ったな」
「仕方ないね」
エリアス、マインラート、マルコもフレデリクに続く。
フレデリクの口先の回り方と押しの強さはある程度理解されていたからでもある。
「お前、本当に面倒になるぞ、これ」
「むしろ面倒を起こす気満々だから気にしないで良いよ。あと、シレッとエルッキまで僕らと一緒に入って来て大丈夫?」
「え、あ」
玄室に入ったフレデリクらについて来てしまったエルッキは自分が順番待ちしていた場所を通り過ぎてた事実に気付く。
「情報によると、人数と同数のシャドウソルジャーが現れるらしい。マルコとマインラートを僕とエリアスで守りながらアルバンが遊撃で一体ずつ倒していこう」
「分かった」
アルバンとエリアスが頷く。
「ただし、状況次第では僕も遊撃に入って、エリアス一人で二人を守って欲しい。順番待ちの状況を考えると多分、そうなる可能性が高いから」
「どういう事だ?」
マインラートは首を捻る。
玄室内の中央で6人のパーティが戦っていた。彼らは、不格好な鎧を纏う黒い影の様な魔物、シャドウソルジャーと戦っていた。
フレデリクらとエルッキの6人が入ると6体のシャドウソルジャーが地面から影を作り、地面から出現する。
だが、新たに現れたシャドウソルジャーは、フレデリク達ではなく中央で戦っている冒険者達を挟み込むように襲いだすのだった。
「背後からシャドウソルジャーが!」
「誰だ!勝手に入って来たのは!」
慌てだす戦闘中の冒険者パーティ達だった。フレデリクは予想通りだと溜息を吐く。
戦闘中の冒険者達と新たに現れたシャドウソルジャーの間にフレデリクは一瞬でその場に走って立ち、間に入ると剣を地面に突き立てる。
「<聖光障壁>!」
フレデリクは剣を中心に魔方陣を展開させて自身の背後に神聖魔法で障壁を張る。シャドウソルジャー達は標的を見失い足を止めて、周りを見渡す。
フレデリクは自分の方へ手招きつつ、来いよと言わんばかりに不敵に笑い、地面に突き立てた剣を抜き戦闘モードに切り替える。
シャドウソルジャーが動き出す前にアルバンが一気に飛び出して剣でシャドウソルジャーの首を落とす。だが直に首が戻ってしまう。
「あれ、倒せてない!?」
フレデリクに襲い掛かっていたシャドウソルジャー6体のうちの1体はアルバンへと標的を変える。アルバンは攻撃の利かなかった相手に慌てて守勢に回る。
「シャドウソルジャーは魔法生物だから首を落としても死なないよ!胸辺りにある核を狙え」
フレデリクは自分に襲い掛かって来たシャドウソルジャーを一撃の下で倒し、地面には欠けた魔石を地面に落とす。
残った5体のシャドウソルジャーはフレデリクを強敵と見做したのか、2体がフレデリクに張り付いたまま動けなくなり、他の3体は残りのメンバーへと襲い掛かる様に動き出す。
「くっ!えー、切っても殺せないってどうやれっての?胸のあたりって?」
アルバンはシャドウソルジャーの攻撃を受けつつ反撃するがスカスカと攻撃が当たらず困り果てる。
「ど素人かよ!そう言うのは威力で吹き飛ばせ!」
エルッキは魔力を帯びた剣を思いきり振り回して自分の方へ来たシャドウソルジャーを威力で吹き飛ばすように剣を叩きつけてシャドウソルジャーを吹き飛ばして地面に倒す。だがそれでも一撃では倒せずシャドウソルジャーは起き上がろうとするのだった。
「しぶといな」
「ちゃんと核に直撃してないから」
フレデリクは自分を抑えに立つシャドウソルジャーと対峙しながらも周りを見渡す。
アルバンは上手く攻撃が当たらず苦戦し、エルッキは1人で1体を受け持っており、エリアスの方に残りの2体が迫っていた。
エリアスは1人で2体のシャドウソルジャーから仲間を守る立ち位置を取りながら剣を振るい上手く戦っていた。とはいえ流石に手が足りていない様子である。
フレデリクは目の前の2体のシャドウソルジャーをそれぞれ突きで一閃して胸を貫き魔石を破壊して瞬殺すると、走ってエリアスと戦っている2体のシャドウソルジャーの内の1体と戦いに入る。
「相手の魔力を感じ取るんだよ。どこから魔力が込み上げて来るのか、その発信源を切る!強さで言えば強く無いけど、上手く倒せないからランクD相当になってるだけの魔物だ。弱点を的確につければ戦士じゃなくても倒せる雑魚だ」
「無茶言いやがる…っと」
エルッキは力任せに剣を振って自分の受け持っていたシャドウソルジャーの魔石を叩き壊す。
エリアスも仲間を守りながら、シャドウソルジャーと戦い、弱点の説明を聞きそれっぽい場所に攻撃を入れると攻撃に少しの手ごたえを感じ、同時にシャドウソルジャーはふらつく。
「ここか!」
シャドウソルジャーの攻撃を2度3度受けてから好機を見出して剣を振るとシャドウソルジャーが霧散して壊れた魔石が地面に落ちる。
「ふう。何とかなった、かな?」
「ナイスファイト」
フレデリクは苦笑気味にエリアスに声をかけてハイタッチをする。
「って、ええと、アルバンを助けなくていいの?」
「良いよ。負けはしないでしょ。アルバン、胸のあたり思い切り剣をぶん回せ。何度も何度も振ってりゃその内当たるから」
「って、もう俺だけ片付いてないの!?」
「何で剣術LV9で剣術なら最強の男が一番苦戦してんだ?」
クラスの実技授業でフレデリクやエリアスもアルバンには剣で負けているのだ。剣技にかけてはクラストップの男が最も苦戦していた。
「術理というより頭の方かな。勿体ない。剣術LV2~3位に上がっていれば難なく倒せる魔物なんだけど、経験が薄いって感じだね」
フレデリク達は他人事のようにアルバンが一人でシャドウソルジャーと戦っている姿を眺めながら話をしていた。
3分後、ゼエゼエと息を切らしてアルバンが砕けた魔石を持って戻って来る。
「酷い。皆、見てないで手を貸してよ」
「いや、せっかくだから良い経験になるかなと」
「エリアスって剣術LVいくつ?」
「5だけど」
「LV5で身体能力も低いエリアスでさえ仲間を守りながら倒せたのに、何で身体能力も剣術LVも高いアルバンが一番苦戦してるんだって話なんだけど」
フレデリクが突込み、アルバンは両手を地面についてうずくまる。
「すいませーん。手伝いますかー?」
フレデリクは未だ戦ってる冒険者達に声をかける。
「いらん!」
「邪魔するんじゃねえ!」
イライラした様子で返答が帰って来る。
「じゃ、先行きまーす」
フレデリクはさっさと先に進み、エルッキは良いのかよって顔でまだ戦っている冒険者達を一瞥してフレデリクを追いかける。
エリアスはアルバンに手を貸して一緒についていく。
「大丈夫か?後で問題にならね?」
「なるんじゃない?僕がギルドともめた所でギルドは折れるしかないでしょ。それに僕らはギルドに確認して注意事項は無いって聞いてここに来たよね?」
フレデリクはあっさりと問題を認める。
「まあ、確かに」
「であれば、何か言われても問題は全部ギルドと学園が解決すべき内容だ。何時間もあそこで待ってたら予定が詰まるでしょ」
フレデリクは丸投げする気満々だった。
「困った時に他の冒険者に頼れないぜ」
「別に誰の迷惑にもなってないよね、今回の強行」
「そ、そりゃそうだけど」
「困ってる奴らがいて助けて欲しいって言うなら手を貸せば良いし、そうでないなら進む。それが冒険者だ。誰にでも良い顔するのも悪くはないけど、良い顔して良いように利用されるかもしれない訳だし、だからこそ自分の意見はぶつけておくべきだよ」
フレデリクは持論を展開する。
「なるほどな」
「フレデリクって割と過激だよね」
「いや、………まあ、正論なんだろうね」
エリアスは肩を竦める。
「ところでエルは何してたの?」
フレデリクはエルッキに視線を向ける。
「実践の修行だよ」
「一人で?」
「3階層あたりなら迷わないしそこそこ戦える敵がエンドレスで出て来るし、実践訓練に向いてるからな。モンスターパレードにあっても倒しながら逃げる事も出来るし」
「暇な奴だなぁ」
「そう言うお前は何やってんの?クラスメイトと親睦探査か?」
「そんな感じかな。ちょっと10階層まで」
「そっか、ちょっと10階層までかぁって、ちょっと待て!」
エルッキは話をしながらフレデリクの首根っこを掴む。
「何だよぉ」
「なんだよじゃねえよ!近年、最も優秀な先輩たちが言った限界が10階層なんだよ!シレッとそこまで行って来るとか言うな!あぶねえだろが!」
唾を飛ばして説教モードに入るエルッキにフレデリクは首を捻る。何が問題なのか分からないと言う顔だ。
「目標であって、ダメならすぐに引き返すって。この迷宮に入った経験無いし。2層でも5層でも10層でもこれ以上は無理と思ったらそこで打ち切る。この迷宮の危険性は知らなくても過去に迷宮を潜った経験はそれなりにあるから引き時くらいは分かるよ。資料も全部目を通したし命を大事にで挑んでいるから」
「本当に大丈夫かよ。他の迷宮とここは一味違うんだって」
「他の迷宮とどう違うの?」
「いや、まあ、他の迷宮は西部迷宮しか知らねえけど、多くの冒険者は皆言ってるぜ」
「どう違うのか全く聞いたことが無いんだよね。悪辣だとは聞いてたけど。そこら辺、僕ら明確にしていかないとダメだと思うんだよ。ま、これも高位冒険者の仕事だね」
「ええと、お前ら、本当にこいつと一緒に行くの?大丈夫か?コイツ、無茶ばかりする奴だぞ?コイツの常識は俺らの常識じゃないからな?普通だと思って地獄まで連れていかれるぞ?」
エルッキは心配する様子でフレデリクのパーティメンバーに訊ねる。
「こんな機会、2度と無さそうですし」
「まあ、無理はしないだろうし」
エリアスとマルコがエルッキに返す。
「コイツは無理の権化だぞ。ガキの頃から無茶するし無茶ぶりしまくるぞ」
「そんな無茶ぶりした事もないし無茶した事も無いけどな。」
「だったら、先輩も付いて来ては?1週間ほどの探査の予定で、無茶する予定は本当にないので」
「単位は……んー。数日予定だったから終末を跨げば遅れての帰還って程じゃなくなるけど………」
「フレデリクももう一枚戦士が欲しいって言ってたし、先輩がいるのは心強いですし」
「でも、エルの食事なんて持ってきてないから」
フレデリクはバッサリと切り落としにかかりに行く。
「一応、余裕もって持ってきてるよ。3層で無茶する予定が無くてもモンパレから逃げて縦穴から逃げて4層に落ちたりしたら帰りが遅くなるかもしれないだろ。行く途中にケビン達に会えれば適当に延期申請してもらえるしさ。いいや、心配だから付いていく」
「何で格下に心配されなきゃならん」
「お前、俺を舐めてるだろ」
「割とかなり」
ガルルルルとエルッキとフレデリクは睨み合う。
割と礼儀正しいフレデリクが、学内トップ争いをする剣士の先輩を堂々と貶している辺り、実はかなり周りに気を遣っていたんだなぁとどこか納得してしまう周りのクラスメイト達だった。
こうしてフレデリクら一行はエルッキを仲間に加えて3階層へと向かう。




