5話 迷宮探査準備③
放課後、フレデリクとマインラートの二人は褐色の肌をした小柄な少女の方に声をかけていた。
編入生組の一人でヴェルメイレン・ズワールトというアマゾネス部族出身の少女だ。彼女曰く、フレデリクの従妹らしい。
「へ~、迷宮探索に派閥って言うのがあるんだ」
「スカウトしたいらしくて、話を聞くだけ行ってみない?」
「うーん、でも私、この国の貴族様のやり方とか知らないしなぁ。メルシュタインでもウチの部族は免除されてるくらいだし」
「単純に戦力が欲しいみたいだよ。まあ、男子を受け入れにくい部分もあるみたい。リーダーはこの国の大物貴族令嬢だし分からない所があったら聞いたらどうかな?」
クラウディアから詳しく話を聞いたところ、サラが男嫌いなのにフレデリクが嫌われながらも普通の距離で話せている事でスカウトをしたらしい。女子の戦士は非常に少ない。戦士不足と言うのが彼女の派閥の弱点らしい。
迷宮に潜れば数日は迷宮内で野営をする。変な噂がたっても困るが、フレデリクはアレクサンドラの婚約者であるから悪い噂は立ちにくい。剣士で男でも加入して問題ないからパーティに欲しいと思ったと言う。
その代替にヴェルメイレンだという話だが、フレデリクからすれば恐らく彼女の方が戦士としては自分より上だろうと考えていた。
「そなの?」
「ほら、男女が一緒に寝る状況は好ましくないけど、迷宮を潜るにはどうしてもそうなるでしょ。誰かの婚約者で男子が少数ならともかく、男子だらけの中に女子と迷宮に潜るとか外聞も悪いから」
「ふーん、僕は気にしないけどなぁ。まあ、そういう事なら会うだけなら良いよ。帝国流のやり方を知って来いってのが祖母ちゃんの命令だったし。僕としてはフレデリクとも組んでみたいけど」
「そうだね。それには僕も同感だ」
フレデリクは心から感じていた。彼女と一緒に組んで戦いをしてみたいと。父にどこか似た彼女の自由闊達な戦闘スタイルは、型から入った自分には無い物だった。
フレデリクの戦闘スタイルの基礎になっているのはヴォルフの教えであるが、ヴォルフの教えは恐らくフェルディナントの教えであり、隙の無い剣聖のスタイルだった。手合わせして剣術は自分の上級版で剣だけでは何をしても勝てないと思わせたほどだったからだ。
「本来、長の候補だったヴォルフ伯父さんの子供でしょ?剣も強いし、他にもいろいろできるでしょ?ウチの部族は剣以外使わないから、そういう戦い方をもっと知りたいんだよね」
「まあ、僕は帝国流というより父さんや領主のヴィルヘルム様の流儀だからね。勝つ為なら何でもするっていう考えが根底にあるから礼儀正しい戦い方とか無縁なんだ。領主様に至っては賢者と呼ばれる魔法使いなのに、杖の使い道は鈍器だ!と堂々と言うからね」
「大陸三大英雄の言葉がひでぇ。杖の使い道は鈍器かよ」
マインラートが呆れるようにぼやく。
「でも、ウチの領地にいた副騎士団長のルトガーさんは杖がほぼほぼ巨大なハンマーだったからね。小さい頃は本気で一流の魔導師の杖は鈍器だと思ってた」
「おい」
「師匠であるミロン様にそれを伝えたら笑われたよ」
「そりゃそうだろ」
マインラートは妙な魔導師を見てきたフレデリクがおかしいのだと頷く。
「いや、『人類は杖を使わないとまともな魔法も使えないのか?あんなもの邪魔以外の何物でもないだろうに。女神の加護を使っている時点で三流魔導師だ』ってばっさりだった。」
「お前の師匠の理想が高すぎる!?」
「実際、師匠から言わせれば僕は雷魔法を極めても魔導師としてはまだまだ2流だってさ」
「マジかよ……」
ただし、フレデリクが言われたのは『剣も魔法も何をやっても二流止まりだが、総合力では邪神大戦で戦った英雄達に肩を並べられる超一流。当時の自分にお前ほどの頭があれば、戦で仲間をもっと生き残せただろう』という高い評価をミロンから与えられていた。
フレデリクは学校にあるクラブ棟にやってくる。そこの2階の一番奥にある部屋にグロスクロイツチームルームとあった。
「ここだね」
「ここだな」
フレデリクはノックをしようとすると部屋の中の方から声が聴こえてくる。
「ちょ、あかんって。いくら誰もおらんからって…あっダメやって…」
「ええやろ。ちょっとだけやって」
「んんっ……あんた、ちょっと言うて……ちょっとで止めた試し無いやろ…それ、ダメやって」
「体はダメや言うておらんで。ここはこんなに濡れてるやないか」
なまめかしい女性の声が部屋の中の方から聞こえて来る。
「えーと、良いのかな?」
フレデリクはノックをしようとするが中から聞こえて来る声に凍り付く。
「ノックしないでそっと中見て良いか?」
「んー、ウチの部族にもそう言う感じの姉ちゃんたちはいたけど」
「いるのか?」
マインラートは目を輝かせていた。フレデリクは如何したものかと考えていると
「あら、フレデリク君。いらっしゃい。来てたんですね。部屋の前で足を止めてないでさっさと入って大丈夫ですよ」
3人の背後からクラウディアが歩いてやってくる。
「あ、いや、その」
フレデリクは何か中に入って良いのか尋ねようとするが、クラウディアは無造作にドアノブを開けて中に入ろうとする。
部屋の中には服を半分くらい脱がされている黒髪の長い綺麗な女性はかなり胸が大きいが、相手に揉まれている為、大事な部分は手で隠されて見えなかった。
クラウディアはクルリとフレデリクから部屋を隠すように振り向いてにこりと笑う。
「ちょっと待っていてくださいね」
そう言ってクラウディアは自分だけ部屋に入って、ドアを閉める。
「ティファ!あなたは何やってるんですか!?」
「ちゃ、ちゃうねん」
「後輩を呼んだのに外で凍り付いていたじゃないですか!貴女と言う子は!」
「悪いのはリュディだと思うんよ。こんなけしからんおっぱいしてるからあかんのや」
「言い訳になりません!今日という今日は許しません!」
ドタンバタンと部屋の中で折檻される音が聞こえて来る。
「秘密の花園だったな」
マインラートは一仕事を終えた顔でほうと溜息を吐く。フレデリクは眉間を抑えて重い溜息を吐く。
「開けなくて良かった」
「そっと中を覗きたかった」
「あははは、それはどうなんだろ?」
気楽に笑うヴェルメイレンであった。
「すいません、お待たせいたしました。どうぞ」
クラウディアは苦々しい顔でフレデリク達を招くのだった。
中に入ると、赤面して俯いている長い黒髪の女性と、可愛らしいと表現するのが正しい肩口まで伸ばした黒髪の小柄な少女が頭を押さえて項垂れていた。
「いらっしゃい、フレデリク君とマインラート君、それにヴェルメイレンさん」
「俺の名前も知ってるんですか?」
嬉しそうなマインラートにクラウディアは頷く。
クラウディアに促されるように3人が並ぶよう3人掛けのソファーに座る。
対面にはクラウディアたちが座る。
「4年生の勧誘時期ですからね。4年生の情報は入ってます。サーシャに次ぐ魔法能力を持つ4年生男子。男子のトップチームから注目されてますし」
「男子かよ!女子に注目されたいのに」
「女子は甲斐性を求めますからねぇ。実績無い平民の編入生には厳しい目を向けますよ」
クラウディアはクスクスと笑う。
「きついなぁ」
「その点、稼ぎの多い上位冒険者や未来の貴族はそれだけでモテますね」
「おのれ」
マインラートはフレデリクを睨む。
「僕の貴族はアレクサンドラ様の婚約者ってのが付随してるんだけど」
女子の異性的な興味から程遠い立場の筈だとフレデリクはぼやく。
「こちら、編入した4年生のヴェルメイレンさん。メルシュタイン王国からの留学生です。こっちが噂のフレデリク・ズワールト君、サーシャの行方不明だった婚約者ですね。で、平民で編入4年生トップの魔法の成績を出したマインラート君です」
「んんんん、ちょい待ち。クラウディアさん。そっちの子って女の子やないの?」
長い黒髪の一際胸の大きい女性がフレデリクを差して訊ねる。
「ええ。そうですよ。私も驚きましたが、彼、フレデリク君は男の子です」
「マジで?めっちゃ可愛いのに女の子やないの?銀髪の女の子とちゃうんか?。お人形さんみたいに整ってるのに?」
「はい」
「ちょ、ちょい待ち。リュディ、浮気は許さへんで」
慌てるのは隣に座っている黒髪ショートの女性だった。
「えー。そう言われてもウチはノン気やしな。あんたに付き合っていられんわ」
「そこのフレデリクと言うたな。これはウチのやからな!お前にはやらんで!」
小柄な少女が、隣の長い黒髪の女性の胸を両手でわしづかみにしてどや顔する。
「辞めなさい、この変態」
ビシッとクラウディアが小柄な少女に脳天にチョップして黙らせる。
「あいたー。」
「酷いのは貴女です。一応、自己紹介をしておきますと、こちらはどちらもサンブランク公国からの留学生で、公爵の末の娘ティファニー・サンブランク。で、こちらがティファニーの従姉妹でルクレール伯の娘リュディアーヌです」
「ウチが公爵の娘ティファニーや。趣味は音楽で、歌作りはウチの収入源やね。好きなものは女の子のおっぱいや!」
黒髪の小柄な少女はころころと表情を変える可愛らしい美少女だった。言葉に色々と問題さえなければであるが。
「ウチはこれの護衛騎士やっとるリュディアーヌ・ルクレール。趣味と特技は歌やね。可愛いモノ好きやったんやけど、見た目に騙されて中身がおっさんの主を持った哀れな女や」
リュディアーヌは呆れ気味威自身の主を半眼で見て溜息を吐く。
「一応、このチームのリーダーをしてるクラウディア・フォン・グロスクロイツです。グロスクロイツ侯爵の座を狙いこの学校で大きい功績を残そうと日夜訓練中で、得意なものは土魔法と風魔法ですね」
「へー。女の子って上に立ちにくいって本当なんだ」
ヴェルメイレンは腕を組んで首を傾げる。
「そうですね。我が国は男尊女卑の考えが根強いですから」
「僕の里、アマゾネスの住む集落は女ばかりだから大体女がトップだよ。メルシュタイン王国のズワールト男爵家と言えば割と有名だけど」
「羨ましいですね」
クラウディアは苦笑する。
「両親が亡くなり、天涯孤独の身になったと思えば、まさか親戚と出会うとは思わなかったよ」
「僕も里を飛び出した会った事もない伯父さんが帝国で有名人になっているとは思わなかったもんねぇ」
フレデリクとヴェルメイレンは笑い合う。
「あ、僕は4年A組のヴェルメイレン・ズワールト。メルシュタイン王国のアマゾネス部族の長、ズワールト男爵の孫だよ」
「僕はフレデリク・ズワールト。まあ、この学校だと最早自己紹介の必要が無い位名前が売れつつあるけども」
フレデリクはげんなりぼやく。その様子に上級生三人は苦笑する。
「ふっ、俺はマインラート・バウアー。俺も好きなものは女の子のおっぱいです!」
「「変態や」」
「何でだ!?」
リュディアーヌとティファニーの二人が身を寄せるように逃げるように下がり、マインラートが頭を抱えて叫ぶ。
フレデリクはハッと気付く。
少し逡巡してから、大きく溜息を吐く。
「ええと、失礼します」
「はい?」
フレデリクは一度謝ってからティファニーの前に立ち手を振り上げる。
スコーンとクラウディアよりかなり強めにチョップをティファニーに叩きこむのだった。
「な、何すんねん」
「僕だってやりたくありませんよ!何が悲しくてこんな事を」
「逆切れや」
リュディアーヌが苦笑する。
「護衛騎士なんやから守ってえよ」
「公然と人の胸揉む奴には良い天罰や」
「天罰ちゃうやろ」
リュディアーヌとティファニーが文句を言い合う。
「えーと、どういう事ですか?」
クラウディアが首を傾げて、フレデリクを見て、フレデリクはこめかみを揉むようにして溜息を吐く。
「2年前にサンブランク公国で大公家の護衛を冒険者として受けました」
「2年前?」
「師匠が金剛級冒険者なので」
「ああ成る程。だから駆け出しでも…」
「僕達が護衛していたのがサンブランク大公の妹夫妻で、その時に命を救いとても感謝されたんです」
「大公の妹?」
クラウディアは首を傾げてティファニーとリディアーヌを見る。
「その時、追加で僕に金一封をくれようとしたのですが、さすがにもらえないと断ったんです。大公閣下が仕事を依頼するから前金として受け取れと」
「ウチのオトンから依頼?」
ティファニーは首を傾げる。
「娘が女性の胸ばかりが好きで国内で問題を起こして婚期を逃しどうだから留学させたそうで。依頼内容は、無期限で、自分から会いに行く必要もなく、偶然会えた時、もしも更生できてないようなら殴ってくれ。そういう、僕に追加料金を払うための口実の依頼だったんですけど」
「良い話ですね」
「まさかあの立派な大公様の困った娘が更生されず護衛騎士の胸にべったりな状況に遭遇するなんて夢にも思いませんよ!」
「ウチの馬鹿がすまんな」
リュディアーヌが頭を下げる。
「良い話が台無しですね」
リュディアーヌは素直に頭を下げ、クラウディアは呆れた顔でティファニーを見る。
「おとん、なんちゅう依頼を出してんねん」
ティファニーは頭を押さえてプルプルしながら唸る。
「自業自得やろ」
リュディアーヌは冷たい目で隣に座る相方を見ていた。
「増額するほどのお仕事をしたと?」
「当時、駆け出しで、師匠のセットでついてきたただの石膏級冒険者だったんですよ。何ですけど、僕が殺気に気付いて護衛に紛れ込んでた暗殺者を見つけて倒し、そこから芋蔓式に裏にいた貴族とギルドを丸ごと壊滅させたんです。石膏なので報酬は銀貨一枚で、それは割に合わないだろうと」
「こいつ、とんでもない事してやがった」
「そん時、大公様から貰った勲章がこれ」
フレデリクは<異空間収納>から取り出す。白い花の形をした勲章だった。
「白華勲章やんか」
リュディアーヌは驚いた様子で立ち上がり、フレデリクの出した勲章を手に取ってまじまじと見る。前にかがむので大きい胸がゆっさゆっさと揺れ、マインラートの視線がそっちに向かう。
「凄い勲章なんですか?」
クラウディアが尋ねるのでフレデリクが答える。
「師匠は150年前に貰った奴と同じだと言ってましたけど」
「邪神大戦後の建国した頃に大賢者ミロン様に感謝を込めて贈った勲章で、うちら騎士達にとってそれを頂くのは最高の誉やって言われてるごつい勲章やねん」
リュディアーヌが説明を加える。
「うーん。成り行きでうざったい連中を滅ぼしただけなんだけどなぁ」
「お前、暗殺ギルド一つ潰してそれかよ」
「相性が良いんだよ。雷華の騎士の前は暗殺者殺しと呼ばれていたから。」
「フレデリクって対人とか魔物とか関係なく、戦闘が強いよね。戦って勝てそうにないと感じたのはフレデリクが初めてだよ」
「アルバンは?」
「あの子とはやりたくないかな?剣は互角、僕の方が幅拾い戦闘技能があるのに、何故か勝てる気がしない。やばいよね、この学校。ここに来て良かったと思ったのは、外には色々と凄いのがいるのが分かった事だね」
ヴェルメイレンはアルバンを高く評価する。
「やっぱりそう感じるんだ」
「フレデリクも?」
「うん。思い辺りはあるんだけど、彼の性格からしてあり得ないとも思っていて、不思議な感じなんだよね」
フレデリクはアルバンに似たタイプの戦士と会った事があったからだ。
「アルバンってツエーのは分かるけど、暴れっぷりからするとお前らの方が強そうだけどなぁ」
マインラートは異世界知識を思い浮かべて確かにアルバンは勇者だったと思い出す。フレデリクとヴェルメイレンは分かるのだろうかと不思議に思う。そもそもマインラートのゲーム知識内にヴェルメイレンと言う存在はいなかった。ゲームとは違うのか、あるいはフレデリクがいるから出て来たのか?という疑問を抱いていた。
そしてこの二人、ヴォルフの親族でめちゃくちゃ強いのはマインラートも分かるのだ。
「まあ、だから今回、アルバンを誘ったのもあるけど。どの程度の底力があるのかは知っておきたいでしょ」
クラウディアはクスリと笑い
「でも今年の編入生はレベルが過去にないほど高く、黄金期再びなんて評価されているそうですよ」
「そうなんですか?」
「ちょっと照れるぜ」
フレデリクは首を傾げ、マインラートは鼻の下を擦ってフッと笑う。
「僕からすると、父さんやフリッツさん、母さんの領域ははるか遠くって感じなんですけど」
「それ、大人になったあの人達の能力を見てるでしょ。学生時代からフレデリク君の知る領域にいる筈ないじゃないですか」
「あ」
クラウディアの突込みにフレデリクは今更になって気付く。
「でも、フレデリクはかなり凄いよね。ウチの部族でも多分勝てる人はいないと思うよ。11歳で最強だったヴォルフ伯父さんと比べること自体が無理だから。僕とフレデリクはウチの部族の数少ないメルシュタイン王の孫だし、フレデリクが欲すればメルシュタイン王国取れるんじゃない?」
「あんな遠い土地欲しくないよ。そしてあの国取れる要素あんの!?」
「お祖父ちゃん、メルシュタイン国王は俺より強い奴が次の国王だ、って言ったから、そんな人間がいないせいで泥沼の政治闘争になって国が混乱してるんだけど」
「そこに他国人が入る余地ないじゃん」
「だーよね~」
ケラケラ笑うヴェルメイレンにフレデリクはどっさり疲れた様子を見せる。
「まあ、僕は西部迷空攻略以外何も考えてないからさ。ヘレントル探査もその為の準備以外に他ならないし、安心していいよ。それよりも、もっと行けるのにここで引き返すのかよって言われるくらいの余裕をもって帰るつもりだから」
「ま、初めてで無理してー、ってよりはマシだわな」
「フレデリク君は慎重ですね」
マインラートもクラウディアもポツリとぼやく。
「砂漠迷宮を一つ潰して、余裕あるし、今後の為にも流砂王のいる迷宮をある程度ギレネに情報を渡そう。この扉を開けて中を確認したら帰ろ、と思って開けたら、流砂王のトラップに嵌った上、ご本人登場して命からがら逃げだしたからね。ボスを倒せる体力的余裕が無い時は帰る。無理はダメ」
フレデリクは両手を交差して無理をしないと宣言する。
「雷華の騎士の詩で有名なくだりが実はうっかりだったんですか?」
クラウディアは死地に踏み込む覚悟を謳われていたのに、うっかりだったと聞かされちょっと肩透かしされた気分だった。
「そもそも雷華の騎士の吟遊詩人の詩を聞いた事ないんですけど。」
フレデリクは首を捻る。
「ふんふんふんふ~んって奴やで。一昨日、吟遊詩人が歌ってたで」
ティファニーがそこに加わって来る。
「アレか!?アレ、僕の詩だったの!?有名な女性冒険者の詩かと思った」
フレデリクはポップな感じの美貌だの勇ましさだのを謳っていた新しい感じの音楽ジャンルな吟遊詩人の唄がまさか自分とは露ほどにも思っていなかった。
「しゃーないやん。ギレネから依頼受けて、女性のような戦士や聞かされててな。若いリーダーで誰もが見惚れる美貌、雷華の魔法を使う言うて、大変やったんやで。ここら辺では吟遊詩人は全部この歌に塗り替える程の大ヒットやけどな」
「は?」
ティファニーはふふんと無い胸を張りながら自慢気味に語るのだが、フレデリクは首を傾げる。
「ティファは他国からも作曲依頼される有名なソングライターやねん。ウチも地元で歌う時は大体、ティファの作った歌やし」
「そして、まさか、あの歌が自分だった事実の上、製作者が目の前にいるとか何の罰ゲーム」
ケラケラ笑うサンブランク組の女子二人だった。
「サンブランク公国に音楽系高等学校なんてないねん。帝国の有名な作詞家がこの学園におってな。それが留学の原因やねんで。決してリュディのおっぱいに夢中で国から追われた訳ちゃうねん」
「せやったら隙あらば揉むなっちゅーねん!」
「ふっ、そこにあれば揉むのが正義や!」
リュディアーヌはティファニーの頭を叩こうとするが、攻撃を避ける。リュディアーヌは追いかけて叩こうとするがヒョイヒョイと逃げ続けるティファニーだった。
「まあ、色々とダメダメな公女ですが、斥候としては優秀ですよ。リュディもティファの専属歌姫なので、国際的には歌姫としての方が有名ですが、公女の護衛騎士が本職なのでかなり強いですし」
バタバタと走るティファニーとリュディアーヌを眺めつつ、フレデリクは溜息を吐く。ティファニーは中身は完全に親父だと呆れていた。公然と女性の胸を揉む人間なんて見た事が無いと思おうとするが、ふと冒険者時代にそれをしていた勇者の仲間を思い出して頭を抱える。
「世の中、変わった人がいますねぇ」
「父が英雄、母が皇女なのに、自分が平民だと思って育った人がこの世にはいるくらいですから」
苦笑交じりにクラウディアがフレデリク自身が変わり者だと遠回りに指摘されるのだった。
「確かに俺が知る限り、お前が一番変わり者だな」
マインラートが頷き、フレデリクはうなだれるのだった。
図星だったからだ。




