6話 フレデリクの地獄迷宮探査④ 三階層
フレデリク達は3階層に進出した。
3階層は明るい階層で空には巨大な水晶の光が輝き、まるで昼間の空のような明るさがあった。大地は草木が多く生え茂っており、獣系魔物が闊歩する草原が広がっていた。
丘陵などもあちこちにあり、天に伸びる塔が何本も存在している。これが2階層から3階層までつながっている螺旋階段にもなっており、その一本からフレデリク達は下りて来ていた。
「妙な地図だとは思ったけど、こういう事か」
「異世界のダンジョンって感じだな」
「どこを持ってダンジョンなの?」
「どうやって作ったんだろ?」
「地下を潜ったら外に出て来た、そんな感じだね」
フレデリクは首を傾げて地図を見ながら周りの地形を確認しつつぼやく。
マインラートは妙な事を口にしつつ、他の1年生組3人は驚いた様子で地面に足を付ける。
「ま、初めては驚くよな。地下空洞に外のような地形が広がってるんだからよ」
「快適な気候だな。魔神の眷属を滅ぼして魔物を駆除すれば冬場や夏場は良い避暑地になりそうだ」
「お前な。迷宮を避暑地にするとかどこから来るんだよ、その発想!」
頭を抱えるエルッキにフレデリクは首を傾げていた。
「うちの父は寒がりなので、西部迷宮内の方が嬉しそうだとか、西部迷宮滅ぼしたら迷宮内に家を作るんじゃないかと周りの人たちが言ってたけど、避暑地とは逆に」
「……炬燵の猫みたいなひとだったからなぁ」
フレデリクの言葉にエルッキも思い出してそう言えばと口にする。
「帝都の英雄を炬燵の猫にするのはどうなの?」
「だって、俺、3年前まで親父が帝国十剣だった事も、小父さんが帝都の英雄だったのも知らねーし。親父の友達で駐留してる騎士団の団長さん位の感覚よ?」
「親が隠してたんだから仕方ない。」
エリアスの突込みに対し家族に父親たちの偉業を隠されていた子供たちは仕方ないと訴える。
「魔物が出て来たけどどうする?」
アルバンが指をさす。奥の方で狼系の魔物がこちらを警戒している様子だった。
「地図を見ると、こっちから見て逆方向5キロほど歩いた場所に4階層へ向かう穴があるらしい。まあ、4階へ向かう穴はいくつもあるらしいんだけど、5階層へ向かうとなるとこっちが正規ルートみたいだね。他の階段だと6階層に向かう道の途中に崖があって越えられないとか。だから、こっちに向かおう。襲って来るなら叩くけど、この距離なら無視していいよ」
「OK」
「エルから何かある?」
「そっち行くのは良いけど結構ヤバいぞ」
「ヤバい?」
フレデリク達が首を傾げて歩いていくと自分達が降りて来た塔の裏側には魔物の群れがたくさんいて、冒険者パーティたちと戦っていた。魔物約60匹対人間約100人程だった。
魔物は狼系ばかりで、どうやら3階層に出て来た冒険者を狩るのが彼らの習性のようだ。或いはこの辺を縄張りにしているのかもしれない。
「完全に乱戦だな」
「迂回する?」
マインラートは戦況を眺めながらぼやき、マルコは代案を出す。
「いや、迂回しても無理だと思うぞ?」
フレデリクはその魔物との乱戦具合を遠巻きに眺める魔物がたくさんいるのが分かる。
「倒しながら先に進もう。僕が左側。エルが右側、エリアスが後側、アルバンが先頭でこの戦場を突っ切る。向かうは奥に見えるそこそこ大きい樹の方角ね」
「分かった。魔法は如何する?」
「ここでは周りに当たりかねない。マインラート、鈍器持ってる?」
「だから、俺の杖は鈍器じゃねーよ」
「魔法は温存だから、もしも自分の所に魔物が通ったら鈍器で叩いて」
フレデリクは<異空間収納>から棍棒を取り出して、マインラートに渡す。
「マジか」
「マジだ」
マルコは苦笑しながら、フレデリクから棍棒を受け取るマインラートを見ていた。ちなみにマルコが持っているのは杖のように見えて杖ではなく槍だったから問題視されて無かった。
「別に倒せって言ってんじゃなくて自分の所に来た奴を棍棒振り回して足止めすれば助けに入るって話だよ。乱戦の中を突っ切ると敵だと思って無い奴が突然敵になったりして、予想がつかないから。さ、行くよ」
「じゃあ、ゆっくり走った方が良い?」
「そだね。皆に合わせてね」
アルバンが頷き、走り始める。魔物と冒険者の乱戦の中に突入する。すれ違いざまにアルバンやフレデリク、エルッキは斬って捨てて行く。
「くっ!」
一度に殺せずアルバンが足を止めてしまうと2体3体と狼が襲い掛かって来る。
「アルバン、足を止めずに進め。その際には1体通したって声を掛ければいい。後はエリアスが後方で手すきになってるからカバーできる」
「分かった」
「足を止めると敵が全滅するまで戦い続けることになるよ。進め!」
「了解!一匹通すよ!」
アルバンは剣で抑えていた狼の魔物を後ろに蹴り飛ばし、前へと進む。
「うおっ!マジで通すか!?」
棍棒を振り回して警戒するマインラートに、狼の魔物は足を止めて警戒する。そこで、走って進むエリアスが後詰めとして狼の魔物を切り倒す。
「マインラート足を止めずに進もう。乱戦に巻き込まれないようにね。置いて行かれたら終わるよ」
「分かってる。え、マジで魔法温存!?」
「マジだ。下の階層で結構使う羽目になるから、ここで温存。」
「杖が鈍器じゃねーと生きて行けねーんだけど!?」
「迷宮攻略者はそういうもんなんだろーな。僕も魔法使いがメインになったけど、剣やら槍やら振ってたからLV8になっちゃったし」
フレデリクは一撃で魔物を沈黙させながら背後のマルコやマインラートが最悪な被害にあわないよう注意しながら進む。
30分ほど早足で歩き続け、ようやく乱戦している付近を逃れて普通に前へと進めるようになる。
「やべー。これ、お前らがリタイヤしたら俺ら帰れないじゃん」
「棍棒持っておく?それ別にいらないから上げるよ」
「お前が死んだら形見に貰っておく」
マインラートはフレデリクに棍棒を返す。
「はあ、凄いね。っていうかフレデリクって本当に剣術LV8なの?明らかに僕より強いでしょ」
アルバンは若干自信喪失気味にぼやく。
「あの程度の魔物に剣術LV8も9も関係ないでしょ。的確に急所を突ける技能があっても、急所を明確に知ってる僕と知らないアルバンでは僕の方が優れていて当然では?」
「急所って…首とかだよね?」
「他にもいろいろあるよ。戦って行けば、どこを切ればどうなるかどうすれば的確に殺せるか。アルバンは強さのわりに対魔物の経験が低すぎるから手間取ってるだけだよ。エリアスの方が手際が良いもん」
フレデリクはこのパーティでオールラウンドな活躍をしてるエリアスを見る。
「確かに。何かお前、強いのは分かるけど戦い慣れてねえよな」
エルッキもアルバンを見ながら指摘する。
「普通に剣術の授業だと僕もフレデリクもアルバンに勝てないのにねぇ」
エルッキが首を捻り、エリアスが苦笑する。
そんな言葉にエルッキはマジかとフレデリクに無言で問うと、フレデリクは頷く。
「学生なんだからたくさんチャレンジして経験詰めばいいと思うよ。例えば本を読んで出会った魔物の弱点を調べて、後で実際にそうなのか再戦しても良いし。馬鹿みたいに経験値だけ溜めて強くなろうっていうのよりよほど効果的だから。ねえ、エル。馬鹿みたいに経験値だけ溜めて強くなろうっていうのより良いよね?」
「誰も馬鹿みたいに経験値だけ溜めて強くなる気はねえよ。殴るぞ!」
エルッキはフレデリクに拳を振るが、フレデリクはそれをひょいとかわす。
一行は歩きながら話をしていた。
「僕としては盾が欲しいな。何度かマルコやマインラートに魔物を通しちゃったし、盾があると守りやすいと思ったんだ」
「そう言う反省を何度も何度も繰り返したのが僕だから。人それぞれで役割があるし、必要だと思えば買った方が良いと思うよ。それで使ってみると、今度は大きすぎた小さすぎたと色々出て来るんだ。両方持っていったら、今度は邪魔になるしで、色々と試さないとね」
「なるほど。経験ってそういう事なんだね」
エリアスは経験値の高い冒険者の指摘に頷く。
「ふっ…火竜王と戦い、色々と考えすぎて、何故か盾が必要だと思って買ったんだけど、次の戦いでまんまと盾を貫かれた考え無しは私です。考えすぎて一周して馬鹿になってたな、あの頃」
フレデリクは遠くを見る。
「そりゃまあ、……ドラゴンに利く盾ってあるのか?」
「無い。爪で引き裂かれるし、炎で溶けるし、ドラゴン対策で盾はバカだけだね。僕、盾スキルだけは一つも上がらなかったし。未だに負けすぎて何を考えてそういう結論に至ったのかさえ分からない。師匠に何で止めなかったんですかって聞いたら『お前の事だから何か考えがあるのかと思った』とか返されるし、師匠に買いかぶられて、とんでもない赤っ恥だよ。だから、考える事って大事だよ」
「考え無しの馬鹿はお前だったって話じゃねえかよ」
エルッキは呆れるように幼馴染を見る。そんな昔話に周りも笑ってしまう。
14歳現在で紅玉級という英雄の一角に当たる冒険者になっていても、そんな愚かな事をしていたと知り、誰もが見習い期間があるのだと理解するのだった。
フレデリク達が進んでいくと前の方から、引き返してくる黒いジャケットを着た漆黒の剣を2本左右の腰に提げている男がやって来る。背中に大きい袋を引っ提げていた。
「よう、ケビン」
「あ。エルッキ。珍しいな、パーティ組んで奥に行くなんて」
男はさわやかな笑顔でエルッキに声をかける。エルッキと同じクラスの友人なのがフレデリクにも分かった。
「いや、地元の後輩がいきなり十層行くとか言いだして、それに巻き込まれた他の後輩たちが振り回されないか心配でそれの付き添いだ」
エルッキはフレデリクの頭をかいぐりかいぐりと強く撫でる。
「ええと、彼女?」
「じゃねーよ。男だ、男」
エルッキは顔を引きつらせていると、ケビンと呼ばれた男はポンと手を打つ。
「ああ、噂のシルッカさんが言っていたどんな美少女よりも可愛い男の子って奴」
「シルッカ様、なんちゅう噂を広げてやがる」
フレデリクが頭を抱えて項垂れる。
「お前はどこまで行ってたんだ?」
「第5層の最奥の玄室にいるゴーレム討伐だ。7層に行きたい先輩たちに依頼されてさ。5層のゴーレムを倒しておいて欲しいって頼まれたんだ。結構、依頼料が高かったからさ」
ケビンはこともなげに言う。
「ゴーレムって倒すと5日は出ないんだっけ?」
「先輩いつ倒しました?」
フレデリクはケビンを見て訊ねる。
「一昨日の…ちょうど48時間前くらいかな?」
「しまったなぁ。行きに自分らで倒しておけば帰りに会わないかなって思ったけど、帰りに戦う羽目になるかぁ」
フレデリクは頭を掻きながらぼやく。
「依頼を出すなら受けるけど?」
「んー、いいや。これも踏まえて経験だから。急ぎ引き返して最悪の状況でカチ会ったら嫌だな、位の感覚なので」
「凄い自信だね」
ケビンはフレデリクが一切気負いがないのを見て感心する。
「あ、そうだ。俺、こいつらと付き合ってちょろっと行って来るから帰りが…誰のパーティ名で挑んでる?」
「フレデリクです」
エリアスが申告する。
「フレデリクパーティと同行して帰りが一緒になるって、学校の先生とギルドの両方に連絡しておいてくれない?」
「分かった。後輩の面倒を見るとは大変だね」
「妙な幼馴染を持った宿命かな」
「誰が妙だ?」
「女みたいなっていった方が良いか?」
「ぶっ殺すぞテメエ」
ゲラゲラと笑う1年のメンバーだった。女扱いすると礼儀正しさが崩壊する友人にも慣れたものだった。
「相変わらずクールな人だな」
「確かに」
うんうんと頷くエリアスとマルコの二人がケビンの去っていく背中を見てぼそりとぼやく。
「知ってるの?」
フレデリクはエリアスに訊ねる。
「5年にいる学園最強の三剣士の一人で、去年末の学校対抗戦で5年の剣術代表として出てるんだ。」
「そんなのがあるんだ」
「あるんだよ。出るのは6人で4~6学年で2人ずつ。今の5年の先輩は剣術部門で3人が強すぎて、上の年代を一人減らせって声があった位だから。今年の4年は……アルバンは確定だろうけど2人目は誰になるかな」
エリアスがぼやく。
「フレデリクで堅いんじゃないの?」
「フレデリクは何でもできるから。勉強部門でも普通に勝てるでしょ。僕やジルフィアさん以上に、フレデリクも何でもできるから、むしろ皆が苦手な部門に出る事になると思うよ」
「ああ、各学年から決められた人数を出して、いろんな対抗戦をするって事?それで代表が選ばれるって訳でOK?」
「そうだよ」
「じゃあ、去年はエルも帝都に行ったの?」
「………」
「「………」」
エルッキが黙り、エリアスとマルコも申し訳なさげに沈黙する。
「………弱い事は罪じゃないぞ」
フレデリクは察して、敢えて笑いながらエルッキの肩に手を置く。
「うるせえ!ぶっ殺すぞ!」
ぶんぶんと拳を振り回すがフレデリクはひょいひょいとかわしてゲラゲラと笑うだけだった。
「あの人に負けたの?」
「二刀流で女子にキャーキャー言われて腹立つわ」
エルッキは悔し気に唸っていた。
「イケメンだしね」
「爆ぜちまえ!しかも彼女持ちなのに何で女たちに人気なんだよ」
「知らないのか?エル。女子はキャーキャー言われる方に流れるんだよ。男の甲斐性がある限り延々と女たちは甲斐性の有る男に向かうんだよ」
この社会は婚姻制度を一夫一妻と明確に定められていない。
莫大な面積の土地に対し、人口が圧倒的に少ないから、産めや増やせやという社会的風潮がある。
フレデリクらの住まうコロニア大陸の面積は1万8千キロ平方メートルほどに対し、人口は2000万程度しかいないのだ。魔神との大戦時には1000万ほどだったと言う。
地球で比較するならば南アメリカ大陸と同規模の面積の土地に、たったの2000万人しかいないという事だ。先史文明時代から世界崩壊や大陸消失などの大事件が起き、100分の1の人口になった為で
「陪臣貴族どころかあいつは平民だからな。甲斐性なんてない筈だ。何故だ!」
フレデリクは通りすがりにあのケビン少年の掛けていた冒険者証が緑だった事を上げる。
「知らんよ。少なくとも翡翠級なら仕事に一生困らないだろう。小さい陪臣貴族よりよほど魅力的だ。何より…」
「何より何だ?」
「何より顔が良い。大体7割はそこで決まる」
「甲斐性はどこに行った!?」
エルッキは頭を抱えて嘆くのだった。
「まあ、先輩。あまりお気を落とさずに」
「お前に言われたくねえよ」
フォローするエリアスをバッサリ斬り落とすエルッキだった。
エリアスは4年生で最も女子人気が高い男子である。イケメンで性格もよくクラスのまとめ役だ。
5年のエルッキにも情報は耳に入っていた。
にもかかわらず周りの女子達は、面倒な兄達に睨まれているのを知っているから遠慮してちやほやできない状況にある。将来貴族になる予定もないのにそれでも人気のエリアスにエルッキは近づくなと言わんばかりに手を振る。
「俺の気持ちが分るのはお前だけだ」
「嬉しくねえっす!」
エルッキはマインラートの肩を叩き、マインラートは涙目で抗議するのだった。
「どうせフレデリクなんてお嬢様の乳を揉みしだいて毎晩お楽しみなんだろう。死ねばいいのに」
「失敬な。そんな事するはずないだろ」
「口先では何とでもいえらぁ」
「そんな事を口にするなら今度は首だけになると思えよ。少なくとも西部迷宮攻略を考えている僕はいつ死ぬか分からない。婚前交渉なんてアレクサンドラ様の瑕疵になる真似は僕は死んでもするつもりはないよ。隙あれば怒涛の猛攻を受けても鉄の自制心でかわし透かして逃げ切るに決まってんでしょ」
呆れるようにフレデリクは溜息を吐く。
「猛攻受けてんの?」
「受けてるよ。ちょっと、一体、ウチのお姫様に何を吹き込んでんの、クラスメイトの女子は」
マインラートの問いにフレデリクは歩きながらぼやく。
「んー、大体何人か思い辺りはあるけど………女子の情報網は恐ろしいからね。誰かが何かしたら、あっという間に女子中に広まると言っていいくらいだよ。特にカルラ嬢は男子の情報に詳しいから」
「彼女はね」
エリアスの言葉にマルコが苦笑する。
「そう言えばカルラちゃんが……とか耳にした事があるな」
ろくでもない情報源を思い出す。アレクサンドラから偶に聞く言葉だった。
「1年の頃から女子内部に出る下ネタ系情報は彼女発だよ。経験豊富らしいから」
「経験豊富?」
「別に美人って訳じゃないけど、女子の悪い方面のリーダーって言えば良いかな。彼女で童貞捨てたっていう男子を何人か知ってるよ。何人かの男子教師とも関係があるらしく弱みも握っていて、悪い子じゃないけど、色々と問題児だね」
「エリアスもそこで童貞を…」
「そんな事して無いから。あと彼女はマルコみたいな由緒正しい貴族の嫡男とかには近づかない。邪魔になったら消す系の貴族には近づかないんだよ。後ろ盾が無く甲斐性の有る相手を狙い撃ちしてるから」
エリアスは苦笑気味に説明する。
「エリアス、僕の家はさすがに邪魔な女性を消すような危険な家じゃないよ」
「マルコや家族はそうでなくても、グロスクロイツ家はそうじゃないだろ。自分の家の医療を任せてる家のスキャンダルは揉み消すでしょ。僕だって妾の子供って生まれただけで危険な身だからね」
「いや、それ以前に僕には彼女というか婚約者いるので」
「マルゴット先生が婚約者とか死ねばいいのにクソ野郎。どうせ、あのおっぱいを好き放題にしてんだろ」
マインラートがケッとやさぐれる。
「マルゴット先生の婚約者だと?何故だ!?羨ましすぎる」
「何故も何も政略ですよ。コベル家はウチと繋がりが有って。まさかお姉ちゃんみたいに思ってた先生が婚約者になるなんて思いもしなかったし」
「経験豊富なお姉さんに色々と教わってるんだろ、死ねば良いのに」
「どうせ毎晩毎晩あのおっぱいにエロい事してるに違いない」
マルコが首を横に振るが、エルッキとマインラートは血の涙を流しそうな勢いで文句を言う。
「べ、別に先生は経験豊富って訳じゃないし、寮住まいの僕が毎晩毎晩抜け出してエロい事出来る訳ないでしょ?」
「嘘だ!」
「俺なら100%抜け出すね!」
マインラートとエルッキはぎゃーぎゃーとマルコに文句を言っていた。
「ダメだこいつら」
フレデリクは呆れた様子で額に手を当てながら、モテないマインラートとエルッキを眺めてぼやく。
3階層を進み、更に3度ほど魔物の群れに遭遇して倒しながら進んで先へと進む。
流石に魔物に襲われ始めると戦いになるが一定の距離まで逃げると追ってこない様子だった。
その頃にはマインラートの標準装備が棍棒になっていた。
フレデリクは地図に赤ペンで書きこみながら3階層から4階層に続く階段を歩いて下る。
「どうやら魔物の縄張りみたいだね。ここら辺とここら辺かな。正確に測ってみないと分からないし、どう変わるかも読めないけど、縄張りに入ると敵が襲って来るって事で良さそうだ。次回はどこら辺に縄張りが推移されているかも見てみようっと」
「魔物に縄張りなんてあるの?」
「魔物も基本的に魔神の影響を受けたただの動物だからね。であれば、獣の習性も引き継いでいる事はおかしくないでしょ」
「な、なるほど?」
「4階層は獣や虫の魔物が混在する森林迷宮で大変らしい。まあ、さっさと抜けてボス部屋で休もう」
「そんな楽なものじゃないからね?フレデリクって結構楽天家?」
エリアスは苦笑しながら歩いて進む。
「楽天家では無いと思うけど……常に万が一を考えて動いてはいるつもりだよ。まあ、万が一を考えているつもりでうっかり魔神の眷属と遭遇する不運な男ではあるけど」
「それは不運すぎる」
「っていうか、フレデリクって基本うっかりしすぎじゃない!?」
アルバンが苦笑し、マインラートが鋭く指摘する。
「そう言う男だぞ、こいつは。昔からそうだった。基本能力が高くて大体自分でカバーできるが、うっかりしてる奴だ。3年前までのお嬢様の口癖は『リッちゃんは私がいないとダメだから』だったからな」
エルッキはビシッと指差して突っ込んでくる。
「最近聞いてないし」
「最近も何もずっと居なかったじゃねーか!」
「そうだった」
「優秀だけどどこか抜けてる、それが俺らの共通理解だからな。危ういと思うのも当然だろうが!」
「ぐぬう」
フレデリクにとって昔を知る人間は割と弱点を握られている相手であった。




