6話 フレデリクの地獄迷宮探査② 一階層
フレデリクは改めて注意事項を共有してから、4人と共に迷宮内部へと歩いて向かう。
先頭はアルバン、その後ろに荷物持ちをするマルコ、最後方はマインラートだ。フレデリクは地図役を務めながらエリアスと共に左右を固めるように歩く。
正規ルートをひたすら進む。とはいえ地図を描く役割であるマッパーの仕事は、15階層まで何かあれば追記する程度の仕事である。
「地図があるのに何で簡単にいけないんだろ?」
マルコは首を傾げる。
地図を見ればどこに何があるのか、明確に記されている。ランダムに変わる場所はしっかりと記述されている。
「迷宮は魔力の自然回復しないらしいよ」
エリアスがフレデリクにとっては良く知っている事であり、世間ではあまり知られていない事を口にする。
「魔力使わないで行けって事?魔法使いや治癒術師は厳しいね」
アルバンは他人事のようにぼやく。
「寝ても回復しない。ここ程広いとそう簡単に奥へは行けないだろう。火竜王討伐の時、僕らは魔力の自然回復を計算入れて戦った訳だけど、ここの迷宮主にはそれが出来ない。攻略不可能と言われるのは仕方ないと思うよ」
「一番奥にいる魔神の眷属って強い……んだよな」
マインラートはブルリと小さく震える。
「これだけ巨大な迷宮を作れる魔物が弱い筈ないでしょ」
「ん?魔物なのか?魔神の眷属だろ?」
「魔物だよ。この世界に受肉する際に魔神の魔力で変質した生物を利用しているから。多少姿が変わって大きくなっても魔物だね。流砂王も魔物だったし」
「そうなのかぁ。邪眼王は差し詰めバジリスクかカトブレパスか?」
マインラートは邪眼と言うからその手の魔物の名前を挙げて見る。
「文献では手の有るバジリスクのような異形だったらしい。ま、僕らには関係ないけどね」
フレデリクは他人事のようにぼやく。
「本当に攻略する気ゼロだね」
エリアスは苦笑しながらフレデリクを見る。
「する気があるなら友達を誘うなんて遊びはしないよ。仮にも火竜王討伐パーティを構成した冒険者だよ?」
「そりゃそうだ」
マインラートは頷く。
「在校生たちは迷宮探査経験はないの?先輩に誘われて先生が許可を出せば行けるって話だけど」
フレデリクは首を傾げる。
「エリアスは何度も先輩達に声かけられてたよね?」
在校生組のマルコがエリアスに訊ねる。
「行ってないよ。声かけてるのってリューネブルク家の人達からだし。先生たちが察して許可を出さず、守ってくれてたんだ。僕の状況は有名だからね」
「優秀な妾の子か。確かに如何様にも使えそうだね。逃亡時に肉盾とか、敢えて殺して帰って来ても良いし」
「それでいて断れない。先生達の許可が必要ってそういう事?」
「逆も可能だからね。僕が全員倒せるほど強ければの話だけど」
「ああ、邪魔な本家の兄達を殺して…か。どっちにしても組ませて入るのも危ないな」
「なあお前の兄貴とか後ろを付けて来て俺らを襲撃とかしないよな?」
マインラートはきょろきょろと見回す。マルコもそれに気づいて周りを見る。普通の冒険者はいるが学生らしき子供は見当たらない。こっちを警戒する視線も感じない。
「僕に喧嘩売る程、リューネブルクも馬鹿じゃないでしょ」
長男を失脚に追い込んだ、本当に火竜討伐した紅玉級冒険者に喧嘩を売れる度胸があるとは思えなかった。それを知っているかも怪しいが。
「まあ、先生達もその辺を考えたんだろうね。というか、僕もそこに乗らせてもらったんだし。リューネブルクが同級生にいる以上、迷宮入る時は命を狙われていると考えて、こそこそ入ってられないでしょ?フレデリクを利用させてもらって申し訳ないけど」
「僕も迷宮の難度を見る為に力量の分かってる人間を使わせて貰っている訳だしそれはお互いさまでしょ。どの程度の戦力でどこまで行けるかを確認したかったんだ。冒険者なんて皆そんなものだよ」
フレデリクは苦笑しながら前を歩く。
「あ、あとアルバン」
「ん、何?」
「さっき、魔力切れを他人事のように言ってたけど、他人事じゃないよ?」
「え、何で?」
「僕ら位になると剣閃を飛ばして遠距離の敵を斬ったりするけど、あれ魔力減るからね?」
「うぇ!?」
アルバンは全く無警戒な指摘を受けて変な声を上げてしまうのだった。
それにゲラゲラと笑う周りのクラスメイト達だった。
「気にした事無いんだけど。アレどのくらい魔力使ってんだ?」
「普通に使っていくと、二日目、三日目あたりから体がだるくなってきて頭が回らなくなる。僕は内在魔力が高いから、アルバンはもっと早いと思う。そうなったら終わりだからそうならないように気を付けてね」
「アドバイス!アドバイスを!」
「僕は自分の魔力感知スキルで自分の最大量とNGラインを明確に理解してるからなぁ。一緒に組んだ事ある真の勇者称号持ちの人なんて『そんなの神眼で自分のMP見りゃわかるっての』とかかなり狡い事言ってたけどね」
「あ、なるほど」
アルバンは何か納得をしていた。
「アルバン、勇者だったの?」
マルコが笑いながら突っ込み
「あ、いや、その、魔力感知の方だって。ちょっとなら分かるし」
アルバンは慌てて手を振って説明する。
「大丈夫だよ。誰も勇者だなんて思って無いから」
エリアスは苦笑しながらアルバンの肩を叩く。
「だよねぇ」
アハハハとアルバンは笑って頷く。フレデリクは半眼でアルバンの様子を確認して肩を竦める。
一同は正規ルートをひたすら歩き続ける。歩いている人はチラホラ見かける。通路が広いから
通りすがっても顔さえ確認できない距離を歩いていたりする。
「それにしても……全然魔物が出ないね」
「一階層は結構な数の冒険者が出入りするから、魔物はこそこそ動いている奴らしかいないんだと思うよ。ま、一直線にメインストリートのど真ん中を進むから2階層からかな。まあ、モンスターパレードに出会わなければだけど」
「出会いたくないなぁ」
「あれ、トラウマものだからね」
マルコとエリアスが顔色を悪くしてぼやく。
「皆同じだと思うけど」
「それな!」
「ま、楽な場所はさっさと進もう」
アルバンがぼやき、マインラートが同意する。フレデリクは先を促して歩く速度を速めさせるのだった。
雑談をしながら1階層の道を足早に進む。
「ところで、こんなくっちゃべってて良いの?」
アルバンはおどおどしながらフレデリクを見る。
「1階層は冒険者も多いし、魔物はむしろ隠れてる。大人しくすべきって言うのは周りに人がいない時の話で、かなり人が多いからね。襲って来るなら狩れば良いと思うけど。一狩りしてみる?」
「一狩りしようぜって…」
マインラートは苦笑する。モン●ンかよ……と呟いてはいたが誰にも気づかれなかった。
「つっても、ほら。魔力温存って事前に言ったでしょ?マインラートも僕も攻撃魔法は温存だし。マインラート。折角だから杖を鈍器として魔物を叩いてみる?」
「俺の杖は鈍器じゃねーよ!」
小さいショートロッドだった。鈍器どころか人間を思い切り叩くとむしろ杖が折れそうだった。
「鈍器は役に立つよ。特に迷宮内で切れなくなった剣とか一々研いだり洗ったりしてられないでしょ?」
マインラートは微妙に顔を引きつらせてフレデリクを見る。
すると魔物を見つけたアルバンが腰の剣に手を掛ける。
「あそこに魔物がいるけど」
目線より上にある小高い丘の上からウサギの魔物がこちらを見ていた。大きさは膝より高い位で牙が生えている。
「ホーンラビットかな?」
「3匹いるみたいだし、僕一人で充分だと思う。一度狩ってみるよ」
「んー、ま、やってみたら?エリアスはいざという時のサポートで」
「え、ええと、フレデリク。あそこって…」
アルバンは剣を握って構える。エリアスは少し考えて胡乱な目でフレデリクを見るが、サポートしようと剣を抜く。
「じゃあ、行くよ!」
アルバンが走って一気にウサギの魔物へと詰め寄る。
「貰った……って、え」
アルバンは丘の上に足をかけて踏み込もうとした瞬間、踏み込もうとしたら足元が窪みになっていて、思いっきりバランスを崩す。
「ぐう!」
前につんのめると危険なので、ギリギリ堪えるが尻もちを付いてしまうのだった。
ホーンラビットがアルバンに襲い掛かる。アルバンは慌てて剣でホーンラビットの角から身を守ろうとする。
その前にサポートに走っていたエリアスがアルバンに襲い掛かったホーンラビットを一閃する。
「悪い、助かった」
アルバンはホッと息をつくが、残りのホーンラビットは慌てて逃げていく。
フレデリクは懐から2本のナイフを取り出して、二匹の頭を投擲によって貫く。
「えー。……フレデリク、それって…」
マルコは斬りに行ったアルバンは何だったのという突込みたい言葉を飲み込む。
アルバンはエリアスに起こして貰ってから、額の汗をぬぐう。
「アルバン、見過ごしてたでしょ。そこ、攻略資料に『ウサギトラップ・足元注意』ってあったから」
「えええ」
「まあ、どうせまともに覚えて来てる人は少ないとは思ってたから良いけどさ」
「あったね。フレデリクも覚えてなかったのかと思ったよ」
エリアスが溜息を吐く。
「どうせ、あれで怪我するとは思って無いからさ。周りに敵もいないから、怪我しても僕が治せば良いし、今のうちにどういう油断が招くか最大戦力の人に身をもって知ってもらおうかなと」
「ううう、酷いよ」
「初心者が嵌る有名なトラップらしいよ。行く際に先輩に、嵌ったら恥ずかしいからそこだけは気を付けろ。ウサギに注意って言われてた」
エリアスは苦笑気味に言う。
「めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど」
アルバンは尻についた埃を払いながら呻く。
「下調べしてないアルバンが悪い。というか、負けるつもりは一切ないけど、僕らが3階層位で死んだらアルバン一人で帰れないでしょ。それ一番拙いケースだからね。」
「紅玉級冒険者の言葉が身に染みる」
「紅玉級とか関係ないと思うなぁ」
エリアスは苦笑してアルバンの背中をポンポンと叩く。。
「じゃあ、ちゃっちゃと行こうか」
「フレデリク先生の迷宮探査講習じゃないんだから、個別でちゃんと覚えて来てよ…」
エリアスが溜息を吐く。
「安心していいよ。10歳の頃に父さんに連れられて西部迷宮を見た事があるけど、同じこと言われているから。僕はフレデリク先生の迷宮探査講習くらいの気持ちでここに来てるし」
「あはははは」
フレデリクは肩を竦め、エリアスは笑ってしまう。
「それに高等部に来てる位だから馬鹿じゃないし。馬鹿は僕の予想もつかないミスをして助けられないでそのまま終わるから。初心者パーティでいるんだよ。どこからあんな自信が湧いて来るんだろうってくらいの大人達が、どうしたらそんな失敗をするのってミスをして帰らぬ人になるケース」
「例えば?」
「こう、迷宮攻略するぜーって初心者パーティが乗り込んで、村で一番の俺様が何でこんな場所でって……ワイルドボアから逃げて崖から落ちて助ける事も出来ず死亡とか」
「それは…身の程知らなすぎでしょ」
アルバンが引きつって首を横に振るが、マインラートはうんうんと頷いていた。
「いや、そういうものだぜ。俺だって村一番の魔法使い、俺ほどすげえ魔法使いなんていねえ、村で一番の乱暴者があっさり冒険者になって死んだって話を聞いても自信は揺るがなかったけど、クラスメイトの貴族のお嬢様が火魔法LV9?何そのチートって突っ込みたかったよ!天才だ、神童だと言われていたのに、学校来たら実力試験で20位だし。凹むだろ」
「この学校で同年代最高クラスの魔法使いってだけで十分凄いんだけどね」
苦笑するエリアスだった。
「そもそもクラスメイトが14歳で紅玉級?英雄と皇女の子供で?竜殺しの英雄?婚約者が二人?物語の主人公って俺じゃなくてお前じゃん!俺の作る予定の伝説はどこに行った!?」
マインラートの文句はフレデリクに飛び火する。
「あははは。でも、僕の冒険は終わったからね。火竜王への復讐が終わった以上、ルミヤルヴィの貴族として戦っていく。雷華の賢者だって数多の英雄譚があるけど、冒険者を引退してルミヤルヴィ辺境伯になってからの方が強くなっていても、語り継がれる英雄譚は若い頃のそれしかない訳でさ。僕もそれと同じだよ」
「確かに、メルシュタイン王は王になり、剣聖も貴族に戻り、大陸三大英雄と謳われた方々の英雄譚はそこで終わっているね。まだ生きているのに」
エリアスはそう言えばと思い出すように頷く。
帝都の英雄も結婚してルミヤルヴィに引っ込んでから英雄譚は皆無である。
「つまり、マインラートの冒険はこれからだって事だな」
「それ、ある意味で打ちきりじゃねーか!」
「「「「何故に?」」」」
頭を抱えるマインラートに全員が首を捻るのだった。
某少年週刊誌における打ち切りの常套句『●●の戦いはこれからだ!』を聞いて頭を抱えるマインラートであるが、それを知る者はここには残念ながらいなかった。
ピ~ヨピヨピヨピ~ヨピヨピヨ
引っ掛かった、引っ掛かった。アルバンが引っ掛かった。
アルプスの小鳥ピヨとはヒヨコの事だ!ピヨちゃんと呼んでくれ。
え?何故にアルプスの小鳥なのかって?ヒヨコもよく分からん!ドヤァ!
きっと作者の浅くて狭い考えがあるのだろう。そうに違いない。赤ければ何でもいいのだと言う雰囲気が感じられるな。何?ハイジではなくカイジはダメかって?
そんなザワザワするような事を言われてもヒヨコは賭け事をしない主義だからな。何でって、ヒヨコは魔物レースのスター魔物。賭けられても駆けても賭けないのだ。ヒヨコの飼い主なんて勝つ魔物が分かるから賭博しないしな。
そう言えば、これから250年前に魔物レースは駿介によって作られたが、魔物レースは廃れてこの時代にはないらしいぞ。約150年前の邪神戦争で帝国はユニコーン騎士団を派遣する為にレースそのものを解体する事になったと聞くな。
地方の興行としてひっそり残っているらしい。そしてこの時代に復興したらしいのでその辺も見たい所だぞ。
それにしてもアルバンめ。ウサギ穴で引っ掛かるなんて所詮はサブキャラよ。あの程度のトラップに騙されるとは愚かな男………え?ヒヨコ本編を読んで見ろって?何を言いたいのやら(笑)
………
うむ、仕方ないな。そう、あそこに引っ掛かるのは仕方ない。別に本編主人公が引っ掛かったとかそう言う話では無いぞ?ホントダヨ?
ちょ、そこの君。本編を読んではならぬ。ここの読者はここだけで我慢していただきたい。ヒヨコがまだ0歳児だった頃の若き頃の失敗などどうでも良かろう。興味を持ってはならぬのだ。
認めたくないものだな。自分自身の若い日の過ちというものを。
ヘレントル名物、1~2階層に自然に作られるウサギ穴。恐るべし………。
で、では次回予告だな。次回のヒヨコは『異世界チートヒヨコ』でお送りするぞ!
※次回予告はヒヨコの出鱈目です。本作品とは一切関係ありません。




